第13話 コボルトリベンジ


 色々話をしているとアレストンの森に直ぐについた。

 アネラは信用できる仲間を見つけてチームを組んで、冒険者のランクを上げてダンジョンに行きたいのだと教えてくれた。ダンジョンにはお宝がたくさんあるから、それを見つけて一攫千金を狙うのだという。


「さぁ魔物は私に任せて解毒草早く見つけちゃって」


「分かりました」


 地面に生える草を観察して解毒草を探す。


「と、その前に。ユルム、あまり遠くには行かないでね」


 アネラに聞こえないように呟く。ユルムはローブの中でスルスルと降りて音を立てずに離れていった。


 しばらく彷徨いながら探すが見つけたのはまだ二本だけ。あと十八本も探さないといけないけどほぼ殆どが毒草だ。


「ねぇ、その解毒草と毒草どうやって見分けるの?」


「えっと、この茎のところ見てください」


 カバンから解毒草を取り出し、地面から毒草を根本から切る。


「毒草には薄っすらとふさふさ毛が生えてるけどこっちには無いです。あと、葉っぱの厚さもちょっと違います……」


「う~ん……」


 アネラは両方を凝視して見比べる。


「分かりづらいけどそう言われるとそう見えるわね……」


 そんなやり取りをしているときなにかの気配が近付いてくるのを感じた。


「なにかがこっちに来てます……。あの木に隠れましょう」


 アネラに小声で告げる。


「え? ちょ、ちょっと」


 木陰に隠れる僕の後ろにアネラも身を潜めた。


「本当になにか来てるの?」


「はい……。もう少ししたらそこから出てきます」


 少し待っていると茂みが揺れてゴブリンが出てきた。


「凄いじゃない! なんで分かったの?」


 僕の言ったとおりになりアネラは驚く。


「し、静かにしてください。気づかれちゃいます」


 僕が真剣に言うとアネラは頷いた。

 ゴブリンは周囲をキョロキョロすると茂みに入ってどこかへ行った。ゴブリンの気配が遠くに行ったから一息つく。


「もう大丈夫です」


「凄いじゃない! どうして近づいてるって分かったの?」


「えっと……」


 僕はずっとこうだったからどうやってと聞かれても答えられない。


「わからないです。ごめんなさい……」


「なんで謝るのよ! 凄いじゃない! それは貴方の才能よ!」


「僕の才能……」


 そう言ってくれるのは初めてだ。

 アネラの言葉には嘘偽りのない素直な気持ちだと分かる。それがなんだか嬉しくて恥ずかしかった。


「さ、残りも早く見つけちゃいましょう!」


「はい!」


 解毒草を探し回っていると何度も魔物が近づいてくる気配がし、全部がゴブリンだから隠れてやり過ごした。


「護衛する意味あったのかしら」


 アネラは不思議そうに言う。


「また来ます」


 木陰に隠れると、現れたのはコボルトだ。

 コボルトは鼻が利くから隠れても意味がない。

 直ぐに僕達の匂いを嗅いで襲いかかってきた。


「やっと私の出番ね!」


 アネラは剣を手にする。


「グギャウッ!!」


 コボルトは敵意を露わにして吠える。アネラは間合いを取って様子をうかがい、僕はいつでも魔法を打てるように身構える。

 僅かの間睨み合いが続いて、コボルトが唸り声をあげると襲いかかってきた。

 アネラは剣で応戦する。俊敏に動き回るコボルトを難なく対応している。


「はぁッ!」


 斬撃を繰り出しコボルトは手も足も出ない。

 そしてあっという間にコボルトの胸を剣で貫き倒した。


「凄いです!」


「これぐらい簡単よ! それじゃあ私は解体するから周囲の警戒お願いね」


「はい!」


 アネラは慣れた手付きでコボルトの胸を掻っ捌き、心臓を取り出し、その心臓から魔石を取り出す。


「直ぐに離れるわよ」


 僕は頷いて一緒にその場から離れる。

 それから僕が魔法で水を出してアネラは血まみれの手と魔石を洗う。


「魔法って便利ね~」


 感心するアネラ。


「コボルトの縄張りが近そうだから、気を引き締めて行きましょう。解毒草はあと何本?」


「あと四本です」


「了解〜」


 注意深く探し回り解毒草を三本見つけて残り一本だ。だけどその一本がなかなか見つからない。


「ッ!! 多分コボルトの気配があっちの方から近づいてきます!! 気配が三つです……!!」


「……不味いわね。逃げるわよ!」


 僕が指し示した方とは反対の方に走り出すアネラ。その後をついていく。

 だけど、コボルトの気配はどんどん近づいてくる。もうすぐ後ろから足音と鳴き声が聞こえる。


「チッ……。逃げられないから戦うしかないわね……」


 立ち止まり直ぐに剣を構える。

 コボルトは追いつき威嚇してくる。僕も応戦するために鞭を手にして火の矢を作る。


「グギャッ!!」


 コボルトは一斉に襲いかかってきた。

 アネラは何とか応戦し、僕は火の矢を放って援護し鞭で攻撃する

 一体のコボルトに狙いを定めて鞭を振るう。鞭は変則的に動き俊敏に動くコボルトを捉えて襲う。


「ギャウッ!?」


 バシンと鞭に打たれたコボルトは悲鳴を上げてのたうち回る。

 致命傷にはならずともその衝撃と痛みは想像以上だろう。僕は鞭を振るって追い打ちをかけた。


 アネラの方は何とか二体のコボルトを抑えていた。今は何とか出来てるけど、そう長くは持たないだろう。彼女の表情に焦りが浮かんでいた。早く助けに行かないといけない。

 壮絶な痛みで怯えるコボルトを一旦無視してアネラの方に向かい火の矢で一体の注意を引く。

 アネラが相手にしていたコボルトの一体が僕の方に注意が向いた。その隙きをアネラは見逃さず、猛攻を仕掛ける。

 アネラの攻撃によってコボルトに傷が増えていく。戦況は僕達に傾き、ようやく一体仕留める。

 僕が注意を引いていた方もアネラによって討ち取られ、鞭の攻撃によってのたうち回っていたコボルトは逃げ出していて姿は無かった。


「ふぅ~……」


 全力を出したのだろうアネラは疲労困憊だ。それに体中に傷がある。


「あの、これ使ってください」


 カバンから傷薬を出してアネラに渡す。


「ありがとう」


 傷薬を受け取ったアネラは、傷口に塗り込んだ。


「この傷薬ってギルドで大人気のやつじゃない! あっという間に無くなるからなかなか手に入らないのよね。傷が直ぐに治るし痕が残らないから欲しかったのよ! よく手に入ったわね」


 なんだか恥ずかしい。


「それ僕が作ったんだ……」


「え、そうなの!? 凄いじゃない!」


「良かったらこれ……」


 余分に持ってきていた傷薬をアネラに差し出す。


「いいの!? ありがとう!」


 喜んでくれた僕も嬉しい。作った甲斐がある。

 それからコボルトの魔石を取り出し、解毒草も見つけて必要本数が集まった。


「結構時間かかったわね」


「そうですね。こんなに見つけづらいとは思わなかった……」


「それじゃあ帰ろっか! もうお腹ペコペコ!」


「僕も……お腹空きました」


 丁度ユルムも戻ってきて、アネラにバレないように僕の足元から登ってきて首に巻き付いた。


「あの、コボルトの魔石一個買い取らせてもらって良いですか?」


「え? もともと魔石売ったお金は別けるつもりだったし良いけど、何に使うの?」


「ちょっと……」


 ユルムの餌とは言えないから誤魔化す。コボルトの魔石を一個貰い、僕達は帰路についた。

 帰りも気を抜かず、ゴブリンは隠れてやり過ごし、コボルトを一匹アネラが倒してアレストンの森を出た。




 

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