第20話 認識

 地下の管制室には重い沈黙が満ちていた。

 先に帰投したAチームの5人は、誰一人として口を開かず、ただメインモニターに映し出される、たった一つの帰還機のアイコンを待っていた。

 窓越しに見えるハンガーには無惨な姿になった教習機が吊り下げられている。

 これまでの戦闘訓練でもロゼの腕が切られただの足をやられただの、そういう負傷は数多くあれど、まさか手足をすべてもぎ取られるとは、ロジャーにとって初めての経験だった。

 いや、ここにいるAクラスの面々ですらそのような経験はない。


(あれが、戦場なのか……?)


 ロジャーは一人、思考の海に沈む。

 サーシャが操るのはこちらとまったく同じ教習機のロゼ。1対5という圧倒的な戦力差があり、けれども油断はなかった。人選についても——少々おちゃらけたジェイもいるが、4人の腕は誰からみても確かなものだった。

 しかし結果はどうだ。

 圧倒的な戦力差に見えても、油断がなくても、Aチームは瞬く間に崩壊した。その事実がロジャーの胸に、重い鉛のようにのしかかる。

 ふと、周りがにわかに騒がしくなり顔をあげる。モニタに機影が映ったのだ。

 サーシャのロゼだった。

 その腕には先ほどの先頭で切り飛ばした教習機の各パーツが、大切そうに抱えられている。

 いや、そうではない。

 皆が騒いでいるのは彼女の操るロゼのスラスターだろう。

 すべてのスラスター部において、外装甲が溶け、スラスターノズルや燃料パイプが剥き出しとなっているではないか。


「——あんなバケモンだとは聞いてないよ」


 シーの呆れを含む溢れた言葉。

 ロジャーはその言葉を、Aクラスの総意だと感じた。

 一体どれほどの負荷をかければあんなことになるのか。いや、理屈はわかる。ロゼの性能を学ぶ授業でもスラスター全開状態を長時間続ければ機体が熱で溶け出すとは知っていた。

 だが、ロゼのスラスターを単機で長時間、全開を維持できる人間がどれほどいると言うのだろう。

 いや、できないからこそ飛翔陣形という、複数機がまとまることでようやくスラスター全開状態を制御をしつつ長距離を移動する方法があるのだ。

 ロジャーはここにきて改めて、サーシャという化け物を正しく認識しつつあった。

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