――というのが事の顛末である。顛末というか現在進行形というか。

 まぁ、変に目立って広報効果があるなら、プラマイゼロぐらいでまだましかもしれない。

 あの変な恰好はというと、あの製菓部の女の子に無理やり着せた(誇張表現)ので、今は純粋な佐藤千歳である。

 ということで俺は今、このお菓子を生徒会室へとお裾分けしに行っている最中ということになる。

 割と遠回りしているなというルート取りと、蛇行気味の歩きでゆっくりと進んでいる。やれと言われたらしっかりやる男である。これが生徒会執行部の意地である。


「あ、佐藤千歳」


 今さっき、たまたま横を通り過ぎようとした二人組の一人が、振り返って声を掛けてきた。

「あー、詩論じゃん……ん?」

 科学部の展示を一人で受け持つとかいう奇怪な男は、なんか怪しい格好をした男か女か分からない謎の布被りと一緒にいた。

「どうした?」

「いや、なんか隣に仮装してる人いるけど……その人は?」

「あー……ええっと、そう、最近、科学部に新しく入った後輩の女の子だ」

「へー、そいつは良かったな!」

「うん、これで一人で活動している謎の奴という目線とはおさらばだな」

「……」

 その女の子は黙っていて微動だにしなかった。その上、布を被ってお面をしているため表情とかそういう問題ではなかった。

「あーこの子口下手で緊張しいだからさ……」

「いやいや大丈夫、誰だって初対面の上級生なんて緊張するものだからな」


「……あ、ありがとうございます」


 小さくてよく聞こえなかったが、勇気を振り絞って声を出してくれたその勇気に感謝しよう。

「あ、そういえば佐藤千歳……お前さっきまで飴の教授みたいな格好してなかったっけ?」

 詩論は明らかに揶揄うような調子の声と笑みを浮かべてそう言った。

「え、もしかして見たのかお前!」

「……あ、いや」

「……なんだよ」

 急に神妙な面持ちになる詩論。

「あれだ……春村神木が言ってた」

「はあ? てことはあいつ、見たのに話しかけずに見送ったってことか……」

「そ、そうなるな」

「そいつはいけねぇ……今すぐにでも探して記憶をなくすまでボコボコにしなきゃいけないなぁ……? ってぐらいなことをしているが、まぁ、今はそんなことをしている暇がないから今はいいとしよう」

「こ、こわいぃ……」

 新入科学部員の後輩は静かにそう呟いた。

「あれ……今気づいたけど詩論、その手首についてるのってなに?」

「ん?」

「え、なんか紐みたいなもの巻いてるっていうか、それだよそれ」

 まるで手錠みたいな形で、紐が詩論の手首に巻かれている。しかも、その紐が続いている先を見るとそれは女の子の真っ黒な布の中へと飲み込まれている。

「あー、コレね! これはね、えーっと……」

「……なに」

 今、理由を考えているようにも見えるけど勘違いだろうか。

 それと、なんか仮面をかぶっているはずなのに、詩論の隣から鋭い視線を感じるのだけどそれも気のせいだよね。詩論なんか足をこつんこつんされてない?

「……うちの校舎広いじゃん?」

「あぁ、まぁ広いな」

「それで、迷子になったらいけないから紐で括ってるんだよね」

「でもさ、その理論だと括られてるのがお前だから、お前が迷子になるって事にならないか?」

「……わお! 抜け目ないミステイク!」

「はぁ?」

 どうやら、こいつまで文化祭の熱で脳が焼き切れてしまったのかもしれない。

「ぐいぐい、えっなになに? お化け屋敷行ってみたいって? しょうがないな……ということで、私達はここでお暇させてもらおう! さらばじゃ」

 そんな言葉とともに、詩論は新入科学部員の手を引っ張って走り去ってしまった。

 その手首の意味を教えてくれなかったが、どうせしょうもない理由だと過去の経験から推測できるので、あまり興味が湧いたりしなかった。

 と言っても、別にあいつ自身が嫌いなわけではないので、後からあいつの展示品でも見ようかな……。

 そういえば、詩論はあの布を被ってお面を付けていた新入部員を「後輩」と言った気がするが、それはどういう意味で言っているのだろう。


 だって、俺達はまだ一年生だから。


 あの時、「後輩である」という言葉に納得したのは、あの子が中学生で、将来的にこの高校に入って、そして、科学部に入るんだと詩論に伝えている可能性があったからだ。

 詩論、そういうのが好きそうだから、そんなこと言われたすぐに鵜呑みにしちゃうだろうし……。

 まぁ、未来の後輩に出会ったその熱と、文化祭で浮かされたその熱が合わさってテンションがおかしなことになった詩論を見れただけ良かったと思おうかな。

 さあ、生徒会室へと急ぎますか。


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