第191話 Side - 16 - 18 - いまはむかし、たけとりの・・・ -
Side - 16 - 18 - いまはむかし、たけとりの・・・ -
「大介(だいすけ)お兄ちゃん久しぶり」
「・・・お・・・おう、理世・・・声も顔も違うがなんとなく雰囲気が似ているというか・・・面影があるな」
「兄ちゃんもそう思うよね、不思議なくらいお姉ちゃんの面影残ってる」
「ははは、龍之介は相変わらず顔が恐ろしいな」
「兄ちゃん酷い!」
こっ・・・こっ・・・こっ・・・
くけぇぇ!・・・・くけぇぇぇ!
「わぁ・・・ケンタ久しぶり、ナゲットも元気そうだね」
雲一つ無い良く晴れた日の午後、私の足元をうちで飼っている鶏のケンタとナゲットが駆け抜けていった、ここは四国、徳島県の山の中、深い渓谷の斜面に張り付くように点在する民家の一つだ。
そのド田舎に場違いな銀髪幼女とその家族が立っている、叔父の田中太郎、叔母の花子、そして従兄弟の龍之介、彼らと会うのは従姉妹の理世が死んで・・・葬式の時以来だからおよそ半年ぶりになる。
もちろん理世が異世界から帰還?した時にはうちに連絡があったし、生まれ変わった理世とも電話で話した、最初は娘を失ったショックのあまり叔父夫婦がおかしくなったのではないかと私達家族はとても心配したのだ、実際私の父親は連絡のあったその日に車で田中家まで走った。
おっと、自己紹介が遅くなったね、私の名前は瀬良大介(せらだいすけ)32歳、地元の観光センターに勤務している。
自然が豊かなこの辺りには雄大な渓谷の底を流れる川があってウォータースポーツが盛んだ、観光客もそれなりにやってくる、船を使っての遊覧やゴムボートで急流を下るラフティングに人気が集まっていて、私はそこで観光ガイドや遊覧船のスタッフをやっている。
私の家族・・・父親の政樹(まさき)は林業関係の仕事をやっていたし母親は国道沿いのドライブインで働いていた、今は2人ともうちと隣接する本宅で気楽な年金暮らしを送っている。
父親には兄と弟が居て、私の伯父にあたる大樹(だいき)は東京に出てIT企業を立ち上げたのだが10年ほど前に不慮の事故で亡くなった。
もう一人の叔父である太郎は田中家に婿入りして隣の香川県で会社員をやっている、ちなみに上の兄弟2人と叔父の太郎は母親が違う、伯父達の母親・・・つまり私の祖母が亡くなった後、祖父が再婚したのだ。
だが父親達兄弟はとても仲が良く、その子供・・・従兄弟達も仲が良い、特に田中家は車で3時間ほどの隣県に住んでいる事もあり頻繁に交流があった。
「あの・・・」
理世の変わり果てた姿?に驚いたから見落としていたが田中家一行の中にもう一人居た、今の理世にとてもよく似た女の子・・・いや事前に聞いた話だと男の子だそうだが・・・向こうの世界の弟、コナンザ・シェルダン君。
「あぁ、話は聞いているよ、初めましてコナンザ君、私の名前は瀬良大介(せらだいすけ)、理世や龍之介の従兄弟だよ」
「は・・・初めまして、コナンザと言います・・・大介さん」
どうやらとても大人しい子のようだ、理世の後ろに隠れながら恐る恐る・・・という感じで私に挨拶してくれた。
「ふふっ・・・堅苦しい呼び方は無しだよ、遠慮なくお兄ちゃんとでも呼んでくれたまえ!」
「あぅ・・・だ・・・大介兄さん?」
ぐっ・・・潤んだ目で兄さん呼びは予想以上に破壊力があるな!、しかも首を少し傾げて上目遣い、とんでもない魔性の美少年だ、私はそっちの趣味は全く無いが新しい何かに目覚めそうになったぞ!。
「そういえばあと一人、私達の祖先?の人が来るって聞いてたけど居ないね」
「あ、アメリア様なら後で私が呼ぶの、まだ瀬良のお家の人達って私の転移魔法信じてないでしょ、だから目の前で披露しようかなって」
そう、父親が田中家に行き実際に見てきたし、私も電話で理世と話したからこの幼女の中身が死ぬ前の彼女なのは間違いないだろう、だが転移魔法・・・、田中家の皆が力説するから一応信じてはいるが、この目で見ない事にはまだ半信半疑だ。
今日田中家の皆がここに来た目的も表向きは帰郷だが我々に理世の魔法を直接見せる為でもある、それにアメリア様とやらがうちの家系図を見せて欲しいと言っているらしい。
「さ、立ち話もアレだから中に入ってよ、世羅(せら)や蘭羅(らら)も待ってるからね」
とたとた・・・
「理世お姉ちゃん!」
玄関に入ると家の奥から娘の蘭羅(らら)が走って来た、いつもなら理世に抱き付くのだが銀髪幼女を目の前にして固まっている、理世は両手を広げて抱きつかれる気満々だったのだが表情が曇った。
「蘭羅(らら)ちゃん、私、理世だよ・・・」
「・・・お父さんが理世お姉ちゃんが生き返ったって・・・でもお顔が違うの・・・ぐすっ」
「うん、私、生き返ったの、姿が変ったから驚かせちゃったかな・・・」
生き返ったとか普段の会話では使わないような単語が普通に飛び交っている、理世は生前のおっとりとした外見から鋭く冷たい感じに変わっているから怖がっているのかもしれない・・・。
「本当に理世お姉ちゃん?」
「うん、そうだよー」
「・・・」
「・・・おいでー」
「わぁぁん!、理世お姉ちゃん!、死んじゃったって聞いて蘭羅(らら)悲しかったの!、もう絶対死なないで!」
「うんうん、今度は死なないよー、1000年でも2000年でも生きるからねー」
「いや1000年は生き過ぎだろ・・・」
2人はようやく抱き合った、よかったな・・・私のツッコミは蘭羅(らら)の泣き声で消えてしまったが・・・。
「あらあら、いらっしゃい、って理世ちゃんお人形みたいに可愛くなってるー」
妻の世羅(せら)が奥から出て来た、旧姓は石田世羅(いしだせら)だが私と結婚して瀬良世羅(せらせら)などという愉快な名前になった、本人は婚姻届を見てようやく気付いたようで「せらせらは嫌ぁぁ!」と泣いていたが仕方ない。
「じゃぁ、とりあえず乾杯!」
「かんぱーい!」
私達は我が家の隣にある本宅、両親の家に皆が集まって食事を始めたところだ。
時間は夕方、私の両親と妻、娘、田中家の5人が一枚板で作られた大きな座卓を囲んで座っていて、目の前には父親が買ってきた大量の寿司や酒、川魚が並んでいる。
繰り返すがここはド田舎だ、近くにスーパーなんてものは無いし集落に一軒だけある雑貨屋を兼ねた食料品店に寿司は置いていない。
ここで寿司を入手する為には細い山道を車で進み国道沿いの仕出し店で買うか旅館に予約して作ってもらうか、あるいは車を1時間以上走らせて山を降り街のスーパーで買うかだ・・・。
今回はいつも頼んでいる旅館に作ってもらった、この辺は押し寿司が主流で、柚子の入った酢で締めた鯖寿司や稲荷寿司、巻き寿司もある、どれも凄く美味い。
「あ、そうだ、アメリア様を先に呼ぶね」
アメリア様というのは理世ちゃんによると我々一族の遠い祖先らしい、なんでも私達に大切な話があるという。
「これから転移魔法を使います、そこをよく見ててね」
理世が部屋の隅を指差した、いよいよ魔法が見られるのか。
ぱぁっ!
アニメに出てくるような白銀の魔法陣が部屋の隅に現れた、眩しい!。
「あ、もしもしアメリア様、理世だよ、この間言ってた例の件で魔法陣置いたから来てくれるかな」
「うわ眩しっ!」
魔法陣が強く光り、そこには赤目白髪の女の子が立っていた。
「おっと、畳だ、ごめん靴を脱ぐね」
そう言って慌てて座り込み、靴を脱いでいる女の子、理世やコナンザ君と同じ格好・・・ユノスアイランドと書かれたロゴ入りのパーカーに黒のレギンス姿だ。
外見は東洋人には見えない、だが我々とほとんど変わらない流暢な日本語を話している。
「紹介するね、この人は私達の祖先で、アメリア・セーメイン様、遥か昔・・・平安時代に転移魔法を使ってこの世界・・・日本にやって来たの」
「初めまして我が子孫の皆さん、アメリアです」
そう自己紹介しつつもアメリア様とやらは座卓の上に並べられた寿司をガン見していた。
「・・・あ、お寿司ありますので食べてくださいね」
「ありがとう、では遠慮なくいただこうかな」
とても嬉しそうにアメリア様は用意していた座布団に座って寿司を食べ始めた、どうやら腹が減っているようだ、食事をしながら私達はアメリア様の話を聞いた。
「・・・というわけで、私の子孫は30歳になる前に死ぬと確率は低いが前世の記憶を持ったまま異世界に転生する事がある、だからあなた達の子孫が若くして死に、向こうで生まれ変わる事があれば理世ちゃんの居るシェルダン家を頼って欲しい、この事を子々孫々まで伝えてもらいたいのだ」
とんでもない話が出たな・・・。
「30歳を超えて死んだ場合は転生しないのですか?」
ビールを飲んでいた私の父親が質問した。
「正直分からないのだ、少なくとも私の長い人生の中で出会っていないというだけで、もしかしたら高齢で転生している者が居るかもしれない、だからこれは私の血を引く全ての人に起こり得ると思って欲しい」
つまり私も転生する可能性があるのか・・・不安になった私はアメリア様に尋ねた。
「・・・万一転生して困った場合はローゼリア王国のシェルダン家を頼れば助けて貰えるのでしょうか」
「うん、他国や他の大陸で生まれてしまったら国境を超えてローゼリアまで来るのも大変だろうけど・・・そこはなんとか頑張って来て欲しい、転生先には全く規則性が無いからね、最近別の大陸に転生してしまった女の子が見つかったのだ、彼女は悪い皇帝が支配する国で酷い扱いを受けていた・・・」
アメリア様に続いて理世が付け加えた。
「私はその大陸に行く用事があって・・・そこで偶然出会わなかったら分からないままだったの、だから私達が知らないだけで転生者は他にも居ると思う」
その後アメリア様とは色々な話をした、実は私は歴史好きなのだ、実際に古代の日本を生きてきた人物が目の前に居る、聞きたいことは山ほどあった。
「え、アメリア様、かぐや姫のお話に関わってるの?」
理世が驚いている、いやこの場にいる皆が衝撃を受けていた、日本人なら誰でも知っている昔話・・・かぐや姫・・・竹取物語・・・。
「関わっているも何も・・・当事者なのだ、私がローゼリアから最初に転移した場所が京都の竹藪の中で・・・転移の瞬間をお爺さんに見られた、言葉も何も分からないから焦ってね、思わず魔法で身体の周りを光らせて記憶喪失のふりをした」
「えぇ・・・」
「お爺さんは私を見て捨てられた子供だと思ったのだろう、家に連れ帰って色々と面倒を見てくれた、私としてはこの国の習慣や言葉を覚えるいい機会だったから好意に甘えさせてもらったのだ、養ってもらうお礼としてローゼリアから持って来た金貨を渡し、異世界の知識を使って儲けさせてあげた、竹取の翁は私の恩人だよ」
「・・・」
「だが初対面の時にうっかり性別を変えていなかったからお爺さんとお婆さんには迷惑をかけた・・・私は女性、しかも日本人とは目や髪の色が違っていた、貴族や帝から求婚・・・というか珍獣扱いされてね、皆が私を手に入れたがった、だからお爺さん達の前から姿を消した後は厄介ごとに巻き込まれない為にずっと地味な男性の姿で暮らしていた」
「言い伝えでは月へ帰ったと・・・」
そう、かぐや姫は月に帰ったとされている・・・。
「あはは、私は空を飛べないし月に行く事はできないなぁ、魔法で私が生まれ育った国の軍隊を夜空に投影したのだ、みんな腰を抜かして戦意を喪失してた、私としては謎の軍団に連れ去られて行方不明という事にしたかったからね」
寿司をもきゅもきゅ食べていた理世がアメリア様に尋ねた。
「もしかして他の昔話にも関わっていたりするのです?」
「他の昔話・・・何かあったかなぁ・・・そうだ、これは私の友達の知り合いから聞いた話だけど・・・とても嫌な事件だった・・・」
友達の知り合い・・・。
「瀬戸内海のとある島に船の事故で流れ着いた外国人が住んでいてね、島の住民とも仲が良く子供も生まれて幸せに暮らしていた、ところがある日、俺様は桃から生まれた凄い男だ!、と名乗る頭のおかしい奴が島にやって来た・・・」
「ちょっと待ってアメリア様!、それ以上いけない!」
理世が慌ててアメリア様の話を止めた、私もこれ以上聞かない方がいいと思う・・・。
(柚亜紫翼からのお知らせ)
大介(だいすけ)お兄ちゃんの伯父さん、瀬良大樹(せらだいき)さんのお話はこちらです(短編)
〜セラさんは宇宙人に誘拐されましたぁ!〜
https://kakuyomu.jp/works/16818093079829263085/episodes/16818093079829644914
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