第2話
〈須藤 ハル〉
目が覚めると、もうお昼の11時。お腹がすいたが、冷蔵庫には何も入っていない。実家から送られてきたみかんを口に入れ、お昼ご飯とした。
起きて、机に向かって、パソコンを叩く毎日。今日は、明日締切の原稿が間に合いそうにない。恋愛小説というのは、ネタを生み出すことが一番難しい。どうしても同じ展開になってしまう。毎度のことながら、キーボードを打つ手がなかなか進まない。
ああ、もういい。中田くんには申し訳ないが、締切を遅らせてもらおう。後で連絡を入れるとして、今日はもうおしまい。恋について考えることは疲れる。
どうして僕は、恋愛小説なんてもの書いているのだろうか。たまたま書いた純愛小説が、見事にヒットして、映画化までされた。その波に乗って書いた恋愛ミステリーも、ベストセラーとなった。そうなってしまうと、「須藤 ハル=恋愛小説家」という固定概念が生まれてしまった。別に、恋愛が得意なわけでも好きなわけでもない。たまたま浮かんだ設定が恋愛だっただけだ。だから、書きたい設定を消化した今、恋愛小説を書く理由が無くなっていた。それと同時に、今までの全て過去の栄光となっていた。
自分の未来が全く見えない。人生について考えていると、結果お先真っ暗になって終わってしまう。もう今日は1文字もかける気がしない。気分転換に外に出かけてみることにした。
駅から徒歩5分。小学校、中学校も徒歩10分圏内にある自宅の近くには、子連れの家族に人気の場所である。僕のような、未来が見えない孤独な小説家が住むような地域ではないのだが、やはり便利で、都会すぎない雰囲気が好きだ。
近くの公園には、子供たちが楽しそうに遊んでいる。何も考えず、ただ無我夢中で走り回っている子供たちを見ていると、自分が情けなくなってくる。夢も希望も抱かず、ただ生活するために小説を書く自分に幻滅する。
公園を抜けた先には、スーパーがある。さすがに何かおなかを満たすものを買っておこう。
スーパーで数日分の食料を買った帰り道、中田君から二軒のメールが届いた。1件は、明日締め切りの原稿の確認メール。そしてもう一つは、新しい仕事依頼のメールだった。
『須藤先生、おはようございます。
明日締め切りの小説とは別に、あるドラマの脚本依頼が来ています。今回は、地方局で深夜に放送される予定のスペシャルドラマです。お忙しいのは十分承知しています。放送局側ももし可能ならばとの事でしたので、先生のご判断にお任せ致します。内容は先生が承諾されてから一緒にお話させて頂きたいとのことです。
ご検討、よろしくお願い致します。』
ドラマの脚本は、過去にも深夜ドラマを何度かやったことがある。今本業の小説で忙しいと言いたいところだが、正直行き詰まっているため、新しいものを考えて少しでも現状から逃げ出したい。『受けます』と一言で返事をして、家に戻った。
わたしのこころはうごかない。 竹内こぴん @coco21
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