月に行った君
この話は第1話の主人公の夫が子供の頃、テレビで見たヒーローの最終話です作中作としてお楽しみいただければと思います。
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やぁ!俺の名前はラットバロン。
まぁ知らないだろうね。
どちらかというとラットマンという名前の方がわかってもらえるかな?
そう!あのムーンオウルのサイドキック(相棒)だったラットマンさ!
今は独立してラットバロンって名前でこの都市を守っている。
この都市に住んでりゃムーンオウルの事を知らない訳はないだろうけど、まぁこの元相棒であるラットバロンの目から見たムーンオウルについて話していこうと思う。
その前にこの腐った都市について説明するぜ!
まぁ、お前もこの犯罪都市、黒山(こくさん)市についてはいくらか聞いているだろう。
比較的に安全安心のこの国において唯一の別格、黒山市、
犯罪者数第一位、
一番住みたくない都市一位
子供を住まわせたくない都市一位、女性が一人で住みたくない都市一位、窃盗事件数一位、交通事故数、一位、もうありとあらゆる悪い事が起きる都市だ!
この腐った都市でムーンオウルは鍛えぬかれた身体、武術、様々な特殊技術で作られた道具を駆使して犯罪者を取り締まるスーパーヒーロー。
だけど、警察とは仲が悪く、しばしば衝突して警察から追われる立場でもあった。
しかし、長年の努力が報われたのか、一般人には、多少は受け入れられるようになってムーンオウルを真似する自警団も出てきたりしていたんだ。
もちろんムーンオウルは警察も自警団も関係なく、犯罪者は容赦なく取り締まる。
しかし、どんな悪人であっても、そう例えば、自分の命を狙った殺人鬼でも、命を取ることなく取り押さえて官憲に突き出し、その罪を償わせることを信念に自警活動を行っている。
それがムーンオウルだ。
ムーンオウル自身は表向きは巨大企業の取締役であり、生活には困らないのだが、会社の売上の一部を慈善団体に寄付したり、自身で慈善事業を行ったりしていた。
そして、夜になれば、ムーンオウルのスーツを身に付け、自警活動を行う。
そんな彼のこれまでの生涯は愛に満たされたとは言えないものだった。
巨大企業の取締役の父親と医師の母親はともに自分の目の前で犯罪者に惨殺され、昔の恋人は犯罪者に高所から落とされ死亡、やっと恋人が死んだ過去を乗り越えて、結ばれた婚約者は実は犯罪者で裏切りにあい、養子にとった義理の息子はムーンオウルを庇って狂人に刺されて死亡、哀しみに満ちた人生だった。
でも、彼は人生を投げ出すことなく、他人のために躊躇なく危険に飛び込み、人を助ける。
彼の心の強さはどこからくるのか?
不思議に思った俺は聴いたことがある。
そうしたら、彼は
「いくら苦しんでも、哀しみに泣いていたとしても、その場に座り込んでしまったら、周りの時が進むだけで、その人の状況は変わらない。諦めず一歩でも解決に向けて前に進む。そうすれば、皮肉な女神もしょうがないって言ってこちらに一歩近づいてくれるさ。」
そう嘯いていた。
彼の会社は、事業の中に宇宙開発を取り入れていた。
既存の開発事業だけでなく未来に向けての新事業を入れることで企業成長を考えていたと思う。
ムーンオウル自身も宇宙に興味があり、夜空の星を観ると自身の境遇を一時でも忘れられるのだと言っていた。
やがてムーンオウルも年齢を重ねていき身体が動かなくなり、過去の傷や無理がたたりその自警活動が難しくなってきた。
彼はそこで、ムーンオウルとしての活動に終止符を打つべく、警察やマスコミを呼んで記者会見を開いた。
そこで自身のムーンオウルとしての活動を告白した。
マスコミ達は、犯罪者にでも暴力的行為を働いたことは罪に問われるとして、ムーンオウルを叩いた。
報道では、連日、彼を非難するニュースが放送され、評論家は彼の活動に対して如何に罪に問われるかを訳知り顔で話していた。
だが、警察は彼を捕えることはなく、逆に彼を狙う犯罪者集団から守るように動いた。
マスコミがそのことで警察を批判すると、警察署長は、記者会見を開き、
「ある会社社長が自身の企業をアピールするために、自身がムーンオウルと戯言を言っているが、その根拠はなく、また、マスコミ諸君が、連日報道されているとおり無能集団の我々ではムーンオウルの罪を、立証することはできない。万が一、仮に彼がムーンオウルだったとしてだが、我々は過去にはわだかまりもあったが、今はその長年の活動に対して敬意を評するのみである。」
と所見を発表したのみだった。
刑事罰は問われなかったが、民事では、マフィア達が自身のことを棚に上げてムーンオウルを訴えた。
しかし、ムーンオウル側には過去、彼に救われた弁護士達が無償で弁護を行い全ての訴訟に勝利していった。
業を煮やしたマフィア達は、どんな悪人でも金を積まれれば、弁護を行い、必ず勝たせてきた老弁護士を呼び出した。
この老弁護士はすでに引退をしていたのだが、マフィア達が暴力と脅しを使い引っ張り出してきたのだ。
しかし、マフィア側に付いた老弁護士は、重要な証拠や証人を持ってこなかったり、呼び出していなかったりとミスを連発していた。
告訴状も穴だらけで酷いものであった。
マフィアたちに囲まれ、訴訟に関する失態を問われると老弁護士はニヤリと笑い、妻がムーンオウルに助けられたこと。
そして、愛する妻が天寿を全うするときに、
「貴方がしてきたことは変えられません。だけど、私が先に閻魔様にその罪を謝っておきますから、私を愛しているなら、こちらに来る前にその罪を少しでも軽くできるよう善行をしてきてくださいね。」
と告げ、静かに微笑んで死んだと語った。
そうして、自分を囲んでいるマフィア達に、人生をかけて惚れ抜いた女の最後の願いだ。
きいてやらねば男が廃るだろう。
そう言ってニヤリと笑ったらしい。
怒ったマフィア達に殴られ、死んでしまった老弁護士は最後まで笑っていたとのことだ。
その後、老弁護士の急死に伴い、マフィア側に付く弁護士はおらず、ムーンオウル側の勝訴が確定した。
ムーンオウルはその後、宇宙開発事業に本格的に乗り出し、自身が宇宙飛行士として月に向かって有人飛行の計画を公表、初期開発段階なので、パイロットは自身のみで、宇宙活動の大部分を人工知能による補助での宇宙活動であると発表した。
彼は引退したときに封印したムーンオウルのスーツを宇宙活動用に改良し、月に向けロケットに乗り込み出発した。
宇宙では、様々な困難があったが、ロケットは無事に月の軌道上まできて、ムーンオウルは月に向けて探査機を着陸をさせようとしたときにトラブルが発生、ムーンオウルは大怪我を負い意識を失う。
トラブルはあったが、月面探査機は人工知能による自動操縦に切り替わったため、月に無事着陸できたが、意識のないムーンオウルの怪我は重症であり、命に危険を及ぼす状況出であった、
ムーンオウルが、ここまでか…、と諦めかけたときに
「おいおい。ここまできて諦めるのか?ムーンオウル。」
そう言って、彼の夢の中で、死んだ義理の息子であるラットバロンが現れた。そう俺のことだ。俺の後ろには、死んだはずのムーンオウルの両親や恋人もいた。
「父さん、母さん、レイチェル、ラットバロン、皆で迎えに来てくれたのか?」
そのムーンオウルの問いには両親や恋人は喋らず、笑顔を浮かべていた。
義理の息子の俺も笑顔だが、
「確かにきたが、迎えに来たわけじゃないよ。諦めようとした義父さんのケツを叩きにきたんだよ。」
「ラットバロン、いや、テッド、私はもう疲れたよ。もう寝ても良いだろう?」
俺は首を横に振り、
「義父さん、まだここに来るには早すぎる。お願いだから、まだ諦めないでよ。まだやることが残っているだろう。」
そう言って俺は、人工知能による生命維持装置を起動するボタンを押す。
「義父さん、諦めないでよ。一歩進めば、皮肉な女神も一歩足を踏み出してきてくれるんだろう?」
さあ、ここで俺、ラットバロンの話は終わりだ。
ムーンオウルは相変わらず、相棒に頼りきりな駄目なヒーローなんだよ。
だけど、どんな時も諦めない最高のヒーローなんだぜ!
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私は胸の痛みで意識を取り戻す。
機械が電気ショックで心臓を強制的に動かし、傷を生体ナノマシンで修復する。
どうやら無意識に生命維持装置のスイッチを押したらしい。
またラットバロン…いや、テッドに救われたな。
私は、探査機の状態を確認、生命維持装置には損傷はなかったが、浮上、飛行装置に異常が発生したらしい。
探査機は月面に着陸をしており、船外活動はできそうなので、月面に足を踏み出し降り立ってみる。
月面からみる地球はやはり想像通り綺麗であり、犯罪都市と言われている黒山市も綺麗な地球の一部であった。
さて、どうやら人生で一番の難題だぞ。どうやって地球に生還してやろうか?
皮肉な女神に向いてもらえるように最後まで足掻いてやろう。
このまま諦めて地獄に落ちても、両親、恋人、そして義理の息子に地獄から叩き出されるかもしれないからな。
ムーンオウル最終話〜月に行った君〜
完
君の待つ月 鍛冶屋 優雨 @sasuke008
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