第2談
「クソ……あの爆炭ババア」
親指でピンと跳ね上げるのは銀貨だ。しかもたった1枚の。
妓楼にいる女のほとんどは子供の頃に親に売られた存在だ。その額はおおよそ金貨1枚。
庶民の平均年収が100銀貨。100銀貨が金貨1枚だから、子供を売ることで随分と生活が楽になると言うわけだ。
そしてその金は売られた女の子に借金として付けられる。更に年利がつき、日々の生活費と授業料が加算されるので、成人する頃には莫大な借金を背負うことになる。
この国の成人は15歳から。15歳になったら客を取り、借金を少しずつ返していく。
「瓦を割った金と、庭園に穴をあけた金を請求しやがった」
修理代で仮母に4銀貨持っていかれ、1銀貨しか残らなかった。これではいつまで経っても借金を返せそうにない。いつもこうやってなんだかんだ屁理屈つけて減らされる……
楼閣の中の廊下も見事に朱色で溢れている。両側に並ぶ柱も朱色。引き戸の枠も朱色。縁起を担ぐことが大好きな曜国は、家の中でも朱色を使いたがる。特に妓楼は縁起を担ぐ。上客がきて、金を落としてもらうことが必要だからだ。
懐にお金を入れて歩いていると、先ほど助けた
これで落ちない男はいないだろう。
◇◇◇
「で?あんたはいくらもらったわけ?」
「相変わらずケチババアね。まぁ、あなたも悪いわよ。飛び降りる時に瓦を何枚か割ったでしょう?しかもこれから牡丹の花が見頃になる庭園の庭もへこましちゃうんですもの。ケチババアじゃなくても怒るわよ」
鏡台に写る
黒々とした長いまつ毛が瞳を彩るアクセントとなり、可愛らしい顔を更に際立たせる。鼻と唇のバランスも良い。黙っていれば美少女だ。確かに胸は少し……いやかなり淋しいが。
「あんたは確かに乱暴者だけど、髪も艶めいて綺麗だし、顔も可愛いからね。なんだかんだで頭も良い。仮母としては手放したくなんだろうね」
その視線の意味に気がついたのだろう。
「……大きい」
「デカければ良いってもんじゃないさ。小さいのを好むのもいるんだよ」
そうかな?それは特殊なんじゃ……と思いながらそれ以上は追求しないように息を呑む。この妓楼で姉のように優しく、そして厳しく接してくれる
「
「ああ、あれ?前に一度私の元に来たらしいわ。私に会うために全財産をつぎ込んだらしいわよ」
「ふ〜ん、寝たの?」
「まさかでしょ?私と寝るためには何度も通わなきゃいけないのよ?あの男にそんな甲斐性あると思う?」
「ないよね〜、しかも
「せっかく昨晩は楽しんだって言うのにさ、良い思い出を汚されちゃったよ」
「一晩中良くやるよ。うらやま……んにゅにゅにゅ」
鼻を摘まれ
「
「それ……言うなって言ったでしょ?ケチババアは確実にあんたに嫌がらせをする。あんたが色事に興味があるって言ったら、淡白な男を寄越すわよ?」
「そうだった……へっへへ」
仮母に喧嘩を売り、更に客を取りたくないと、この商売は嫌だと言うふりをしておけば、確実に嫌がらせとして、絶倫の男を連れてくるだろと教えてくれたのは
「あんたも変わってるわよね。ほとんどの女が嫌だって、言うのにさ」
「せっかく生きてんだしね、前向きに生きた方が良いだろう?それに悪いもんじゃないって教えてくれたのは
「そうね、何事も前向きに生きなきゃね?どうせ私たちは籠の鳥。ここにいる以上は逃げられない」
そういう
「応援してるわ、
「あいよ!
大好きな
本気で楽しみなんだけど……な、と。
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