乾いた地面をなお容赦なく炙る太陽。美しい鉱石を生み出しつつも食物は育たず、飢えが絶えぬ大地。多くの人々が暮らすにはあまりにも厳しい条件を備えたその地に横たわるは、文化も思想も異なる二つの大国。
形だけの王よりも個性的な領主たちが治める、危うい均衡を保つ国──バシレイア。
特殊な髪色の女王を頂点としつつも、内部腐敗が進みつつある斜陽の国──オルキデ。
誰かの思惑から突如仕掛けられた理不尽な戦争を鎮めるため、各国の重要人物たちが文字通り火花を散らす。準備に計略、実行と責任、そして犠牲。激しい剣戟の中、誰もが乾いた目で自分たちの醜い行いを見つめる。
それでも血に濡れた剣を鞘に納め、兜を脱げば彼らもひとりの只人。守るべき領地、家族、そして狂おしいほどの恋慕を抱え、強かに日々を生き抜いている。
バシレイアの武人ハイマと、オルキデ女王直属の部隊長を務める『大鴉』、ルシェ。戦場で出会った男女はやがて、不思議な何かに呼ばれるようにして惹かれあっていく。
それはずっとずっと昔、きっと失ってしまったもの。だから離さない──今度こそ。
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暑い国々を舞台にした、硬派なファンタジー戦記です。ファンタジーといってもこの時代にはすでに神や魔術の存在は遠いものとなり、不思議な力を使えるのはごく一部。ほとんどの戦いは剣と馬などの泥臭い物理戦で進みます。
正直私はあまり戦記などを読み慣れていないので不安でしたが、もうハマることハマること(笑)。最初から最後までどっぷりと浸かって一気読みでした。それはひとえに作者さんの丁寧な描写の賜物でしかないと思います。
派手な戦闘シーンだけを描くのではなく、そこに至るまでの軍議、補給、準備や根回しなどが懇切丁寧に描かれていて、「せ、戦争ってこんなに大変なんだ…!?」と驚くとともに、その重さがずしりとリアリティを持ってのしかかります。戦争に関わる司令官たち、その裏方の奔走が知れるのが戦記初心者にはとてもありがたく、新鮮でした。
また戦いの合間にはそれぞれの人物の深掘りが入ります。戦場で見せた凛々しい顔とはまた違う、人間臭い彼らの生き様がたまりません。もっとわかりやすく言いますね──推しカプが大豊作になります。あっちでもこっちでもくっついてほしい男女が盛りだくさんです。何をいっているんだこいつはと思うでしょうが本当なんです。この硬派そうな話、恋、多めです──!(HAPPY)。
将として戦場でぶつかって始まる縁から、あるいは国の平和のために決められた結婚から。立場も気性もさまざまな個性豊かな人物たちが、厳しい土地の中にあっても色鮮やかな恋模様を見せてくれます。心のオアシス。推しカプは世界を救う。
とはいえ人間の運命など所詮、神が振った賽の目ひとつで決まるもの。たとえばこの戦いも恋も、どこかの盤上で展開する遊戯のひとつなのかもしれない。どの恋も人生も応援したいですが、やがてそろりそろりと不穏という名の獣の足音が近づいてきています。そうだとしても、やはり人は明日を生きるために選択し続けるしかないのです。
次の一振りで、盤上の様相は一変するかもしれない。そんな危うさを孕んだ運命譚の始まりにぜひ、勇気を持って飛び込んでみてはいかがでしょうか。
第二章までの感想です。
物語の幕開けは、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのような緊張感に満ちています。荒野に燃え上がる炎、熱風になびく黒髪、そして鋭い黄金の瞳――血染めの赤鴉コキノス・コローネーと戦魔ハルブ・マサハの対峙は、圧倒的な迫力で読者を引き込みます。
彼らの戦いは、戦場という極限状況の中で築かれる“信念”のぶつかり合いでもあります。巧妙な戦術を駆使しながらも、一瞬の油断が命取りとなる緊迫感。影を自在に操るコキノスの戦闘描写は、戦場における彼女のしたたかさと冷静さを際立たせ、彼女が単なる戦士ではなく、何か大きな使命を背負った存在であることを示唆します。
舞台が変わると、戦場の喧騒とは対照的に静謐な薬屋の風景が広がります。エンケパロス・クレプトと薬師カナンのやり取りは、戦火の中に差し込む一筋の安らぎ。カナンの存在や彼女がが抱える“過去”は戦争の行方にどのように影響を及ぼすのか。寡黙でありながらも責務を果たそうとするエンケパロスの姿勢も、彼の人物像を深く印象付けています。
鮮烈な戦闘描写と静かな情緒の対比。視点が変わるたびに異なるキャラクターの心理が丁寧に描かれ、群像劇としての厚みを増しています。シリアスな戦争の駆け引きの中に、キャラクターたちの“生”が確かに息づいています。
彼らが何を求め、何を守るのか。その答えはまだ遙か先にあります。
国と国との間に、戦争が起きた。
それは、望む者が望まぬ者の隙をついて始めた、あってはならぬ戦いだった。
ーーしかし、これを皮切りに、いくつもの宿命の恋が動き出す。
戦記としてはじまる、真っ当かつ硬派な書き出しは、やがて登場人物たちの人生と人格を浮き彫りにしてゆく。
炎を越えて接敵した戦魔と大鴉は、その戦いのはじまりと終結の最中でその運命を寄り合わせてゆく。
そして、守るべき命が散らされたその時――戦魔は敵として向かい合った大鴉に向けて手を伸ばしていた。
戦争というものは、人が起こすものであり、これを終息させるためにもまた人の手の介入が必要となる。
その時、各地で、誰かが誰かと出会い、誰かを求め、また誰かを奪うという流れが生まれる。
この世界は、大きく繋がっている。
国境があろうと、同じ空の元に生きているからだ。
そうして彼等は出会い、失い、間違え、おそらく、
ーーやり直す。
さあ、ようこそこの物語へ。
わたしなら、まずはエクスロスとオルキデへご案内したいところです。