第二章までの感想です。
物語の幕開けは、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのような緊張感に満ちています。荒野に燃え上がる炎、熱風になびく黒髪、そして鋭い黄金の瞳――血染めの赤鴉コキノス・コローネーと戦魔ハルブ・マサハの対峙は、圧倒的な迫力で読者を引き込みます。
彼らの戦いは、戦場という極限状況の中で築かれる“信念”のぶつかり合いでもあります。巧妙な戦術を駆使しながらも、一瞬の油断が命取りとなる緊迫感。影を自在に操るコキノスの戦闘描写は、戦場における彼女のしたたかさと冷静さを際立たせ、彼女が単なる戦士ではなく、何か大きな使命を背負った存在であることを示唆します。
舞台が変わると、戦場の喧騒とは対照的に静謐な薬屋の風景が広がります。エンケパロス・クレプトと薬師カナンのやり取りは、戦火の中に差し込む一筋の安らぎ。カナンの存在や彼女がが抱える“過去”は戦争の行方にどのように影響を及ぼすのか。寡黙でありながらも責務を果たそうとするエンケパロスの姿勢も、彼の人物像を深く印象付けています。
鮮烈な戦闘描写と静かな情緒の対比。視点が変わるたびに異なるキャラクターの心理が丁寧に描かれ、群像劇としての厚みを増しています。シリアスな戦争の駆け引きの中に、キャラクターたちの“生”が確かに息づいています。
彼らが何を求め、何を守るのか。その答えはまだ遙か先にあります。
国と国との間に、戦争が起きた。
それは、望む者が望まぬ者の隙をついて始めた、あってはならぬ戦いだった。
ーーしかし、これを皮切りに、いくつもの宿命の恋が動き出す。
戦記としてはじまる、真っ当かつ硬派な書き出しは、やがて登場人物たちの人生と人格を浮き彫りにしてゆく。
炎を越えて接敵した戦魔と大鴉は、その戦いのはじまりと終結の最中でその運命を寄り合わせてゆく。
そして、守るべき命が散らされたその時――戦魔は敵として向かい合った大鴉に向けて手を伸ばしていた。
戦争というものは、人が起こすものであり、これを終息させるためにもまた人の手の介入が必要となる。
その時、各地で、誰かが誰かと出会い、誰かを求め、また誰かを奪うという流れが生まれる。
この世界は、大きく繋がっている。
国境があろうと、同じ空の元に生きているからだ。
そうして彼等は出会い、失い、間違え、おそらく、
ーーやり直す。
さあ、ようこそこの物語へ。
わたしなら、まずはエクスロスとオルキデへご案内したいところです。