第36話 最終話3【龍治】

最終話3【龍治】



 ――俺は今最高に幸せだと思う。


 この状態がずっと続けばいいと願う――



 高校生となった俺と直(なお)は、同じ高校に入学した。


 中学生の時の告白を、直によって引き出された淡くも恥ずかしくもある想い出。


 そんな気恥ずかしい想い出を、生涯忘れることの無い想いを心に留めて、


「なぁ。明日どっか遊びに行かねぇか?」


 高校二年生の夏休み。


 とある目的でバイトしてお金を貯めている俺だが、たまには直と遊びたいのも事実。


 中学の頃の延長で直の自室でゲームをするのに飽きた俺がそう聞くと、


「そうだね!」


 パッと明るくなる直の顔。


「ねぇ。せっかくだからデートみたいに待ち合わせしよう?」


 にこにこと楽しそうに告げる直。



 ――俺が、あの時遊びに誘わなければ。


 直はまだ俺の隣で笑っていてくれただろうか?






 横断歩道の向こうから腕を振りつつ俺のほうへ向かってくる直。


 その右正面から迫り来る大型のトラック。


「直っ!」


 俺が気づいて呼び止めた時にはもう遅かった。



 俺はまだあの光景を覚えている。


 ――いや。忘れられる訳がなかった。



 直の身体がトラックにぶつかり、少し宙に浮いてアスファルトに投げ飛ばされる。衝撃で二回転ほど直の身体は転がった。それはスローモーションのように鮮明に俺の脳裏に焼きついている。



 急ブレーキの音。誰かの悲鳴。ざわつく人々。


「直ーーっ!!」


 反射的に俺は直に駆け寄った。


 直の頭からは赤黒い液体が流れ出ていた。



「直っ、直っ! 直往(なおゆき)!! 直っ!!」


 俺は直の身体を揺さぶる。誰かの手がそれを止める。振り切って再び縋ろうとするも何か怒鳴られ再び止められる。


 救急車の音が聞こえ俺はそこで意識を失った――

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