この物語は架空の先住民「マウマウ族」の壮大な歴史を描いたブラックユーモアです。原始の時代、植民地支配と独立、そして現代的な観光産業への変容。支配者マウの恐怖政治から、食いしん坊のマーウの時代、そして観光族長ママーウの時代へと移り変わるにつれて、部族の姿も大きく変貌していきます。
善意や無知、あるいは打算が、意図せぬ結果を招く皮肉。マーウの食欲やママーウの嘘そのものは無害なものですが、これらが歴史の行方を大きく左右することになります。その笑いは、時に苦く、時に哀愁を帯びていますが、私たちに社会や歴史、そして人類の歩みについて深く考えさせる力を持っています。
マーウの即位と白人の来訪は、この物語における最初の転換点です。食い意地だけが取り柄の族長マーウは白人から手に入れたチョコレートに溺れ、ただただそれを求めて動きます。ですがその結果、思わぬ形で西洋文明との関係を築き、部族は生き残りを図ることになります。チョコレートの味が勝敗の行方を決める独立戦争は彼の無邪気さと世界の騒乱とのギャップを描き出し、この作品の魅力を際立たせています。
ママーウの時代になると、観光産業の繁栄によって文化が消費され、アイデンティティが空洞化していく過程が描かれます。観光客向けに作った偽の伝統が「先住民の知恵」として賞賛される、虚構の世界に生きる族長。ですがママーウ自身は内面の空虚さに苦しんでおり、自分が作り上げた嘘の世界に囚われていることを知っています。そしてある出会いをきっかけに、彼は自分が失った可能性や、本来歩むべきだった人生に思いを馳せるようになります。
観光客の前では「平和な先住民」を演じる一方で、心の奥底に潜むマウマウ族の暴力的な本性。忘れ去られていた古代の歌が告げるものに、読者は衝撃を覚えることでしょう。この物語は民族的アイデンティティの喪失と回帰を通じて、人間存在の欺瞞性をブラックユーモアという形で鮮やかに描き出した作品です。