浮遊霊の事情
「あ、なんだ。ごめん無理」
「なんでよ!? もう憑りついちゃったんだよ!?」
「だって僕、お祓いとか出来ないし。見えるだけだから」
「いーのっ、それで!」
「どういうこと? お祓いに連れて行って欲しいってこと?」
女の子はぶんぶんと首を横に振る。結んだツインテールがあや跳びの縄みたいにしなっていて、当たったら痛そうだと思った。
「そんなことしても無駄だよ。もう一回憑りつくもんね!」
「えぇ~? 悪い幽霊じゃないと思ったんだけどなぁ……って、すごく嬉しそうな顔してる!」
「うんうん。やっぱり君は素晴らしいね! いいかい? 君は知らないと思うけど、なかなか成仏することが難しい
「貢献ポイント?」
にんまりした顔で大きくうんと頷くと、女の子は続けた。
「そ。貢献。つまりそのポイントは、物事や社会のために役立つようなことをすると貯まる仕組みになっているんだよ」
「いいねそれ! ボランティアってやつ?」
「そ。ボランティア。本当だったらそんなことをしなくてもいいのだけどね、うちは与えられた生命を全うしなかったからさ」
「生命を全う? どういう意味なのそれ」
「ああうんそうだね。つまりまだ健康に生きられたのに、こんな風になっちゃったってことだよ」
「もったいないってことか。君に生きる価値があったって証拠だよ。なら頑張らないといけないのは仕方ないね」
そうやれやれと言う僕に、女の子は口をぽかんと空けた。
「どうしたの?」
「う、ううん、なんでもないっ。やっぱり君は素晴らしいって思っただけ!」
「変なの。でも褒められているなら、ありがとうって言っておくよ。それでここはどこなの? ボランティアに行くなら早く帰ろうよ。って言っても僕はまだ学校があるし、明日からでもいいよね? なんとか時間を作るから」
僕は諦めて約束を取り付ける。なのにどういうわけか女の子はまた首を横に振った。
「まぁそんな顔をしないで聞きなよ。うちはこの場所のことを虚無空間って呼んでいるんだけど、君の生きている世界とそうじゃない世界の、言わば国を行き来する空港みたいなところなんだ」
「空港? でもなんにもないよ?」
まるでその一言を待っていたかのように、ふふんと女の子は僕のことを鼻で笑った。
「見ていて」
それだけ言うと女の子は指を差す。いや、触った?
すると突然、宙にスクリーンパネルが出現した。ぼやんと妖しく発光していてかっこいい。アニメに出てくるやつみたいだ!
興奮する僕に構うことなく、女の子はパネルに触れて画面をスライドさせていく。画面に映るのは、耳の尖った人とか、かっこいい翼が生えた人とか、全身青色の人とか色々。ファンタジーだった。
「何をしてるの?」
「ん? 今から行くところを探してるの」
「え! まさかこの僕をこのどれかに連れて行く気じゃないよね!?」
「連れて行く。あった。これにしようと思ってたんだ」
慌てる僕をよそに、女の子は笑顔で画面をタップした。
すると。ピンポンパンポ~ンと、どこからともなく僕を急かすチャイムが流れて来た。
これ、やばいんじゃないか!?
「待って! なんで僕たちの世界じゃ駄目なの!?」
「うちもそこで生まれたからだよ。人助けはいいことかもしれないけど、それを浮遊霊のうちがするとね、執着ポイントが溜まっちゃうんだ。助けた人やその場所に執着心が生まれてしまってね、余計に成仏出来なくなるんだよ」
「ほらワープだ」と言って、女の子は僕の手を取った。冷たい。
「って、それは今いい! お母ぁぁさぁああーーん!!」
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