貴方はやはり預言者だったのか:小松左京【牙の時代】

トランプ大統領が1度目の当選になった時盛んにアメリカファーストを掲げる彼とその政策を、まるで小松左京の小説【アメリカの壁】のようだと一時小松氏の同名著作が話題になった事がある。偶々子供の頃に既に読み終えていた私も同じ事を感じていた為あらためて小松氏の慧眼には驚いていたのだが、それ以上に氏の先見の明に舌を巻いた作品がある。


【牙の時代】だ。


ごく簡単にあらすじを述べると、厳しさを増す地球温暖化と共に人間を含む生物すべてが身体的巨大化と精神的凶暴化していくと言う物語である。こちらも子供の時に読んだ本だが、その物語に横たわる凶暴性と残虐性にあてられ心臓がばくばく言うほど恐ろしいのに、暴力の果てを知りたくページを繰る手が止まらなかった。読み終わった後まさか現実はここまでにはなるまいと思いつつ、幼く未成熟で社会経験が圧倒的に少ない頭に末恐ろしい「日本がこうなるかもしれない未来」の話は強烈すぎて己が海馬にいつまでもこびりつく物語となった。


そうして現在、年々過酷になっていく温暖化現象と日々ニュースで流される凄惨な事件を見るにつけ「牙の時代」がちらちらと脳裏を掠めるのだ。あんな残酷な話の再生産にはなってならないと思いつつ、1970年に発表された同作品が2025年の現代に「近しくなっている」と言う衝撃の事実に小松氏は一体いつから視えていたのか、「アメリカの壁」と言い氏はサイキックの能力があったのかと疑念を抱かずにはいられない。


小松氏は小説家ではなく預言者だったのではないだろうか。

そう感じさせる怪作であり傑作である。

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易しい文章で書いているよのブックレビュー 浅野新 @a_rata

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