第8話 身体強化2nd

 「よし、これで100体目だ。」


 中域へと向かっている最中、たくさんの[ブラックベア]と[キュルたん]に出会っては剣で切り落としてきた。


 (師匠、他のモンスターは居ないのですか?)

 《多分ここら辺はこいつらの生息地なんだな。俺らはまだ魔境の10000分の1も探索してないからな。とにかく、もっと進んだらいろんな奴に会えるだろうよ。》

 (そうですね。)


 そうだ。

 俺はまだ魔境の一部しか知らない。

 もっと強いモンスターもたくさん居るんだ。

 油断するな。

 

 俺たちはその後も[キュルたん]と[ブラックベア]を狩りながら、中域に向かっていたのだが、


 「やっと出たか。違うモンスター。」


 目の前には白い狼のようなモンスターがいた。


 瞳は青色に輝いており、白い毛は日の光を反射していて眩しいくらいだ。

 大きさは2メートルくらいだろうか。

 今まで戦ってきた奴らよりは小さい。


 《マジか……》

 (師匠?)

 師匠が黙ってしまった。

 《こいつは広域で最も強いとされてるモンスター、ワイルドウルフだ。》

 (広域、最、強……)


 [ガォーーォーーー!!]


 凄まじい吠え声だ。


 勝てる気がしない。


 《来るぞ!》

 「はっ!?」


 なんだこいつ、速すぎる。

 今までのモンスターがまるでゴキブリのようだ。


 「六の剣、夢攻燦爛むこうさんらん!」


 六の剣、夢攻燦爛は相手の攻撃をいなす技だ。

 これには剣の角度を繊細に合わせなければならないので、すぐにはコピーできなかった。


 だが、その分強力な技であることも事実だ。


 実際、今もワイルドウルフの攻撃をいなすことができた。


 《おぉ! 凄いな。俺も今度やってみるぞ!》

 (師匠が珍しく素直に褒めてくれた!)

 《今のはお前を褒めたんじゃない。それを発明した剣聖を褒め……》

 (あぁ、そういうことね。)

 《話を遮るな。それより早くあいつを倒せ!》

 (そうですね。)


 今の攻撃で分かった。


 こいつは速いだけじゃない。

 攻撃が重い。

 今の俺では、勝てない!


 《相手もレベル1だぞ。さっさと殺れ。》

 あれで、レベル1!? 


  ワイルドウルフという種族は全体的に強いのか。


 圧倒的力の差に絶望していた、その時……


 [ワオォォォォー!]


 目の前のワイルドウルフがいきなり吠え出した。


 「な、なんだ?」

 なぜ吠える必要がある?


 すると、遠くから、

 [ゎぉぉぉーー……]

 と聞こえた。

 「ま、まさか!?」

 

 ガサガサ、ゴロゴロ、ドスドス


 ガオーーーーー!!!!


 予想的中だ……


 こいつ、仲間を呼びやがった!


 しかも、どいつも目の前のやつより大きい。


 声に応じたワイルドウルフの数は5匹。


 勝てるか?

 《こいつら、レベル4だ。》

 (っ!?)

 

 あぁ、もうだめだ……


 レベル1の相手をするのがギリギリだったのに、レベル4が5匹も追加。


 いや、ここは広域だ。


 俺の目標は狭域だろ。


 「こんなとこで止まってられるかよ!」

 《それでこそ俺の弟子だ!》


 身体強化をしても相手の身体能力に負ける。

 だったら身体強化をもっと強化すればいい!


 今までやろうとしてもできなかった。


 それでもこいつらの動きを見てできる気がしてきた。

 

 もっと強く強く強く強く強く強く強く強く強く!


 イメージだ。

 強くなるイメージ!


 「こんなとこで死ねるかよ。」

 [グォォーーー!!]


 相手は一斉に飛び掛かってきた。



 「身体強化2nd!」

 

 ドッーーンッ!!


 俺の出した覇気と共に空気が揺らぎ、ワイルドウルフたちは10メートルほど飛ばされていた。


 凄い! 力がみなぎる! 体が熱い! 


 (師匠! やっと出来ました!)

 《あぁ、この前俺がやった時よりも強いんじゃないか?》


 身体強化2ndという名前は今適当につけた。


 ただ単に身体強化の精度を上げたんだ。


 それでもこの2年間ずっと出来なかった至高の領域なんだ。


 「やった……」

 《声に出るほど嬉しいか。》


 あっ、声に出てた?

 いやいや、そんなことよりも、


 [ガルルルルっっ!!]


 こいつらを何とかしないと!


 俺は合計6匹のワイルドウルフと見合って、互いに相手の様子を伺う。


 今の俺なら勝てる。


 「ふぅぅぅ」


 今の俺の最大火力をぶつけてやる。


 「八の剣、天からの神剣!」


 剣聖の型はとてもバランスが取れている。

 攻撃、防御、回復。

 様々なことに対応ができる。


 その中でも四、八、九の剣は攻撃に特化しており、火力も他のものとは天地ほどの差がある。


 そしてパワーアップした俺の最大火力を受けたワイルドウルフたちはというと、


 サアァァァァーー


 塵になって消えていった。


 「あーーーー!!!! 勝った!!!!」

 あの絶望的な状況から一気に逆転した。


 俺は再び魔法を使う際の、鮮明な[イメージ]が大切なのだと実感した。


 「はぁ、よかった、って、あれ?…………」

 なんか意識が遠のいていく。

 

ーー《早く起きろ!》

 (わぁ、すいません!)


 師匠の声で目が覚めた。


 「あれ、何で意識失ってたんだ?」


 《魔力切れだ。魔法は強力であれば強力であるほど魔力を消費する。膨大な魔力を持つお前でも魔力切れを起こすなんて、相当強い身体強化だったんだな。これからの戦闘では魔力量も意識して使え。》

 (はい、気をつけます。)


 《そういえば、あいつらのドロップアイテムは確認しなくていいのか?》


 あぁ、そうだった!


 何かなー。


 地面を見てみると、赤い塊のようなものと魔石が、6個落ちている。


 《おっ![ワイルドウルフミート]ではないか! 

この肉は超絶美味しくて貴族の間でも超高値で取引されている伝説の肉だぞ。

低確率でしか落とさないはずなのに、全部そうではないか!》



 ワイルドウルフミート?



 ……あっ! 肉だ!!!! 食料だ!!


 今1番欲しいものが出てきてくれた!


 食料は少しのパンしかアイテムボックスに入っていなかったので、あと3日ほどで切れるところだったんだ。


 ありがたすぎる!


 そうか、こいつらを狩ったら肉が手に入るのか。


 「ニシッシッシッ。」


 《おいおい、悪そうな顔で笑うな。でも、食料は嬉しいな。》


 お腹も空いたし、早く食べよう!


 んっ? 


 ちょっと待て。生で食べたら絶対に腹を下すよな。


 ああーー!! 何でだよ! 火なんて起こせないし。

 俺の期待返せー!


 「うぅ、ひっく、ズズズ……」


 《おい、何で泣いてるんだ? 気持ち悪いやつだな。》


 (ししょう、だって、火が使えないからー。)


 《何だそんなことか。》

 (だって、肉食べられない。)


 《しょうがない。火魔法を教える。》 


 「ひ、まほ、う?」


 火魔法って俺が夢にまで見た、あの火魔法か?


 《まだ早いと思っていたが、特別にだぞ。》

 (はい。)


 《前にこの世界の空気には魔力が漂っていると言っただろ。その魔力分子一つ一つにも属性があるんだ。そして脳の中のイメージに呼応して空気に漂っている魔力は集まってくる。それでも自分の体質と合っていない属性の魔法を想像しても魔力は呼応してくれない。お前は全属性使えるっぽいからそこは心配するな。そして呼応してくれた魔力を自分の周りに保ちつつ出したいものをイメージするんだ。》


 (アイテムボックスと同じ感じですか?)


 《いや、属性魔法はしっかりとその属性の魔力を感じ取ってイメージしなければならない。》


 なるほど。

 やってみよう!


 その属性の魔力を感じる。

 まず大気中の魔力を感じよう。

 

 確かに、鮮明に魔力を感じようとすると、魔力に色がついている。


 赤、青、緑、茶、白、黒、透明。

 火、水、風、土、光、闇、無属性。


 それぞれの魔法を表しているんだろう。


 火を使うんだったらこの赤色を集めてみよう。


 「来い。」

 

 パチッ、パチッパチッ!

 

 凄い。どんどん赤色の魔力が集まってくる。


 こいつらをここに留めて、

 「点火。」

 

 ぴかっ、ぴかっ


 俺の指先にライターのような灯火が見える。

 《成功だな。》


 これが火魔法!


 今は火をつけるイメージだった。

 だったら、火を飛ばすイメージで、

 「ファイアボール!」


 ブォン…………ドーン!


 おお! 俺のイメージ通りだ!


 直径20センチくらいの火の玉が何メートルも離れた木に直撃した。


 威力も申し分ない。


 多分もう他の属性でも同じことができるだろう。

 これからはもっと魔法を鍛えるぞ!


 「楽しみだ!」

 《楽しみだ、じゃねぇ! 余計なことすんな。料理のために使え!》


 あぁ、そうだった!


 なんだかんだで今日はめちゃくちゃ成長できた気がする。

 

 俺は覚えたての火魔法で、今まで食べてきた肉と比べ物にならないほど美味しいワイルドウルフミートを頬張った。

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