野郎共の聖夜対戦


本編とは関係ない番外編、クリスマス編。

時系列等はあまり細かく考えてはいけない。


―――――――――――――――



「なあセキ」

「なんだいフキ」


 12月24日、火曜日。

 世で言うところのクリスマスイヴ。平日ではあれども華やかなムードが世に溢れ、家族連れや恋人同士は浮かれる日。

 そんな明るい雰囲気に包まれるはずのイベント当日、学生である俺たちも冬休みの始まりということもあって喜ばしい日のはずなのだが……


「俺らはどうしてむさ苦しく並んでゲームしてんだ?」


 俺こと柊崎フキザキは親友である相引ソウビキセキと共に、何故かテレビの前で並んでゲームのコントローラーを動かしていた。

 今は対戦ゲームの真っ最中。傍らに適当に摘める菓子類を置き、ダラダラと二人で戦っている。


「そう腐るなって。後でイザも来るんだからいいでしょ?」

「来るの夜だけどな。つーかそれいつもと変わらねえじゃねえか。せめてサラがいりゃ明るいもんだが……」

「クリスマスはいつも家族と過ごすらしいし、仕方ないよ。はい撃墜」

「うお、話の途中で卑怯な……」


 適当に話していると、操作していたキャラが打ち倒されてしまった。やるじゃねえの。


 ……今話題に上がった女子二人、俺の幼馴染で腐れ縁の井櫻イザクラと入学してから仲良くなった留学生の榎園エゾノサラ。

 二人とも見た目の整った美少女であり、今目の前にいる親友、セキに対して明らかな好意を抱いているのが丸わかりな奴らだ。

 あの二人とコイツが揃えば大体面白いことになるんだが……残念ながら今回は揃わなかったようだ。


「にしても、イザが来るまでこのままひたすら対戦ってのも味気ねえな。次は何か賭けるか」

「賭け、ねえ。今度何か奢るとか?」

「それもいつも通りだろ。賭けってかお遊び程度の罰ゲームでいいか」

「いいけど……軽いもので頼むよ。こっちはこの前退院したばっかなんだから」

「そうだな」


 適当に答えつつ、賭けの内容を考える。

 適当に外を走ってくるとか腕立て伏せとか、肉体的な罰ゲームでもいいんだが……今言ったように、コイツは先月まで入院してたんだよな。身体も完全に本調子ってわけじゃねえだろうから無茶なことはさせられねえし……あ、そうだ。


「負けた方がサラに電話かけようぜ。で、勝った方が用意したセリフを電話口で喋るってのはどうよ」

「セクハラみたいな言葉を吐かせるつもりなら乗らないよ」

「安心しろ。不用意に人の気分を害する趣味はねえ」

「普段から下ネタだらけのヤツが言っても不安要素しかないけどな」


 それはそうかもしれない。

 しかし俺はその辺の分別はついている男。冷たい目で見られて興奮するのは俺だけでいいのさ。


「まあそこは無難にしとくから安心しろ。ほれこの紙に言わせるセリフ書け」

「えー……」


 セキはかなり怪訝そうにしていたが、少なくともサラに迷惑をかけない事を約束すると、少し悩んだ後に了承した。

 それから二人で適当なメモ紙に相手に言わせるセリフを書き始めたのだった。



「ルールは二本先取。つまり二回勝った方がサラに電話して、各々が用意したセリフを言う。OK?」

「はいはい……書いたやつは勝敗が決まった後で見るんだね?」

「そ。負けた時のお楽しみってヤツだな」

「負けてから楽しみもクソもない気がするけどね」


 言い合いながらコントローラーを動かし、ゲームキャラクター選択を終えて対戦画面へと移行。

 そして闘いが始まった瞬間──俺の手元にあったコップが倒れた。


「あ、悪い」

「おっとっと……何か拭くもの──」

「隙あり!!」

「な、何ィーッ!?」


 セキがコントローラーから手を離した一瞬の隙を突き、ゲーム内のキャラクターを撃墜した。油断したな馬鹿が!


「おま、そんな姑息な手で勝って嬉しいのか!?」

「勝負には何事も全力出さねえと相手に失礼だからな! どんな手を使ってでも勝つ!」

「お遊びつったのお前だよな!? ていうかクソみたいな手段の時点で失礼だと思え!」


 フッ、負け犬が吠えよるわ。

 卑怯であろうと勝負は勝負。これで俺の一勝だ。


「あと一勝で俺の勝ちだなハッハッハ」

「今の勝ち方を誇れるってお前……まあいいや、次行こうか」

「おう。かかってこい」

「はいはい」


 鼻を鳴らして軽く挑発するも、呆れたように小さく笑われてしまった。コイツ切り替え早えな。

 まあ流石に今のやり方は我ながら汚かったな。次は純粋な実力勝負をするとしよう。

 そう考えながらまたしてもキャラクター選択画面が切り替わり、対戦画面へと切り替わった。

 そしてカウントダウンの後、二度目の闘いが始まっ



 ───パサッ。(←定期購読している今月号のグラビア本が足元に落ちる音)



「何ぃ!!!???」

「うわうるせっ。はい終わり」


 俺が本の表紙に釘付けになっている隙に画面内では俺の操作キャラが倒されていた。


「くそっ、なんて卑怯な手を使いやがる……!」

「お前が言うんじゃないよ卑怯者。ていうか先にやった時点で僕がやり返すのは予測できただろ」

「いやこれは流石に予想外だっての。つーかコレどこで手に入れた?」

「この家来た時に届いてたらしくて、代わりに渡してあげてくださいってお前の妹さんから受け取ったよ」


 まさかの実妹だった。思わぬ伏兵である。


「流石はセキ、俺の妹まで手篭めにしているとは……俺の親友なだけあるとだけ言っておこう」

「してねえわ。人聞きの悪いこと言うんじゃないよ」

「にしてもこれでイーブンか。良い勝負になってきたな」

「内容は無いに等しいけどな」


 お互いに騙し討ちしかしてねえしな。

 ……これなら最初から一発勝負にしときゃよかったか?


「それはともかく、最後の一戦だ。ここは正々堂々と真剣勝負といこうじゃないか」

「分かった分かった。早く選びなよ」


 三度目になるキャラクター選択をして、戦闘開始のカウントが始まる。


 3・2・1……スター



「「オラァッッ!!」」



 開始の合図を待たずして俺が突き出した拳をセキが片手で受け止めやがった。

 こ、コイツ……読んでやがったな!


「て、テメェ……正々堂々勝負って言っただろうが!?」

「僕のセリフだよねそれ!? お前がそんな事言うなんて怪しいと思ったんだよこのカス野郎!」


 クッ、親友の言葉を疑うなんて酷いヤツだ。俺はお前を信頼して裏切ったというのに……!


「……しかし、このままだと互いに片手が塞がって操作ができねえな」

「そうだね。一旦お互いに手を離そうか」

「ああ。念の為、コントローラーからも手を離して仕切り直しといこうぜ」


 俺の提案に双方頷き合い、手を離す。

 そしてその瞬間、


「あっ、あそこにC級映画の未開封パッケージが」

「えっどこ?」

「馬鹿め!!」


 全力で嘘をついて気を引き、我先にと手を伸ばす。この勝負、貰った!


「あっ、あっちに肌面積広めのサンタコスした美人が」

「えっどこ?」

「馬鹿が!!」


 はっ、しまった騙された!

 そんな騙し合いの末、結局ほぼ同時にコントローラーを手にした。

 クソッ、こうなったら普通に勝負するしかねえか!

 そう決心して、操作を行おうとしたのだが……



『TIME UP!』



「「あ」」



 奮闘虚しく、俺たちの戦いは呆気ない形で終結したのだった。



「まさか時間切れとはな……良い勝負だったぜ」

「勝負以前の問題だったけどね。それでどうすんの? もう一勝負して決着つける?」

「いや、そろそろイザも来る頃だ。引き分けって事でお互いのセリフを……お前がサラに電話して言って、俺がイザに言うってところで手を打とう」

「分かっ……ん? なんで僕がサラに電話する方なのさ」

「お前の方がサラと仲良いし、俺も付き合いが長えのはイザの方だ。ちょうどいいだろ」

「そう……なのかなぁ?」

「そうなんだよ。ほれ」


 半ば無理矢理に納得させ、俺の書いたメモ紙を渡した。


 ……正直なところ、勝負なんてのは建前でしかなかったからな。俺の目的はあくまでサラとセキを通話させることだ。

 だってほら、今日はクリスマスイヴだ。俺がいるとはいえ、イザは会ってサラだけコイツに会えないなんてのは不公平だろう。


 女子二人のどちらかに肩入れするつもりはない。かといって、邪魔するつもりもない。



 ───ただ、中立で行く末を見守りたいのさ。



「おいフキ。この『英語で普通に話す』ってなんだコレ。難しすぎない?」

「お前、サラのために英会話かなり出来るようになってただろ。磨いた腕の見せ所だぜ」



 ……まあ、『面白がりながら見守りたい』ってのが正しいかもな!






 ちなみに、セキが書いたメモ紙には『全力で〇めはめ波を撃つ』とあった。セリフじゃねえじゃん。


 試しにイザにやってみたら、めちゃくちゃノリ良く吹っ飛んでくれました。




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