イジメの味を覚えた人間はイジメしかシなくなる
実弥さんがサロンで働き始めて数日。
色んなことが順調で平和だと思ってた。
俺の人生でこんなに穏やかに過ごせたことは小学生の低学年以来なんじゃないかと思うほどだ。
でも、その陰で、傷付いている人間が居た。
イジメはなかなかなくならない。
そもそも、イジメと言うのは力あるものが力を示すためにするものなのか。
人はイジメをすると優越感を感じて幸せホルモンがガンガンに分泌されるという。
それは傍観者であっても加害者と同様に幸せホルモンが分泌されるのだとか。
この優越感こそか根拠のない万能感を加害者に与え、彼らの強い自信を持たせるに至る。
だからなのか、イジメの加害者が消えたと言うのに、新たな加害者が成り代わる。
優越感や万能感、自分は強いという自信。これらを勝ち取りたいと彼らの欲求は新たなイジメを生み出すんだろう。
つまり、イジメの味を覚えた人間はイジメしかシなくなる。
加害者が居なくなれば新たな加害者が台頭し、被害者が居なくなれば新たに被害者を作り出す。
結局のところ、日々の積み重ねから成功体験を導き出して達成感を得ることよりも、ずっと簡単に優越感に浸れて自信に繋がる。
努力をしない人間は安易に得られるものに縋るしかないのかもしれない。
そう思うには充分過ぎることが起ころうとしていた。
中間テストを無事に終えた十月の中旬。それも後半。
季節は秋真っ盛りで朝晩は冷え込んできている。
十月になってから制服が夏服から冬服に代わり薄着だった生徒たちは冷たい空気に晒されるのを嫌って各々にブレザーを羽織る。
中には未だに半袖のままの生徒もいるけれど。
こう言っちゃ何だけど、大きなおっぱいと言うのは男の浪漫だが高校生の制服にはあまり合わないものだ。
冬服の一条さんと柚咲乃を見てると特にそう思う。
学校祭の準備が本格的に取り組まれ、下校時間が遅くなることが多くなった。
ただし、俺は除く。
俺は母子家庭で家業があるから、その手伝いということで、こういった放課後を使う行事に参加しなくても教師に咎められることはない。
もちろん、クラスの生徒たちからの反感はすこぶる強い。
では、こういった準備作業に参加している生徒たちはどうなのだろう。
そう考えたところで俺の視野には入らないことだからわからない。
そう、わからないのだ。
何故、分からないと思ったのか。
それは一条さんが学校を休んだからだ。
どうしたのか気になってメッセージアプリでメッセージを送っても既読にならない。
割りと欠かさずメッセージのやり取りはしていたし、一条さんは昼は俺と柚咲乃とお弁当を食べて放課後は準備作業に参加すると言うのがここ最近の日常だった。
ずっと休まず学校に来ていたのに連絡がつかない状態で突然の欠席。
何かあったのか。
昼休み。
俺はいつもの別棟にある空き教室に向かう。
「おっ!あいおんせんぱーい!来てくれたんだね。てか連絡しようとしたのに連絡先がなかったの」
そんなことを言いながら柚咲乃は空き教室の戸の鍵を開けて入ると二人で向かい合って座った。
「ああ、連絡先だったね」
俺がスマホを机の上に置くと、柚咲乃が俺のスマホを手に取ってメッセージアプリでQRコードを表示し、自分のスマホで読み込んだ。
【ゆ】
メッセージアプリに新しく登録された柚咲乃のハンドルネームだった。
電話番号もついでに登録してもらった。
「てか、ボクだけだったんだね。交換してなかったの。お姉ちゃんのもあるのに」
頬をぷくーっと膨らませて不服を訴える。
柚咲乃は可愛い。ショートカットだけど、健康的な可愛さでこの見た目からやはり人受けが非常に良い。
羨ましい限りだ。
「柚咲乃、一条さんと連絡取ってる?」
「あ、うん。今日は休むって。お昼は和音先輩と二人で食べてって来たよ」
そうか。柚咲乃には来たんだな。
俺には来ていない。
何だか少し、寂しい感じだ。これってどういうことなのか。
「何か、寂しいって顔してるよ。先輩」
俺の表情を覗き込んでニマニマしている対面の柚咲乃。
「そ、そう見えたか……すまん」
「やー、謝られるとそれはそれできっついッスね。別に悪いことしてるんじゃないんだから堂々としてくれたら良いよ。そうしたから嫌いになるなんて絶対にないんだからさ」
柚咲乃はパクパクと口に頬張りながら言う。
ちなみに柚咲乃、それは一条さんの分だ。
「何というかさ、ずっと三人で居たから誰かがいなくなると寂しいなって思ったんだよ」
と、思ったことを素直に口にした。
「それってボクが居なかったとしても寂しいって思うってこと?」
「それはもちろんそうだよ」
「うっわー。引きますわ。ドン引きッスよ。先輩スケコマシ」
これは照れ隠しだな。
「気分を悪くしたか?ごめん……」
下を向いてシュンとしてみせた。
すると、柚咲乃は慌てて訂正する。
「ちっ……違うよ。ほんとはすっごく嬉しくて……ボクこそ変な反応してごめん」
そう言って顔を赤くして逸らした。
やっぱ、柚咲乃は可愛い。
「知ってた」
「────ッ!」
そう言うと柚咲乃は顔を上げて「もうっ!
や、可愛い。
「やー、ほんと。和音先輩ってやっぱり美希姉の子どもだね。こういうところほんとそっくりすぎだわ。全く、罰としてこれもらいまーす」
俺の弁当箱から主菜のささみのレモン揚げをくすねる。
貴重なタンパク源を……解せん。
でも「んまー♡」と美味しそうに咀嚼する柚咲乃を見てるとほっこりして許しちゃうんだよな。
コイツ、こういうところは見た目で得をしてる。絶対。
教室に戻り、誰とも会話せずに、誰とも目を合わせることなく席に着く。
「今日に限ってこのデブはサボりやがってムカつくわ」
「どうしよう……買い出しに行かなきゃいけないのに飾りも作らなきゃ行けないし」
「このデブの連絡先、誰か知らないの?」
「今から来させるの?」
「あのデブ、クラスのグループチャット、抜けちゃってるんだよね」
「じゃあ、連絡先、わからないのか……」
どうやら今日は作業が立て込んでいるらしい。
それにしても、ウンコの次はデブかよ。次から次へと飽きないなこいつらは。
そうして昼休みが終わり、午後の授業を二時間受けて帰りのホームルームの後の放課後、俺は一目散に学校を出る。
サロンは今日も盛況で客足が途絶えない。
どことなく聖愛さんの様子がおかしいのは一条さんのことがあってのことか。
フロアには四人いるけれど、これ以上増えると地味に邪魔だろうな。
最近、よく考える。
そんなに大きくない美容院だから三人四人居ればじゅうぶんだと思っていて、実際に四人目が来て、これくらいが良いってわかった。俺は。
きっと母さんも同じに考えているはずだ。
閉店後。
閉店作業をしながら俺は聖愛さんに訊いた。
「今日、一条さんが学校に来てなかったんですけど家で何かありました?」
「いやー、何も無いけど布団から出てこなくてさー。アタシが声をかけても返事をするだけで布団を被ったままなんだよ」
「そうですかー。今日のプリントとノートでも届けたいんですけど持ってってもらえます?」
「そういうことならウチに来れば良いじゃん?美希さんに言ったら間違いなく二つ返事でオーケーしてくれるよ。ついでに童貞を貰ってあげてって言われそうだけどさ」
母さんは二つ返事で了承してくれた。
何なら泊まっていけどまで言って、どっちで童貞を卒業するのかまで聞いてくる始末。
もちろん華麗にスルーした。
一条さんの家。
初めて来たけど、二階建てのアパートだった。
間取りは2LDKで今は聖愛さんと一条さんで一つの部屋を使っていて、一条さんのお母さんと妹でもう一部屋を使っているらしい。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
玄関で声を出したら「男の声!」と燥いだ一条さんの妹と母親がドタドタと足音を立てて玄関に出てきた。
「はじめまして。えっと……依莉愛さん?のクラスメイトで、聖愛さんと同じ職場でアルバイトしてます
頭を下げた。
「いらっしゃい。私は母の恵理子です。聖愛から良く聞いてるけれど、本当に凄く綺麗な顔をしているのね。どうぞあがって」
丈の長いハーフスリーブのシャツに下は何も履いてなさそうだ。
ちょこんと飛び出すふたつの突起が男子高校生の俺に優しくない。
聖愛さんに聞いたところではもう四十代も半ばなのだとか。母さんに負けず劣らずの体型を保っているのは素直に凄いと思う。
「こんばんわ。妹の瑠莉愛です。わあー、本当に綺麗なお顔ですねー」
一条さんの妹の瑠莉愛さん。
この子は母親譲り言うべきか一条さんの妹だと言うべきか。やはり抜群のプロポーションだ。それにやはりとても顔が整っている。
長めのTシャツにパステルブルーの生地と鼠径部が覗く。
どうやら、聖愛さんがこの家で一番背が低く胸が小さいらしい。
そう心の中で女性たちを分析していたら聖愛さんの鋭い視線が俺の後頭部に突き刺さる。
ジリジリするんだよ……。視線で火傷しそうだ。
聖愛さんが勤めるサロンの印象を悪くするといけないと思い、髪はサロンの手伝いをしているときと同じ髪を上げて後ろでマンバンを作っている。
恵理子さんはうっとりとして、瑠莉愛さんは頬を赤く上気させて、二人で俺の左右の手を取って家の中に招き入れられた。
「さあ、どうぞどうぞ」
これには聖愛さんも驚いたようで「お前ら、そんなにグイグイ行くやつだったか」などと言う。
しかし、今日の用件はまた違うので、リビングに通されるとソファーにかけるように促されるが、聖愛さんが二人を注意して先に聖愛さんと一条さんが二人で共用する部屋に入る。
ノックもせずに部屋に入ると、部屋は夜だと言うのに真っ暗で、聖愛さんが部屋の明かりを灯すと布団の中に丸く蹲る物体がそこにあった。
「依莉愛!和音くんが来たぞ。布団から出ろ」
低音が効いた声に怒気を孕ませて聖愛さんが一条さんに声をかける。
「ヤ……紫雲くんがいたら余計に出られないよぅ……」
布団の中から一条さんの声が聞こえた。
「良いから出ろよ」
聖愛さんが布団を剥ぎ取った。
ガバっと音がして毛布と肌掛けが聖愛さんの手に引っ張られると布団の上でTシャツとショーツ姿の一条さんの姿がある。
この家の住人は随分と無防備というか、日が暮れれば冷えてくるというのに、寒さを感じさせない服装で目のやり場に困ってしまう。
あられもない装いだった恵理子さん、瑠莉愛さんと続いて目の前の一条さんもそれは大変に魅惑的な姿を晒していた。
スラリとした生足にパンパンに張る大きなお尻。
ダボッとした明らかにワンサイズもツーサイズも大きいTシャツ。
そして雑に切られた髪の毛。
「い……一条さん……」
ハサミで切られたであろう髪の毛を見て思わず近寄ると一条さんが起き上がって後退る。
「ヤ!ちょっと、その顔で迫ってこないでよぉッ!変態ッ!……へんたいッ!紫雲くんってそういう人だったの?」
声を荒らげてTシャツの裾を抑える真っ赤な顔の一条さん。
ヤられるとでも思ったのか。あれ?俺、勘違いさせちゃった?
でも、よく見ると目が赤く腫れぼったい。
「ね、髪の毛、どうしたの?」
一条さんの髪の毛は耳あたりでパッツリと切られていた。
それがアンバランスでカッコ悪く見えるんだけど、俺が切った時はもっと整えてあった。
「ごめんなさい……ちょっと、いろいろ……あって、さ……」
顔が俯き、口籠る。
何か、隠している。そう感じた。
まっすぐ一条さんを見るんだけど、ふと、後退って尻をつく脚の間から、白いショーツが見える。
何とも言い難いくらいエロい。
俺の目が釘付けになると「ちょっと、パンツ見んなッ!変態ッ!」と罵られる。
見ちゃいけないって思って顔をあげるとTシャツ姿の一条さんの胸部がパツンパツンに張っていて、主張の強い突起に目線が行く。
「今度はこっちかよッ!ヤッ……もぅ……ッ!」
腕で胸を抑えて隠したっていう。
聖愛さんは俺の後ろで腕を組んで見下ろしていた。
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