第十三話 前途は多難な事が多いよね
「なんでも、二年生に怖い先輩がいるんでしょ? その人のせいでみんな入りたくないみたいよ」
「地元の中学じゃ有名だよ。『長原の松本先輩の悪い噂』とかさ。わざわざ虎穴に入るバカは居ないでしょ?」
……はい、そんな馬鹿がここに居ますよ……?
次の日。
僕たちは自分のクラスメイトを中心に、なぜ軽音部への入部者が少ないか、その理由を知らないかと訊いて回った。
……ちなみに僕のクラスには琴音が居るので、訊き回ったのは琴音だけど。
すると出るわ出るわ、茶髪先輩こと松本先輩の悪い噂話が。
あの人、そんなに酷い人だったんだな。
しかも琴音が言うには、「ギターとか興味があったんだけど、その先輩が怖くて入りたくないんだ……」なんて言っていた人もいたとか。なんて勿体ない!
ってか、おい茶髪先輩!
僕が困っているのは、結局アンタのせいじゃないか!と言ってやりたい。
美穂なら確実に言っている。
「これはちょっと抗議した方がいいのではないか?」と玲奈が言うので、今回の事情も含め部長に説明しに行こうという話になり、放課後、僕の教室に全員が集まった。
全員で行くのは、前回の美穂の失敗を繰り返さない為だ。
ザワザワと、男子生徒を中心にどこか騒がしい教室の中、僕の机を中心に集まった四人の幼馴染と共に、作戦会議をすることになった。
「いい? 前回の失敗を繰り返さない為にも、美穂は後方待機。解った?」
「解っているわよ!」
玲奈を中心に、作戦を練る。
まぁ作戦と言っても、僕たちが聞いて回ったことを部長に伝えるだけなので、作戦なんて大したモンでもないんだけど。
「それで、どうするのぉ?」
「簡単よ。私たちが聞いた話を、軽音部の部長さんに直接ぶつけてやれば良いだけ」
「それだけぇ?」
「えぇ」
琴音の質問に、玲奈が冷静に答える。
「それでどうにかなるのかしら?」
「分からない。どうにもならないのなら、それまでの事。こちらがどれだけ訴えたところで、どうにも出来ない部長さんでは何も解決出来やしない」
「それじゃあ困るんだけど!?」
頬に手を添えながら疑問を呈した愛花に玲奈が答えると、美穂が慌てた。
その様子に、「まぁ落ち着いて」と手で制しながら、玲奈が笑う。
「問題ないわ。そらから聞いた話を信じれば、間違いなく対応してくれるはずだから」
「ほ、ほんと?」
「えぇ」
玲奈の確信に、安堵する美穂。
その姿を見て、胸がチクリと痛んだ。
ほんと、玲奈は頼りになる。
逆に僕はなんて頼りにならないのか。
「……そんな顔をしないでほしい、そら」
「玲奈……」
まるで全てを見透かされた気持ちになり、たまらず視線を下げる。
ほんと、昔から玲奈には僕の考えている事がお見通しなんだよな。
恥ずかしい気持ちが胸に広がっていくのが判る。
「だからそんな顔をしないで」
「……」
何も答えられずにいると、頭にポンと手が乗せられた。玲奈だ。
「私たちはみんな、そらの為に力になりたいんだ。だからそんな顔をしないでほしい」
「玲奈……」
「そ、そうよ! そらはいつもみたいに、ノヘヘンとしていればいいのよ!」
「そうですよぉ。か~くんはコトの頭でも撫でてくれればそれで良いのですぅ♪」
「それは間違っていますが、玲奈の言った事は正しいです。私もそらくんの力になりたいだけですから」
「みんな……」
ほんと、僕の自慢の幼馴染たちはなんて……。
「……ありがとう」
四人に頭を下げる。
なんて頼りになる幼馴染たちなんだろう。
ほんと、僕には勿体ないな。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
「行こ~!」
「行きましょう!」
玲奈の合図で席を立ち、教室を出る。
今の僕はなんでも出来る気がする。
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