第5話 謝罪
目的地へはものの20分で到着した
門の前にいる守衛に挨拶を交わし
来客用のスペースに車を止める
手入れの行き届いた門の横には
黒の大理石に白文字でその所在が記されていた
あかつき大学付属高等学校
「やあやあ、よく来てくれたね。ささ、掛けてください」
事務員に連れられて入った学長室では気さくな学長が待ち構えていた
学長
「いや、急かしてしまって申し訳ない。やはり新学期前に答えを欲しくてね」
「・・・」
学長
「新入生も含め、内野手の強化をお願いしたかったのですよ。やはりプロとしての…」
「あの…」
学長
「捕手としてさることながら新設野球部を甲子園準優勝に導いた実績もある貴方だ。生徒達と同じ目線にも…」
「あの!」
思わず立ち上がり目線の高さが逆転する
相手を見上げているにも関わらず、学長の目はとても優しげだった
学長
「入ってきた時から薄々勘づいとったが…どうやら私はフラレてしまったらしい」
「……申し訳ございません」
学長
「例のケガかね?」
「はい…いや、それも含めて…ですかね」
学長
「そうか…」
学長は軽く息を吐いた
学長
「わが校には有名な医師を含む付属病院もある。条件を付けるわけではないが、それでもかね?」
「…はい」
学長
「そうか…」
同じ言葉と共にまた息を吐いた
そして引き出しに手を伸ばし、白と黒2つの封筒を取り出した
学長
「白いのはウチの病院の紹介状だ。気が向いたら使うと良い。黒い方は無縁かもしれんが…野球部の名簿だ」
「いえ、断る身でそこまでは…」
学長
「七橋君」
ふと学長の顔を見ると、来たときと同じ笑顔を浮かべていた
学長
「私はね、野球が大好きなのだよ。他の部を蔑ろにするわけではないが…君はわが校の野球部の『伝説』を良い意味で壊してくれた」
七橋
「……」
学長
「あの猪狩君をあそこまで苦しめた逸材を失いたくないのだよ。たとえ他校のOBだったとしてもね」
七橋
「しかし…」
学長
「プロになってからもそうだった。たった6年弱ではあったが君の活躍は凄まじいものだった。これは1人の老いぼれからのファンレターのようなものだ」
そう言って白封筒を強引に握らせる
学長
「使うかは君に任せるし、使うなら最善を尽くすと約束しよう。ただ、君さえ良ければ…どこかのタイミングでわが校の野球部を気にかけてくれると嬉しい」
七橋
「…わかり、ました」
学長
「それに」
七橋
「?」
学長
「これは長年の勘だが、君とは近い将来また会う気がするのだよ。そのためにも今回の縁は大事にしたくてね」
七橋
「は、はぁ…」
学長
「来てくれて感謝するよ。良い返事は聞けなかったが…君と話せたのは何よりだった」
七橋
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
慌てて立ち上がるとすでに学長室の扉が開いていた
案内をしてくれた事務員の女性も立っている
七橋
「それでは失礼致します。本日はありg…」
学長
「おっと、そうだ。1つ良いかね?」
頭を上げるとそこには笑顔の学長
手には野球のボールを握っていた
学長
「サインを頼めんかね?実は孫も君のファンでの」
七橋
「あ、はぁ…」
花鳥風月〜鳴響高校〜 @FumaKayahara
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