1-5 なかよし
「サッカー部の応援にはいつ行くの?」
階段にさしかかったところで、あたしはふと思いついた疑問を口にした。
「吹奏楽部として応援に行くのは三回戦からだよ」
「年明けじゃん。うちのサッカー部がそこまで勝ち残ってるかねぇ」
あたしが首をかしげると、清乃は「鮎って、サッカー部には厳しいよねぇ」と言ってくすくすと笑う。別にそんなことはないと思うのだが。
「鮎は行かないのん? 応援」
「行かないよ。東都は寒いし、遠いし、誰かに来てくれと頼まれたわけでもないし」
「へー。頼まれてないんだ。誰にも」
清乃は何故かにへらと笑ってから、あたしの顔を覗き込んだ。
「それじゃあ私が頼んじゃおっかな。吹奏楽部の応援に来てって」
「サッカー部じゃなくて?」
あたしが怪訝な顔をすると、清乃は大きく首を縦に振る。
「うん。私たちの応援」
「……良いかもね。ちょっと考えとく」
「やったー。考えといてー」
あたしの『考えとく』が女子にありがちな『行かない』の言い換え言葉ではなく、字義通りの意味だということをよく知ってる清乃は、ころころと嬉しそうに笑った。
「ま、考える間もなく明日の試合で負けちゃうかもだけど」
「まーたそういうことを言う。素直じゃないなあ、鮎は」
そうこうしているうちに二階についた。見取り図によれば、学習室、機械室に続く三部屋が宿泊室らしい。東から順に砂川、
「
「そだよ。木音ちゃんはパーカッションのパートリーダーなんだ」
「へー、知らなかった」
あたしは木音――木音
木音が吹奏楽部の部員だということは知っていたが、打楽器のしかもパートリーダーというのは意外だった。ちゃんと後輩とコミュニケーションが取れているのだろうかと、つい余計な心配をしてしまう。
「木音ちゃんの次が私の部屋だね」
「間にトイレが挟まってるけど」
「さっきから言い方!」
ぷうと頬を膨らませてそう言うと、清乃は軽快なステップで割り当てられた宿泊室へと入っていく。
「ただいまー」
でもって、荷物を置いて一瞬で戻って来た。
「ん? 忘れ物でもした?」
あたしの問いには直接答えず、人差し指を鼻先に突きつけてくる。
「部長に任されたからね。ちゃんと部屋まで案内するよ」
「そういうこと」
あたしたちは女子の間に挟まりたい階段(?)を通り過ぎて、二階の一番奥の部屋の前に立った。他の宿泊室もそうだったが、開き戸に『宿泊室』と書かれたプレートが取り付けられている。部屋番号とかは特にないらしい。
「入って入ってー」
清乃がドアを開けて脇に避けてくれたので、あたしは早速室内に足を踏み入れた。
宿泊室はユニットバス付きの洋間だった。広々とした絨毯敷きの寝室スペースには二段ベッドと組み立て式のワードローブの他には小さな立ち机があるだけで、テレビやエアコンはもちろん壁時計すらかかっていない。寝泊まりすることだけを目的とした殺風景な部屋だった。
「これがこの部屋の鍵?」
あたしが立ち机の上に置いてストラップ付きの鍵を手に取って尋ねると、清乃はすぐに「そうだよ」と答えた。
「にしても埃っぽいね」
意識すると余計に鼻がむずむずしてくる。あたしは急いで窓のところへ行って、カーテンを開け放った。
「こういうときしか使わないからねぇ。普段は鍵が掛かっているし」
清乃がカーテンにタッセルを巻きつけ始めたので、そちらはお任せしてあたしは窓に手を掛ける。途端に冷たい風が室内に吹き込んできて、思わず首をすくめてしまう。
「へー。いつも開いてるわけじゃないんだ」
「会議室とか学習室なんかは割と管理が適当で開いてることもあるけど、個室はねぇ。ベッドが置いてあるし、まかり間違って生徒同士で仲良しこよしをしないようにっしなきゃだから」
「仲良しこよしって。誰かに聞かれているかも知れないのに?」
「お盛んな人たちはそういうの、お構いなしでしょ。私には関係ないことだけど」
「恋は眺めて楽しむもの、だっけ?」
「そうそう」
人の
「集合時刻までまだ時間があるから、軽く部屋の掃除をしとかない?」
「あたしの部屋が先で良い?」
「もちろん♪」
可愛いし、優しいし、モテると思うんだけどなぁ。
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