あなたに出会えてよかった
「ふん……面白くない奴」
弥生はスマホの電源を切ると、乱暴にこちらに投げつけてきた。
「いいわ。そこまで言うのであれば、わからせてあげたほうがいいでしょう。私に逆らうと――どうなるのかというのをね」
弥生はそう言うと、ステータス画面を操作し、
相当に高価な武器のようで、弥生からは凄まじい魔力が感じられるが――まさか戦う気なのだろうか。
いかに彼女がSランクの探索者といっても、さすがに二対一では分が悪い気がするが……。
俺のその疑問が伝わったのか、弥生が眼鏡の中央部分を抑えて不敵に笑う。
「ふふ、あなたたちも私のことを調べているようだけどね。だけど……前に週刊誌に載っていた情報は、半分合っていて半分間違っているのよ」
「なんだって……?」
「あなたのお父さんが死んだ理由は、ただ単なる男女関係のもつれだけではないわ。彼はびっくりするくらい正義感に溢れていて……しかも強かった。だからね、
そう言うなり、弥生は指をパチンと鳴らす。
次の瞬間――彼女の周囲に三人もの男たちが突如出現した。
全員が黒服にサングラスの姿であり、ただならぬ雰囲気が漂っているが……その三人に共通していることは、剣を携えて俺たちを睨んでいるということか。
「こ……これは……」
涙を拭いながら、美憂が怒りのこもった表情で弥生を睨みつける。
「ダンジョン運営省の人間じゃないの……⁉ まさか週刊誌の報道をもみ消したのは……!」
「ふふ、そういうことね」
その瞬間に弥生が浮かべた笑顔は、俺が生涯見たどんな表情よりも醜悪だった。
「彼は知ってはならないことを知ってしまった。しかもその情報で私たちを追及しようとした。だから私たちの手で――この世から消させてもらったのよ」
――ダンジョン運営省、探索者教育局。
弥生がその局長を務めていることは、以前リストリアからもらった情報で知っている。
主に日本各地のダンジョンを管理している省庁だと聞いているが――その組織ぐるみで、なにかがあったということか……⁉
「霧島筑紫。今のあなたもお父さんそっくりよ。誰よりも正義感に溢れていて、しかも愛する人の犠牲になれる人。私はそんな彼を心の底から愛していたし……心の底から憎んでいたわ」
そして弥生の鋭い視線が、今度は俺に突き刺さる。
「だから私にとって、あんたは物凄く目ざわりなの。かつてお父さんにそうしてあげたように――この世から消し去ってあげるわ‼」
さっきの配信後にそんなことをしてしまっては、仮に弥生が勝ったとしても炎上してしまうと思うけどな。
それさえも揉み消す自信があるということか。
「くっ……!」
Sランクの探索者たる郷山弥生に、そしてダンジョン運営省の人間が三人。
いかに《ルール無視》のスキルが強くとも、さすがに一対四では勝てる自信がない。
けれど――。
「任せて筑紫くん。私も戦うから」
構えを取る俺の隣に、剣聖たる美憂が並んだ。
「大丈夫だよ。私たちなら絶対に勝てる。絶対に生き残って……ダンジョン運営省の不正を広めていこうじゃないの!」
「み、美憂……。もう大丈夫なのか?」
「うん。さっきは慰めてくれてありがと。すごく嬉しかったよ。筑紫くんに出会えて……本当によかった」
そう言って、美憂は一瞬だけ俺の手を握り。
世代を超えた戦いが、いま、幕を開けるのだった。
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