第43話 虚ろへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第43話 虚ろ
「ドリゼラ姉さん!ドリゼラ姉さん!?」
「……」
「昔いじめられた怨みをここで晴らそうか!!」
「っっひぇ!?」
「あはははっ! 『ひぇ』だって!? 可愛いなぁ、ドリゼラ姉さん!」
シンデレラ様が急に恐ろしいことを言うからびっくりしてしまった。
「もう……、あんまり驚かさないでよ? 心臓止まっちゃうかと思ったわよ?」
私が文句を言うとシーラちゃんは、何度も話しかけてるのに返事がないから、と言った。考え事をしていて上の空になっていたみたいだ。
「どったの、ドリゼラ姉さん!悩み事なら相談のるよ?」
私の頭を支配しているのは、先日のアメシストさんとダークの話だ。
王妃様がハ星魔王の生贄なんてとんでもない話だ。だけど、それは明確に否定できる。
だけど、代々の王妃様のお姿を見ないことや、シーラちゃんの言っていた「写本を通して会話できる」が説明できてしまうのだ。
もしそれが事実なら、天書の啓示によって成り立っているこの国は、王妃様の犠牲によって成り立っていると言い換えられる。少なくとも王政廃止勢力の人間はそう信じている、そして、今目の前にいるシーラちゃんにもいずれその運命が待っていると思っているのだろう。どうにかしてその間違いを正さなければならない。
私はアメシストさんたちの話を否定する証拠がほしかった。一番わかりやすいのはエリザベート様やナザリア様といった、不老不死で生きているはずの以前の王妃様全員とお会いすることだ。どうにかしてそれができないかをずっと考えている。
アメシストさんの仲間になるなんてもちろん言っていない。ただ、代々の王妃様について調べてみるのだけは約束した。なにより私自身がそれについて知りたいからだ。
「ひょっとしてコンサドーレのこと? ワタシがあいつの好みとか聞いてやろうか?」
「ちっ、違うわよ、もう!」
一瞬締め殺してやろうかと殺意が走ったがやめた。
シーラちゃんはけらけら笑いながら、お部屋のベッドに転がっていた。
王宮にある王妃様の私室。限られた時間だけど、ここへの出入りを許されるようになっている。ご公務に出る前のちょっとした合間を彼女と話しながら過ごしていた。
「シーラちゃんは王妃に選ばれてからエリザベート様に会ったことある?」
「エリザベート様? うんと……、任命式のときに顔を合わせたくらいかなぁ。あの人めちゃくちゃ美人だよね! その後継がワタシなんて罰ゲームみたいよね?」
彼女の例えがおもしろくて思わず笑ってしまう。この子と話していると本当に飽きないな。そういえば、「王妃」じゃないときのエリザベート様ってどんな人だったんだろう……?
「実はエリザベート様も、普段はシーラちゃんみたいに粗野な話し方とかしてたりしてね?」
「ワタシみたいに、って……、ドリゼラ姉さん、なかなかヒドいこと言うなぁ。けど、もしそうならめっちゃ楽しいよね? 絶対仲良くなれんじゃん!?」
「エリザベート様は、ご公務を離れたときも慎ましく、気品高いお方でした。シーラ様も見習いましょう」
コンサドーレ様の声が急に飛んできて私もシーラちゃんも扉の方へと顔を向けた。
「オラッ! コンサドーレ!乙女の部屋にいきなり入ってくるとはどういう了見だよ!?」
「申し訳ございません。何度もノックしたのですが、返事がないようでしたので無礼を承知で入らせてもらいました」
ノックの音、全然聞こえなかったな。お互いお話に夢中になり過ぎてたみたい。
「ドリゼラ様、そろそろご公務の時間です。シーラ様はご写本の時間になります」
シーラちゃんは一度ベッドに反り返るように倒れてから、勢いよく起き上がった。
「わーったわーった。またあとでね?」
「うん、またね。シーラちゃん」
「エリザベート様のような王妃を目指すなら、まずそのお言葉使いから直していきましょう、シーラ様?」
コンサドーレ様は部屋を出る去り際にそう言った。
「うっせえ、とっととドリゼラ姉さん連れて行ってこい!」
閉まる扉の隙間にシーラちゃんの台詞が挟まるように響いてきた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
いじめの怨みは妙にリアル(笑)。
編集済
第42話 生け贄への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第42話 生け贄
仲間? 仲間ってなに?
アメシストさんもダークも「王政廃止勢力の一味」で、私を連れ去った人たちで、シーラちゃんを危険な目に合わせるかもしれない人でしょ?
「あっ、あなたたちのことは親衛隊の人から聞きました! 以前から治安維持隊に追われてるんでしょう!? そんな危ない人たちに協力なんてできません!」
そうだ。アメシストさんは普通に話をできる雰囲気だけど、この人たちは危険な人たちなんだ。私がどうこうよりも、シーラちゃんにとって危険な存在なんだ。
だけど、それがわかっているなら、なんで私は彼女たちのことをマッツオ様に伝えずに隠してしまったのだろう? 自分の中にどこかシンデレラを憎んでいる部分が残っているのかもしれない、どうしたいのかよくわからなくなってきた。
「危険なのは王国の方だ。『治安維持』を名目にやつらはカノンを殺した」
「!? 私は捕まったあとに自殺したって聞いたわよ!?」
ダークは小さいため息をついたあと、話し始めた。
「王国の連中ならそう説明するだろうな? だが、カノンは殺された。あいつはオレたちを逃がすために自ら囮になって治安維持隊の目を引き……、捕まって殺された」
なに言ってるかわからない。どっちかが真実でどっちかが嘘なんでしょうけど、マッツオ様が私に嘘を付いてるというの?
「ドリゼラ様……、私たちは王妃シンデレラ様と思っていたわけですが、貴女をおいて逃げたあの日、私たちの動向は王国の治安維持隊にバレているようでした、ですからシンデレラもろとも爆殺しようと爆弾を仕掛けたのです。
アメシストさんは、私が救い出された日のことを詳しく話してくれた。
あの日、私をおいていったのは、治安維持隊に彼らの居場所がバレてしまったと情報が入ったからみたい。きっと内通者とかいたりするんだろうな……。
「カノンさん」は、私が捕まったときにガーネットさんとグレイともう1人部屋にいた男性の名前だった。彼は「王政廃止を掲げる組織」の中心人物で、治安維持隊も「組織」というより、彼を捕まえることに躍起になっていたようだ。
カノンさんはそれを逆手にとって、自分を囮にして組織の人間を逃がす行動に出た。当然、彼自身も逃げ延びて後から合流するつもりでいたのだと思う。だけど、彼は逃げ切ることができなかった。
王政廃止を掲げる人たちにとってカノンさんの存在は非常に大きかったようだ。治安維持隊が彼に執着したのは、彼さえ捕まえられれば、組織は求心力を失い、勝手に消滅すると考えられているから……、とアメシストさんは語った。
「悔しいですが、治安維持隊……、いいえ、王宮の目論見は当たっていました。組織は自壊して散り散りになり、私とダークの他にまだ志を持っている者がいるかはもうわからなくなっています」
「カノンが自ら命を絶つなど考えられない。ただ、敵対する者を容赦なく殺したとなると王室の印象を悪くするからな。そんな言い方をしたのだろう」
話を聞けば聞くほど、王国内閣が怪しく思えてくる。けど、落ち着いて、ドリゼラ・トレメイン、ここにいる2人は「王政廃止勢力」王室を悪く言うのは当たり前のこと。それを鵜呑みしてはいけないわ。
「王室をそんなに悪く言わないで下さい! 私だって王国図書館の会員をしていますし、母だって今でも関連部署で働いているんですよ!」
アメシストさんとダークは少しの間、お互いの顔を見合っていた。そして、アメシストさんがこちらを向き尋ねてくる。
「失礼を承知で申し上げます。実は数日前からドリゼラ様の動向を追って接触できる機会を伺っておりました。ですが、その間お母様のお姿は一度もお見かけしておりませんが?」
「母は、王宮のお仕事で他国へ出ているんです!」
「本当なのか? 親に直近で会ったのはいつの話だ?」
ダークも話に割って入ってくる。
「もう2年くらい会ってませんけど、お手紙は月に1度の頻度で届いています」
「間違いなく親からの手紙なんだな? 誰かのなりすましとかではなく?」
「いい加減にしなさいよ! 私の母がどうかしたって言いたいの!?」
グレイの問い掛けは、とても恐ろしい想像を掻き立てる。突然、家に侵入してきた人たちになんでこんな不快にさせられないといけないの?
「ダーク!やめなさい! ドリゼラ様、本当に申し訳ございません。今のお話は取り消します。後でダークを好きなだけ殴ってもらってけっこうです」
「おい待て? それは困る……、というか死ぬ」
――別に殴りはしないわよ、まったくもう。
私もアメシストさんもダークも黙り込んでしまった。私はこの人たちの仲間になんてならないし、もう帰ってくれないかな……。
「ドリゼラ様? 先日ダークが尋ねていましたが、以前に王妃をされていた方とお会いしたことはないのですよね?」
沈黙を破ったのはアメシストさん。捕まったときにされたのと同じ質問だ。
「はい……、ですが、エリザベート様について尋ねてみましたら、王宮の裏方のようなお役目をなされていると聞きました」
私は先日、マッツオ様から聞いた内容をそのまま口にした。これを尋ねたのも代々の王妃様の姿を見ないのはたしかに不自然と思ったからだ。
「ドリゼラ様は『天書の著者』をどのような存在とお考えですか?」
「それは……、神様のような方ですから、お空の上にいるとか? ごめんなさい、あんまり深く考えたことなくて……」
「いいえ。『天書の著者』について具体的なイメージをもっている人は少ないと思います。ただ、漠然と私たち庶民とは違った存在……、例えば目に見える範囲、声が聞こる空間といった、その深い思索は普通に認知できる存在ではないと考えていると思うのです」
シーラちゃんのいつかの言葉が記憶を過ぎる。それと同時に「×」のマークもだ。
「カノンは、天書の著者を『八星魔王オクタグラム』ではないかと考えていました。そして、王妃はその『魔王の言葉の代弁者』として選ばれているのではないかと……そしてその役割を一度負ったものは永遠の命を授かり死ぬことはないと。」
魔王の代弁者?わかるようなわからないような……?
「過去に王妃として選ばれた者がいないのは、不老不死となっているからでは? 王妃の交代はすなわち不老不死であることを隠すための交代、いや、代替わりというべきかもしれません」
えっと、つまりどういうこと? 今、シーラちゃんがご写本をしていることで魔王の力を得て不老不死を授かり、先代の王妃エリザベート様も、その前の代々の王妃も不老不死となっているって話であってる?
それに「交代」って……。
「不老不死になっている王妃は20年が経つと交代しなければならない理由がある……、皆まで言わなくても察しが付くだろう?それとも同じ王妃が歳も取らず100年存在したらどうなる?」
私は急に背中に悪寒を感じた。思わず後ろを振り返ってしまう。
「今の話はあくまで予想です。ですが、残念なことに代々の王妃様のお姿が見つからない説明がついてしまうのです。もしも、この予想が当たっていたら、『王妃』は天書の著者ハ星魔王オクタグラムの『生贄』と言い換えることができるかも知れません。
ハ星魔王オクタグラムの「生贄」? 生贄ってなによ……?
シーラちゃんが生贄になっちゃうの?
いや、そもそも根本的に間違ってるわ、天書の著者は八星魔王オクタグラムではなく、七星の賢者様だもの。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
魔王出てきた……。
第22話 教団の意思への応援コメント
心配の矛先が保身というあたり、如何にも『組織』という感じで生々しいですね
大丈夫です……寧ろ読者はノワラちゃんのことしか心配していません( ノД`)…
何か勝手に1人で助かりそうな娘ですけど🤣
作者からの返信
コメントありがとうございます!
大きな組織ゆえの闇が垣間見えます。
殴ったら大体解決しそうなノワラちゃんではありますが……。
第41話 気付きへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第41話 気付き
『エリザベート・グリーンヒル、高位神官の息女。15歳で王妃に選ばれ、以後20年間務める……』
太皇妃エリザベート様って15歳から王妃やってたんだ、ワタシより歳下じゃんかよ……。次は、と。
『ナザリア・ミッドレイ、大商人ミッドレイ家の一人娘。20歳で王妃に選ばれ、以後20年間務める……、か』
ナザリア様まではなんとなく記憶にあるなぁ、顔とかはっきり覚えてはいないけど。そいえば、最初の王妃様ってどんな人だったのかな?
『ザハミシバロック・フレイリー」記録上残っている最初に選ばれた王妃、出自や細かい任期は不明……、ふーん』
この人ってあれよね? 首都ハミシバの名前の由来になった人。すっごく昔の話だし「記録上」って書いてあるから、ひょっとしたらもっと前にも王妃様はいるのかもしれないけど、どうなんだろ?
過去の王妃様についての記録を見ながらワタシは考え事をしていた。聖女は女神様が選んでいる。なにか共通点とかあったりしないかと思ってみたけど、さっぱりだ。
若い人か幼いくらいの人からいつも選ばれているけど、年齢はみんなばらばら。出自にも共通するとこは全然見当たらない。ワタシみたいに孤児院育ちの親なしもいなかった。
ワタシが王妃様についてや国の歴史について調べているのは、突然「王妃」の自覚をもったからじゃない。
この前、ご写本の間にて手にした一枚の羊皮紙。ワタシは自分の解決策を天書に求めた。本来の使い方ではないし、こんな個人的なことをして許されるかもわからなかったけど、ドリゼラ姉さんを救う方法がそれしか思い付かなかった。
ワタシが天書のその記述に気がついたあと、長い思考を行った、やっぱりダメかと諦めかけたとき、その羊皮紙を運命のように手にした。
それは決して、ドリゼラ姉さんの居場所という直接的な答えではなかった。ただ、羊皮紙は2つ、ワタシの問いに対して答えをくれた。
『あなたの大切に思うドリゼラは、心配しなくてもすぐに見つかり、無事に帰ってきます。ご安心なさいと、呼びかけられているような気持ちになった。」
1つはこれだった。それを聞いたとき、最初はとても嬉しかったけど、やや遅れて、天書も戦争のための計略ばかりではなく「気休め」の言葉もあるのかと思った。
だけど、2つ目の記述を見たとき、考えが変わった。天書はやっぱり他の兵法とは違う、と……。
実際に、ドリゼラ姉さんは一晩明けた翌日の昼間に無事救出されたと聞いた。ワタシは飛び上がるほど喜んだ――というか、ホントに飛び上がっていた。
あとからドリゼラ姉さんと顔を合わせたときは、泣きそうなほど嬉しくて、体当たりするみたいに抱き着いちゃったくらいだ。
ドリゼラ姉さんとたくさん話してスッキリした後、ワタシは天書が記すもの、「2つ目」について調べようと思った。そして、天書の著者と王妃についても、もっともっと知りたいと思うようになっていた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
歴長め(笑)。
編集済
第40話 目的への応援コメント
第40話 悪魔の誘惑、天使の迷い
聞こえたのはワタシを爆殺しようとしたアメシストさんの声。
だけど、この声に安心している私は本当に頭がおかしい。
彼女は「王政廃止勢力の一味」で、私を連れ去り、葬ろうとした人たちで、シーラちゃんを危険な目に合わせるかもしれなくて――って……。
あれ……、そういえば、なんで「シーラ様」じゃなくて、「ドリゼラ」の家に現れたの?
私は無言で立ち上がった。家の扉は閉められており、玄関にはアメシストさんとダークの姿がある。アメシストさんは床に目を落とした後、転がったトマトを拾って、落とした袋に戻して手渡してくれた。
「本当に申し訳ありません。ですが、こうでもしないと貴女と落ち着いて話ができないと思いまして……、『ドリゼラ・トレメイン』さん?」
今、ドリゼラ・トレメインって言った。やっぱり王妃シンデレラ様じゃなくて、ドリゼラに会いに来たんだ。
「とりあえず、その拳を下げてくれないか、怪力? 手荒な真似はしない」
「どの口が言ってるのよ、ワタシを爆弾で爆殺しようとしたのを忘れたの」
ダークの図々しく呆れた発言に思わず反応してしまう。でも、彼の前で力を振るったことなんてあったかしら?
「なんで!? なんで私が力持ちって知ってるのよ!?」
「ドリゼラ様、私たち実は……、MCバトル大会のときからあなたを追っていまして……はい」
ええーっ!! なんか急に恥ずかしくなってきちゃった……。
「あんな言葉の魔術があるなら、そもそもなぜ捕まった? あの弁舌を振るわれたら我々など赤子の手をひねるより易しく言いくるめることができただろうに。」
ちょっと……、一度にいろいろ言わないで。情報の大洪水が起こっているわ。落ち着いて、落ち着くのよ、ドリゼラ・トレメイン。
「うん…と、とりあえず、お部屋で話しましょうか? 食材も片付けたいし」
私は普段滅多に使わない来客用の椅子を2つ引っ張り出して、爆殺未遂犯の彼らに座ってもらうよう伝えた。一応、私が逃げ出さないかを警戒しているのか、食材を仕舞って私が座るまで、2人とも立ったままだった。
少し間をとったので、頭の整理ができた。
「おふたりは、『ドリゼラ』に会いに来たんですよね?」
自分で言っていて、ものすごく変な問い掛けと思ったけど他の言い方を思い付かなかった。
「はい。あなたが王妃様の身代わりだったと後から知りました。そうとも知らず先日は怖い思いをさせてしまい、本当に申し訳ございません、あの血も涙もない王妃ではないと知っていれば爆弾など仕掛けませんでした。
身代わりの話は公に伝わっていないはずだから、きっと彼らの中に独自の情報網があるんだと思った。シーラ様が本物でも爆殺されてはダメなんだけどね?
「魔法でリリック強化された、というのは?」
「この国の人間はほとんど気付かないと思うのですが、MCバトルの主催者は魔法を使って、ノワラ様の対戦相手の耳に語彙を囁きリリックを強化をしておりました……、まぁ、それでもドリゼラ様は勝ってしまったわけですが」
たしかにゴリラさん(仮称)の右耳は淡い光を放っていた。そうか、あれって「魔法」なんだ……。
「おそらく彼らは他国からやってきた者です。魔法を使うなんてイカサマ。きっと、不当な方法で一儲けしようと企んで入国してきた者どもなのでしょう」
「天書、写本……、と言っているが、魔法や他国の技術から隔離されたままでいると、近い将来、ああやっていいように搾取される時代がくる。力で魔法をねじ伏せるなんて普通はできない……。普通は」
ダークは最初に介抱してくれた時こそよかったけれど、女の子に対するデリカシーが欠けているわ。私の力(悪態)を強調するような言い方はやめてほしい。
「それで……、私を身代わりの『ドリゼラ』と知った上でどんなお話があるんでしょうか?」
アメシストさんとダークは一度お互いの意思を確認するように顔を見合わせた。そして、問い掛けてきたのはアメシストさんの方だった。
「ドリゼラ・トレメイン様……、率直に言います。私たちの仲間になってくれませんか、姉のあなたをさしおき一人だけ王妃に、幸せになったシンデレラをこっそりと亡きものにすればもはやあなたが王妃に座るしかありません。
他の誰にも代役は務まらないのですから。
あなたにとっても悪い話ではないはず。
あなたは悔しくないのですか?
あなたより劣る無能で粗暴な妹が王妃の座に収まり、有能なあなたは踵を切り落としまでしたのに王妃になり損なった。
これは間違っています。
是非ともあなたをお支えするワタシたちに協力お願いします。」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
最後たたみかけてくる!
編集済
第39話 お勉強への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第39話 資料調査
「この国の歴史と歴代の王妃様について知りたい……、ですか?」
コンサドーレは腕組みをして、怪訝そうにワタシの顔を窺っている。
「なんだよ? ワタシが国や王妃様がたについて知ろうとしたらいけないのか?」
「いいえ、そのようなことはございません。正直、これまでのシーラ様からはあまり想像できないお言葉ゆえに、どういった風の吹き回しかと思いまして……」
ぶん殴ってやろうかこのやろうかこのやろう。
マジでそう思った。
コンサドーレは一度、咳ばらいをしてからそう言った。いちいち癇に障る男、ホント。マジでドリゼラちゃんの好みがわかんない。
「ワタシだって王妃の自覚はあるんだよ? もっと勉強して『らしさ』を身に付けたいと思ったらいけないわけ?」
「わかりました。シーラ様のお考えは我々としてもうれしい限りです。できれば、そのお言葉使いから直してほしいのが本音ではありますが……」
「うっさいな、もう! 一言多いんだよ!」
「失礼致しました。それでは、後程資料をお部屋に運ぶよう侍女に申し伝えておきましょう」
コンサドーレは深く一礼をして、部屋の扉を音もなくゆっくりと閉めた。
「まったく堅物なんだからよ……」
しばらくすると、侍女のアクアがワゴンにたくさんの書物を載せて部屋へ入ってきた。
「シーラ様、お勉強をなされるのですか?」
書物の1つに手を伸ばしたワタシを見て、アクアが問い掛けてくる。
「みんなして……、ワタシが進んで勉強するのがそんなにおかしい?」
「いいえ! そんなことはございません! 申し訳ございませんでした!」
アクアは、天辺に重しが付いてるかと思う勢いで頭を下げた。テーブルの角に当たったりしたら大変そう……。
「そいえば、アクアって王妃の侍女はけっこう長いの?」
「私ですか!? 今21で…18のときからですので、3年になります!」
「へぇー、つまりエリザベート様のときからか!?」
「左様でございます」
「エリザベート様ってワタシの憧れなのよね? ここではどんな感じの人だったの?」
「それは……。申し訳ございません! 王妃様のお部屋にあまり長居しておりますと怒られますので、これで失礼致します!」
アクアは本日2度目の危ないお辞儀をして、ぱたぱたと部屋を出ていった。ワタシは少しの間、彼女が出て行った部屋の扉を見つめていた。
「さーて……、王妃シンデレラ様もたまにはお勉強するんだから!」
ワタシは、たくさんの書物の中から歴代の王妃とその出自について記された資料を手に取り、ベッドに寝そべった。
あれ、書物の山の下に封筒のようなものがはみ出している。
「これは?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
なにか発見した……
第38話 再会への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第38話 再会
賞金の金貨3枚をもらった私は、ほくほくになってお買い物を楽しんでいた。
ORBラップMCバトル大会の主催者さんとゴリラさんは悪いことでもしてたかのように、そそくさと退散していった。
集まっていた人たちから、嬉しいのとそうでない両方の賛辞を浴びながら私は、内側にくすぶっていたものが減って心が軽くなっているのを感じていた。
心なしか、大会中の私は、まるでシーラちゃんが乗り移ったような思考をしていたような気がする。一緒にいるとどんどん似てきてしまうかも?
バザールのお店で簡単な昼食をとって、食品を少し買い込んだ後、私は帰り道の眺めを楽しみながらゆっくりと歩いていた。
――そういえば、初めてシーラちゃんと会ったのはこの辺だったわね?
「ドリゼラ・トレメイン」と「王妃シンデレラ」2つの顔を使い分けての生活は、あの日の出会いから始まったんだ。怖い思いもしたけど、彼女と出会ってからの生活はとても楽しい。
むずかしいことは考えないようにしよう。
連れ去られた一件以降は、ご公務の際の警備がとても厳しくなっている。こうして身代わりの私でもきちんと守ってくれているんだ。裏でなにかしてるとかは知らないけど、少なくとも王国警備兵は今の私の味方だ。
夕日を眺めながら、のんびり歩いていると思ったより帰宅が遅くなってしまった。家で待ってる人はいないから関係ないけど……。
石造りの白い壁をした1階建ての、なんの変哲もない自宅の鍵を開け、私は家の中に入った。
そのとき……。
背中を強く突き飛ばされた。
バランスを崩して、玄関に倒れ込んだ。買ってきた食材の袋を落として、トマトが何個か床に転がってしまった。
開いたままの扉から誰かが家に入ってきて、それはゆっくりと閉じられた。
どうする? 大声をだす? それとも戦う? 今度はもう臆さない!
――両方だ!
大きく息を吸うと同時に、大声のために腹に力を込める。
MCバトル大会優勝のこの口を舐めないでよね!
「申し訳ありません! ですが、どうか落ち着いて下さい!」
耳に飛び込んできたのは、知っている声だった。この声は……たしか。
「ワタシを爆弾で爆殺しようとしたアメシストさん!?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
爆弾魔、再登場!?
第37話 破格への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第37話 ストリートの王者
「兄ちゃん、この女の鼻っ柱折ってもいいのか?」
「こっ、こら……、ここで『兄ちゃん』って呼ぶんじゃない!?」
主催者さんの仕込みは弟さんなのね? わかりやすいというかなんというか……。
酒樽を間に挟み、正面には本当に人間かと疑うほどの「巨人」みたいな人が立っている。私の縦に2倍……、はさすがに言い過ぎかもしれないけど、1.5倍は本当にありそうな大きい男。主催者さんの兄弟なのか確かめていないけど、顔は1ミリも似ていないわ。
「はいはい! 皆さん! いよいよ決勝戦ですよ! まさか女の子が勝ち進んでくるなんて予想外の展開ですね!」
周囲から歓声が上がる。私の応援をしてくれる声が多いのは嬉しい……、けど、たまに「ゴリラ」って聞こえてくる。
だから、「ゴリラ」ってなんなのよ?
まさか対戦相手のお名前が「ゴリラさん」じゃないわよね?
「勝たないと兄ちゃんからご褒美もらえないからな……。言っとくが」
「『手加減できない』、『凹んでもしらない』でしょ!」
「おっ…おう、それだ! 覚悟しろよ!」
対戦相手のゴリラさん(仮称)は、言いたいことを先に言われてなのか、煮え切らない顔をしていた。
「では、魔導マイクを握って下さい! 余らせたらダメですよ!」
私はゴリラさんと向き合い、お互いしっかりとマイクを握った。過去2戦と違い、ここで彼はなにも言わなかった。手の大きさが違い過ぎて、小さなマイクは巨大な生き物に丸呑みされてるみたいだった。
「それでは……、先攻!血塗れドリセラ、レディ……ゴー!!」
私は一気に片を付けようと言葉にバシバシ力を込めた。その時、彼の異変に気付いた。
なんか耳が……光ってない?
◆◆◆
MCバトル大会の主催者と、決勝まで勝ち上がった大男は兄弟だった。主催の男は、弟の怪物じみたバイブスを利用してうまく儲けようと企んでいた。適当にいくつかの街を回り、MCバトル大会を催して金を集めていた。
彼の弟のバイブスは見た目同様、人間離れしており、負ける姿は想像できなかった。
しかし、万が一同等の力を持つ人間が現れたときの「秘策」も念のため準備していた。
それは、「魔導イヤホン」
彼ら兄弟は、他国からやってきた人間だった。高額な裏取引によって、正式な手続きを経ずにこの国へと入り、ズルい商売で一儲けした後はすぐに出て行くつもりでいた。
主催者の兄は、大した練度ではないが魔法の心得があった。腕相撲で、もしも弟が負けそうな相手に遭遇した際には、耳に入れた魔導イヤホンから補助魔法によってわずかな時間、リリックの入れ知恵をすることにしていた。
そして、今……、「万が一」の事態を迎えてしまっていた。
彼は弟の右耳に魔法をかけた。この国が魔法を禁忌としていることを知っていたので、使っても誰もそれに気付かないと思っていたのだ。
弟の右耳は淡い光をまとい、対戦者の少女のアンサーを押し込んでいく。
彼は、この国に入ってからお金で雇い入れた人間を使い、MCバトル大会の賭け事を並行していた。そして、弟の優勝に多額の投資――、いや、投機をしていたのだ。ゆえに弟を負けさせるわけにはいかなかった。
◆◆◆
ゴリラさんの耳が光ったと思ったら、それから明らかにリリックが増した。じりじりと……、だけど確実に私のマイクを握る右手のは「敗北」に近付いている。
周りの歓声が大きくなる。よく見たら、前に戦った四角いおじさんと丸いおじさんもそこに混ざって声援を送ってくれていた。自分を負かした相手に、どうせなら優勝してほしい、といったところなのかな?
ゴリラさんの表情はとても険しい。すでに頭の血管が数本切れていそうな凄まじい形相をしている。なんで耳が光ってるのかわからないけど、とにかくとってもバイブスの強い男の人だと思った。
――そうなんです。私にはまだ、周りを気にする程度の余裕はあるんです。
だけど、さすがにあんまり油断すると危ない気がしてきたので……。
本気で畳み掛けるわよ!ドリゼラ・トレメイン!
「オマエにはシンネンがネー!!バシバシ」
残りの12小節、周りの観客全員が理解できるほどの韻を叩き込んだ。
歓声の大きさがドリゼラの勝利を確定する。
私は渾身の悪態を右手に込めた。全力でゴリラさんのアンサーを押し返すと、それは一気に150度くらいまわって彼の心をへし折り、彼のマイクは悔しさのあまり酒樽の天板にめり込ませた。
「勝者!血塗れのドリゼラ!」
板が砕ける音がしたけど、ゴリラさんの手は無事かしら? ――だけど、散々、怪我はどうこう言われてたから、無事でなくても仕方ないかな?
次の瞬間、周りからすごい歓声が上がった。なんかよくわからないけど、デッカい男の人に囲まれて何度も宙に放り投げなれた。宙を舞いながら私は叫んでいた。
「やったーっ!! 優勝したわよー!!」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ここではゴリラさん継続(笑)。
第36話 無双への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第36話 国士無双
ORBラップバトル大会の会場は沸いていた。なんだか集まっている人の話だと、1回戦で私と戦った四角いおじさんは、この辺りで有名なラッパーだったみたい。
それを見た目の大きさは半分くらい、体重で比較したら、三分の一くらいかもしれない女の子が破ったのだ。それは驚くし、盛り上がりもするよね。
「‥…お嬢さん、あのドリゼラってのは本当なのかい?」
主催者さんが尋ねてきた。
なりそこない王妃って……、私は何者なんだろう? 今は王妃様の身代わり? ううん……、違う違う。
「ただの、ちょっとだけ足のおおきい可愛い女の子ですよ!」
「いや……、『ちょっとだけ』って」
「ほらほら! 私が参加したからこんなに盛り上がってるんでしょ? もっと感謝してくれてもいいのよ?」
見物の人たちへ向けて軽く手を振ると、そこは大きく沸き立った。
「ドーリゼラ!ドーリゼラ!」
なにこれ!? すっごく楽しい!
「たしかに……、盛り上げてくれるのはありがたいんだけどね」
主催者さんと話をしていると、私の前に丸々と太った男の人が現れた。急にここらの気温が上がったような気がする。
「お嬢ちゃんがあの『悪垂れガンツ』に勝ったのか? けどよ、おいらをその辺の男と一緒にするなよ?」
四角いおじさんが悪垂れガンツさんだったのかしら? だったら丸いおじさん、あなたはお名前は? 逆にスクエアさん? そんなことを心で思いながら、私は笑顔で挨拶をした。
「2回戦はおじさまがお相手ですか? お手柔らかお願いしますね?」
「悪いけど、おいらは女だろうと手は抜かないからよ。その細い唇が萎れてもしらないからな?」
さっきの悪垂れガンツさん……だっけ? 四角いおじさまも似たような話を試合前にしてたけど、この人の力はどの程度なのかしら?
「はいはい! それでは、2回戦を始めますよ! 魔導マイクを握って下さい!」
丸いおじさんの手がマイクを奥までしっかりと握る。これまた四角いおじさまのときと同じで表情が変わった。
「お嬢ちゃん……、一体どこで場数を踏んだんだよ?」
「うーんと、わかんない。ストリートかな?」
「それでは……、絶壁ダカール先攻!レディ……ゴー!!」
ラップバトル開始の瞬間、私の顔の真ん前を羽虫が横切った。ほんの一瞬だけど注意が逸れてしまった。丸いおじさんの言葉のバイブスが私のリリックに襲い掛かる。
――だけど‥…。
「……ヘイヨウ!お嬢ちゃんは……、岩か!?山かヨーヨーよー」
私のフリースタイルラップは90度の角度で立った音域のまま静止している。押し倒そうとする丸いおじさんのアンサーが小刻みに震えている。顔には脂汗がにじみ出ていた。
「バシバシ砕く!ドリセラスタイル!」
私が言葉に力を込めると、彼のアンサーは全身をひっくり返しそうな勢いで途切れた。丸いおじさんは汗だらだらで全力疾走した後みたいに呼吸を乱していた。
「勝者!血塗れドリセラ!」
勝負が終わった後は、少しの静寂。
そこから堰を切ったように歓声が沸いた。
「スッゲー!! お嬢ちゃん化け物かよ!!」
「マジで無敵だよ!? 無双だよ!?」
「なんでそんな華奢なのに強いんだよ!?」
「あの口撃すごすぎるって! キツツキの血でも流れてんじゃないの!?」
なんか、褒められてるのか貶
けな
されてるのかわからない声が私に向かって飛んでくる。――というか、「キツツキ」ってなによ? なにかわからないけど語感で貶されてる気がするわ。私、キツツキ・トレメインじゃなくて、ドリセラ・トレメインですからね?
とりあえず、あと1勝で優勝ね! 相手は主催者さんの仕込みかしら?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
キツツキの異名。
編集済
第35話 可憐への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第35話 紅蓮の口撃
「お嬢さん、参加するのは構わないけど、これストリートの本物のワルが集まるMCラップバトルだよ?」
主催と思われる、蝶ネクタイをした男が問い掛けてくる。
「わかってるわ! 別に参加条件とかないんでしょ?」
私は人だかりから前へ進み出て逆に主催へ問い直す。
「条件はないけど……、女の子だからってハンデとか付けられないよ?」
「それもわかってるわ! ほらほら、あと1人で締め切りだったんでしょ? これで始められるじゃない?」
私が主催を説得していると、その後ろから縦にも横にも大きい男の人がぬっと現れた。顔の形含めてすべてが四角形を思わせる人だ。
「いいじゃないか!? 可愛い子が1人くらい混ざってる方が盛り上がるだろうよ!?」
「あら? おじさまわかってらっしゃる! その通りよ、主催さん!」
主催の男は、笑顔の私に目を合わせて頷いた。
「怪我しても責任とらないからね?」
「それも大丈夫! それじゃ最後の1人は私で決まりね!」
こうして私は、たまたま見かけた王都ORBMCバトル大会に出場することができたのだ。
一応は、女の子なのでお仕事の荷下ろしを除いて、できるだけ目立ったところで力を振るわないようにしていた。身の危険を感じた時は別として……。
だけど、今回――というか、今日はなんていうか、思い切り口撃を使いたい気分になっていた。
アメシストさんから、王宮の裏の話を聞いて心の中がなにかもやもやしていた。それをどこか発散できる場所を無意識に探していたのかもしれない。
なんであれラップバトルだったら、口先を振るうのに遠慮はまったくいらないもんね。全力でいくわよ、ドリゼラ・トレメイン!
「それじゃお嬢さん、参加費用の銀貨5枚もらうよ?」
主催の人が参加費を回収にきた。彼が手に持っている麻袋に銀貨5枚を入れる。
このMCバトル大会のルールはとても簡単だった。参加費用は銀貨5枚、参加人数は8人でトーナメント方式、最後まで勝ち残った人が金貨3枚を手にする。
勝敗は観客の声援の大きい方で決まる。
誤魔化すことはできない。
金貨1枚の価値は銀貨10枚と同一。つまり、主催は8人から銀貨5枚を回収するので40枚手に入れたことになる。優勝賞金の価値が銀貨30枚と一緒なので、人さえ集めれば主催者は無条件に儲けられる仕組みだ。
だけど、どうやら今回はもう少しおまけの要素もあるらしい。
銀貨を払うと主催の人が私の手にピンクの組み紐を巻いた。他の参加者にも同様に、それぞれの色の組み紐を巻いている。よく見ると、色ごとの対戦表がすでにでき上がっていた。
そして、この会場のすぐ隣りでどうやら優勝予想の賭け事を催してるようだ。色で区別して予想をしているみたい。
こんな光景を見ると、頭の回転がいいドリゼラちゃんは気付いてしまいます。
この腕相撲大会の参加者には、間違いなく主催者が連れて来た「ラップの王者さん」が混ざっています。彼に優勝させて、掛け金含めてがっぽり儲けようという魂胆かと思われます。
主催者さんの目のやり方を見ていたら、そういう人がいるのもすぐわかりました。余程のことがない限り負けない自信がある人を連れて来たんでしょう。
余程のことがない限り、はね……。
「はいはい! それじゃ1回戦を始めますよ!」
私は自分のピンクの組み紐と同じ色の印の付いた酒樽の前に立った。すると、それを挟んで向かい側に、さっきの四角いおじさんが立っていた。
それぞれに魔導マイクを渡す。
「お嬢ちゃん! 1回戦からオレと対戦なんてついてないなあ!?」
「さっきはありがとうございます、おじさま! お手柔らかにお願いしますね!」
「おーい、おっさん!煽られてるぞー!アンサーしろー!」
「悪いけど、オレはどんな相手でも勝負事では一切手加減しない主義なんだ。まあ、泣き面にだけはさせないようにしてやるよ?」
「対戦者同士、魔導マイクを握って下さいね! 先攻!悪垂れガンツ!12小節の3ターン!」
「レディ!ファイト!」
主催者さんの合図で四角いおじさんがラップで悪態をつきはじめる。
四角さんが終わるとワタシのターン、12小節全部韻を踏んでやった。
そのとき、おじさんの顔つきが明らかに変わった。
「こ、コイツ只者じゃねえ!」
私も経験あるんだけど、ラップ強さって対面したときに、ある程度わかるものなのよね?
「ヒャヒャ!お嬢ちゃん……。いや、あんた! かなりできるな!?」
「おじさまが言った通りyo〜、可愛い子が混ざってる方が〜盛り上がるわよね!ユアアンダスタン!」
「それでは……、判定に入ります!」
「悪垂れガンツ!」
wa〜
「なりそこない王妃ドリゼラ!」
WWWA〜!
「勝者!なりそこない王妃ドリゼラ!」
――木材を強い力で叩く音があちこちでこだました。
すごい歓声である。
私の右手は、魔導マイクを天にかかげ、勝利の雄叫びを上げる。
おじさんの手は悔しさのあまり体ごとよじりながら酒樽の天板に叩きつけられていた。
そこから、かすかに木の粉が立ち上っている。
おじさんの顔は目玉が飛び出るかと思うくらいに見開いていた。
「なっ……なんてリリックとバイブスだ…」
「失礼ね? 誰がブスやねん!」
誰も突っ込んでくれなかった。
「おい、なりそこない王妃ドリゼラって、あのドリゼラか?」
「妹をさんざんいじめ抜いた挙げ句、妹になりすますために踵を切り落としガラスの靴を血まみれにしたという。血塗れのドリゼラ!」
「オイ!筋金入りのワルじゃねえか、ガンツごときがかてるはずがないぜ!」
「俺はドリゼラに賭けるぜ。」
「俺もだ!」「おれも!」
ドリゼラのオッズは限りなく1.0倍に近づいた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
倍率元払い、驚異のお姉さま。
第34話 大会への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第34話 MCバトル大会
王妃シンデレラ様が連れ去られた事件は、人々に周知の事実となっていた。一度はかん口令も敷かれたようだが、現場の目撃者があまりに多く、意味をなさないと判断されたようだ。
王妃様は1日で無事に救出された。主犯の男は治安維持隊によって捕まり、自ら命を絶った。こうした結果も合わせて情報は人伝に広がっていったようだ。そこに「捕まった王妃様は身代わりだった」という情報は存在しない。
王妃のご公務は警備こそ厳しくなっていたが、以前と同じように行われ、その半分は私が入れ替わっていた。
カノン率いる王室廃止勢力は、ずっと前から治安維持法違反の罪で治安維持隊が追っている組織だったそうだ。今回の事件は結果だけ見ると、王妃様は無傷――、というより、本物は関わってすらおらず、危険視されていた組織のリーダーを消し去ることができたわけだ。
巻き込まれた私からすれば、とても「よかった」の一言では済ませられないけど、王宮としてはとてもよかったのだと思う。
今日のご公務は、シーラちゃん本人の日。私は午前中に荷下ろしのお手伝いを終えた後に、バザールまでお買い物に出かけていた。
王妃様の影武者を務めるようになってから私は、ヘアバンドで髪をまとめ、丸っこい淵の眼鏡をして外を歩いていた。
街にいるときは、シーラちゃんと出会う前となにも変わっていない。外の陽射しを体いっぱいに浴びて、鼻歌を歌いながら屋台の並ぶ道を歩く。時には、お肉の串焼きだったり、冷えたフルーツ、最近はシンデレラ様が好きな御座候を買って食べたりもする。
まずはバザールを一通り歩き回って楽しんだ後、最後に必要なものをまとめて買って帰るのがいつもの決まりだ。
軽い足取りで歩いていると、広場の辺りに人だかりができているのに気が付いた。路上で楽器を奏でる人や見世物をする人がよくいるところだ。今日もなにかやっているのかな?
人込みをかき分けて先頭に顔を出してみると、大きな酒樽がいくつかあって、そこに体の大きい男の人が並んで立っていた。
「はいはい! あと1人! どなたかいませんか!? ラップ界の発明王、言葉の魔術師、韻の精密機械を自称する方はまたとないチャンスですよ!?」
黒いスーツに赤の蝶ネクタイをした男が大きな声で叫んでいた。手にもってる看板になにか書いてある。
なになに……?
【次世代のラッパー求む! 第三回王都MCバトルORBイベント。】
「あと1人で締め切りですよ! 我こそはという方おりませんか!!」
「あと1人で……! おっと! 手が上がりましたね!? そこの……おや?」
蝶ネクタイの男は、私を指差して顔を見た後に首を捻っていた。私の周りにいる人たちもびっくりした表情をしている。
それに反して私は、内側から溢れる自信に顔が歪みそうになるのを必死に堪えていた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
まさかの超展開!
第33話 反・聖ソフィア教団への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第33話 王政廃止勢力
宮殿に戻った翌日、私ドリゼラ
は官房長マッツオ様とコンサドーレ様のおふたりに呼ばれて質問を受けていた。王妃様のご公務は、今日までお休みする予定になっているそうだ。
「昨晩はよくお休みになれましたか?」
マッツオ様はこんな話から始めた。
「はい、お陰様で疲れもとれました。元々体力だけが自慢ですから」
「ふっ……、それはよかったです。シーラ様も貴女のことをずいぶんと心配しておられましたから」
マッツオ様はわずかに口元を緩めそう言って……、さらに話を続けた。
「ご無事でなになりでした。――そして、この度は我々が不甲斐ないためにドリゼラ様を大変危険な目に合わせてしまいました。なんとお詫びしてよいものか……」
マッツオ様もコンサドーレ様も席を立ちあがり、私に向かって頭を下げた。
「あっ…あの、やめてください! 王妃様の影武者を仰せつかったときから多少の危険は覚悟しておりました。むしろ、今回の件に巻き込まれたのが私でよかったくらいです!」
正面のおふたりは、私の顔を一度見据えた後、改めて椅子に腰を下ろした。
「ドリゼラ様は……、本当にお優しい方ですね。シーラ様が貴女に心を開くのも頷けます」
コンサドーレ様はいつもの落ち着いた声でそう言った。
「危険な目に合って早々にこんなお話をするのは気が引けるのですが、我々は貴女を連れ去った者たちの行方を追っております」
この話はいずれ訊かれると思っていた。王妃様の安全を考えれば当然だと思う。
「主犯と思われる男を治安維持隊が捕らえたのですが、隙を付かれ、自ら命を絶たれたのです」
コンサドーレ様は淡々と語った。私はとても驚いた。
誰かが自殺したってこと!? なんで? 仲間の居場所とかをもらさないようにするために……?
――主犯って誰だろう?
今、「男」って言ったから少なくともアメシストさんではないよね……?
だったらダーク? それともあの部屋にもう1人いた男の人?
「『カノン』という男でして、実は以前から治安維持隊が追っていた者でもあるのです」
カノン……、初めて聞く名前だ。
アメシストさんやダークの名前じゃなかったことに安心している私がいた。
「カノンは、『王政廃止』を掲げる組織を率いている男でした。今回、彼と組織の数人を捕らえることができました。ですが、彼は死に……、残りはどうやら末端の者のようなのです」
「王政廃止」アメシストさんの話が頭に蘇ってくる。
『――私たちが生きるうえでの選択の権利を奪っていると思うのです』
「ドリゼラ様、貴女が囚われていた時、彼らについてなにか見聞きしておりませんか? どんな些細なことでも構いません。思い当たることがあれば話してほしいのです」
「えっ…と、私、目隠しをされていて会話とかも全然聞こえなくて……、その、なんていうか、お役に立てなくてホントごめんなさい」
私はどうしてこんなふうに言ったのだろう?
あめかさんやダークのこと、ひょっとしたら本名じゃないかもしれないけど、話したら彼らを捕まえる手がかりになるかもしれない。
彼らを野放しにしていたら、王妃様に……シーラちゃんに危険が及ぶかもしれない。なのに、どうして彼らについて隠してしまっているのだろう?
私の返事があまりに早く……、その後すぐに黙ってしまったせいか、マッツオ様もコンサドーレ様も困った顔をしているように見えた。
「恐怖で周囲を気にする余裕すらなかったことでしょう。その心中は察するに余りあります」
気まずくなりかけた空気を払うようにコンサドーレ様は言った。
「思い出して気持ちのいいことのはずがありません。無粋な質問をどうかお許しください」
「いいえ、私は大丈夫です。もし、なにか思い出したら必ずお伝え致します」
「ご協力痛み入ります。王妃様のご公務は明日から再開の予定ですが、警備体制は万全を期します。貴女にも、シーラ様にも、万が一もないよう致しますのでどうかご安心ください」
囚われていたとき、聞かされた話について尋ねてみたかった。だけど、真正面から問いかけてまともな返事をもらえるはずがない。
ちょっとだけ考えた末、私は1つだけ当たり障りのない程度に質問を投げかけた。
「あの……、エリザベート様は今どうされているのですか?」
場違いの質問だったせいか、一瞬だけ時が止まったように静かになった。
「シーラ様の前の……、王妃エリザベート様のことですかな?」
マッツオ様が改めて私に問い掛けてくる。
「はっ、はい! 実は私が一番憧れていた王妃様でして……、退位されてからどうなされているか気になっていたんです」
「ふむ。立場上、簡単にお会いするのがはむずかしくなっておりますが、元気にされておりますよ」
「そっ、そうなんですね! よかった!」
「たしかに彼女は、歴代の王妃のなかでもひときわ人気のあるお方でしたからな。王宮の表舞台からは退いておりますが、今でも陰で我々を支える役割を担っておられます」
今でも王宮内にいらっしゃるのね。元々、「王妃様」だったがゆえに人目に付きにくいお仕事を割り振られるのかな?
「ドリゼラ様について彼女に詳しくお話はできませんが、気遣っている者がいることは伝えておきましょう。彼女も喜ぶはずです」
マッツオ様はそう言った後に席を立ち、一礼をして先に部屋を出て行かれた。
「シーラ様もエリザベート様にとても憧れをもっているようでした。貴女たちはもしかしたら、お姿以外にも似ているところがあるのかもしれませんね?」
コンサドーレ様はにこやかな表情でそう言った。
たしかに、シーラちゃんとよく話すようになってから、彼女の気持ちが今までより理解できたり、お話の次の一言が先にわかるときもある。
「似ている」というより、無意識に内面までもが歩み寄っているのかもしれないな……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
先代王妃様の行方はいかに……。
第32話 帰還への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第32話 仕組まれた帰還
「ドリゼラ姉さんっ!!」
シーラちゃんは私の顔を見るなり、大声を上げてすごい勢いで抱き着いてきた。私だから受け止められたけど、普通なら一緒に倒れちゃうから気を付けないとね?
◇◇◇
私は手足の拘束を解いて爆弾の導火線をフッチした後、囚われていた建物を出るかしばらく迷っていた。外に出て急に襲われたりしたらどうしよう、とかいろいろ考えてしまってなかなか一歩を踏み出せずにいた。
ベッドのある部屋のなかで思案しながらうろうろと歩き回っていると、外から複数の人の声が聞こえてきた。程なくして足音が聞こえ……、そしてついには人が入ってくる気配を感じた。
その人たちが、王都の治安維持部隊と気付くのにそう時間はかからなかった。彼らの服には皆共通して、36を意味する古代文字を模した紋章が記されているからだ。
私は、彼らに保護されて無事に王宮へと送り届けられた。アメシストさんやダーク……、他にいた人たちがどうなったかはわからない。
王宮の馬車で宮殿に送られた私は、まず医務室に連れていかれ、お医者様から容態をいろいろと尋ねられた。
長い時間拘束をされたり、目の前で人が刺されたのを見たりと、心に傷を負った感じはあるけど、身体的な怪我はほとんどなかった。
特に後者は……、忘れたくても忘れられそうにないけど、時間が経てばきっと自然と傷は癒えると信じることにした。
「肉体的にも、精神的にもお疲れかと思います。我々もドリゼラ様に尋ねたいことがいくつかございます……が、まずはシーラ様に会って下さいませんか?」
医務室で休んでいたところへコンサドーレ様がやってきてそう言った。
「お恥ずかしい話ですが、ドリゼラ様が無事と知らせたところ、会わせろと騒ぎ出しまして……。貴女がお疲れである旨もお伝えしたのですが」
シーラちゃんらしいなと思って、思わずにやけてしまった。
「かしこまりました。私もシーラ様にお会いして、早くご安心して頂きたいですから」
彼に案内されて神殿内にあるシーラちゃんの自室に向かう。
「おふたりで話したいこともあると思いますので、しばらくしたら改めてお迎えに上がります」
シーラちゃんの部屋をノックする。元気のいい返事が聞こえ、コンサドーレ様は扉を開けてから、私に一礼して立ち去っていった。
部屋の中に入ると、シーラちゃんは走って私に抱き着いてきたのだった。
「ドリゼラ姉さんならぶん殴ったら勝てるんじゃないの?」
私とシーラちゃんは並んでベッドに腰掛けながら話をした。彼女は忙しくなく足をパタパタと動かしている。
「私は力持ちだけど……、そんなに勇気はないから」
いつかバザールで王宮の人を吹っ飛ばしてしまったことがあるけど、間違っても危害を加えられる心配はないと思っていたから抵抗できたんだと思う。身の危険を感じると、できそうなことでもできなくなるもんだ。
「そっかー……、ワタシ、ドリゼラ姉さんは最強無敵だと思ってたよ?」
――うん、それはかなり間違っているわ……。
心の中で苦笑していると、シーラちゃんがまた抱き着いてきて、私の胸に顔をうずめてきた。
「ごめんなさい、ドリゼラ姉さん、ワタシの代わりなんかやったからこんな目にあったんだよね? ホントごめん……」
彼女の声は涙声になっていた。本当に優しい子なんだ、この子は。
「ううん、影武者をするって決めたのは私だし……、なにも悪いことされてないから大丈夫だよ?」
彼女の頭を、綺麗な髪をなぞるように撫でながら私は話しかけた。
一時、私もシーラちゃんもなにも言わなかった。まるでお互いの存在を確かめるように少しの間、抱き合っていた。
囚われていた時は正直怖かった。けれど、私が怖い思いをした代わりにこの子があんな経験をせずにすんだのならそれでいいとすら思えた。
口は悪いけど、心は優しくてキレイなこの王妃様を守れたのだから……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
爆弾爆発しなくてよかった!
第31話 決意への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第31話 声東撃西の計
「シーラ様が進んでご写本をしようとなさるとは……珍しいこともあるものですね?」
コンサドーレの小言、というか嫌味が聞こえてくる。
「うるさい。昨日の罪滅ぼしだよ! 一晩経って頭冷やしたの! アクアには怖い思いをさせたしさ、反省してんだよ!?」
ワタシはいつものように目隠しされ、コンサドーレに手を引かれて階段を下っている。周りの空気が徐々に冷たくなっていくのを感じる。ワタシの大きな声は何度も反響していた。
「良い心掛けです。公にはドリゼラ様ではなく、シーラ様が連れ去られたことになっています。外に顔を出すわけにはいきませんが、『ご写本はたまる一方ですから。少しでも減らしておく必要があります」
「ドリゼラ姉さんの捜索、ちゃんとやってんだろうな?」
「どうかお言葉使いを改めて下さい……。もちろんです。王宮総出で、昨夜から今なお続けております。必ず無事に救出しますので、我々を信用して下さい」
コンサドーレの口調はいつだって変わらない。ドリゼラ姉さんはこんなやつのどこがいいんだろう? ワタシにはさっぱり理解できない。
「昨日はワタシが悪かったよ。けど、ドリゼラ姉さんの件を隠してたのは許さないかんな? ことが片付いたら絶対ぶん殴ってやるから覚悟しとけ?」
「王妃ともあろう方が暴力など……、すべてはシーラ様を想っての判断です」
「なんならワタシの代わりに戻ったドリゼラ姉さんに殴ってもらうか? 後方に三回転半して壁に激突するだろうがな。」
「お戯れを……。さぁ、階段はここまでです。お気を付け下さい」
目隠しが取られ、施錠された鉄扉が視界に入った。薄暗くて、いつもと変わらずとても静かだ。ご写本の間……、自分の意志で進んでここに来たのは初めてかもしれない。
王立図書館のご写本の間の中はとても広い、ワタシが使っている部屋と同じくらいの広さかな? 入って正面にワタシの顔より少し小さいくらいの羊皮紙の掛け軸がある。そこの向かいにご写本用の古びたテーブルがあり、監視役の侍女が見張る中ご写本を行うんだ。
前にテーブルから叩き落として少し破れ目が見える天書を机の上に置く。
「あら?」
王立図書館ご写本の場のテーブルの足の陰に小さな羊皮紙の紙切れが落ちている。(第一話参照)
「こ、これは」
そこにはシンデレラがいま最も欲しがっている情報が書き込まれていた。
これまで天書の書き込みの教えをいくつも実行してきた。
王宮脱走の時には、
金蟬脱殻の計
あたかも現在地に留まっているように見せかけ、主力を撤退させる。
を使ったし。
ドリゼラ姉さんをコンサドーレに近づけて懐柔する。
美人計
土地や金銀財宝ではなく、あえて美女を献上して敵の力を挫く。
普段から悪い言葉使いや暴力的な態度をして愚か者に見せかける。
仮痴不癲の計
愚か者のふりをして相手を油断させ、時期の到来を待つ。
今もコンサドーレに対して従属しているように見せかけている。
反客為主の計
一旦敵の配下に従属しておき、内から乗っ取りをかける。
瞞天過海の計は昨日使ったわね。
天書には本当になんでも載っている。
羊皮紙を見張の侍女に見つからないよう懐に仕舞う。
ワタシは服の中にその羊皮紙を隠す。
これでドリゼラ姉さんのことはなんとかなる。
そう確信した。
声東撃西の計
ワタシの声が外に聞こえているのかはわからない。けど、そんなのを確かめる必要もないと思った。たったひとつだけの欲しい情報さえもらえればあとは天書を信じて計を実行するのみ。後から処罰とかあるかもだけどワタシは構わない。
ワタシには……、そして囚われのドリゼラ姉さんには今この兵法36計が大事なんだ!
どんな「お悩み」にだって応える天書、王妃のお悩みに応えてくれてありがとう。
ワタシは意を決して、声東撃西の計の本質たる偽情報の語りかけを行った。
「ドリゼラ姉さんはそんなところに囚われているんだね、よしわかった、ワタシの大切な姉さんドリゼラ・トレメインを今すぐに救出なさい。」
ワタシが突然語り始めたことを怪しんで、見張の侍女は慌てて精細の報告のためコンサドーレの下へ走り去った。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
囚われの場所がわかってしまった!
編集済
第30話 解放への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第30話 兵法三十六計の第32計、空城計
『アメシストは見かけによらず腕は確かだ。下手な真似をしたら鮮血の雨が降ると思え?』
夜、私はベッドに寝かせてもらえた。部屋に入る前にダークが一言残していった。私の眠るベッドにもたれるようにしてアメシストさんも眠っている。囚われの私の方が待遇いいようで変な気を使ってしまう。
手足の拘束は変わらずそのままだ。自由のきかないストレスが溢れそうなところまできていた。思わず縄を引きちぎってしまいそうな衝動に駆られる。だけど、抵抗したと思われると、今は襲ってくる気配のないアメシストさんも豹変するかもしれない。
私って、自分が思っているよりずっと臆病だなと心の中で呟いていた。
ベッドに横たわりながら、カーテンのかかった窓に目を向けた。上の方にあるわずかな隙間から月明かりが漏れている。
王宮の人たちは私を捜してくれているのかしら?
シーラちゃんは……、コンサドーレ様はどうしてるかな?
物思いに耽りながら、徐々に瞼が重たくなっていく。極度の緊張を強いられて身体は限界を迎えていたのかもしれない。体温で暖かくなったベッドに溶けていくような感じがする。
そうして私はいつの間にか眠りについていた。
◇◇◇
「起きてください、シーラ様」
私はアメシストさんの声で起こされた。こんな状況でも身体は正直というか、疲労には勝てないというか、ぐっすりと眠っていたようだ。だけど、彼女の声に緊急性が漂っていたので、すぐに意識は覚醒した。
あれ? 私、目を覚ましたよね?
目覚めたはずなのに、視界にはなにも映っていない。
「申し訳ありません、目隠しさせてもらいました。できればずっとその状態でいて、なにも見聞きしてないことにしてほしいのですが……、シーラ様のご判断にお任せします」
なんだか今の生活になってから目隠し多いなあ……、――というか、今のアメシストさんの言葉はどういう意味だろう?
「行くぞ、アメシスト。もたもたするな?」
「女は準備に時間かかるのよ」
「隠れ家に仕掛けた爆弾はあと15分で爆発する、巻き込まれたくないだろう。」
なにも見えないけど、なにか慌ただしい雰囲気を感じる。
「少し心細いかもしれませんが、時機に王宮の人間がここに来るかと思いますのでご安心下さい。それでは、ご無礼致しました。王妃様」
「ご安心?さっき爆弾仕掛けて15分で爆発するとか物騒なことを言ってなかったか?」と心の中でつぶやいてみた。
アメシストさんの声と足音が遠のいて行くのが聞こえる。残されたのは静寂だけだ。
――ひょっとして、今、私ここにひとり?
耳を研ぎ澄ましてみても、話し声や足音はまったく聞こえてこなかった。
「むんっ!」
思い切り手足を広げると、私を拘束していた縄はあっけなく引きちぎれた。目隠しを外して周囲を伺ってみる。
人の気配が完全に消えていた。
私は、肩をぐるぐると回して、その場で2,3度飛び跳ねた。手足を自由に動かせるのがこれほど気持ちいいとは思わなかった。
ほんの少し前に聞こえてきたやりとりを思い出す。
『行くぞ、アメシスト。もたもたするな?』
『女は準備に時間かかるのよ』
『隠れ家に仕掛けた爆弾はあと15分で爆発する、巻き込まれたくないだろう?』
『――時機に王宮の人間がここに来るかと思いますのでご安心下さい』
察するに、王宮の人たちがこの居場所を突き止めたのかな? その情報を掴み、踏み込まれる前に爆弾を仕掛けて退散した、と考えるのが自然な気がした。
もしそうなら、王妃である私を殺す気満々じゃない。
人を無理やり連れ去るやり方が正しいなんて思わない。しかも爆弾でワタシごと吹き飛ばすとかゴリゴリの悪人たちじゃん。
「とりあえず爆弾の導火線ブチっと。」
いろんなことを考えながら、昨日の夜、月明かりが漏れていた窓のカーテンを開けた。眩しい朝日が目に飛び込んでくる。
陽は思ってたより高い位置にきている。連れ去られた身だというのに、ずいぶんと熟睡していたんだと少し自分に呆れてしまった。
「なんだか……いろんな話聞いちゃったなあ」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
唐突に時限爆弾は笑う。
第30話 解放への応援コメント
とりあえずは無事で何よりです。
元から聖女パーラ様に危害を加えるつもりはないから放置はありですが、教団がやってくる前に結構余裕をもって逃げることができるのは、教団内部から情報が漏れたと思うのが一般的。
そしてガーネットの関係者が教団内に繋がりがあると言ってましたが、すべて一方的な情報ですし、ひねくれた見方をすると、教団内に裏切り者がいると思いこませるのが目的とも考えられますね。
さてノワラちゃんが持ち帰る情報(どの程度話すかは分かりませんが)を教団がどう処理するのか。
そしてロコちゃんはノワラちゃんのためにどんなことしたのか。
特に後者へ興味津々です。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
あっさり解放されたノワラですが、この聖女連れ去り事件にはいろんな事情の人が絡んでいますね、ちょっとずつ明かされていきます。
第29話 閉鎖国家 への応援コメント
鎖国政策は外部からの干渉がなければ、それなりにうまくいくでしょうね。
特に女神様からのご神託という、どこにもない(と思われる)アドバンテージがあれば尚更。
だけど鎖国が絶対悪いとは言い切れないの確かで、周りの状況によっては最善策という事もあり得ると思います。
ノワラちゃんはその見極めができるか、そしてパーラ様の助けは間に合うのか?
この事件が二人の関係性を深めるのは確かだと思うのですが、袂を分かつきっかけにならないことを祈るばかりです。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
過去に他国の侵攻もあるので、それで危機に瀕していれば多少は変わったのでしょうが、女神様のご神託で、それすら乗り切っているのがこの国。閉鎖的になるのもある意味で仕方ないのかもしれませんね?
第27話 パーラの力への応援コメント
安心して報告を待てとな。
いやサフィール君、今更それを真に受ける人はいないと思いますよ。
パーラ様は自身の、聖女の立ち位置を確認できそうですね。
これにより教団の事をより知ろうとするかも?
教団には良い事ではなさそうですが、ご神託をきける唯一の女性。
折り合いがつくのか、教団が押し切る(正体を見せる)のか。
実はノワちゃんよりロコちゃんの方がやばい?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
サフィールは案外、事務的というかドライなのかもしれませんね?
第25話 代々の聖女への応援コメント
事態はとりあえず好転しましたね。
教団がノワラちゃん見捨てても命取られることはなさそうです。
まあその時は聖女パーラ様も謀反を起こしそうですがw
役目を終えた聖女がどうなったのか。
教団にしてみればご神託が聞ける人が重要なのであって、ただの人には価値を見出さない…そんな教団は潰れておしまい!って感じですが、さてどうなんでしょ?
実は、役目を終えた聖女は女神様になるとか?w
作者からの返信
コメントありがとうございます!
これもかなり先の方の話で出てきますね、お楽しみに!
第22話 教団の意思への応援コメント
相手からすると聖女だから価値があるのであり、身代わりなんて邪魔なだけ。
もし身代わりだったと公表したら、開放されるどころか命が危ういとは考えないんですかね。
ここは女神様のご神託に縋るしかない?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
最後はとてもいい発想ですね!
宗教国家グランソフィアへの応援コメント
うーん…ご神託に従えば侵略も防げるとなると、統治者にとっては普通に言われるご神託のようなあやふやなものではなくれっきとした予知。
そのご神託に従うだけ、言うなれば妄信している訳ですが、相手は女神様ですからね。
絶対的な宗教って考えれば、当事者にしてみれば当たり前w
ただ信仰や思想の自由は、少しで良いので認めて欲しいですね。
せめて白い目で見られる程度でご勘弁をw
作者からの返信
コメントありがとうございます!
強制的になったり排他的になると、本来の価値が揺るいでしまいそうですね……。
第17話 初めてのご公務への応援コメント
ノワラちゃん無事に聖女デビューできたみたいで何よりです。
それにしてもサフィール君はパーラ様の裏事情をあっさりとノワラちゃんに話すとは…信頼するには期間が短いですよね。
1.パーラ様が信頼しているから大丈夫!
2.何となくノワラちゃんに好意を抱いている?
2かな、2だと良いなw
作者からの返信
コメントありがとうございます!
苦労人なので、同じ苦労を分かち合える人がほしかったのかもですね?
編集済
第29話 閉鎖国家 への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第29話 鎖国
「シーラ様は『兵法』についてどう思われていますか?」
アメシストさんからの質問だった。
国書の教えには「兵法」について、『それに触れればその身が戦争に引き寄せられ、混沌と戦乱の時代の幕開けになる』とある。それは人々から「ネトウヨ」と呼ばれ、兵法という言葉自体が忌み嫌われるものとなっていた。
「この国で兵法は一種の禁忌とされ、口にすることすら許されないようになっています」
私が返事に窮しているからか、彼女は続けて話始めた。
「ですが、外の国では兵法の智慧によって軍需産業の発展とともに技術が大きく発展し、夜の街を照らす灯りがあったり、近年ではたくさんの人を一度に運ぶ馬車より速い乗り物の開発を進めていたりするそうです。軍事技術の民生化により国民の生活は豊かになるのです。」
初めて聞く話だ。
夜の街を照らす灯り……? 月や星よりも強い光が夜の街を照らす光景は想像できなかった。松明
ともまた違ったものなのかな?
「そんなものがあるんですか?」
私はただただその話に興味を惹かれていた。これまで一度も耳にしたことない話だったから。
「この国は他国との交易を規制して、人や物の出入りは「出島」と言われる特定の場所にしかありません。ですが……、これは『表向き』の話です」
私は絵本を読んでもらっている子どものようにうんうんと頷きながら話を聞いていた。
「表向き……、と言いますと『裏』があるのですか?」
「仰る通りです。規制しているがゆえに、他国でしか手に入らないものは非常に高価なものとなります。この国の裏側では、闇の商人と取引をして他国の品を高額で売買している者もいます」
「本当なんですか? いきなりそんなこと聞かされても信じられません」
そう答えると、少し離れたところにいたダークが一冊の、数百年は前に書かれたと思われる厚い表紙の古びた本を持ってきてアメシストさんに手渡した。
「これは『六韜三略』という兵法の基礎の仕組みや扱う方法などを記した書物です。他国の商人が持ち込み、王宮の大臣が買い取ったものです」
「大臣様が!? 天書の教えに反しているじゃないですか!?」
「『王妃』は王宮にいいよう飼われているんだな、まるで忠犬だ」
ダークの嫌味が聞こえてくる。
「ダーク、余計なこと言わない。王妃様は私の話に耳を傾てくれているのよ?」
彼は私の顔を一瞥して、また少し離れたところに行った。
「国民を守る目的での規制なら話はわかります。ですが、実際は王宮の一部の人間だけが他国からの物品・情報を受け取り、独占している。もしくは、高額で流して利益を得ているのです」
「えっと……、その『六韜三略』は本物なんですか? 今の話だと簡単に手に入らないんじゃ……」
「詳しく話せませんが、私の知り合いに大臣補佐官の深部と繋がっている者がいます。これはその者が所持していました」
アメシストさんの言ってることは本当なのかな? 嘘だとして、王妃にこんな話を吹き込んでなにか意味があるのか……? 私にはよくわからない。
「私は兵法について知り、他国へ行ってみたいと思うようになりました。ですが、王宮は、一部の任務を除いて国民の出入りを禁じています。これは私たちが生きるうえでの選択の権利を奪っていると思うのです」
そういえば、私の両親も特別な任務で国の外へ行くような話をしていた。この国では王宮から許可が下りなければ、他国へ行くのは許されないのだ。
「普通はこんな閉鎖政策の運営は成り立たないと思うのです。ですが、それを可能にしているのが『天書の写本』です。ゆえに、私たちは知りたいのです。天書の著者とは何者なのか? 写本とはなんなのか?」
アメシストさんが騙そうとしているようには思えなかった。私が単純なだけかもしれないけど。
ただ、代々の王妃様の行方や国の外へ出てはいけない理由とか……、こうして言われるまでは全然疑問に思わなかった。
他国への出入りを許してしまうと、王宮の一部の人が利益を独占できなくなるから?
仮にそうだとして、それなら王妃様の行方の話はなに? 関係性がよくわからない。
「私たちは手荒なことをするつもりはありません。ただ、今の話を聞いて、もし国の在り方や天書の著者について少しでも疑問に思われたのなら、王妃様の知っていることを教えてほしいのです」
アメシストさんは、嘘偽りがない意思表示かのように私の目をじっと見つめてきた。私が天書について話せるとしたら、シーラちゃんの言っていたことだけ。
『7の文字だけはかろうじて判別できる。』
この人たちに話してしまっていいのか。
おそらく著者は七星の賢者様。
ううん、シーラちゃんが絶対ダメって言ってたもの。
「アメシストさん、たちの話はわかりました。私に考える時間をくれませんか?」
絶対に話してはいけない、そう言われたのに……。大事な友達のシーラちゃんからの頼みなのに、私の心は揺らいでいた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
本編から話が変わってきた!
第28話 憧れへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第28話 憧れ
夜、真っ暗な部屋の中にワタシはいた。外は月明かりが頼りないかすかな光を届けてくれている。ワタシはまた閉じ込められていた。
親衛隊の女騎士が部屋に中に2人もいる。きっと扉の外にも何人か見張りがいるんだと思う。
王宮の中にはワタシ専用の部屋がひとつ設けてある。ふかふかのベッドがあって、食事も勝手に朝昼晩と運ばれてくる。キレイでかわいい家具が並んでいて、まるでお金持ちの家のお嬢様にでもなったような気持ちにさせてくれる。
実家で暮らしていた時とはまるで別世界だ。
あの頃は、ワタシ一人だけ物置の衣類の引き出しが重ねて並んだ横の狭いベッドで一人寝ていた。食事も質素なもので、いつも少ないと嘆いてお腹空かしてもしてたっけ……?
実家の中では最年少だったから、食事の準備や洗濯、掃除も全部手やらされて、トレメイン婦人や二人の姉の面倒もたくさんみていた。いつもいじめられていたけど、双子の姉のドリセラ姉さんだけはそれなりにワタシに気を遣っていてくれることがわかってたから、まあまあ救いもあったかな?
実家からは18になったら仕事を見つけて出て行けと言われていた。早くに実の母親を亡くして今の歳になるまで特に母親が欲しいと思ったことなどもなく、ワタシはいよいよ仕事探しをしないといけないとは思っていた。
実家でいろんな仕事を押し付けられていたけど、お世辞にも真面目とはいえなくって、いかに要領よくやってサボるかばかり考えていた。
一応、18になっていくところがなければ、住み込みでどこかの教会のなかで働かせてもらえればなと考えていた。
後から知ったけど、実家は実の父親の父、つまり祖父の支援によって成り立っていたらしい。
王子様や王宮への憧れはあった。
だけど、それは「王宮」という華やかな「感じ」にだけだった。トレメイン夫人や姉さんたちが着飾って出かけ他後、買い物ついでに王宮の近くを歩いたり、たまに通る貴族令嬢の馬車に憧れたり、その程度でもよかった。
前の王妃様は肩が隠れるくらいまで伸びた真っすぐで金色の髪、陽の加減によって時に翡翠のような色にも見えて、本当にキレイだった。
ワタシも生まれ変わったら、お金持ちの家に生まれて、あんなキレイな姿で街を歩きたいとか思っていた。
そのワタシが王子にみそめられるなんて思っていなかったから……。
太皇后エリザベート様とは王妃の着任式で一度顔を合わせたきりだ。間近で見るとそれはもう目がくらみそうになるくらい美しい人だった。ワタシもこんなふうになれるのかな、って期待と不安が入り混じった感情が込み上げてきたのをよく覚えている。
今のワタシは「王妃シンデレラ」だ。誰からも「王妃様」、「シーラ様」と頭を下げられ、王立図書館に集まった人たちから羨望の眼差しを向けられている。きっと今のワタシは、憧れたエリザベート様のようにみんなの目に映っているのだと思っていた。
けど、その王妃の本当の姿はなんの「力」もない、ただ天書の写本をするだけのお飾りだと思い知らされた。ワタシが叫んでも、命令しても誰も見向きもしない。
王妃として王宮に入ってから生活に不自由はなにひとつなかった。公務と写本ばかりで自由はほとんどないけれど、お腹が減ることも、着るものに困ることも、寒さに震えることもなくなった。
ただ、楽しくおしゃべりできる人が全然いなくてとにかく退屈だった。刺激がほしくてこっそり宮殿を抜け出したりもした。
そして、再会したのがドリセラ姉さんだ。
ドリセラ姉さんは、鏡を見てるみたいにワタシとそっくりだった。それは当たり前なのだけど、男を吹っ飛ばしたり、屋根の上まで跳べたりとわけわかんない身体能力をもってる、とても双子とは思えなかった。そのくせ、奥手でかわいいところもあって、ワタシよりずっとしっかりもしている女の子だ。
ドリセラ姉さんと一緒だと退屈しない。王妃になってそんなに楽しいと思ったことないけど、ドリゼラ姉さんと一緒になってからは楽しかった。だから、彼女がワタシの身代わりで危険な目に合ってるなんて許せない。どうにかして助けたい。
助けたいのに、ワタシにはなにもできない。
「王妃ってなんなんだよ……」
ワタシは暗い部屋でベッドの毛布に包まりながら呟いていた。この夜をドリゼラ姉さんはどんなふうに過ごしてるのだろうか……。想像するだけで胸が苦しくなる。
本当にワタシにできることはないの? 王妃なんてもてはやされてるけど、結局実家でいじめられていた時と同じ、普通の女の子じゃんかよ……。
いや……、待って!
あるじゃんよ! ワタシにできること……。いいや、ワタシにしかできないことが! ドリゼラ姉さんを救えるかもしれないことが!
作者からの返信
コメントありがとうございます!
要領よくやってサボるシンデレラ(笑)。
第27話 パーラの力への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第27話 シンデレラの権力
「ドリゼラ姉さんが連れ去られたこと隠してただろ!? そんなお前を信用できるか!」
コンサドーレの顔を見るだけでぶん殴りたい衝動が湧き上がる。――っていうか、あとで絶対にぶん殴る。
「ドリゼラ様の件を隠していたのは謝ります。シーラ様に余計な心配をかけさせないためです。そんな真似をしなくても、王宮は今、総がかりでドリゼラ様を捜索しております」
――総がかり?
「だったらなんでコンサドーレはここにいる!? この周りに集まってるやつらはなんだ!? ワタシを見張ってるやつらもまとめて捜索にまわせよ!」
なにやってるかわからない連中が雁首揃えてここにいる。
さっさとドリゼラ姉さんを捜しにいかせろよ?
ドリゼラ姉さんは間違いなく、ワタシの代わりに連れ去られたんだ。ワタシの影武者なんてするから危険な目に合ってるんだ。
「ワタシだって手伝いたい! ワタシのせいでドリゼラ姉さんが危険なんだろ!? こんなところでじっとしてられるか!?」
ここに集まってるやつらは、困った顔をして狼狽えてるだけでなにもしていない。今、この瞬間もドリゼラ姉さんが怖い目に合ってると思うとそれだけイラつく。さっきまでそれを知らなかった自分にも腹が立つ。
侍女のアクアには悪いけど、この茶番に付き合ってもらってる。ここにいるやつらを動かせたらそれでいい。
「シーラ様、どうか落ち着いて下さい。人にはそれぞれ役割がございます。ドリゼラ様の捜索はそれに相応しい人間が動いております。ですから、安心してご報告をお待ち下さい」
コンサドーレがいつもの口調でこう話した時、かすかに視線がワタシじゃなく、その後ろへいったのに気が付いた。
――けど、気付いたのが遅かった。
コンサドーレと睨み合ってるうちに、後ろに回り込んでいたやつがいたようだ。多分、親衛隊の男だと思う。
ワタシは背中から組みつかれて手を背中に回された。侍女のアクアは、別の男が手を引いてワタシから引き離された。手首を強い力で捻られて、持っていた竹串を落とした……、竹串は音もなく床に落ちて張り付いた。
後ろ手に、両手首を強く握られ抵抗できなくなった。
ワタシにドリゼラ姉さんくらいの力があったらいいのに……。
正面にコンサドーレが立ったので、精一杯の抵抗で思い切り睨みつけてやる。
「シーラ様、さすがにおいたが過ぎるのではありませんか?」
「ワタシは王妃シーラだ! 王妃からの命令だ! ここにいる者は皆ドリゼラ・トレメインの捜索にあたりなさい! 今すぐにだ!」
ワタシは大声で叫んだ。目の前のコンサドーレにではない。後ろにいる、集まっている連中に向けてだ。
だけど、そこにいた大臣やや職員たちは足早に立ち去っていく。誰もワタシの方を見ようともしない。コンサドーレは無表情にワタシの顔を見つめている。
「王妃の命令だぞ! どうして誰も言うことを聞かない!? 早くドリゼラ姉さんを捜しにいきなさいよ!」
「お止めなさい、シンデレラ様。あなたに……、王妃にそんな『力』はありませんよ」
コンサドーレは、これまで聞いたどの台詞よりも冷たくそう言った。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
圧倒的に異彩を放つ竹串……。
編集済
第26話 暴挙への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第26話 兵法三十六計、第一計、瞞天過海の計
「きゃーっ!! 誰か! 誰か来てください! シーラ様がっ!」
王宮の中に侍女の叫び声が響き渡った。辺りにいた大臣や事務官たちが集まり、人だかりができていく。
その中心には、王妃シーラとその侍女がいる。侍女は、シーラによって後ろから首に手を回され、目に竹串を突き付けられていた。
「総大臣をここに連れ来いっ! 言うこと聞かないとこの女の目ん玉潰すぞっ!」
叫び声に続いてシーラの声が響き渡る。公務で大衆に向けて言葉を贈る彼女は、声の響かせ方を心得ているようだった。
「シーラ様、おやめください! あなたはご自身でなにをなさっているのかわかっているのですか!?」
司書コンサドーレが人だかりから一歩前へ出て、シーラの正面に立つ。
「コンサドーレ!そこから一歩でも近づいたら目ん玉突き刺すからな! 早く総大臣キシーダを呼んでこい!」
「落ち着きなさい! 私がシーラ様の要求を聞きます。ですから、まずはその者を解放しなさい」
シーラは突き付けていた竹串をほんの少しだけ女性の目に近付けて見せる。
「ドリゼラ姉さんが連れ去られたこと隠してただろ!? そんなお前を信用できるか!」
――時は少し遡る。
王宮の一室に閉じ込められたシーラの元に食事が運ばれていた。侍女がワゴンに乗せた料理をテーブルに並べている。この侍女は以前からシーラの食事を運んでおり、彼女とは時折会話を交わす仲だった。
また、身近に仕えるがゆえに、ドリゼラ・トレメインについても知っている人物でもあった。
「ドリゼラ姉さん大変なんだよね? マジで大臣たちなにやってんだろうね?」
シーラは世間話をするように侍女に話しかけた。
「心配ですね、ドリゼラ様。どこに連れ去られたのか、まだわかっていないみたいなんです」
シーラは、最後のデザートの串団子のお皿を並べる侍女の右手首を掴んで強く引いた。
「ドリゼラ姉さんが連れ去られたって? 公務でなにがあったの?」
シーラは険しい顔で、声を潜めて尋ねた。侍女は今になって、自分がかまをかけられていたと気付いたのだった。
「くっ…詳しくは存じませんが、ご公務の際、何者かに連れ去られて今も捜索中と聞いております」
その侍女は、失敗したと思いつつもいっそ半端に話すよりは知っていることを全部話してしまおうと思った。――とはいえ、ドリゼラが連れ去られて、今も捜索中……、それ以上に話せることはなかった。
『コンサドーレのやろう……、なにがドリゼラ様は疲れて家に帰っただ? っざけんなよ!?』
シーラははらわたが煮えくり返りそうになっていたが、感情を表に出さずに侍女に落ち着いた口調で話しかけた。
「えっと、アクアだっけ? たしかドリゼラ姉さんと話したこともあったよね?」
その侍女……、アクアはこくんと頷いた。
「ドリゼラ様は、気さくな方で……、時々お話できるのがとても楽しみでした。ですので、とても心配しております」
シーラは彼女に顔を近づけ、目を覗き込むようにして言った。
「ドリゼラ姉さんを一刻も早く助けたい。だからアクア、ちょっとだけ私に協力してくんないかな?」
シンデレラは一気に串団子を口に押し込み竹串を天にかざした。
「これは天書に書かれていた兵法三十六計のうち第一計、瞞天過海(天をあざむき海をわたる)の計よ。
アクア、お願い。」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
サブタイが複雑になってきた!
第25話 代々の聖女への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第25話 死なない代々の王妃たち
「王妃シンデレラ、お前に聞きたいことがある。手荒な真似をするつもりはない」
私は息を呑み、正面のダークの顔を見つめて次の言葉を待った。
「『天書の著者』は何者だ? 七星の賢者か?八星魔王オクタグラムか?写本をしている王妃ならわかるだろう?」
はい、ごめんなさい。王妃じゃないのでわかりません……。
心を中でそう謝りながら、彼の質問の意味を考えた。天書の著者が何者、と言われても「文筆家か小説家」なんじゃないの? それ以外の答えってあるのかしら?
そういえばシーラちゃんが前に、国書の表紙はボロボロで著者名は読めない、かろうじて「七」を意味する文字が判別できるくらい、と言ってた。ありゃ、正解わかっちゃったけど言っていいのかな?七星の賢者様が正解でーす。
と心の中で言ってみた。
奇妙な質問を受けて、逆に私の頭に正解が湧いてきてしまった。
「国書については口止めされているようだな?」
私に視線を合わせていたダークが、見下ろすように立ち上がった。さっき見張りの男が刺された光景が脳裏に過る。怖いけど縄を引きちぎって抵抗したほうが、まだ助かるかもしれない。そう思ったとき……。
「ダーク?王妃様には手を出さない……? 約束したよね?」
部屋にいた女性の声が聞こえてきた。とても、澄んでいて落ち着いた……けれど、強い意志を感じる声だった。
「わかっている。女に手を出すほど落ちぶれていない」
彼はくるりと私に背を向けて離れていった。代わりに今声の聞こえた女性が近寄ってくる。
茶色の真っ直ぐな髪が腰まで届きそうなほど伸びていた。切れ長の目と長く伸びたまつ毛がとても綺麗で目を奪われた。ただ、初対面のはずなのになぜかどこかで見たことあるような気もする。なんでだろう……?
「はじめまして、王妃シンデレラ様。私はアメシストと申します。此度の行い、怖い思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません」
アメシストさんは立ったまま少し前屈みになって私の顔を覗き込むように話しかけてきた。
「私たちは……、とある目的で行動を共にする同士たちの集まりです。どうしても天書の著者について知りたくて、このような無礼を働きました」
「とある目的」てなんだろう? あえて伏せているくらいだから聞いても教えてはくれないかな。
しかし、2人に揃って天書の著者のことを訊かれてもいきなり正解を話してしまったらいろいろ終了しそうなので私は話せないのだ。
「天書の著者について話せないなら質問を変えよう。太皇后エリザベートに会ったことはあるか?」
太皇后エリザベート様……、シーラちゃんの義母様で王妃に選ばれる前の先王妃様だった人だ。ダークは急になぜ先代の王妃様の名前なんか出してきたのだろう?
「あ……会ったことはありますが、恐れ多いのでそんなに話したことはありません。」
ずっと話さないでいるのが辛かったので、答えられる質問には答えたくなっていた。王立図書館でエリザベート様をお見掛けしたことはない。シーラちゃんは会ってるだろうけど……。
「先王妃ナザリア様とは?」
ナザリア様はエリザベート様の前の王妃様のはず。
王妃様は王が代替わりすると当然新しい王妃に写本義務を移す。シーラちゃんが王妃様になってからはまだ1年経っていない。ナザリア様より前のお方の名前はすぐには出てこなかった。
「ナザリア様とは会ったことありません」
どうして以前の王妃様のことを聞くのだろう?
「王妃シンデレラよ、お前は疑問に思わないのか? 王妃だった者たちがその後どうしているのかを?」
問われるまで気にしたことすらなかった。王妃様になった方がその任を終えた後はどうしているか……。
そういえば王が亡くなった話は聞くが、王妃が亡くなった話は一度も聞いたことがない。
恐れ多くも王妃殿下が亡くなれば国葬などを行うはずなのに。
「その顔は考えもしなかった、といったところか……。どこまでも王宮に従順で盲目な女だ」
急に吐き捨てるような言い方をされて、私はむっとしてしまった。
「ダーク。そういう物言いは控えなさい」
アメシストさんが彼をたしなめている。
「シンデレラ様、ご無礼をお許しください。私たちは今の王宮の内閣の在り方に疑問をもっています。特に天書写本と王妃様について、です。それが知りたくて現役の王妃様と直接お話がしたかったのです。やり方が間違っているのは承知の上です」
アメシストさんは相変わらず、私に視線を合わせながらそう言った。ずいぶんと手荒な方法でここへと連れて来られたが、彼女は普通に話せる人だと感じた。
「『王妃』なんて、天書のご写本を行う以外は王国にとって単なるお飾りでしかないのだろう? 天書の著者名について以外は聞くだけ無駄かもしれんな」
ダーク……、この男の言葉には棘がある。けれど、間違ってはいないような気がした。もっともここにいる私はそのご写本すらできない身代わりなんだけど。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
話が本編と分岐してきた!
第24話 冷徹への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第24話 暗黒
叫び声をあげたいのに口に巻かれた布が邪魔している。声にならない悲鳴、じゃなくて声にできない悲鳴をあげていた。
息が苦しくなる。それに酸っぱいものが込み上げてくる。固く瞑った瞼の隙間から涙が溢れてくる。
多分! 多分だけど、目の前で人が刺された。死んだ。殺された。見間違いじゃない。なにこれ? どうなってるの? 頭おかしくなっちゃうよ?
頭の中が大混乱したけど、次に込み上げてきた感情はとてもシンプルなものだった。
――助けて……。
そう思ったとき、肩に誰かの手が触れた。反射的にびくっと痙攣するように身体が反応した。恐る恐る目を開けると、さっき姿を見せた男が目の前にいて……、私の口に巻かれた布を取ってくれた。
「大きく息を吸え。そして慌てず……、ゆっくりと……、少しずつ吐き出せ。気持ち悪かったら胃の中もここで吐いてしまえ」
男のぶっきらぼうな声は、不思議と安心感があった。私は喉から音がするほど荒い呼吸を何度も繰り返した。そして、ついには堪え切れずにその場で嘔吐してしまった。
涙も鼻水も一緒に流れ出して、その顔はもう人に見せられるものじゃなかったと思う。声をかけてくれた男は、私の背中を優しくさすってくれていた。
呼吸が落ち着くと、男は柔らかい布で顔を拭ってくれた。そして、縛られた腕を掴んだかと思うと、引っ張り上げて私を立ち上がらせた。
「場所を移そう」
男は私の顔を見て、それだけ言った。
「お前はここを掃除をしておけ? 次に妙な気を起こしたら寝てるやつと同じ目に合わせる」
太った男に対しては、そう言い放ったのが聞こえた。
視界の端に倒れた男の腕と血だまりが映った。私は再び込み上げてくるものを我慢して、それから目を逸らした。
男に腕を……、というか肘の内側あたりを引かれて、私はさっきの倉庫から出て明るく広い部屋に連れてこられた。そこには隣りの男とは別に、もう2人ほど人がいて、揃ってこちらを見ていた。1人は30歳くらいの男性、もう1人は私より少し年上くらいに見える女性だった。
「ダーク、その血はなんだ? なにがあった?」
部屋にいる男性が言った。その言葉で私は、服も血の飛沫で汚れているのに気が付いた。
「余計なことをしよとしたやつを始末しただけだ。人手が必要とはいえもう少し仲間は選んだ方がいい」
「ダーク」と呼ばれた男は感情のこもらない声でそう答えた。銀色に近い灰色の髪が耳を覆うように伸びている。身長は私よりちょっと高いくらいで、男性にしては小柄な方かと思った。ただ、背中がとても大きく、胸や腕がごつごつとして力強さを感じさせた。歳は……私と同じくらいなのかな。
ダークに引っ張られて、私は部屋に置かれて椅子に座らされた。よくよく見ると他にも椅子とテーブルがいくつか並んでいる。料理屋とか酒場のように見えるけど、薄っすら埃が積もっていて、最近使われた形跡がなかった。
「王妃シンデレラ、お前に聞きたいことがある。手荒な真似をするつもりはない」
ダークは私の真正面に立って、視線を合わせるように少しだけ屈んでいた。
私に聞きたいこと?
――とは、いってもここにいる人が話を聞きたいのは「王妃シンデレラ」であって、私ではない。かといって、別人だと言ってしまっていいのかもわからない。正直に話しても嘘だと思われるだけのような気もする。
だけど、あんな簡単に剣で人を刺してしまう人を目の前にして抵抗する勇気もない。拘束はその気になったらいつでも解けそうなんだけど……。
どうしよう、どうしよう……。
とりあえず、黙ってダークというな名の男の話を聞いてみようかしら。幸い、手荒な真似はしないと言ってくれているし……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
サブタイに変化が出てきた!
第23話 危機への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第5章 嘘と真
第23話 危険
「王妃様って間近で見るとかわいさ半端ねェな……」
「マジでヤバいっすよ、これ!」
私はどこかの地下倉庫ようなところに連れてこられていた。頭に被せられてた麻袋みたいなのは取ってもらえたけど、口に布をきつく巻き付けられて声を出せない。手足も揃って縄で結ばれていた。
最初は暗くてよくわからなかったけど、目が慣れてくると、ご近所の酒場の古いお酒を保管している地下室によく似た雰囲気のところにいるのがわかった。地面は冷たくて、ちょっとだけかび臭い。
目の前には、ひょろひょろの軟弱そうな男と、それとは正反対の太った男が立っている。きっと見張りをしているんだと思う。
男2人は時々こちらを見ては、下品な話し方で私の容姿の話をしていた。一応、褒めてくれてるようではあるけど、この状況だと身の危険を感じてしまう。
危なくなったら手足の縄を引きちぎって抵抗しよう。私の力なら多分それくらいできる。捕まったときは気が動転してたし、脅されて固まっちゃったけど、その気になったら大の男でも気絶させるくらい訳無い……と思う。
だけど、この倉庫の出口がよくわからないのと、私をここに連れ込んだ連中が何人いるかもわからないから、今は抵抗しないで大人しくしていよう。
もし私の体に手を出そうもんなら、大事なとこを再起不能にしてやるから……。
――と、そんなこと思いつつも、内心恐怖でびくびくしています。
いざという時、本当に抵抗できるかしら? 今でも身体が強張って、小刻みに震えているのがわかる。見張りの男たちとはなるべく顔を合わせないようにしているけど、見られるたびに心臓が飛び跳ねている。
私ここにどれくらいの時間いるんだろう? 気絶はしてなかったと思うけど、陽の光も全然入ってこないから時間の感覚がわからなくなってる。
当たり前だけど、この人たちって私を王妃シンデレラ様と思って誘拐したのよね?
なんで王妃様を連れ去ったりするんだろう?
王国からお金でも巻き上げるつもりなのかしら?
話せないし、手足も動かせないから、ただただずっと考え事をしていた。そうでもしないと心が恐怖に負けてしまいそうだったのもある。時が経てばきっと王国の人が助けに来てくれる……よね?
「オレやっぱ我慢できないっすよ!?」
「手ぇ出すなってグレイの兄貴から言われてるだろ?」
「ちょっと触るくらいならいいんじゃないすか? 減るもんじゃないし?」
「そっ…それもそうだな、ちょっとだけならいいか?」
なんか最低な会話が聞こえてくる。
お願いだからこっち来ないでよ。
来たら、本気で潰すからね……、折っちゃうからね……。
私の願い……、いや祈りとは裏腹に見張りの男2人がこっちに歩み寄って来た。その表情を見るだけでなにを考えているかが理解できた。本当に下品な顔をしている。
1ミリでも触れたら一生後悔させてやるんだから……。
私は両手足に力を込めて縄を引きちぎる準備をした。正直怖いけど、こんなところで変な男に体を触られるくらいなら、死ぬ気で戦ってやるわよ。
そう決心したとき、あることに気が付いた。
影だ……。この部屋に光が射してる。思わず顔を上げると、正面には直視するのも嫌になるイヤらしい顔をした男の顔が2つ並んでいた。
そして、その後ろにもう1つ……、いいえ、もう1人、さっきまでいなかった男が立っている。
――えっ!? なんか飛んできたっ!?
私の頬になにかの飛沫がかかった。一瞬とても不快な気分になったけど、数秒後、その不快感は別のものに変わっていた。
ひょろひょろの男のお腹から、真っ黒な液体に汚れた美しい刃が突き出していたからだ。
第22話 教団の意思への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第22話 内閣の意思
王宮の2階には会議室が設けてあった。十数人の審議官たちが集まり、そこで王妃シンデレラが連れ去られた事件について話し合いがなされていた。中央の席には最高位のキシーダ総大臣が、その左横の席には官房長マッツオが、末席にはコンサドーレの姿もあった。
ここに集まった者は皆、今回連れ去られた人物が王妃シンデレラ本人ではなく、身代わりの姉ドリゼラと知っている者たちだった。
「司書コンサドーレが付いていながら、なぜこのような事態になっておるのか!?」
「お言葉ですが、司書コンサドーレは兵士ではありませぬ。守れなかった親衛隊にこそ問題があるのでは?」
「それよりも事前に防げなかったことの方が問題です。内閣に反旗を翻す者たちがいる話は前々からあったではございませんか?」
「とにかく、早急に連れ去られた身代わりの王妃を捜し出さなくては……。かん口令を敷いておりますが、民衆の目の前で起こったことです。噂が広がるのは時間の問題かと」
「事件を見た者たちは本物の王妃様が連れ去らわれたと思っております。騒ぎが大きくなる前にいっそのこと、連れ去らわれた者は身代わり、と公表してしまった方がよいのでは?」
「影武者を立てていたことも問題にはなるでしょうが、事態を収拾させるにはその方がよいかもしれませんな?」
「連れ去った者共も、身代わりとわかれば案外解放してくれるかもしれませんぞ?」
さまざまな意見が飛び交う中、しばらく無言でいたマッツオが口を開いた。
「各々の意見を加味したうえで……、今日と明日をドリゼラ様の捜索にあて、シーラ様にはご公務をお休みいただく。それでも万が一、居場所を突き止められなければ、身代わりだと公表し、シーラ様に改めてご公務に復帰してもらう、これでいかがでしょう?」
マッツオの意見に対して誰も意義を申し立てなかった。誰もこの件に関しての責任をとりたくないのが窺えた。
「キシーダ様、いかがでしょうか?」
マッツオを隣りに座るキシーダにも問い掛ける。
「うむ、皆、マッツオの指示に従いましょう。まずは一刻も早くドリゼラ様の居場所を突き止め、救出するのです」
キシーダはここで一呼吸置いてから後を続けた。
「万が一、2日かけてドリゼラ様が見つからなかった場合は……、また、その時話し合いを致しましょうぞ」
総大臣の話が終わると会議は解散となった。
果たしてここに集まった者たちのなかに、王国内閣の地位や名誉、今後の活動についてではなく、ドリゼラの身を真に案じている者がいたのだろうか。
それは誰にもわからなかった……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
内閣!?
第21話 予感への応援コメント
うわー、なんだかきな臭くなってきましたね。
作者 武緒さつき♀
第21話 予感
「あっれー、コンサドーレじゃん? ドリゼラ姉さんはどったの? 一緒に帰ってきたんでしょ?」
ワタシが今日の写本を終えて、ご写本の間から戻ってくるとサフィールの姿があった。けど、ドリゼラ姉さんの姿が見当たらない。
「ドリゼラ様はつい先ほど、お家へ帰られました」
コンサドーレは感情のない返答をくれた。まあ、いつものことだけど。
「うっそー!? ワタシの写本終わるまでいつも待ってくれてんのに!」
「今日は余程疲れたのかもしれませんね」
今日の公務ってそんなに大変な数あったっけ?
――ってか、あの体力お化けのドリゼラ姉さんがそんな簡単にへばったりする?
いやいや、それよりワタシに一言もなしで帰っちゃうなんて今まで一度もなかったし。
「ねぇ、コンサドーレ。それマジなんよね?」
「当たり前です」
「わーった。じゃあさ、ワタシ今からドリゼラ姉さん家行くから馬車準備して」
「なりません」
「なんでさ?」
「ドリゼラ様はお疲れのはずです。明日からしばらく休暇を頂きたいとも申しておりました」
コンサドーレは淡々と、間を置かずに返事をする。
「嘘だね!」
「嘘などついておりません」
「いーや、絶対嘘だ! ドリゼラ姉さんがワタシに一言もなしにそんなこと言うはずないじゃんよ!?」
「ドリゼラ様は昔あなたをいじめておられたそうではありませんか。シーラ様になんでも話すと限らないでしょう」
なんだかイラついてきた。たしかになんでも話してくれるかはわかんないけど、少なくともワタシは、コンサドーレよりはドリゼラ姉さんを理解してる「はず」なんだ。
「わかった、もういい! 官房長か総大臣様に訊いてくる!」
「お二方とも今、大変忙しくしております。どうかお控え下さい」
「そんならやっぱりドリゼラ姉さん家行く! 馬車が出せないなら歩いて行くかんな!」
顔を逸らしてずんずん歩き出すワタシの前にコンサドーレは立ちはだかった。部屋の扉の前で両手を広げて、ここは通さないと意思表示しているみたいだ。
「外は今、大変騒がしくしております。どうか落ち着くまではここで休んでいてください」
「どけ! ワタシはドリゼラ姉さんに会いたいだけ、会って話したいだけなの! なんも悪いことしてないじゃんよ!? 写本もちゃんとやってきたじゃんよ!?」
長身のコンサドーレの顔を見上げて言い放つ。こいつ絶対なにか知ってて隠してる。
「……申し訳ございません、シーラ様。ご無礼をお許し下さい」
――はっ!?
次の瞬間、ワタシはコンサドーレに突き飛ばされていた。その場に尻もちをつく。お尻から床の冷たさがジワリと伝わってくる。呆気にとられている間にあいつは部屋を出て、扉を閉めていた。
錠のおちる音がした。しまった、この部屋、中から鍵開けられないじゃんよ?
「っざけんなよ! こら! 開けろっ! ドリゼラ姉さんどうしたんだよ!?」
ワタシの声は虚しく部屋の中をこだまするだけだった。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
微妙にシンデレラ要素入ってくるの笑う。
第20話 事件への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第20話 事件
「ここに集まった皆様に、天書の教えの祝福があらんことを!」
「「「「「 祝福があらんことを! 」」」」」
王立図書館の広場でいつもの唱和を行った。これをするときは、いつも心の中で「ごめんなさい、私は王妃シンデレラ様じゃないのよ」と謝っている。
いつも通り、宮殿の親衛隊の人たちに囲まれて宮殿の王立図書館を後にする。中では「王妃様」、「シンデレラ様」の声が響き渡っていた。
人だかりは外に出ても続いている。周りからたくさん声をかけられるが、ここにいる人全員を騙しているようで気の毒に思えてきた。
護衛の方々が人込みをかき分け、コンサドーレ様が先導して開いた道を進んでいく。すると、人込みの中から押し出されるように、1人の男性が倒れ込んできた。
コンサドーレ様よりも、護衛の方よりも、多分ほんの少しだけ私の方が彼に気付くのが早かったのだろう。
「あの…大丈夫ですか?」
両手をついて立ち上がろうとしているその男性に、私は手を差し伸べた。彼は顔を上げて、そして私と目が合った。その顔はかすかに笑ったように見えた。
――えっ?
その刹那、なにが起こったのかはわからない。
ただ、視界が真っ白になって目を開けていられなくなった。
そして、今度は足元から地面がなくなった。
誰かに抱えられたのには、ちょっと遅れてから気が付いた。
――なにこれ!? ひょっとしてヤバいやつじゃないの!?
私は大声を上げようとした。だけど、次の瞬間には頭からなにかを被せられていた。
視界は真っ白から真っ黒に変わった。どっちにしても見えないんだけど……。平衡感覚が狂っていて、今どんな姿勢でどうなっているかわからない。ただ、誰かに担がれて運ばれているのだけはなんとなくわかった。
叫び声と怒号と罵声と物音とが、全部混ざって耳に飛び込んでくる。
とにかく無我夢中で見えない自分の手足をめちゃくちゃに動かした。呼吸が苦しかったけど、被り物の下から叫び声も上げた。
「暴れんな!! ぶっ殺すぞっ!?」
この一言で、私の身体は固まってしまった。
さっきまで耳に届いていたどの音よりも大きくて、鮮明で、意思をもって、その言葉は伝わった。
いろんな雑音が徐々に遠のいていくのがわかる。
かすかにコンサドーレ様の声で「シーラ様」と聞こえたような気がした。
第19話 胸中への応援コメント
武緒さつき♀
第4章 口火
第19話 胸中
私が王妃様の影武者を務めるようになって三月ほど時は流れた。絶え間なく続くご公務の日々を、私とシーラちゃんは半々にこなしていた。
真実を知っている人を除いて、私の影武者シーラ様は驚くほど、誰にも気付かれなかった。気付かれたらそれはそれで困るんですけどね……。
本物のシーラちゃんとは、もう前世からの知り合いってくらいに仲良くなっていた。彼女のことを知れば知るほど、口は悪いけど素直ないい子なのが伝わってくる。――面倒くさがりで時々癇癪を起こすときはあるけど、それも含めて可愛く思えた。
コンサドーレ様との関係は1ミリも進展していない……。それはまあ、いいのよ。
「ドリゼラ姉さんって奥手だよねー? あんな男ちょっと押したらいちころじゃないの? 絶対ドリゼラ姉さんのが力強いしさ?」
「『押す』って物理的な押すなの? いいのよ。私は別に焦ってないし今のまんまでも十分楽しいし」
ご公務へ赴く前に私はドリゼラ姉さんと軽い談笑を交わしていた。今は周囲に誰もいないので、普段通りの話し方をしている。
「そろそろコンサドーレ様がお見えになる頃だわ。シーラちゃんはご写本サボったらダメよ?」
「わーってるよ。ドリゼラ姉さんまで小言言わないでよね?」
宮殿の廊下の奥にコンサドーレ様の姿を見つけた。こちらに向かってくる。外へ出る時間が迫っているんだ。
「ごめんごめん。それじゃ、また戻ったらね?」
「ドリゼラ様、本日もよろしくお願い致します……ってね?」
ドリゼラ姉さんが変な声色で急にかしこまった言い方をする。なにかと聞こうとしたけど、コンサドーレ様との距離が近かったので、それ以上話すのを止めた。
「ドリゼラ様、本日もよろしくお願い致します」
私の正面でコンサドーレ様はいつも通り深く頭を下げた。
シーラちゃんのさっきの台詞、これかーっ!?
隣りにいる彼女に目をやると、笑いを堪えるのに必死な表情をしていた。危ない、こっちまで吹き出しそうになってくる。
「ドリゼラ様、いかがされました?」
頭を下げていた彼は、私たちの様子に気付いていないようだ。
「なっ…なんでもありません。あっ…あははは」
こうして、さすがに慣れてきたご公務に私は出かけるのだった。
王妃様のご公務を続けて気付いたことがある。多くの国民の羨望の的になっている「王妃」だが、驚くほどに実権はないのだ。とても悪い言い方をすると「お飾り」だ。
もちろん、実際の権力がないがゆえに、10代の少女であるシーラちゃんにでも務まるわけだ。容姿が似ているだけの私が急に入れ替わってもなんとかなっているのはそんな理由からだ。
ただ、本物の王妃様は天書に触ることのでき、写本をすることができる唯一の存在でもある。それだけは他の誰にも代わりができない。だからこそ、シーラちゃんは特別な存在なんだ。そう考えると、私こそがなにもない本当の意味で「お飾り」だ。
うーん、私なに考えてるんだろう? 「代わり」なんだから飾りなのは当然じゃないの。ご公務に慣れてきて余計なことを考える余裕ができてしまったのね、いけないいけない。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
前世(笑)。
第17話 初めてのご公務への応援コメント
照れて、ネックレスをひったくってしまうシーンが、
目に浮かびますね(´ω`)
ロコちゃんと同じ気持ちで見てしまうw
作者からの返信
コメントありがとうございます!
心はロコちゃんより乙女なノワちゃんです。
第13話 少女たちの境遇への応援コメント
――スルーしたつもりだったのに、案外しつこい。
ってところにクスッときました。
ノワちゃんのスルーうまかったのにw
ロコちゃんには大事なことなのかも(´ω`)
作者からの返信
コメントありがとうございます!
恋バナしたい年頃なのです(笑)
第13話 少女たちの境遇への応援コメント
私も自分のそっくりさん会ってみたいです…
ところで、ノワちゃんの働いてんだね。→"の"は不要ではないでしょうか…?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
誤字ですね;
修正しておきます、ご指摘ありがとうございました!
第18話 お出迎えへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第18話 お出迎え
「ドリゼラ姉さーん!お疲れちゃーん! どうだった!?」
宮殿に戻ると、シーラちゃんの大きな声が出迎えてくれた。私たちの周りにはコンサドーレ様とマッツオ様の2人だけだ。
「シーラ様のご多忙が身に染みてわかりました。改めて尊敬致します」
周りの目もあって、私はかしこまった物言いをした。シーラちゃんも表情からそれを察してくれているようだ。
「ドリゼラ様、ありがとうございました。おかげで『天書写本ノルマ』もずいぶんと減らすことができました」
マッツオ様がこちらに向かって軽く頭を下げている。私はどう対応していいかわからず、誰にも負けないくらい頭を下げてお辞儀をしていた。
「そだよー。ドリゼラ姉さんのおかげでご写本もばりばり進めたよ、私も絶好調って感じ?」
シンデレラ様にも好不調とかあるんだ……?
シーラちゃんの方に顔を向けると、彼女は両手のひらをこちらに向けてぱたぱたと上下させている。なんだろう? 屈んでほしいってことかな?
私が中腰の姿勢になると、彼女は真横まで歩み寄ってきて耳打ちをしてきた。
『――で、どうよ? コンサドーレとなんか進展あった?』
――ええっ!?
私は左右に首を振って周囲を確認し、コンサドーレ様とマッツオ様との距離を確認した。よし、この距離なら小さい声は届かないだろう。
「なっ……なんの話よ? シーラちゃん?」
できる限り声をおとしてシーラちゃんに話しかける。
「なんの話って? ひょっとしてドリゼラ姉さん気付かれてないと思ってたの? 超ばればれなんですけど?」
――ええええっ!?
「えっ…とね、それってひょっとしてコンサドーレ様にもってことかな?」
「いやー、ワタシだけじゃないかな、気付いてんの? コンサドーレは『察する』ってのをどっかに落としてきてるから大丈夫だよ?」
なんか安心したようなそうでないような……。コンサドーレ様が気になっていること、うまく隠してるつもりだったのにシーラちゃんに早くも気付かれていたなんて、やっぱり双子の妹だから?
「公務のときはさ、コンサドーレそっちに行って、ワタシの方には官房長が付くみたいだからうまくやんなよ?」
「う…うん、がんばる」
「ドリゼラ様、お顔がずいぶんと赤いように見えますが、やはりお疲れではないですか?」
マッツオ様の声が飛んでくる。心中が穏やかでない私に代わってシーラちゃんが適当な言い訳をしてくれていた。
「ドリゼラ様の疲れがとれたら、コンサドーレは彼女を馬車のとこまでお送りするように。例の通路を使い、くれぐれも人目に付かぬよう注意するのだ」
「かしこまりました。マッツオ様」
マッツオ様はそう言って先にお部屋から出て行かれた。
当然だけど、私の存在は宮殿の中でもごく限られた人にしか知らされていない。王立図書館に入る際は、他の女性司書と同じ職衣を着用して入り、途中から目隠しをされてる。
出て行くときも同様に目隠しをさせられ、手を引かれるがままに歩いて行くと外にいて、目の前に馬車が待っているのだ。
帰りの馬車はいつもひとりで乗る。
御者の人とは会話を交わしたことがない。いつも同じ人だから、きっと私の秘密を知っていて余計な口を利かないように言われているのだと思う。
いつの間にか黄昏時になっていた。赤々とした夕日と黄金色の空がとても綺麗だ。気持ちのいい風も吹いている。
「ごめんなさい、街でお買い物をしたいの。途中で降ろしてもらってもいいかしら?」
馭者の男性はこちらを一瞥した後、軽く頷いてくれた。
風に当たって歩きたい気分になっていた。
ドリゼラ・トレメインと王妃シンデレラ様、今日から私は2つの顔をもってこの街で暮らしていくことになるんだ。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
こっちの世界線、女神様だけは不在。
編集済
第17話 初めてのご公務への応援コメント
作者 武緒さつき
第17話 初めてのご公務
たくさんの人の目が私に集中しているのがわかる。
羨望の眼差しを向けられている。
思っていた以上に緊張する。
時々顔が緩みそうになるのを抑えて、キリリとした表情を貫く。
これが「王妃様」なのね。なんて形容したらいいのかしら、この見つめているすべての人から存在を肯定されているような高揚感。自分を「特別」と嫌でも意識させられるこの感覚。
私の特別なんて有り余るこの力(物理)だけだったのに……。
シーラちゃんは毎日これを体感していたの?
私は初めての公務代行……、いや「影武者公務」で、内から溢れ出る興奮を抑えるのに必死だった。
ご公務と言っても、首都ハミシバの王立図書館で詰めかけた人たちに手を振って応え、ベランダで決められた文言を読み上げ歓声に応えるだけだった。
おこなったことは本当にただこれだけ……、それでも人の注目を集めるというのは、思ってた以上にずっとずっと疲れるものだった。
王立図書館の最初の頃は明らかに高揚感が勝っていたような気がするけど、時間が経つにつれ疲労が勝ってくるようになっていた。シーラちゃんが嫌がるのを初日にして理解してしまった気がする。
「大丈夫ですか? お休みをとれませんからお疲れでしょう?」
貴賓席で動けなくて項垂れている私にコンサドーレ様が声をかけてくれた。そろそろ日が傾く時間で、陽光が彼の後ろから射し込んでいた。
「お気遣いありがとうございます、大丈夫です。体力には自信ありますから!」
「今日は初日ですから、必要以上に緊張もおありかと思います。数日したら慣れていくと思いますよ」
「はい。それにしてもシーラ様ってすごいんですね。これを毎日行ってご写本もされたりもされているのでしょう?」
コンサドーレ様は腕組みをして、少し間を空けてから返事をされた。
「たしかにそうですが、シーラ様はその……、要領がいいと申しますか、気の抜き方を心得ていらっしゃいます。ですから、ご公務ではあまりお疲れではないようです。どちらかと言えば、ただただ面倒に思っているだけかと」
なぜか、シーラちゃんの要領のよさと面倒くさがる姿は容易に想像ができた。
「シーラ様をよくご理解されているんですね。なんだかとてもわかる気がします」
彼はひとつ小さく息を吐き出した。そのあと、急になにかを思い出したように手を叩いた。
「そうでした、貴女にこれを差し上げます」
コンサドーレ様は懐から手のひらに収まる小さな箱を取り出した。蓋を開けると中には黒い宝石の付いたネックレスが入っていた。
「私が申し上げるのもおかしいかもしれませんが、貴女とシーラ様が同じ格好をしていますと本当に見分けがつきません。ですから、ご公務の際はこのネックレスを着用して下さい。シーラ様は別の色のをしておりますので、それで見分けがつきます」
コンサドーレ様からネックレスのプレゼント!
もちろん個人的ではなく、あくまでご公務のため、とはいえとても嬉しかった。
黒い宝石に見入っていると、彼は私にそれを付けてくれるような動きをしてみせた。いや、さすがにそれはまだちょっと刺激が強過ぎる……。
「だっ…大丈夫です! 自分で付けれますから! ありがとうございます!」
私はネックレスをひったくるように彼の手から奪い取った。ちょっともったいないことしたかもしれないと少ししてから後悔するのだが……。
「次の写本で本日は終わりです。お疲れかと思いますが、最後まで気を引き締めましょう」
「はい! わかりました!」
私は胸元にある小さな黒い宝石を軽く握ってから、頷いてみせた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
王妃のご公務は本当に大変そう……。
第16話 作戦への応援コメント
作者 武緒さつき
第3章 2つの顔
第16話 作戦
「ここに集まった皆様に、天書の智慧の降臨があらんことを!」
王立図書館の一室、私は今日何度目かわからないこの台詞を叫んでいた。
「ドリゼラ姉さん!サイコーだよ! マジでワタシより王妃様してるじゃんね!?」
「そっ…そうかしら? 正直まだ照れくさいんだけどね?」
部屋の中には、私とシーラちゃん……、そして遠目でコンサドーレ様が見守っている。
「ドリゼラ様、私も素晴らしいと思います。この短期間でよくそこまで王妃様らしさを身に付けられたものです」
「ありがとうございます、コンサドーレ様。皆さまのご指導の賜物です」
私は「王妃シンデレラ様」のつもりで、スカートの両裾を指先で軽くつまみ、優雅なお辞儀をして見せた。
――先日の総大臣様と官房長様とのお話。
私は、王妃シンデレラ様の影武者を引き受けるにあたって条件を提示した。
「シーラ様を演じるには練習が必要です。その指導をシーラ様に直接していただくことはできませんか?」
キシーダ様とマッツオ様は、お互いの顔を見合わせていた。きっと予想していない返事が返ってきたのだろう。
私はこう考えた。
仮にシーラ様の公務の一部を私が入れ替わり、その間シーラちゃんが休めたとする。当然シーラちゃんの負担は減っていく。だけど、これを繰り返しては私とシーラちゃんが顔を合わせてお話する機会がないのだ。
自惚れじゃなく、シーラちゃんはきっとまた私とお話したいと言い出すはずだ。そして、私もシーラちゃんともっともっといろんなお話をしたい。だから、ただの影武者じゃなくて、お互い話をできる時間が欲しかった。
それを簡単に実現して、しかも影武者の完成度を上げる見事な作戦。それが、シーラ様の演技指導をシーラちゃん自身にやってもらおう作戦!
おまけにシーラちゃんと一緒ならきっとコンサドーレ様も一緒にいらっしゃるはず。まさに一石三鳥の完璧な作戦、自分の頭の良さが恐ろしいわ、ドリゼラ・トレメイン!
それにこの国の女性として生まれたなら少なからず、王妃様への憧れはみんなもっていると思う。私だってそうだ、運が味方すればシンデレラではなく私、ドリゼラがチャーミング王子にみそめられた可能性だってある。
影武者であっても、王妃様になれるなんて心躍らないはずがない。
瓜二つのシンデレラと再会した時から、家でひとり王妃様の真似をして遊んだりしていたのだ。これは恥ずかしすぎて誰にも言えないけど……。
ただ、そのおかげでシーラちゃんの指導がなくっても、私は十分「王妃シンデレラ様」を演じられるのだ。「演技指導」はお話する時間をつくるための口実に過ぎない。
あと、ここだけの話、宮廷からの報酬もけっこうな額なんです。運送屋さんとの掛け持ちは大変だけど、いっぱい貯金ができそうな予感。
「話し方だけでなく、立ち振る舞いも見事なものです。これなら民衆の誰もシーラ様が別人と入れ替わっているなど考えもしないでしょう」
「そっ…そうですか。お褒めに預かり光栄です」
コンサドーレ様に真正面から褒められるとさすがに照れてしまう。シーラちゃんはなんかにやにやしながらこっちを見ている。
「いやはやお見事です。ドリゼラ様」
コンサドーレ様が、声のした方を向き、姿勢を正して一礼をした。声の主は総大臣キシーダ様だった。その隣りには官房長のマッツオ様もいる。
「ドリゼラ様、貴女のお姿を見てもはやシーラ様ではないと疑う者はいないでしょう。早速で恐縮なのですが、本日いくつかの神殿に赴く公務がございます。コンサドーレを案内役として同行させますので、影武者を務めて頂けますでしょうか?」
ついに来ました! 私の「王妃シンデレラ」としてのデビュー戦(?)です!
「はい、承ります! コンサドーレ様もよろしくお願い致しますね!」
「心得ました。私がしっかりとエスコート致しますのでご安心ください」
コンサドーレ様は私の目を見据えて微笑んでみせた。
「ほっほっほ、2人ともしっかりと頼みますよ」
キシーダ様は左手で髭を撫でながら、右手で杖をついてこの部屋を後にした。
「そしたらワタシは休んでていいわけ?」
「ドリゼラ様が代わって下さる間、シーラ様はご写本をお願いします。ご写本の間まではこの私が案内致しますゆえ」
官房長マッツオ様はそう言ってシーラちゃんに頭を下げた。
「えー! それじゃドリゼラ姉さんに代わってもらう意味ないじゃんよ!?」
「たまっている天書の写本が無くなったら、余暇の時間に充てるように致します」
「わーったよ! ドリゼラ姉さん!がんばってね!」
シーラちゃんはマッツオ様に連れられて部屋を出て行った。去り際にまたウインクをして見せた。
「さて……、では私たちも参りましょうか、“シンデレラ"様」
「はい! 改めてよろしくお願い致します」
待っててね、お国の皆さん! 王妃ドリゼラが参りますよ!
作者からの返信
コメントありがとうございます!
姉妹の方が「似てる」という意味では説得力ありますね。
第13話 少女たちの境遇への応援コメント
女神様の前で、ロコちゃんと一緒にいるノアちゃんの姿が見えそうです。
姿形は似ていても、性格が違う二人を相手にした方が女神様も楽しいでしょうし、あり得るかも?w
作者からの返信
コメントありがとうございます!
まさに「姦しい」かな?
編集済
第15話 身代わりへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第15話 身代わり
「ドリゼラ様、そうかしこまらずともよい。肩の力を抜いて話しましょう?」
官房長のマッツオ様、そうは言うけど、そんな簡単なことじゃない。
フランス王国はチャーミング王が国主ではあるが、実際に政治を行なっているのは内閣府であり、ここで一番偉い人はこの国で一番偉いのと同義だ。
そんな人と次に偉い人とを正面に迎えて肩の力を抜ける方がどうかしている。シーラちゃんならお構いなしかもしれないけど。
「まあまあ、まずはお茶菓子でも召し上がって下され。リラックスした方がお話もしやすいでしょう?、シンデレラ様がお好きというジパング國バン州から取り寄せた御座候も用意しております。よかったらどうぞ。」
次に話しかけて下さったのは総大臣のキシーダ様、この人こそ王国内閣府の最高位のお方だ。
私の前には、見たこともない高級そうな焼き菓子が並んでいた。お砂糖とバターの香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。さっきビスケットをもらったばかりなのに。横に並ぶ御座候が少し浮いて見えた。御座候はバザールでお馴染みのものだ、シーラちゃん、これ大好きなのね。
キシーダ様は60歳を越えていると聞いている。綺麗な白髪と、同じ色の整った髭が特に目立っている。背中は少し丸くなっていて、杖をついて歩くお姿をお見掛けすることがある。表情はとても穏やかで、王国内閣府について知らなければ「やさしそうなおじいちゃん」といった雰囲気のお方だ。
一方、官房長のマッツオ様は、茶色の髪を短く整えていらっしゃる。身体がとても大きいお方で、立っているお姿は思わず見上げてしまうほどだ。キシーダ様とは相対的に、怖そうというか厳しそうな印象のお顔をされている。
「ほっほっほ、お腹はあまり減っておりませんかな? よければ後で包みますのでお土産にして下され」
「はっ…はい、ありがとうございます」
「シーラ様のお相手をしてお疲れかもしれませんが、我々もあまり時間がありませんゆえ、さっそくですが本題に入らせていただきます」
マッツオ様は私の返事を待たずにお話を始めた。けど、もうそれでいいわ。どれだけ待っても私の緊張はほぐれそうにないから。
「率直に申し上げます。シーラ様の『影武者』になっていただけないでしょうか?」
――ちょっと、マジで身代わりの話じゃないのよ?
あれ、なんか心の声がシーラちゃんみたいになってる?
一緒に話してたら移っちゃったのかしら?
「かっ…影武者ってあれですよね? 身代わりみたいな…」
「なにも危険を伴うものではありません。シーラ様とお話されたのならご理解いただけると思うのですが、『王妃』とは非常に多忙なのです。それは、天書から写本によりご神託を聞ける唯一の存在だからです」
王妃様の公務に文句を言っているシーラちゃんの姿が目に浮かんだ。
「ですが、王妃の公務にはご写本以外の、王妃の容姿であれば誰でも可能なものもあります。これらのいくつかを貴女に代わっていただくことはできないでしょうか?」
「私が…王妃様のフリをしたらいいんですか?」
「ほっほっほ、平たく申し上げるとそういうことです。貴女が代わってくれればその分、シーラ様のご負担は減ります。さすれば神殿を脱走するなんて暴挙もなくなると思うのですよ?」
たしかにシーラちゃんは王妃様の忙しさを嘆いていた。ほんの少しでも私が代わってあげられたら、その分彼女は楽になるのかもしれない。
「当然ですが、我々内閣府から報酬をお支払い致します。王妃様専用の衣装といった必要なものもすべてこちらで準備致しますゆえ、ご協力願えないでしょうか?」
私はいくつかの思考を巡らせた後、思い切ってこう答えた。
「わかりました! ですけど、私からも1つお願いしていいですか?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
御座候の異質感(笑)。
編集済
第14話 目隠しへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第14話 目隠し
シーラちゃんと話す時間はあっという間に過ぎていった。威厳のある王妃シンデレラ様の雰囲気も好きだけど、子どもみたいに無邪気なシーラちゃんを私はとても好きになっていた。
ちょっぴり心配になる話し方も、聞き慣れてきたらむしろおもしろくて癖になってくる。
お部屋の扉がノックされ、コンサドーレ様が顔を見せたことで私は今日のこの時間の終わりを悟った。
「シーラ様、申し訳ありませんがこれ以上は、後のご写本や公務に支障をきたします」
「わーったよ。ドリゼラ姉さんといっぱい話せたから今日は満足した」
私はソファにシーラちゃんを残して立ち上がり、彼女に向かって大きく頭を下げた。
「とても楽しくて貴重なお時間でした。ありがとうございました」
シーラちゃんは、誰かが見ている時の私の他人行儀を察してくれたようで、こちらに向かってウインクをひとつした。私も表情を崩してそれに応える。
「シーラ様は後程、ご神託の間までご案内します。ドリゼラ様は帰りの馬車まで同行致しますので、こちらへどうぞ」
コンサドーレ様に誘導されるがままに私は宮殿の中を歩く。
あれ……、帰りは目隠ししなくていいのかしら?
そんなふうに考えていたら、彼はシーラちゃんがいた部屋とは別の応接セットが並んだ部屋に私を案内した。
「ドリゼラ様、実は我々から貴女にご相談がありましてこちらにお連れしました」
私に相談? まさか力仕事じゃないわよね? それとも、まさかまさか本当にシーラちゃんの影武者させられたりするの?
シーラちゃんが座っていたソファより幾分固めのソファに座るよう促されて、私はそこに腰を下ろした。
一時すると部屋の扉が開き、2人の男性が入ってきた。
ちょっと待って! この人たちって……。
眼前に姿を見せたのは、王国の総大臣キシーダ様と王宮官房長のマッツノ様だった。私の知識が間違っていなければ、王国政府で一番偉い人とその次に偉い人、のはずだ。
「私はまた後程お迎えに参ります」
そう言ってコンサドーレ様は頭を下げた後に部屋を出て行ってしまった。
待って、コンサドーレ様。こんなところに私ひとり置いて行かないでよ……。
◆◆◆
「ご写本の間」まではいつも目隠しされて、コンサドーレに手を引かれて案内される。空気が少し冷たいところを通り、階段を下っているからきっと王立図書館の地下……、それもけっこう下の方にあるんだと思う。
「今日はどんくらいあるのさ? 『天書写し書き』は?」
ワタシは目隠ししたまま、コンサドーレに問い掛ける。最初はなんで見ちゃいけないのかと思ったけど、何回も繰り返しているうちにどうでもよくなってきた。「大人の事情」ってのがきっとあるんでしょうってね。
「シーラ様が数日ご写本を拒絶していたために少したまっております……。ですが、遅れは少しずつ取り戻せばいいでしょう。今日は取り急ぎの案件だけをまとめてきました」
「さっすがコンサドーレ!できる男じゃんかよ!」
コンサドーレは毎度決まった場所で「足元にお気を付けて」と言う。ここからいつも長い階段を下って行くんだ。そして、周りの空気が徐々に冷たくなっていくのを感じる。
「ねぇねぇ、コンサドーレ?ドリゼラ姉さんのことどう思う?」
「ドリゼラ様……ですか? どう思う、とは一体?」
いつも通りの感情の薄い声が返ってくる。この男、察するってものがないのか?
「聞き方から察しなよ、もう! ドリゼラ姉さん、絶対コンサドーレに気があるって! 今日話しててもさ、コンサドーレの話すると赤くなるんよね!?」
ワタシがあれこれ話しても、コンサドーレからの返答はない。虚しくワタシの声だけが反響していた。この目隠しさえなければ表情くらい確認できるのに。実は真っ赤っかになってたりしないかな?
「ドリゼラ姉さんは絶対超いい子だよ! ワタシに託(かこつ)けて話しかけてみなよ!?」
「私は王立図書館に、そしてあなたに仕える司書です。他の方への私情は不要と心得ております」
そう言った後、次の段差で階段が終わると彼は教えてくれた。
「もー……、コンサドーレってマジでつまんない男ね? ワタシの世話係ならもうちょっと楽しめるような話しをしなさいよ?」
彼は無言でワタシの目隠しを外す。
薄暗くて静寂の場所、目の前には施錠された鉄扉、いつ見ても薄気味悪い。
ご写本の間だ。
「あれ?何かしら。」
ワタシは部屋の隅に落ちている一枚の小さな羊皮紙に気がついた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
お偉方の名前(笑)。
編集済
第13話 少女たちの境遇への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第13話 少女たちの境遇
「ドリゼラ姉さん!超々会いたかったよ!」
王立図書館の奥は、王宮の中でも一部の人間以外立ち入りを禁じられているそうだ。私は目隠しをされ、コンサドーレ様に腕を引かれて中を案内された。
視界を閉ざされているので、耳を働かせようと思ったけど、心臓の音以外なにも聞こえてこなかった。
目の前で扉の開く気配がした後、私の目隠しは外された。そして、それが完全にとれる前にシーラちゃんの声が飛び込んできた。
シーラちゃん……、と叫びそうになる自分を抑えて、私は王妃シンデレラ様に大きく一礼をした。
「オラっ! ドリゼラ姉さん以外は部屋出ていけよ! 2人だけで話しさせてくれる約束だろ!?」
シーラちゃんは私が知っている以上の荒っぽい口調で叫んでいる。
「シーラ様、お話が終われば『写本』を再開して下さい。私たちとの約束ですよ?」
コンサドーレ様は私と話すとき同様に落ち着いた口調でそう言った。
「わかってんよ! ほらほら、さっさと出て行かないとドリゼラ姉さんがお前らぶっ飛ばすぞ!?」
――ええっ!? なんでそこ私の名前!?
すると、コンサドーレ様以外の周りにいた人たちはそそくさと部屋から出て行った。なにこれ、みんな私のこと知ってるの?
最後にコンサドーレ様が「ごゆっくり」と一言添えて、部屋の扉を静かに閉じた。
私とシーラちゃんは、部屋に誰もいないか確認するように少しの間お互いに黙っていた。静寂の時が流れる。
そして……。
「ドリゼラ姉さんー!マジで超会いたかったよ! ハッピーうれピーじゃんよ!」
「私も会いたかったわ、シーラちゃん! この間は変な別れ方になっちゃったもんね!」
彼女とは少し前に再会して……、たった一時しか会っていなくて……、昔ずっといじめてたのに、なぜか生まれた時から仲良し姉妹だったように嬉しかった。
シーラちゃんの反応を見ると、きっと彼女も同じ想いだったのだろう。やっぱり、見た目がそっくりな私たちはお互いにだけ感じるシンパシーがあるのかもしれない。
「ドリゼラ姉さんとまた話したくってさ! ストライキしてやったぜ!」
「ちょっと……、あんまり司書様を困らせてはダメよ? 私ならいつでも会えるしお話もできるから」
私は彼女の座っている応接ソファの横に腰を下ろして話をした。とてもふかふかのソファだ。身体が勝手に跳ね返ってくるわ。
「ドリゼラ姉さんがよくてもワタシがダメなの。『王妃様』て自由な時間が全然ないんだからさぁ」
17の歳で太皇后から役割を与えられて、自分の時間をもてないのはなかなか大変だろうな。特にシーラちゃんみたいに元気が有り余ってるような子なら尚更だ。
「ドリゼラ姉さんてさ、普段はなにして過ごしてんの? 彼氏とかいんの?」
シーラちゃんは私と会えたのがよほど嬉しいのか、ソファの上をお尻で飛び跳ねていた。本当に忙しない……、やんちゃな子どもみたい。
「私は運送屋さんのお手伝いをしてるの。義母さんと義姉さんが浪費するから、自分が稼がないといけないのよ」
そう……、私とドリゼラ姉さんの母親はトレメイン夫人が後添えで来る前の優しいお母さんだった。お母さんが亡くなってトレメイン夫人が来てからは前妻の娘の私はさんざんいじめられた。
ドリゼラ姉さんは義母さんに言われて一緒に私をいじめたけど多分本気じゃなかったと思う。
「そっかー、ドリゼラ姉さん働いてんだね。――で、彼氏はいんの?」
――スルーしたつもりだったのに、案外しつこい。
「付き合ってる人はいないわ。シーラちゃんは王妃様だもんね? チャーミング王は優しくしてくれるの?」
「アイツ(チャーミング王)、顔はイケメンなんだけど、なんか錠前オタクでさ、結婚してからほとんど会ってないよ、気がいいだけのボンボン王子だったみたいだし、野心も何もないから退屈で死にそう。一番歳近いコンサドーレと浮気でもしてやろうかと思ったけど、あいつめっちゃ堅物じゃん? あれも好みじゃないんよね」
シーラちゃんにとってコンサドーレ様って、そうでもない人なんだ。なんだかほんの少しだけ安心している自分がいる。
「シーラちゃんのお義母さま(太皇后)は優しくしてくれるの?」
「あー、ワタシあの人キライ!」
えっ?
何も考えずに話してたら、聞いてはいけないことに触れてしまった気がする。次になんて言ったらいいかわからなくて黙り込んでしまった。
「ドリゼラ姉さん、気にしないで。生まれた時から親はいないものと思ってるし、ずっといないが当たり前で育ってるからさ。ドリゼラ姉さんもそうでしょ?全然気になんないよ?」
「そうよね。変なこと訊いちゃってごめんね?」
「もう暗い顔しないでよ! ワタシ変な運命に流されてたけど、そこは18んなったらもう離婚して仕事見つけて出て行くつもりなんだよね」
シーラちゃんはたしか今17歳だっけ。
「ワタシ、超めんどくさがりだからさ。仕事探しとかマジ無理なわけ! どうしようかと思ってたらまさか『王子様』に妃に選ばれちゃってさ、そのときはラッキーって王子様に感謝したわけよ?」
シーラちゃんは、ソファの前のテーブルにあったビスケットを無造作に2つ取って1つを口に放り込んだ。残った方をこっちに手渡してくれた。
私も口に入れてみる。甘くておいしい! シーラちゃん毎日こんなお菓子食べてるの!?
「けどさ、感謝したのは最初だけ。王妃って超忙しいし、王立図書館の人も厳しくてさー。絶対もっと楽な仕事あったって思うわけよね?」
「そうねぇ……。だけど、王妃様って国中のみんなの憧れよ? それにたった1人しか選ばれないんだから、とてもすごくて誇らしいことじゃないかしら?」
シーラちゃんはビスケットが気に入ったのか、また2つ取って1つを口に入れた。もう1つはやっぱり私に手渡してくれる。年齢よりも中身はちょっと幼く見えるけど、とても可愛くていい子に思えた。
「ドリゼラ姉さんは、なんてーかしっかりしてるなぁ。顔はそっくりなんだしワタシじゃなくてドリゼラ姉さんの方が王妃に相応しい気がすんよ?」
「うふふ、今度チャーミング王様に相談してみたらいいんじゃないかしら、どっちでもいいって言われたりして。(笑)」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
チャーミング王ダメなのか……。
第12話 二目惚れへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第12話 二目惚れ
コンサドーレ様に案内されて私は、王国の紋章が入った馬車に乗っている。隣りにはコンサドーレ様ひとり。彼はシーラ様のお世話係なのかしら?
少し癖のある深い青の髪、垂れ目の優しそうな表情……、街で見かけたどの男性よりもカッコいい。この人がいつもお傍にいるなんてシーラちゃんうらやましいな。私は思わず彼の横顔に見惚れていた。
すると、彼は急にこちらを向いたので心臓が飛び跳ねそうになった。
「少し、お尋ねしてもよろしいですか?」
彼はとても穏やかな口調でそう言った。
「はっ、はい。なんなりとどうぞ!」
変に上擦った声が出てしまった。恥ずかしくて身体の内側から温度が上がっていくのを感じる。
「シーラ様と再会したのは先日の件からですか?」
「はい、そうです!」
道が悪いのか、馬車が軽く跳ねた。身体が少し揺れて肩がコンサドーレ様にぶつかってしまう。
「ごっ、ごめんなさい!」
「いいえ、こちらこそ。お気になさらず」
いけない。早く大神殿に着いて。この状況が続いたら私の心臓がもたない。もう熱で内側から破裂しそうになってる。
「シーラ様とはどんなお話を?」
「お話!? ええと、その……、話といっても義母さんと義姉さんとかの近況を教え合ったくらいでして……」
シーラちゃんの掲げた両手の「×」が記憶を過ぎった。王立図書館の話はきっと私が知っていてはいけない話。
「そうですか、シーラ様がずいぶんと貴女に心を開いているようなので、秘訣があれば伺おうと思ったのですが」
コンサドーレ様は正面を向いたまま、考え事をするように腕組みをした。
「本当にちょっとお話しただけなんです。シーラ様は顔がそっくりな双子の姉の私に思いもよらず再会して運命めいたものを感じたように仰っていまいたけど」
「王立図書館や宮廷の内部は、歳の近い女性があまりおりませんからね。話し相手を求めていたのかもしれません」
彼は、今度は少し上を向いて難しい顔をしている。誰か話し相手になりそうな人がいるかを考えているのだろうか。
「あの……、シーラ様ってとても可愛らしいですよね? 昔とは別人のように変わって、なんていうか、もっと近寄りがたい雰囲気だと思っていましたので驚きました」
「きっと口の悪さに驚かれたことでしょう。彼女は王国の象徴ともいえるお方です。言葉使いに関しては、我々のイメージを損ないかねませんので、どうかご内密にお願い致します。」
座したままの姿勢でまた頭を下げられた。こう丁寧に接せられると反応に困ってしまう。
私が次の言葉を探していると、眼前に巨大なドーム状の建物が姿を見せていた。いつの間にか中央宮殿の近くまで来ていたようだ。
心中があまり穏やかではなかったせいか、とても短い時間に感じられた。
作者からの返信
コメントありがとございます!
真面目なコンサドーレ氏。
編集済
第11話 苦労人サフィール・シアンへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第11話 苦労人コンサドーレ・アルカン
「ドリゼラ姉さんに会わせてよ! っていうか会わせろよ! あーわーせーろーっ!!」
大神殿の応接の間、シーラはわめき散らしていた。
「『ドリゼラ』というと、例の護衛の男を放り投げた?」
「拳で殴り飛ばしたとも聞きましたよ?」
「民家の屋根まで飛び跳ねたとか?」
「いやいや、屋根まで護衛を投げ飛ばしたんじゃないのか?」
「ワシは民家を飛び越したと聞きましたぞ?」
「ドリゼラ姉さん」の噂は、尾ひれ背びれが付いて王宮内に広がっていた。
王妃シーラと瓜二つの姉、というだけでそれなりの衝撃があるというのに、人間離れしたエピソードがおまけで付いてくる。さらにシーラは毎日「ドリゼラ」の名前を連呼する始末。
ドリゼラと出会った人間はごくわずかにも関わらず、王宮内で彼女の名を知らぬ者はもはやいなくなっていた。
「ドリゼラ姉さんと会えないなら王立図書館なんか行かないわよ! 写本なんて知ったことか! てめーらで勝手になんでもやれよな!」
先日の脱走から、シーラを見張る護衛はさらに増員された。侍女も増え、水浴びやお手洗いも必ず1人は同行している。
元々ものぐさな彼女にとって、聖女の務めはストレスが多かった。そこに加えて常に監視の目、せっかく知り合ったドリゼラ姉さんとも話せないとあって、溜まりに溜まった鬱憤は爆発寸前になっていた。口が悪いのは元々だが、今はそれに拍車がかかっている。
「シーラ様、どうかお気を静めてください」
司書コンサドーレは、高級なお菓子を差し入れしたり、公務の途中で眺めの良い場所へ寄り道したりと、あの手この手でなんとかシーラのご機嫌をとろうとしていた。だが、それにも限界を感じていた。
「コンサドーレ!ドリゼラ姉さんと会わせないつもりならワタシはここを梃子でも動かないかんな!」
彼女は応接セットのソファにずっとしがみついている。
「はぁ……、すみませんがそちらの方、王立図書館入館許可者名簿から『ドリゼラ・トレメイン』の名を探してもらえますか?」
コンサドーレは近くにいた職員にそう命じた。職員はかしこまったお辞儀をした後、速足で王立図書館の資料室へと向かっていく。
「おお、コンサドーレ!ドリゼラ姉さんを連れて来てくれるのか!?」
シーラの表情は急に明るくなり、碧い目をきらきらと輝かせて、コンサドーレの顔を覗きこんだ。
「図書館長に相談してからです。とりあえず、シーラ様のご実家の記録は抹消されてますのでお姉様の居場所だけは先に調べておきますが」
「なんならワタシが直談判してやろうか? 今なら大皇后だって怖くないじゃんよ!」
「私がご希望に添えるよう計らいますから、どうかお静かになさってください」
コンサドーレはシーラのいる応接の間から出た後に、大きく項垂
うなだ
れて肺がしぼむのではと思うほどのため息をついた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
お姉さんとそんなに仲良かったの!?
第11話 苦労人サフィール・シアンへの応援コメント
サフィール君の心労のほどはよーく分かりますが、お菓子で釣ろうってパーラ様って何歳?と言いたくなりますねw
だけど他に対して娯楽もなさそうだし、どうしても限界が…そしてパーラ様爆発?w
作者からの返信
コメントありがとうございます!
パーラ様を手懐ける術がほしいのです(笑)。
第11話 苦労人サフィール・シアンへの応援コメント
肺がしぼむほどw
かなり深いため息ですね……
タイトルどおり、苦労人だ……(・ω・)
作者からの返信
コメントありがとうございます!
聖女がなかなかのお方ですから;
第10話 日常の境界への応援コメント
おや、期せずしてロコちゃんとの再会が実現?
だけど会ってほしいという事は、パーラ様がサフィール君に依頼したのではなく、彼の独断?
ロコちゃんに何かあった?!
作者からの返信
コメントありがとうございます!
パーラ様が癇癪起こしてます(笑)。
第10話 日常の境界への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第2章 宮殿附属王立図書館にて
第10話 日常の境界
シーラちゃん……、シンデレラ様と出会ったのは実は夢だったんじゃないかしら?
そう疑いなくなるほど、私はいつもと変わらない日々を過ごしていた。
「どうしたドリゼラちゃん? もう家の前に着いてるよ?」
馬車の荷台からいつまでも降りない私に、サルバドおじさんが声をかけてくれた。
「ご、ごめんなさい! ぼんやりしてたら、うたた寝してたみたい!」
「はっはっは! 今日は荷物が多かったからね。ちょっと疲れちゃったんじゃないかい? お家でよく休みなよ?」
私は荷台から飛び降りるといつも通りに、走り去るサルバドおじさんの荷馬車へ向けて手を振った。
ぽかぽかと気持ちのいい陽気、一息つくと眠ってしまうのも無理ないわ。
バザールで親衛隊の人と追いかけっこをしたあの日からシーラちゃんとは会っていない。宮殿の王立図書館には何度か足を運んでいる。
彼女に倣って私も頭に黒い頭巾を被って前髪を垂らし、よくよく見ないと「そっくりさん」には見えないようにした。
宮殿の王立図書館には大勢の人がいる。何重にも護衛を伴っている王妃シーラ様に近付くことなんてできない。だけど、遠目にその顔を覗くことはできた。
威厳に満ちた凛々しい表情、きゅっと結ばれた口元、そこにいるのは王妃シーラ様。けど、紛れもなく私を助けてくれたあの時のシーラちゃんの顔でもあった。
――助けてくれた……? 元はといえばシーラちゃんの脱走に私が巻き込まれたんだけどね。
親衛隊の人に私はどう映ったんだろう?
王妃様とそっくりな顔をした姉、身代わりとか変なことに利用されたりしないわよね?
街で王宮の剣士とすれ違うたびに、そんなおかしか考えが頭を過ぎったりもした。だけど、今は何事もなく彼女と出会う前と同じ日々を送っている。
◇◇◇
「控えなさいっ! 無礼者が!」
家の中で独りでいる時、私はシーラちゃんのモノマネをしていた。あのときの彼女は本当にカッコよかった。私を囲んでいた男たちが明らかに気圧されていたのを感じた。その前にお話ししていたときと雰囲気が違い過ぎて、そのギャップにも驚かされた。
「あー、シーラちゃん……。またお話ししてみたいなぁ」
そんな独り言を言っていると、突然家のドアノッカーが鳴った。さっきのモノマネの件もあってか、必要以上にびっくりしてしまった。
扉を開けると、そこにいたのは先日シーラちゃんを連れていった若い王立図書館司書様だった。
「あなたはたしか先日の……?」
「ドリゼラ様ですね? 先日は失礼致しました。私は王立図書館で司書を務めるコンサドーレ・アルカンと申します」
彼の後ろには例によって、護衛と思われる男が2人ほどいた。
「はっ…はい。先日はあの、ご挨拶もせずにこちらこそすみませんでした。シンデレラ様の姉のドリゼラといいます」
コンサドーレ様が深々と頭を下げるので、こちらまでかしこまってしまう。お堅い雰囲気は慣れていないので、すでに肩肘を張ってしまっている私がいた。
「シーラ様のご実家情報については詮索を禁止されているため記録が残っていないのですが、失礼かと思いましたが、シーラ様から名を伺って、王立図書館の入館許可証発行者名簿から貴女のお住まいを調べさせてもらいました」
「は、はぁ…」
私も王立図書館の入館許可証を持っている、というより、この国で有難いご利益のある王立図書館を利用していない人なんているんだろうか。その気になったら、私の住んでるとこを見つけるなんて造作もないのだろう。
「今日は貴女にお願いがあって参りました。シーラ様に会って頂きたいのです」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
むずかしい姉妹関係……。
編集済
第9話 聖女の威厳への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第9話 王妃の威厳
「捜しましたよ、シーラ様?」
私たちのところへ最初に近寄って来たのは、若い長身の親衛隊だった。さすがに2人並んでいると区別がつくのか、それとも宮殿の人を前にした挙動でわかるのか、真っ直ぐシーラちゃんの元へと歩み寄って来た。
さすがに観念したのか、彼女は特に抵抗もせず無言で親衛隊の男性に連れられていく。
「あっ…あの、あまり叱らないであげて下さい。彼女、ちょっと息抜きがしたかっただけだと思うんです」
そう言った私の手を突然誰かが掴んだ。それは後ろから来ていた親衛隊の人だった。
「コンサドーレ様、この者も一緒に連れていきましょう。場合によっては王妃様誘拐の罪を問わねばなりません」
――ちょっと……、なにそれ? 今、「誘拐」って言った?
「ふっ…ふざけないでよ! 誘拐ですって!? 私はシ、シーラ様と偶然会ってお話していただけよ!」
一瞬、バザールで会った連中みたいにこの男もぶん投げてやろうかと思った。けど、差し向けられたそれを見て私は固まってしまった。
目の前には、陽の光を反射させて美しく輝く鏡のような刃があった。武器屋でしか見たことない本物の剣が今、私に突きつけられている。
いつの間にか、私は前から来た親衛隊の人たちと後ろの人たちに囲まれていた。正面の男は剣を抜いて突きつけ、残りの男たちもいつでもそれを抜けるような構えをとっている。
少し前にちょっと暴れちゃったのがマズかったのかな?
けど、人違いであんな乱暴に連れていこうとされたら誰だって抵抗するでしょう!?
たしかに、普通の人よりちょっとだけ力は強いかもしれないけど……。
「この女はバザールで親衛隊を負傷させております! それに王妃様を連れ去ろうとするとは……、王妃様と顔こそよく似ておりますがとんでもない悪女です!」
「言いがかりよ! ふざけるのも大概にしなさい!」
私は大きな声を出したが、腰は引けていた。さすがに剣を向けられても逆らう勇気はもっていなかった。
少し離れたところで若い親衛隊とシーラちゃんがこちらを見つめている。
両手の手首をそれぞれ別の男の手に握られ、さらにもう1人の男に背中を押され、私はまるで罪人のように連行されようとしていた。
――その時。
「控えなさいっ! 無礼者が!」
その声は間違いなくシーラちゃん……いいえ、王妃シンデレラ様の声だった。
「その者は私の姉です、無礼な真似は許さん! 今すぐその手を離さぬか!」
教団の男たちは、歩くのを止めてその場で固まっていた。お互いに顔を見合わせてどうしたらいいかと表情で問い合っているようだ。
すると、シーラちゃんを連れていったコンサドーレと呼ばれた男が私の元へとやってきて、部下の男たちの手から私を解き放ってくれた。
「大変失礼を致しました。この者たちに、代わり図書館司書コンサドーレが心よりお詫び申し上げます」
コンサドーレと名乗った若い男性は、私の前で深々と頭を下げた。
「あっ…あの、私は別に謝ってほしいんじゃなくて」
「お一人で外へ出られたシーラ様を守ってくれていたのですね。心から感謝致します」
えっ…と、罪人から打って変わって感謝されてしまったんですけど?
「ここにいる者たちはまだ未熟者ゆえ、どうか私の顔に免じてお許しください」
「そんなのいいんです! ただ、その…シーラ様を叱らないであげてくだされば」
「お優しいお姉様にシーラ様は恵まれたようですね」
彼はそう言うと、改めて私に一礼をしてシーラ様の元へと戻っていった。それに続いて、私を取り囲んでいた男たちも離れていく。
離れたところにいるシーラ様に目をやると、笑顔で私にウインクをしていた。その表情は紛れもなくシーラちゃんの顔だった。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
友達と姉妹だと話の雰囲気変わりますね。
編集済
第8話 女神の声への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第8話 王妃の勤め
「継母さんのトレメイン夫人とアナスタシア姉さんは元気なの?」
「相変わらずよ、二人ともパッとしないし、シーラちゃんがいなくなってから私がいじめられる役、双子だからかな。」
「そっかー。トレメイン夫人、アナスタシア姉さんの性格は多分一生変わらないねー。」
彼女は、足元に転がっていた石ころを勢いよく蹴飛ばした。
「『ドリゼラお姉ちゃん』って呼んでくれてもいいのよ?」
「ええー! ドリゼラ姉さん、で勘弁しといて、ドリゼラ姉さん、がいいのよ!」
「冗談よ。けど、シーラちゃん……。私、家に帰ってるんだけど、やっぱりシーラちゃんは街に戻って宮殿の人と合流したほうがいいと思うわ?」
「えー! 絶対イヤなんですけど! どうせ王立図書館に連れてかれて夜までずっと国書の写本させられるんだから!」
シーラちゃんは、びっくりするくらいのわかりやすい不機嫌な表情になった。独り言のようにぶーぶー文句を言っている。
「王妃様ってやっぱり大変なんでしょうね? よかったらどんなことしてるかちょっとだけ教えてくれないかしら?」
私は興味本位で聞いてみた。
フランス王国はかつてのフランク王国が分裂してできた国。
チャーミング王子こと現ルイ10世はおぼっちゃま国王だった。
『国書の写本は人を幸せに導く』
この教えの元、国の実力者は王妃の書き写した写本を崇拝している。驚かされるのは、王妃様の写本は本当に私たちの悩みを解決してくれることだ。
首都ハミシバの宮殿を中心として、国の様々なところに地方領主の館が設置されている。そこには「天書図書館」と呼ばれる、王妃様が写された写本が準備されている。様々な悩みやお困りごとのある貴族はそれを読むことで大抵の問題は解決してしまう。
もちろんすべての天の声が書かれているわけではない。2度3度問題解決経験がある人もいれば、結局解決しなかった人もいるそうだ。ただ、私もたった1度だけその天書を読んだことがある。
そして、重要なのはその天書に書いてある通りに行動すると、お悩みはほとんど解決されるのだ。事実、私もそうだった。
その「天書」を読み、ご神託を頂けるのが王妃様の写された写本、天書だと言われている。それを領主や貴族がさらに書き写して、私たち民衆に教えとして届けてくれているのだ。
伝え聞く話だけなら、王妃様はまるで古代の神々と会話をしているようだ。そして、今目の前にその「王妃様」がいらっしゃるわけだ。
私は好奇心を抑えられないでいた。
「大変も大変! 人前に出る時は、難しくてわけわかんないこと覚えて話さないといけないし、それ以外はほとんど王立図書館に篭って写本写本ばっかりだよ!」
シーラちゃんの口調から本当に大変……、というか嫌々やっているのが伝わってくる。彼女は民衆が求める理想的な「王妃様」を演じさせられているのだろう。
「『写本』ってどんな感じなの? ありがたい言葉がならんでたりするとか?」
私は自分なりのイメージを伝えてみた。心の奥でそんなこと訊いていいのか、と問いかける私がいるのに気付いていたが、好奇心がそれに勝っていた。
「違うよ! 普通に書き写すだけ、見張られながらね。」
私は心の底から驚いた。
王妃様の存在意義を疑っていたわけではないけれど、そんな現実的な作業?だとは思っていなかったからだ。
「あっ! いっけねー……、今のなし! なし! なんか絶対外で話したらダメって大臣に言われてたんだった!」
彼女は両手で大きく「×」をつくって私に提示して見せた。
なんか私、ひょっとして知ったてたらマズい話を聞いてしまった気がするのだけど……、気のせいかしら?
とりあえず、今の話は胸の奥にしまっておこう。そう思って彼女のいる方向から前に視線を戻すと、こちらに向かってくる数人の人影が見えた。遠目にもそれが宮殿の関係者だとわかる服装をしている。
後ろにいるシーラちゃんの方を振り返ると、後ろからも同様の格好をした人影が迫っていた。
「ひぇっ…、挟まれたよ。さすがにもう逃げらんないかな……?」
彼女はまるで頭痛でもするように、こめかみを押さえて首を振っていた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
書き写す重労働。
第6話 運命の出会いへの応援コメント
ど、どうやって追いついた?!
パーラ様は庶民時代にサルを追いかけたことがある?w
作者からの返信
コメントありがとうございます!
その辺は、追いかけた先と逃げた方向がたまたま一致していたか、一度見失って再度見つけたか、都合よく解釈してもらうといいかと思います(笑)
編集済
第7話 指切りへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第7話 指切り
「ねぇねぇ! お姉様、最近の様子全部教えてよ!」
妹シンデレラ様は帰り道をずっとくっついて来た。私が思い浮かべていたお高く止まった妹、シンデレラ様とは、イメージがずいぶんとかけ離れているが、この子はどうやら間違いなくあの灰かぶりの妹、シーラ王妃様のようだ。
――時間は少しだけ遡る。
「お久しぶりです!お姉様!」
まるで鏡を見つめているようないつもの感じ、ただ目の前にいるのは双子の足の小さな妹だ。そして、王子にみそめられて王妃となった憎い妹だ。
「あの……、シンデレラ王妃様…ですよね?」
彼女がいることで私は確信した。きっと妹シーラ王妃様が宮殿からいなくなって、宮殿の人たちが捜しているんだわ。それで、よく似た私をシンデレラと勘違いしてしまった……。
「まぁ、なんてーか……一応、『王妃』のシーラでーす」
軽いノリで話してくる。
いじめてた時はわからなかったけど、この子こんなノリだったんだ。
この話し方……、彼女も私と一緒でよく似た別人かと思うくらい品が無い。宮殿でお見掛けしたシーラ様の上品で気品高い姿とは似ても似つかない。
だけど、双子の姉妹がこの近辺だけで実は3つ子4つ子だったなんてことあり得ないと思う。やっぱり、本物のシーラ様なのよね。
「大丈夫なんですか、こんなところにいて!? 宮殿の方々が捜しているようでしたよ!?」
「知ってるわよ、だって脱走して来たんだもの」
彼女は特に悪びれる様子もなくそう言った。
「だっ…脱走って……、マズいんじゃないですか!?」
「どうだろ? 今回で3回目だからさすがに怒られちゃうかも?」
3回目……、常習犯じゃないですか、シーラ王妃様。
「でねでね! バザールの辺りまで逃げてきたら騒ぎが起こってて、そこで姉さんを見かけたわけよ!」
どの辺から見られてたんだろう?
手を振り払おうとして投げ飛ばしたところ?
拳でぶっ飛ばしたところ?
屋根の上まで跳んで逃げたところ?
「ねぇねぇ! 姉さんの近況全部教えてよ、屋根に飛ぶとかいうスキルいつ手に入れたの?」
えぇ……。
なんかこの子すごくマイペースで、私の話あんまり聞いてない気がする。一緒にいて大丈夫なのかな?
「私は……、もともと脚力はあるのよ。」
「いじめられてた時は怖くて呼べなかったけど、これからはドリゼラ姉さんて呼んでいい!?」
出会って数分でいきなり何なの?何を企んでいるの?
「ああ……、はい。かまいませんけど」
「やっりー! じゃあさ、ドリゼラ姉さんももワタシをシーラと呼んでよ!?」
シーラ様は、帰り道を行く私の周りをくるくるとまわりながら絶え間なく話しかけてきた。一応、先ほどの白い頭巾を改めて被って……というより、巻いて顔を隠してはいる。私も念のため、前髪を左目の方に垂らしていた。
「そんな……王妃様を呼び捨てなんて、ちょっと」
「遠慮しないで! 双子の姉妹でしょ、偶然会えるなんてきっとワタシたちなんかの運命に導かれたのよ! それにドリゼラ姉さんは、でっかい男を投げるし飛ばすし、屋根の上まで跳んじゃうし! 超かっこいいよね!?」
ぜっ……全部見られてる!? なんで間に入ってくれないのよ!?
とりあえず、考えよう。うっかり呼び捨てにしたら不敬罪で殺されるとか、逆になにか言わないときっとそれはそれで殺されるわ。なんとかして、宮殿の人に連れて帰ってもらわないと……。
「シーラ様」
シーラ様は、両手の人差し指を自分の顔に向け、少し傾げてオウム返しをした。仕草がちょっと可愛い。
「シーラ様は『シーラ様』でお願いします。あまりにも恐れ多いので!?」
「『シーラ様」かぁ……、なんかなあ、『シーラちゃん』と呼んで!決定!命令!それでいっかな。」
ちょっと不満なのか……「シンデレラ」よりはいいと思ったんだけど。
「じゃあさ! じゃあさ! ドリゼラ姉さん呼んでみてよ!?」
「えっ…と、し…シーラちゃん」
「もっかい! もーっかい!」
人差し指を私の前に突き出して懇願してくる。なんだか、この子いろいろと可愛らしく思えてきた。
「うん。シーラちゃん!」
「いぇい! ドリゼラ姉さん!今日からワタシたち仲良し姉妹だかんね!?」
今度は左手の小指を突き出してきた。
表情豊かで声も大きい、仕草も大袈裟で忙しない。いじめていた時には気が付かなかった、そのイメージとは全然違ったけど、きっと本物の妹、シンデレラ様。
「わかったわ。今から仲良し姉妹よ、シーラちゃん?」
私たちは左手の小指を絡めて、お互いに微笑み合った。
裏で蠢く灰色の怪物は静かに成長していた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
いろいろと和解した世界線のシンデレラ?
編集済
第6話 運命の出会いへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第6話 運命の再会
私は足に思い切り力を込めて跳んだ。「デカ足女」は伊達じゃない。ブーツの踵が駄目にならなきゃいいけどね……。
路地裏横の民家の屋根に無事着地できた。平坦な屋根のお家があって助かった。家主さん驚かせてごめんなさい、今は不在であるのを祈っているわ。
「ほら見て! 王妃シンデレラ様はこんなことできないでしょ!? 私は姉のドリゼラなの! ド!リ!ゼ!ラ!」
私は屋根の上からこう叫んだ。高さがあると今一つ距離感が掴めなかったから、下にも絶対聞こえるくらいの大きな声を出した。
下にいる男たちは唖然というか、呆然とした表情で私を見上げている。
「殴っちゃった人にはごめんなさい! けど、私は妹のシーラ様じゃないんでもう追いかけて来ないで下さい!」
言いたいことだけ言った後これでもかと頭を下げて、私は屋根伝いを跳んでこの場を去った。
なんでこんなおサルさんみたいな逃げ方しないといけないのよ、キレイなお嬢さんが台無しだわ……。
バザールで騒ぎを起こしてしまったから、お買い物にも戻りづらくなった。今日はもうお家に帰ろう。ご近所の料理屋でランチだけ食べて帰ろうかしら。料理屋さんの昼の定食メニューを思い浮かべながら、なにを食べようかと考えを巡らせていた。
帰り道、街の中心から離れて、舗装されていないデコボコした道へと差し掛かった。時々振り返って、念のため誰かが付けて来ていないかも確認していた。
すると、白い頭巾みたいなので顔を隠した人が小走りにやって来るのが見えた。進行方向が同じなだけなのか……、いや、明らかにこちらに向かって来ている気がする。さっき私を追って来ていた男たちとは服装も雰囲気も違う。
「姉さん!ドリゼラ姉さん!?」
頭巾の人は、どこかで聞いたことある声で私の名前を呼んだ。
女の子の声だ。
彼女は表情が視認できる距離まで近寄ってくると、勢いよく被っていた頭巾を外した。
彼女の顔が目に映った時、ちょうど陽の光が2人の間を照らすように射し込んできた。
美しいブロンドの髪がよりいっそう輝いて見えた。碧あおい宝石のような瞳の中で、虹彩が煌めいている。
そして……、彼女もきっと同じ光景を目にしていたのだと思う。
「気になって追いかけて来ちゃった! お久しぶりですわ!ドリゼラ姉さん。」
それが、私たちの……、「運命の再会」だった。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
デカ足女(笑)。
第5話 追走への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第5話 追走
なにやら露店の並びで騒ぎが起こっていた。
ワタシは白いスヌードを頭巾のように頭から巻いて人込みの中からこっそりと様子を覗いてみた。
『あっちゃー……、あれ絶対ワタシを追って来たやつらじゃんね?』
「お店の人ごめんなさいっ! けど、私はドリエラなんです!」
大の男をぶん投げたように見えた女の子は、そう叫んで走り去っていった。その後ろを宮廷の親衛隊2人が……、やや遅れて投げ飛ばされた1人も追っていった。
『なーんかよくわかんないけど、姉さん、ひょっとしてワタシと間違われてる系?』
ワタシは少し前に買ったばかりの粒あんの御座候を口に押し込んで、彼らの後をこっそりと付けていった。
以前に脱走した際、買っておいた麻の服とズボンに身を包んだ姿、どこからどう見ても庶民のワタシ。――というか、「顔だけイケメン王子」にみそめられなかったら、本当にただの庶民のはずだったんですけどね。
適度に距離を保ちつつ彼らの背中を追っていくと、街の路地裏へと入っていった。
角をいくつか曲がったところで立ち止まる。どうやら逃げていた姉のドリエラは行き止まりに来てしまったようだ。
物陰から様子を覗いて見ると、親衛隊の男が1人彼女に歩み寄っていく。
『ああ……、親衛隊の皆さん、なんかごめん。お願いだからドリエラ姉さん手荒なことはしないであげてね』
心の中でそんなことを願っていたら、すぐ近くで大きなものが落ちてきた音がした。
――はっ? こいつ、私の護衛でよく見かける男よね?
なんでこんなところで寝てんの? ――っていうか、いつの間にここに?
「何度も言わせないでっ! 私の名前は『ドリエラ』よ!」
行き止まりの方から大きな声が聞こえてきた。
ドリエラ姉さん、こっからじゃ親衛隊が邪魔で様子がよく見えないじゃないのよ?』
次の瞬間、ワタシは目を見開いた。きっと傍から見たらすっごいまぬけ面をしていたと思う。
ドリエラ姉さんは急に視界から消えたかと思うと隣りの民家の屋根の上に立っていた。
『ちょっ…!? なにドリエラ姉さん、化け物じゃん! いつの間にあんなスキルを得たの?超おもしろいんだけど!』
私をさんざんいじめた「ドリエラ姉さん」の様子はワタシの復讐心に火を点けていた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
作品が完結する時にはもう1作でき上がってそう。
編集済
第4話 脱走への応援コメント
作 武緒さつき♀
第4話 脱走
「またシーラ様が逃げ出したぞ!」
国の首都「ハミシバ」その中心にある巨大な宮殿の中では騒ぎが起こっていた。
大臣衣をまとった重鎮たちが右往左往している。
国の象徴ともいえる王妃シーラが姿を消したのだ。
――といっても、彼女が姿を消したのはこれが初めてではない。すでに過去2度にわたって宮殿から脱走していた。当然、彼女の侍女たちも警戒はしていたのはずなのだが……。
「もうこれで3度目だぞ! どうして誰も気付かなかったんだ!?」
中年の大臣が怒号を上げて、周囲を見渡す。
「申し訳ございません。おそらく変装して外へ出られたのではないかと……」
ばつが悪そうに大臣の前に歩み出た侍女は、その両手に王妃シーラが身にまとっている純白の衣装を抱えていた。
「これを……どこで?」
「王族用のお手洗いでございます」
報告を受けた大臣は頭を抱えるような仕草をした。王族しか立ち入れない場所で警備が薄くなるのは理解していたようだ。
そのため貴族の子女たる侍女を増やしたばかりだったのだ。
「コンサドーレよ、王妃様の行き先に心当たりはないか?」
若き王立図書館司書コンサドーレは、少しの間考え込むように腕を組んで見せた。しかし、すぐにそれを解いてこう言った。
「また街のバザールに行かれたのではないでしょうか? 前回もあそこで歩きながらジパングという東方の国から来た露店で、あんこたっぷり御座候、を食べておられましたので、王妃はあれに目がないのです。」
コンサドーレに尋ねた大臣は、これでもかというほどの大きなため息をついた。
「まったく王妃様ともあろう方がなんと品の無い……。民衆が気付く前に必ず見つけて連れ戻すのだ! よいな、コンサドーレよ!?」
「承知致しました。護衛の者を何名か借りていきます」
コンサドーレは大きく一礼をして、その場を後にした。
『まったく、なんと世話の焼ける王妃様だろうか……。お世話係の身にもなってもらいたいものだ』
◆◆◆
私はシンデレラの双子の姉ドリゼラ、足がデカくて王妃になり損なった可哀想な女の子よ、せっかくかかとを切り落としたというのに。
今日、街のバザールに買い物に来ていた。ご近所さんからは「なりそこね王妃」と可愛くない言われ方をしているけど、お出掛けするときはきちんとおしゃれもするんです。
首元がVの字に開いた水色のギャザーセーターに純白のスカート、靴は少し暑いと思ったけど底の厚いブーツを履いて出かけた。たまには女らしくしないと、本当に殿方が寄って来ない気がするから。
服装をきちんとする時は、前髪も横に流して顔がはっきり見えるようにしている。
これならどこから見てもちょっといい感じの女子じゃないかしら?
間違っても「デカ足姉」とか「なりそこね王妃」とか言われることはないはず……。
綺麗な衣装は気持ちを軽くさせる。私は軽く飛び跳ねるように歩きながらバザールの屋台を見てまわった。
昨日降った雨のせいか、地面には水溜りができている。だけど、それが陽の光を反射して、まるで街路を彩る照明のようでもあった。
「そこのキレイなお嬢さん! 貴女に似合いそうなアクセサリー置いてるよ!」
アクセサリーの露店の売り子に声をかけられた。普段「なりそこね王妃」とか言われているせいなのか「キレイなお嬢さん」とか言われるとちょっとなびいてしまう。
私は特別高価には見えないネックレスを眺めていた。すぐ横に誰かが立った気配がしたけど、きっと別のお客さんだと思って気に留めなかった。だけど、突然、左手首を掴まれたのでハッとした。
「探しましたよ、シーラ様?」
私にしか聞こえないであろう、とても小さな声でそう言われた。隣りには全く見知らぬ男が立っている。同じ服装の男があと2人後ろにいた。
一瞬だけ気が動転したけど、この男が発した「シーラ様」の言葉で私は状況を理解した。
本当にこんなことってあるんだ……。
「あの……、ちょっと似てるかもしれないけど妹ではありません。私は双子の姉のドリゼラと言います」
私は、隣りの男の第一声に負けず劣らずの小声でそう話しかけた。
「お戯れはほどほどに願います、シーラ様」
手首を掴んだ男が、その手を強く引いた。私は反射的にそれを振り払おうと左手に力を込めてしまった。
「違います! 私はドリゼラですって!」
次の瞬間、アクセサリーの露店の屋台と一緒に手を掴んでいた男は吹っ飛んでいた。……ついでにお店の売り子も。
残った男2人は血相を変えて私を見てくる。吹っ飛んだ男もすぐに起き上がってきた。
『ああ、なんかもう絶対これ面倒なやつじゃない!?』
「お店の人ごめんなさいっ! けど、私はドリゼラなんです!」
大きな声でそう言ってから、私はスカートの裾を両手で持ってその場から駆け出した。
なんで妹シンデレラ様と間違われてるのよ!? 王妃様がこんなところでお買い物してるわけないでしょうが!?
新手のキャッチ?
私は頭の中でそう叫びながら、全力で走っていた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
新手のキャッチ!?
第3話 怪力少女ノワラ・クロンへの応援コメント
武緒さつき♀
シーラは侍女たちの手際の悪さにイライラしていた。
「全く、部屋の掃除一つまともにできないのね、動きも無駄が多すぎ!」
「部屋の掃除は壁の高いところから埃を落とすのよ、変なところからやったら二度手間でしょ、それとそっちのイザベラ!動きに無駄が多すぎ!何回同じところを行ったり来たりしてるの、モノの移動は一回で終わらせなさい、それと次の動きを考えてね!全くもう。」
シーラは天蓋ベットのシーツの折り返し方まで侍女に教える。
「もう、これって自分で全部やった方が早いわ!」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
こき使われて鍛えられたのかな?
第3話 怪力少女ノワラ・クロンへの応援コメント
なんだ左目を隠しているのではなく、顔を認識し辛くしているんですね。
厨二な方かと期待しちゃいましたw
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ノワラちゃんは中二病!?
第2話 聖女パーラ・シロッコへの応援コメント
どうして女神様に選ばれたかって?
それは、面白いからに決まってます!w
真相は女神様に訊くしかないですが、きっと何割かはそうでしょう!
ところで毎日ご神託をって、どんな内容なんでしょう?
もしかして世間話?w
作者からの返信
コメントありがとうございます!
女神様も唯一会話できる人を選抜するなら面白い人がいいですよね(笑)。
編集済
第2話 聖女パーラ・シロッコへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
私の名前はシンデレラ。
そう、あなたも良くご存知のはずよ。
侍女たちには「シンデレラは長くて呼びにくいだろうからこれからはシーラと呼んでね。」
などといい子ぶって言ってしまったのでみな私のことはシーラ様と呼ぶ。
あの時は思い出したくもない毒母と毒姉への反発でいわゆる「シンデレラストーリー」と言われる幸福なはずのモノだったのだけど、後で良く考えてみたら一度しか会ったことのない顔だけはイケメンの王子様、中身は凡庸だし、錠前オタク、贅沢だけはさせてくれるけど皇太后からは国宝の古書の写本が王妃の努めとか言われて毎日毎日毎日毎日毎日毎日、あーイライラする!
考えてみたら村娘の私が王宮とか無理なのよね。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
まさかの二次創作!?
第1話 ふたりの少女への応援コメント
一瞬「王子と乞食」を思い浮かべましたが、この二人は容姿だけではなく何となく性格も近そうですね。
二人が出会ったら、思いっきり意気投合するか同族嫌悪に陥るか…どちらでも楽しそうw
この後の展開が楽しみです。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
できればペース落とさず、1日1話更新予定です。
ホメ子さん同様追いかけてもらえるととてもうれしいです!
第1話 ふたりの少女への応援コメント
グリ(灰色)の聖女
作 武緒さつき♀
王立図書館の一角
美しい豊かなブロンドの髪を無造作に三つ編みにした少女が静かに本を読んでいた。
ずいぶんと古い分厚い本で痛み具合からゆうに数百年は経過したようにも見える。
古代ゴンドアナ文字で書かれているようだが、著者名は消えかけててかろうじて最初の文字、「7」に相当する部分だけが判別できる。
本文もほぼ同レベルでところどころ判別不能な部分があり、黒と白の混ざった羽ペンで書き写しているようだが捗らない。
「あーもう!イライラする!」
突然癇癪を起こした少女は貴重そうな古書をテーブルの上から床に払い落とす。
「シーラ様!いけません!これは国宝級の書物なのですよ。」
侍女らしき亜麻色の髪の女性が青ざめて拾い上げる。
今の衝撃で綴じ糸が何本か切れ、裏表紙が千切れかける。
その時、古書から一枚の羊皮紙が落ちた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ここにも新しい物語が紡がれていく。
第35話 可憐への応援コメント
こうゆうの待ってました🎵( *´艸`)
作者からの返信
コメントありがとうございます!
力解放の時!!