第47話 成人の夜(最終話)

 私は本日成人の儀を迎え、成人した。


 成人の祝いを兼ねて、今、私はカミュスヤーナと一緒にお酒を楽しんでいる。

 私は度数の少ない甘みの強い果実酒を、更に炭酸水で割ったもの。

 カミュスヤーナは強めの蒸留酒に、氷を浮かべて飲んでいた。


「カミュス。婚姻の証って素材は何を使われたのですか?」

 私は胸元に下げていた婚姻の証を引き出して、触りながら尋ねる。


 ちなみに、婚姻の証は婚姻式で、お互いが相手の為に用意をし、交換をする品のこと。

 私たちの婚姻の儀は既に終わっていた。

 元領主のものということで、かなり大規模になった。

 あわせて、アルスカインの領主就任式も行われたものだから、領外から人が来て、私たちはかなり忙しかった。

 それらもようやく落ち着いて、私たちは自分たちの時間が持てるようになっている。


「それは私が常に持っていたお守りを加工し直した。何か気になることでも?」

 カミュスヤーナの問いかけに応えるように、私は婚姻の証についている宝石に魔力を流す。

 宝石が光り、それを中心にはらはらと白い羽根が現れては消えていく。


 その現象を初めて見たのだろう。

 カミュスヤーナは驚いたように目を見開いた。

「それは……」

「これは守護石ですね。私が贈ったものも、父親からもらったお守りを加工したのです。今まで私を守ってくれましたので、今度はカミュスを守ってくださるようにと」


 私の言葉を受けて、カミュスヤーナも自分の胸元から婚姻の証を引き出して、宝石に魔力を流した。

 私のものと同じように光り、白い羽根が現れては消える。


「ずっと持っていたのに知らなかった」

「守護石は天仕しか持っていませんから」

 私の言葉に、カミュスヤーナは手をこめかみに当てる。


「それはどういう意味だ」

「私、ずっと不思議に思っていたのです。カミュスは魔人の血が流れているから奪うことが可能なのはわかりますが、なぜ与えることができたのだろうかと」


 以前にも話した通り、天仕は『与うるもの』。

 自分が持つ能力、魔力、血などを、自分の意志で他者に与えることができる。

 それと対するように魔人は『奪うもの』。

 魔人は他者の持つ能力、魔力、血などを奪うことができる存在。


「私の病を治してくださった時、カミュスは魔力を与えてくださいました。魔人の血を引いているだけでは無理です」

「……なぜ私が与えたことを知っている?」


 まず、それを聞きますか。そうですか。


 私がカミュスヤーナの顔をじっと見つめると、カミュスヤーナの顔が私の視線を受けて、うっすらと赤くなった。


「夢の中で貴方が話してくれたのもそうですが、思い出しました」

「いつ、思い出した?」

「私の記憶が戻った時です」

「……」


 そう考えると、私たち口づけの回数多くない?必要に迫られた上だけど。

 カミュスヤーナは私の言葉を受けて、軽く頭を振っている。


「あれは、魔人の血を引くから可能かと試しただけだったが、まさか天仕の力を行使していたとはな」

「カミュスは、自分の両親の事を知りたくはありませんか?」

「……私の義両親は、領主様と領主夫人だ」

「ですが」

「いい。過去の事を振り返っても、今が変わるわけでもない」

「私は、もう少しカミュスには自分のことを大切にしてほしいのです。自分の生まれのことを気にされていましたので、分かったら、少しは気が楽になるのかと」


 私の方を見て、こちらを安心させるかのように、カミュスヤーナは微笑んだ。

「それは……もう大丈夫だ」

「?」

「私には私の存在を肯定してくれる君がいる。君を守るために、私は自分を犠牲にしない」

「カミュス」

「私たちは永遠に共にいる。婚姻の儀でもそう誓っただろう?」

「……ええ、そうですね」

 彼の微笑みにつられて、自分も笑みを浮かべているのが分かった。


 カミュスヤーナは、酒が入ったグラスを卓に置くと、その場に立ち上がる。

 そして、私に向かって両腕を開いた。

「おいで。テラ」

「……」

 私は、カミュスヤーナの腕の中に入って、その胸に自分の耳を押し当てた。

 彼の熱を薄い服の生地越しに感じる。そして、速い鼓動も。自分の鼓動の速さと負けず劣らずだったので、彼も緊張しているのだと思った。

 彼の腕が私の背に回り、軽く力が籠められる。


「カミュス。身体がとても熱いですね。もう酔っていらっしゃいますか?」

「残念ながら、私は、酒には酔えない。でも君になら酔えると思う」

 耳元で囁かれる声が心臓に悪い。

「今夜は私を酔わせてほしい」

「……私はもう酔っています」

 私は小声で答える。


 カミュスヤーナが私の顔を覗き込む。

 彼の赤い瞳に自分の心内が見透かされるような気持ちがして、でも、その美しい瞳から視線が離せなくて、逡巡していると、カミュスの表情が柔らかく崩れた。

「フフッ。確かにもう身体が熱いな。では、この熱を私に分けてほしい」

「お手柔らかにお願いします」

「……無理はさせないと誓おう」

 私たちは顔を見合わせて微笑んだ。

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目が覚めたら夢の中 説那 @kouumi

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