第10話 第二夜の3

「他にも聞きたいことがあるのだけれど」

 カミュスの眉が上がる。どうやら面白がっているような様子を感じる。

「答えられることには答えるが」

 とはいえ、今の私には頼れるのが彼しかいない。実際、聞いたことには、素直に答えてくれていると思う。

 私は彼の優しい笑みを見ながら口を開く。


「私とあなたは従兄妹同士だけど、私の母が亡くなったことで、あなたと兄妹のように過ごしていたのでしょう?」

「そうだな」

「ここ最近はどうだったの?」

「ここ最近か……。このところは一緒に食事をすることはあるが、ほとんど話していないな」


「それは貴方の仕事が忙しいとか?」

「それもあるが、私は意図的に君を私から遠ざけていた」

 カミュスが若干苦しそうに顔をゆがめた。

「仲が悪くなったの?」

「私の側にいると、少なからず危険だったから」

 これ以上聞くのは、難しそうだ。私は話題を変えた。


「遠ざけていた私が、魔王に身体を奪われて、貴方の夢に逃げてきたのは、偶然?」

 私の言葉を受けて、カミュスが考えるように顎に手を当てる。

「彼奴がどのように君に接触してきたかがわからないので、確信はないが。。君の身近にいる魔法士が私だったのではないか」

「でも院に通っていたのでしょう?魔法士は他にもいるのでは?」

「数は多くないかもしれないが、いるだろうな。後の君のように魔法士で教鞭をとっている者もいるのだから」

「教師ということは魔法にはたけているのでしょう?そちらを頼らなかったのは、何か理由があるのかしら?」


 きっと、カミュスは何かを隠して、ごまかそうとしている、と思った。

 私が問い返すと、カミュスは言いにくそうに言葉を発した。

「……実は、人の夢に意識を退避させるのは、ある条件がそろっていないと、できないことなのだ」

「成立条件ってなに?血のつながりが必要とか?」

 だったら、従兄妹同士だし、わかる気がする。

「いや?血のつながりは関係がない。私は養子だから、君と血は繋がっていない」

「養子?カミュスが?」

「私は魔力量の多さをかわれて、エステンダッシュ領の領主に、養子にもらわれた」


 元々、カミュスは、エステンダッシュ領の領主を補佐する摂政役の息子であったそう。だが幼いころから魔力量が多かったため、領政の安定と次期領主の摂政役を任せる目的で、6歳の時に領主の養子になったという。


「私が養子としてもらわれた時、次期領主はまだ2歳だった。次期領主が成人するまでは、私が一時的に領主になる可能性もあったため、私は領主と摂政役のどちらにもつけるように教育を受けた。そして、私が成人し院を卒業してすぐに、エステンダッシュ領で疫病が流行した。領主とその妻、私の元父親である摂政役も疫病で亡くなり、私が急遽領主となった。疫病は後に予防薬が作成され、根絶された。4年かけて領政を整え、今に至る。まもなく、次期領主である弟のアルスカインが成人するので、私は領主を引き継ぎ、摂政役になる予定だ」


「……で、私がカミュスの夢の中に退避するに至った成立条件とは?」

 私の問いかけに、彼はひくっと口の端を引きつらせる。

 けむに巻こうとしても無駄なのだから。

 私はあえてニッコリとカミュスに微笑みかけた。


「推測だが、聞きたいか?」

「よくわからないけど、続けて」

「……君には私の魔力が流れている。とある事情により。そのため、退避しようとした時に同じ魔力に引き寄せられて、私の夢の中に入ってきた、と推測される」

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