第19話 ご令嬢との対談
コーンウェル家のお嬢様との待ち合わせに指定されたのは、王都の中でも特に上流階級に位置する人々が住む、高級住宅街。
そこで一番人気のレストランだった。
「さあ、遠慮せずお召し上がりください、男爵」
「ありがとうございます、メアリー様」
勧められるまま、私はテーブルの料理に遠慮なく手を付けた。
……正直、貧乏舌が過ぎて良い悪いがよく分からないけど、なんとなく高級! って感じの味がする。
「良い食べっぷりですね。うちで飼っている犬のワットソンを思い出します」
「ふふ、侯爵家の犬にならなってみたいですね。何分、ついこの間まで塩のスープしか食べられない生活をしていましたから」
「し、塩……ですか?」
「はい、豆すらなかったので」
ごく当たり前のようにそう返すと、メアリー様は見るからに動揺していた。
「……たくさん、食べてくださいね」
うん、「貴族の癖に犬みたいにがっつきやがって」って遠回しに言われたから、「贅沢三昧の侯爵家の犬と比べんな」って返したつもりなんだけど、予想以上に同情されてしまった。
なんていうか、良い子だね、メアリー様。
『マスターとは大違いですね』
「だまらっしゃい」
相変わらず一言多い、今回の私の付き人たるアイに小声で返す。
そのやり取りが聞こえたわけじゃないだろうけど、メアリー様がアイに目を向けた。
「そちらの妖精は……話に聞く、メビウスの管理者ですか?」
「はい、古代人によって召喚された精霊で、アイと言います」
『よろしくお願いいたします』
アイがその小さな体でペコリとお辞儀をすると、メアリー様は興味津々といった感じで瞳を輝かせていた。
……えーっと、この子、めちゃくちゃ純真に見えるんだけど、大丈夫?
友達にはしたいタイプだけど、侯爵家の次期当主だって言われたらめちゃくちゃ心配になるんだけど?
あるいは、そういう子をあえて私にぶつけることで、私がどれくらい侯爵家に対して尻尾を振るつもりがあるのか確かめようとしてるとか?
今はまだ、正式な侯爵はアルドナ様なわけだし……“程よい”対戦相手になりそうな私にぶつけて、経験を積ませようとしている可能性もある。
……両方かな?
「さて、食事も良いですが、そろそろ本題に入りましょう」
そんなことを考えながら食事を進めていくと、ついにメアリー様からそう切り出された。
さて、どんな話し合いになるやらと思いながら、私は居住いを正して耳を傾ける。
「今回の天空祭、フラウロス家も
「はい、その予定ですが、それがどうしましたか?」
「こういうことを言うのもどうかとは思いますが……男爵には、ほどほどのところで負けて頂きたいのです」
「一応、理由をお聞きしても?」
「あまり驚かないのですね」
「それはもう、貴族でさえ欲しがるほどの大金が動くイベントですもん、八百長くらいあるでしょう」
私が飲み物を口にしながらあっさりと答えると、メアリー様は心底驚いたと言わんばかりに目を見開いていた。
けれど、そんな動揺をすぐに覆い隠して、改めて口を開く。
「……そうです。アークライン公爵家が主導となり、自分達の利益が最大化するよう勝敗をコントロールしています」
杖鎧大武闘会で行われる賭博は、三位までの順位を予想して当てる方式になっている。
その三位以内に入る参加者を好きにコントロール出来たなら、そりゃあとんでもない利益になるだろう。
「コーンウェル家は、その八百長に関わっていると?」
「違う!! 父上は決してそんな小狡い真似はしない!!」
「ですが、今まさに私に負けるよう圧力をかけてらっしゃいますよね?」
メアリー様の感情論をバッサリと切り捨てると、彼女はどこか悔しげに唇を噛む。
「……男爵の身を案じて言っているのです。アークライン家は、王国内でも最高峰の杖鎧製造工場を有していて、傘下の貴族も多い。バトルロイヤルと銘打ってはいますが、参加するのはほぼ全機がアークラインの息がかかっている者ばかり。八百長の障害になりそうな者は、真っ先に寄って集って袋叩きです。過去には、それで再起不能となった
もちろん、観客からはそれと分からないように。と、メアリー様は語る。
わあ、怖い。
「男爵がメビウスを手に入れ、古代の魔法技術を用いて強力な杖鎧を試作したことは、既に公爵家の耳にも入っています。恐らく、本番までに公爵から何らかの接触があるでしょうが……下手に逆らうようなことはせず、言う通りにしてください。父上もそれを望んでいます」
侯爵としては、試作機の段階から下手に注目を浴びるより、ガッツリ量産体制に入って、自分達だけがしっかりと利益を享受しきったタイミングでその力を知らしめた方が、優位な状況を作れるって考えてるんだろうね。それは分かる。
「今は堪えて、次の機会を待ちましょう」
分かるけど──それは全部、私達フラウロス家とは関係のない事情だ。
「お断りします」
「……な、なぜですか? 下手なことをすれば、公衆の面前で袋叩きなのですよ?」
「うちの機体を、あまり甘く見ないでください。それに……たとえ公爵家に何をされるとしても、うちだってお金は必要なんですよ」
コーンウェル家の支援もあって、ひとまずの危機は脱したものの……借金まみれで首が回ってないのは今も同じだ。
それを解消する手段が目の前にあるのに、消されるのが怖くて後に退けるわけがない。
「それと、もう一つ。私、家臣と約束したんですよ。この戦い、思いっきり暴れてくるってね」
「そんな……たかがお金と口約束のために、公爵家に喧嘩を売ると!?」
「メアリー様」
私が名前を呼ぶと、メアリー様はびくりと体を震わせる。
……ちょーっと、今の発言は看過出来ないよ。
「メアリー様は、アルドナ様を相当尊敬なさっているように見えますが、なぜですか?」
「……親を亡くした私にとって、私を育ててくださった父上と、父上が救ってきた子供達だけが家族だからです。家族を大切に思うのは当然でしょう?」
「私は、その家族に裏切られた人間です。両親に見捨てられ、勝手に身売りされそうになり、借金を押し付けられて……何度死ぬかと思ったかも分かりません」
私の言葉に、メアリー様は絶句する。
我ながら、随分と意地悪なことを言っている自覚はあるけど……これだけは、言っておかないと気が済まない。
「そんな私にとって、落ちぶれてもなお私から離れずにいてくれた家臣達こそが、何物にも換えがたい大切な仲間です。そんな家臣との約束を、彼らを養うためのお金を……“たかが”などと言われたくありません」
話は終わりだとばかりに、私は立ち上がる。
踵を返して、レストランの外へ向かいながら──その途中、衝撃のあまり呆然としているメアリー様へ、にこりと笑みを向けた。
「心配なさらずとも、上手くやりますよ。コーンウェル家にも、アークライン家にも、ちゃんとメリットがあるように立ち回りますから」
「……出来るのですか? そんなことが」
「もちろんですよ。まあ、見ててください」
アイと共に店を後にしながら、私は宣言する。
「史上最高の天空祭にしてみせますから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます