第75話 狐

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

緑の葉の描かれた扉の向こうの世界の物語。


あるところで少年が狐を飼っていた。

狐といっても、小狐らしく、

手のひらほどのサイズの狐だ。

その世界の狐全てがそういう訳でもないだろうが、

取り合えず少年の狐は、両方の手のひらで包めるほどの狐だった。


その狐は、よく脱走しては捕まえられていた。

少年も慣れたもので、

狐が行きそうなところは知っていた。

でも、狐も賢くなってくるもので、

狐はどんどん遠出をするようになっていった。


最近では、小さな家の、小さな庭の外まで、探しに行くことがよくあった。

狐も狐で、追われるのを楽しんでいる節があった。

ある程度まで行ったら捕まるように。

狐から待っていることもあった。


(どこまで逃げられるか試してみよう)

狐がそう思ったかどうかは定かではない。

しかし、その日、

狐は少年を待たずにどんどん逃げていった。

少年は追っていく。

いつもと違うことを少年も予感して。


小さな狐は小さな田舎町を駆けていく。

郊外のその町は、あっというまに人家が途切れた。

それでも狐は駆けていく。

いつもより速く、いつもより遠くへ。


舗装もされていない、

黄色い土が剥き出しの道を狐と少年は駆けていく。

あまり広くない道を。

道の端っこからは、背の低い植物が畑になっている道を。

狐と少年は駆けていく。

時折咲いている小さな花を、横切る風で揺らしながら。


少年と狐は、

追うもの追われるものでありながら、

まだ見ぬ風景を予感していた。

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