第66話 未来

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

天使の彫られた扉の向こうの世界の物語。


あの夢から目覚めて、

アキはナナがどこからか戻ってきた事を聞いた。

イチロウはとても喜んでそうだ。

ナナの子どもも、お腹の中で順調に育っているそうだ。

そして、教会の裏庭が、改装される事も聞いた。


多分、アキははじめて、泣く以外で教会の裏庭にやってきた。

そこには既に、キリエが来ていて何か頷いていた。

キリエはアキに気がつくと、

「今、螺子師って奴と、友達になったところだ」

と、笑った。


しばらく、キリエとアキと、ネズミ穴の向こうの螺子師とで話が弾んだ。

こちらからは、ナナが戻ってきた事。

螺子師からは、ある喫茶店のギター弾きの弦が3本切れた事、などが話された。

「奇遇だなぁ…」

と、キリエが呟いた。

「俺のギターの弦も3本切れたんだ。何か変な夢見た後のような気がしたけど…」

よく覚えていない、と、キリエは言った。

アキは、あの、近い3回の音の主がわかった気がした。


「ここも改装されちゃうらしくて…多分お話出来るのは最後だと思うんです」

アキがそう告げる。

「そうですか」

と、螺子師が言う。

「でも、アキさんなら、もう、大丈夫ですね」

螺子師は何か確信を持っている。

「イチロウさんでもなく、螺子師と言う僕でもなく、キリエさんと言う、いい人がいるじゃないですか」

「えっ…」

アキは絶句してしまう。

キリエに目をやると、真っ赤になっている。

「さて、お邪魔者は退散しますか。二人の未来に幸あらんことを!」

そして、ネズミ穴から遠ざかる足音が聞こえて、それっきりだった。


「アキ…」

ようやくキリエが口を開く。

「うん…」

アキはそれ以上言葉を続けられない。

「あの、とりあえず、弦買うの付き合ってくれないか?」

「うん」

そして自然にキリエの手が差し出され、

そして自然にアキの手が重ねられる。

二人は微笑み、教会の裏を後にした。


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

天使の彫られた扉の向こうの世界の物語。

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