第59話 黒

…全て呪うような黒いドレスで…


広間に彼女の歌が響く。

声の主は黒いウェディングドレスをまとった女性。

ヴェールで顔を隠しているが、

微かに見える肌は死人のように白い。


ここはその昔、結婚式場だったと、

彼女は知っているのか知らないのか。

広間に呪わしい声を響かせる。

狂ったように、かなしそうに。


…幸せになりたかった…


水路の多い街…

仲間がいた…

何が幸せなのかわからなかったが、

あの時間は幸せだった。


…全て崩壊してしまえばいい…


黒いドレスの女性は歌う。

崩壊を望む歌を。

自分が仲間や幸せから引き裂かれたように、

全て引き裂かれて、崩壊してしまえばいい、と。


彼女の傍には、

大きなガラス管がある。

人間がすっぽり入ってしまうくらいの。

そこに、人影らしいものが見える。

体格から男らしい事はわかる。

ただ、姿はあまりにも醜く爛れている。

どろどろした液体に浸けられ、鎖で雁字搦めになっている。


…絶対に、離さない…


彼女が歌う。

胸が張り裂けるような声で。


ガラス管の中の男が、身じろぎしたような気がした。

鎖が触れる音がする。

彼女はそちらを向いて、呟く。


…誰にも渡さない…


そして彼女は歌う。

全てを呪うような歌を。

それは広間から、廃ビルを響かせ、斜陽街の番外地へと響く。


それは黒の女性の歌う、黒の歌、黒の風。

胸張り裂けるような思いの波。


…幸せに…なりたかった…


彼女は歌っている。

その魂が救われるまで。

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