第28話 女神
番外地、探偵事務所の近くに、神屋と呼ばれた店の跡がある。
建物は残っているが、もう営業はしていない。
もともとは、物に宿った神様を扱っていた店らしい。
何でもこの店の主人は、自分だけの女神を見つけて、その女神とともに旅に出たとか。
噂なので眉唾だが、とにかく神屋はもう営業していない。
この神屋のあとに住み着いた者がいる。
近くに住む探偵が気配があるのを不審に思って店に入ってみた所、彼女を見付けた。
探偵曰く、『空っぽの女神』
彼女は虚ろな目をして、遠くを見ている。
その胸は向こうが見える。
穴が開いているのだ。
彼女をはそれでも立ったまま遠くを見ている。
腰に薄い布だけまとっている。
古いギリシアの彫刻のような美しい女性だ。
「埋まらないのです…」
彼女は探偵にそう言ったそうだ。
「ここが…埋まらないのです…」
抑揚の薄い声で話し、胸を指差す。
「埋まらないのです…」
探偵は神屋のあとにある様々のがらくたを、彼女の穴にあててみた。
どれもがそうのようで、どれもが違っていた。
「私のかけら…この街にあるはず…」
「でも、この店の中にはないようだな…」
一通り試してみて、探偵がそう言う。
「焦ってるか?」
「いえ…私は死にませんから…ただ、空虚なだけです…」
「そうか…この街にあるんならきっと見つかるさ」
探偵は彼女を励ました。
彼女は虚ろに微笑んだ。
彼女の言うとおり、彼女は死なないようだ。
探偵の助手が心配して食べ物を持っていったが、
「食べなくても平気です」
と言われ、戻ってきたということもあった。
探偵の言うように、彼女は女神なのかもしれない。
少なくても、普通というものではないらしい。
「私のかけらが呼んでる…苦しんでる…」
彼女は遠くを見たまま呟く。
まだ彼女のかけらは見つからない。
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