1597 奇跡を前にして

(ニコラ)


ずっとずっと……止めることができなかった『悪』の世界が崩れていく。


生まれながらに『悪』の気質を持って生まれた弟のカール、そして我が息子のエドワード……そんな二人が、なすすべもなく崩れ落ちていく様を見ながら、心が震えた。



「……きっとこのまま二人は、死ぬまでその道を歩き続ける……。沢山の人を犠牲にして……。」



もう遥か昔に、その背中すら見えなくなってしまった二人の歩みは絶対に止まらない。


今まで犠牲にしてきた者達が、戻るための道を消してしまうから。


表情には感情は出さなかったが、いつの間にか強く握っていた拳が痛む。



「だからせめて……せめて、今の場所でその足を止めさせてなければと、できる事をしてきたが……私は……。」



王として。


父として。


兄として……。


本当に最善の答えを選んできたのだろうか?


そんな想いが常に心の中にあった。



「…………。」


「……ニコラ王……。」



隣に立つエルビスが、何かを言いたげな表情をしていたが……私はそれに答えられなかった。



「あ〜……スッキリした!」



沈黙し続ける私の視線の先で、救世主リーフ殿が汚れを払う様にパンパン!と手を叩いている。


こんな奇跡の様な出来事を起こした張本人だというのに、なんだかあまりにも普通で……だからつい、そんなリーフ殿に向かい私は話しかけてしまった。



「……私は……自分の子であるエドワードを止める事ができず、ここまできてしまった……。神はそれを許して下さるだろうか……?」



王は決して弱音を外に吐き出してはいけない。


それが分かっているのに、問うたのは────ここが現実ではないから。


それを言い訳にして、私は長年抱えていた心の内を吐き出してみたのだ。


このまだほんの子供である小さな神の御使い様に……。


小さな神の御使いリーフ殿は、やはり特に興奮した様子もなく、腕を組んで考え込む様子を見せた。



「う〜ん……。どうだろうか?俺、この世界の神様にまだ会った事ないからなぁ……。────あ、じゃなくてないので〜。」


「どうかいつも通りのことば遣いで。

これは夢の中……今の私も当然王ではないのだから。」



慌てて言葉を正そうとするリーフ殿に、私は笑顔でそう伝える。


するとリーフ殿は、なるほど!といった様子で、ポンッと手を叩いて笑った。



「うん、分かった。じゃあ、いつも通り話すね〜。

まぁ、何にせよ、上に立つ者っていうのは色々と大変だと思うよ。

欲望で前が見えなくなっちゃう人が、世の中には沢山いるからねぇ……。」



自分だけは助かろうと、言い訳と押し付けの数々を怒鳴り散らすエドワード派閥の者達を見て、リーフ殿はヤレヤレと大きく肩を竦める。


私もそんな、ため息しか出ない欲望丸出しな姿を見渡し、クスッと笑った。



「私は善人を傷つける『悪』という存在に対し、非常に嫌悪する気持ちを昔から持っている。

だから手を抜かずに厳しく処罰してきたつもりだが……皮肉な事に、我が息子が、そんな『悪』の象徴となってしまった。

私は……その事をずっと悔やんできたよ。

私ではない誰かが親であったら、そうならなかったんじゃないかと……そう思ってしまう。」


「なるほどなるほど。まぁ、その可能性はあるかもね!」



なんともアッサリと私の言葉を肯定したリーフ殿に、多少面食らったが……同時に、それを肯定してくれた事に感謝の気持ちも湧く。



私がもっとキチンとしていれば、エドワードは『悪』の道に行かなかった。



そう認めてもらった事で、私は自分で自分を断罪する事ができる。


フフッと密かに笑った私は、倒れているエドワードの方へ一瞬視線を向けた。



いつか来る最後は、共に地獄へと連れて行こう。


国を任せられる誰かが現れ、王の責任から開放された後は、私という罪人と共に……。



「子育ては相性と運だからね。どんなに親が一生懸命になったって、駄目な時は駄目駄目。どんまいどんまい。」


「?????」



ハハハッ!と軽快に笑うリーフ殿は、非常に理解が難しい話をする。


それを理解しようと必死に頭を回転させている間も、リーフ殿はまるで自分が体験した思い出話を語る様に話し始めた。



「怒り方一つ一つ、心に響く言葉も態度も全部バラバラなんだ、子供ってヤツは。

ガツン!と怒ってやらないと駄目な子もいるし、怒ると逆に駄目になっちゃう子だっている。

答えが出るまでソッとしておかないと駄目な子だっていたし、ボコボコに殴ってやらないと止まれない子だっていたね。

とにかく多様性がありすぎて大変大変!大人は振り回されっぱなしさ。全く〜……。」


「……そ……そういうモノ……なのだろうか……?」


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