誰の思惑-2

 講義が進む中シーナとマグ、ノリアたちは爪を隠しながら生活を送ってきた。角が立たないように、爪痕が残らないように。しかし、彼ら彼女らは『黄昏の魔王』のお墨付き。ましてや樹海の妖精が認めた者である。そんな理由から注目の的になることは避けられなかった。

 家の食卓を三人で囲む。そんな中マグは話を切り出した。


「なあ、最近どうにも周りがざわざわするんだが。俺の気のせいか……?」

「気のせい、じゃないと思う」


 ノリアも同調する。実際に感じている違和感も名の知らない恐怖も、すべてが不明瞭だ。一瞬「普段が三人行動だからだけなのか」とくだらない考えが脳裏をよぎるもノリアは顔を横に振る。余計な憶測ばかりが浮かんでしまうためか、溜め息を吐き出すノリア。その間顎先に人差し指を当てて唸っていたシーナもようやく口を開く。


「でも何か空気感がかわったのは間違いないと思うのよね」


 そして周囲からの視線が何か変だと付け足す。


「視線ねぇ。何か嫌な噂でも流れてるのかな」


 マグはあり得る話の中で一番現実味のある可能性を口にする。ボソリ、と呟いたマグの言葉に耳聡くシーナが目を見開く。


「そうね、ただでさえ余所者なわけだし……一番あり得る話だわ」


 シーナは再び顎に手を当て始めた。ピリピリと、ざわざわと伝わる感覚に肌が粟立つ。思わず二の腕のあたりをこする。堂々巡りな状況にシーナはマグへ話を投げた。


「マグ。貴方たちの故郷は関係しているのかしら?」

「もう滅びた国だし、追いかけ回す奴なんてそうそういねぇよ。寧ろシーナの加護の話が何処からか漏れた、その線の方が有力だな。あるいはシニカさん達についての情報と知識か」


 魔王について快く思わない国々も中には存在する。そのような者が裏で手を引いていてもおかしくはない。


「一度どっかでシノメ先生に聞いてみるよ」


 マグはきっぱりと回答。オーバット国関連ではないことを少なくとも証明したいと補足する。


「じゃあお願いね、マグ」


 シーナはにこりと笑う。




 それから日を改めて、シノメに相談をした。


「そうですね、私の知る限りですと……ロバート国くらいでしょうか?」


 応接室にて予め人払いを行う。誰の耳もない場所でようやくシノメは口を開く。思いつくものはこのひとつとシノメは話す。


「ロバート国? 以前親交のあった国家ですよね。それがどうして?」

「未だに貴方様がたを探しているからですよ」


 ロバート国は地図から消えたオーバット国――現ファルカト国の南方に位置している国家である。つまりパープレア大樹海とロバート国の合間にファルカトは位置することになる。そこでマグの脳裏にひとつの疑問が浮かんだ。


「それなら、ロバート国はファルカト国と国交を結ぶはずではないですか?」

「だからこそよ。保護するためなのか殺すためなのか、意図は分からないけどね」


 そのようにシノメは話す。しかしヨークインは北方の街だ。そこまでして追ってが来るとも到底思えない。


「最近、生徒たちの間で噂になっています。貴方たちはどこかの国にゆかりがあるのではないかと」

「……三分の二しか合ってないけどな」


 口調はみるみる強ばっていく。そんなマグたちを案じてなのかシノメは優しく声をかける。


「出所も不明ですから、マグ様……お気を付けください」


 真摯な眼差しにマグは深く頷く。


 ***


「すまん、シーナ。こっちにも可能性が出てきた」


 マグが打ち明けたのは件の翌日明朝みょうちょうのこと。外の冷気が結露して、窓ガラスの曇る時間帯。まだ陽は昇りきっていない。朝食を手に取りながらではあるが、表情は真剣そのもの。

 マグの話には続きがあり、生徒間で流れている噂についてシーナへ話した。


「まさか、二人の素性を誰かが知っているってことなの?」

「……俺には心当たりないが、もしかしたら一方的に俺たちを知っている奴がいるのかもしれないな」


 マグは二の腕あたりを両手で擦りながら答える。寒さ故なのか悪寒故なのか、シーナにはどちらにも見てとれた。


「後でノリアにも話すつもりだけど、ファルカトの隣国、ロバート国の手の者の可能性もあるって。そうシノメ先生は話していた」

「ロバート国……確か、海産物が有名なところよね?」

「……もしかして、行ったことがあるのか?」


 スープを啜り、ごくりと嚥下する。シーナの頷きにマグは目の色を変えた。遠くを見つめながらシーナは口を開く。


「ええ、小さい頃に両親に連れて行ってもらった覚えがあって。でも大きなエビを食べた事くらいしかあまり記憶にないわ」

「じゃあ可能性があるとすれば、俺とノリアの方か……」


 あまり覚えていない、の一言にパンを食べる手が一旦止まる。神妙な面持ちでマグは頷いたのだった。

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