その喫茶店は、行き場のない人の帰れる場所——そして縁の繋がる場所。

昭和レトロな外観で、一見さんがちょっと入りにくい雰囲気の喫茶店『テック特区』。
ここにはなぜか、ちょっとワケアリのお客さんばかりが集まります。

それぞれのお客さん視点で語られていく、それぞれの人生模様。
映画の主人公でもヒロインでもない、ごく普通の人たちの抱える痛みや迷いや喜びが、丁寧な筆致で綴られていきます。
行き場のない人が立ち寄りたくなる喫茶店、それが『テック特区』なのです。

本作の一番の見どころは、人の縁がバトンリレーのように繋がっていくところです。
一人ではどうしようもない欠落を、他の誰かが埋めるようにして、次から次へと語り手が引き継がれます。
老若男女、さまざまな人生を歩む人物が登場するので、きっと誰かに共感できるはず。
『テック特区』を拠り所に結ばれた縁が温かく、じわっと心に沁みてきます。

とても優しく、味わい深い物語です。
あなたもぜひ『テック特区』の扉を叩いてみてください。

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