それぞれの人生が一つの場所で静かに重なる、味わい深い群像劇。
- ★★★ Excellent!!!
昭和の匂いに包まれた小さな喫茶店、「テック特区」。一見、「いやここは入らないな……」という気配に満ちたお店ですが、一度脚を踏み入れればその居心地の良さに誰もが魅入られてしまう。
そんな不思議な喫茶店を舞台に、そこへ通う人々のさまざまな人生が交差し重なり合う、味わい深い群像劇です。
派手に喜怒哀楽を誘うような出来事は何も起こりません。順風満帆な人生を闊歩する輝かしいヒーローやヒロインもいません。誰もが自分の人生と現実を抱え、迷い、悩み、後悔し……そんな重苦しい時間を互いに寄せ集め、重ね合うことで、そこに仄かな温もりが生まれていきます。
「で、次、どうなるの!?」というワクワクに満ちたストーリーは勿論魅力的なのですが、そんな大きな振れ幅がないからこそずっと読み続けたい。彼らの人生を見続けてみたい。気づけばそんな気持ちでどんどん深くはまってしまう、じっくりとした味わいに満ちた現代ドラマです。