第25話25

 コウとアキ王子は、手を繋ぎながら騒ぎの中心、白髪の男とモンスターのいる場所に急ぐ。

 その間も、コウとアキ王子の視線の先から、祭りの多くの観衆が騒ぎながら凄い勢いでどんどんモンスターから逃げて来てコウ達とすれ違う。


 「やっぱ、ウェラーだ!」


 コウは、やがて大通りの中で5匹のモンスターに囲まれ剣を握って立っているウェラーの後ろ姿を見て言った。


 シャー!シャー!シャー!


 モンスターは、ウェラーを睨みながら取り囲み、口内から長い舌をチョロチョロ出しながら彼を威嚇する。

 モンスターは、2本足で立つ大人の男並みの背丈の凶暴なトカゲで背中に飛べる対の黒い羽がある…

 名前はバジリスクだ。

 周りに祭りの観衆は逃げて誰も一人もいない。多くの露店の店主も煌々と灯りの灯ったままの店を放置して逃走していた。

 しかし、店を守る気なのだろう、僅かな数の店主が武器を片手に店の陰に隠れて様子を伺っているし、更にウェラーとバジリスクを囲むように、数人の都市の正規の治安兵士もいる。


 「何故治安兵士はウェラーを助けない?!それに魔法使いは何をしてる?!」


 アキ王子が憤慨気味に言った。

 それに対して、コウはアキ王子の手を握ったまま即答した。


 「普通、こういう大きく豊かな城壁都市ほど上級魔法使いの結界が強固でモンスターなんかが絶対入って来ない。だからこういう都市ほど兵士達はモンスターとの実戦に慣れてないからビビってるんです」


 「えっ?!」


 アキ王子には本当に意外な言葉だった。

 こういう都市ほど勇ましく有能で強靭な兵士がいるのが普通だと思っていたから。

 すると、アキ王子は急に上空に気配を感じコウを庇おうとした。

 しかし、それより前にコウがアキ王子を道にうつ伏せにして、コウがその上に更にうつ伏せで被さりアキ王子を庇った。

 アキ王子は、アキ王子を上から抑え込むコウの力から、コウのアキ王子を守ろうとする強い意志を感じ取った。


 ヒュッ!


 すぐにコウの頭ギリに、高い空から2本足で降りて来た、もう一匹のバジリスクの両足の鋭い爪が風を切り過ぎ去った。

 もう少し遅ければ、アキ王子もコウも命が危なかった。


 「あん野郎!ぜってーぶっ殺す!」


 コウは、アキ王子の背中から上半身を起こすと立ち上がろうとした。

 それに状況から、どんどんバジリスクが集結してきている嫌な予感をコウは感じる。

 そこに、アキ王子がコウの左腕を掴み止めた。


 「私も行く!」


 コウは、一瞬アキ王子の目を見てアキ王子が本気で言ってると確信すると、クスっと笑ってから言った。


 「アキ様はここで見ていていて下さい。アレ位の数のモンスターをヤれない俺なら、ハイリゲンに行く資格は無いんです。それに…」


 コウは言いかけて、今度はコウがアキ王子の左腕を掴み、無人になった露店の中の陰にアキ王子を守り隠すように押し込んだ。

 そして、コウは又クスっと笑った。


 「俺から剣を取ったら、何も残らないんですよ」


 アキ王子は、初めて見たコウが笑った顔に魅了されたが、コウの剣への自信を見たような気もして、更にコウに惹かれた。


 

 

 


 



 



 

 

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