第12話 錆びついたブリキダンス
◆
数日後の図書室
今日の加藤さんはため息が多い。
いつもの挨拶を交わした後、苦しそうに嘆息をつく。一冊一冊元の場所へ置く作業中するものだから配置場所がズレる。これは重症だ。
「どうかしたの?」
「話しかけてくるな、キモい。挨拶交わすようになったからって友達になったわけじゃないんだからね! ふん!」
何処のツンデレさんっすか? 妹の織音ちゃんとは短期間で仲良くなったのに姉は相変わらずつんけん。
「ごめんね、ちょっと辛そうな顔していたからさ。もしかしたら力になれるかもしれない」
「あんた如きに話したところで何も解決しないっつうの」
「ならないかもしれないけど話して楽になるって事もあるよ。特に僕は君から嫌われてるからね。今更好感度が下がっても君にとってデメリットがないはずだよ。それにぶっちゃけそれだけ辛気臭いと僕の髪の毛にあんまりいい影響は与えない」
と僕はまくし立てると、言うこと全く聞かない剛毛に手を当てる。
大体これ以上気力がない状態で作業されてもあとで僕が手直しする羽目になるので、このままじゃ大迷惑でしかない。
「はぁぁ、まさかこんなぽややんクラゲに私の弱み話すことになるとはなぁ……」
「はははっ、僕の名称がどんどん辛辣になってるね」
「はん、話してあげるだけでありがとうと思え、女泣かせのクズメガネが」
「はいはいありがとうね」
怒った顔も可愛いよと言おうとしたが機嫌がすごブル悪そうなので殴られたくないから堪えた。
「もうすぐ体育祭じゃん」
「うんそうだね」
「苦手な競技あるんだよ」
「苦手の競技? スポーツ万能でしょ?」
「自慢じゃないけどそうなんだけど、だけど集団のダンスは苦手なんだよ。盆踊りだって一人だけテンポおかしくて笑われたことがあるんだ。衆前で披露するなんて拷問みたいなもの」
ワナワナと震える加藤さん。この世の終わりみたいな深刻な表情を浮かべる。この分じゃホークダンスも相手へ迷惑を掛けたに違いない。
「僕も下手くそだよ。でもそれでいいんだよ。所詮はお遊びだし」
「違う。私の場合は良くないんだよ。カリスマだよ? 優等生だよ? みんなのお手本になんなきゃいけないんだ。みともない姿なんか晒されないよ」
「加藤さんパーフェクト人間に見えて結構ポンコツだからね」
「そうだよ悪いかよテンパ。この場で頭に火着けてアフロにすんぞ!」
目頭に力が入る。
僕なら嫌われてもどうでもいいやと思ってるから好き放題言ってくれる。このヤンキーみたいな本性を見たら憧れを持ってる人たちは何と言うだろうか?
「なら練習するしかないんじゃないかな?」
「才能もセンスもないんだからやるだけ無駄だよ。それに全然練習時間が足りない」
「まあまあとりあえずやってみようよ」
本人の感想と第三者じゃ感じるもの違うからね。案外上手いかもしれない。
嫌がる加藤さん引っ張って再生作曲に合わせて一緒に踊ってみた。
——踊り終え、「えええええ……これは酷い。どうやったらこうなる。踊りとリズムがまるであってない。まるで錆びついたブリキダンス。将来社交ダンス踊る機会があっても辞退をおすすめするよ」絶望のあまり突っ伏しして項垂れる仮面優等生を見下ろす。
「うるさいなぁ、 一年生の時もヨサコイできなくて体調不良偽って保健室に逃げた」
「気持ちはわかる。確かにこれだけへっぽこだと自殺レベルだよね。沢山の衆人の中で告白して思いっきり振られるレベルの恥ずかしさだよね」
「いやいや、そこまで思ってないから」
「そう?」
授業で一通りの踊り方を教えてもらってる。 ダンス曲の録画も僕が持ってる。
ならこのポンコツさん、どうしたもんかね?
福島さんに教えを請えばと尋ねると、こんなテンポのズレたロボダンスの姿は誰に見せたくないから教わりたくないそうだ。特に北斗とは対等の関係でいたいを主張。
「せめて攻略本あればいいんだけど、踊りの本多岐にわたるからストライクを探し出せないんだよね」
「所詮は学校のお遊戯みたいなもの。楽しんだもの勝ちだとおもんだけど」
「うっさいな。私の威信が掛かっているんだから放っておいて」
ならばこのプライドばかり高いポンコツ優等生の加藤さんでもわかるようにマニュアルを作ることにした。手とか足の出すタイミングとか、手抜きしてアピールする方法とか、詳しく夜通し突貫で制作。これで大地に立つことができるはず。
しかし、何で俺はこんなことをやらなきゃいけないだろうか? 何の意味もない。どうせ嫌われているんだから放っておけばいいだろう。でも誰かの手助けをしたい性分なんだろう。
別に彼女のことは好きというわけでもない。 でも新学期からずっと一緒にいて触れていて情が湧かない程バカ鈍いわけでもない。
険悪だけど言いたいこと言い合える仲だし、この無意味な時間無意味なやり取り、それでも笑みが止まらなかった。
心からこれだけ微笑んだのはいつ以来だろうか。
北斗と袂を分かってからか?
僕は今でも北斗が好きだ。じゃなかった友人エーなんてくくり方するわけがない。思っているからこそ冷却期間が必要なんだ。
でももう愛情と言われると疑問形または過去形になる。相手は秘密主義者なんだ。どんなに問い詰めたって絶対に言わない。だから別れた。心を開いてくれない相手に恋人という関係を維持できるわけない。当時浮気の現場見たって俺は一切信用しなかった。何度あっても。でもホクトが口を開いて僕に発した言葉はごめんの一点張り。事の発端も経緯も説明も全くなかった。
僕は疲れたんだと思う。ただ盲信に信用するには限界だった。
現実を目撃して証拠を発見してこれを否定。ただ違うと言われてもどうしようもないじゃないか。ホクトは演技入ると人格が変わる。それがこじてれ二重人格になっていてもおかしくはない。
だからかもしれない。
加藤さんとのひととき。
嘘偽りもない本音のトーク。この気持ちは好意なんだろうか。少しずつだが加藤さんへ芽生えているかもしれない。どんどん興味を持ってきた。本当に面白い子だ。
ならば彼女の力になるのもやぶさかでもない。
明朝
——完成だ。これで加藤さんは完璧に踊ることができるはず……。
でも徹夜明けで僕はダウンした。動けない。ペース配分を間違えた。今まで無理して働いた分が過労で現れる。
すぐ銀河先生とダイワに来てもらう。
「このたわけ! また無茶して」
「ごめんなさい銀河先生」
「あとで病院行くからな。いくら妹の医療費の為でも勘九郎が倒れたら本末転倒だぞ」
「ごめん」
「はぁ、今車回してくるわ」
と言うと銀河先生は僕の部屋から出ていった。
「勘九郎、俺達にできることはないのか? お前の妹も俺達の妹みたいなものだろ?」
「昔から言っているだろう。迷惑を掛けたくないって」
「でもよ……」
「だったらこのマニュアル、加藤さんに届けてくれないか?」
「やけにびっしり書き込んであるな」
「ああ、本人の名誉のために訳は言えないけど加藤さんに渡せばそれで向こうはわかってくれるはず」
「分かった。統星に渡しておく」
「頼む……」
直接渡すせないから親友のダイワに頼んだ。
彼女の困ったような意地張ったような笑顔が見たかったが仕方なし。ただ、意識が薄れる中、加藤さんのことを何故名前呼びにしていたのか疑問に思った。
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