第2話 勇者一行との出会い
「スバル君、大丈夫?」
離れた場所で祈っていた少女が小走りに近寄ってきた。十二、十三くらいの少女で、年頃は少年と変わらない。
赤っぽい茶髪を後頭部でまとめ、白地に赤い紋様が描かれた
「ああ、どうってことないよ」
「よかったあ。その人が助けてくれたの?」
「うん。まあ、悪い人じゃなさそうだけど」
そう応じる少年も訝しげにジダイを見返している。
少年の青い瞳に映るのは黒髪と黒瞳を有し、やや長身で均整の取れた体格をした二十代中盤の男。紺色の衣服は旅で汚れているし、無精ひげも生えている。
見た目だけでは善人には見えないだろうと客観的意見を受け入れつつ、少し悲しみを覚えながらジダイは口を開いた。
「俺は怪しい者じゃない。君たちがクロマルに襲われているのを見て、助けようと思っただけだ。ま、余計なお世話だったかもしれないが」
ジダイが両手の籠手を外して腰の革帯に戻しながら言うと、少年も剣を鞘に差して小首を傾げた。
「で、おっちゃんは……」
「おっちゃんじゃない! 俺にはジダイって名前があるし、それにまだ二十六だぞ!」
「俺の倍の年だと、おっちゃんにしか見えないよ」
「こんのクソガキ……!」
歯軋りするジダイを宥めるように少女が両掌を胸の高さに上げた。
「あのー、ごめんなさい。スバル君は正直なんです」
「言い訳になってないだろが」
「あはは。あの、ネイロと言います。こっちはスバル君です。危ないところを助けてくれてありがとうございました」
全然危なくなかったのに礼を言える辺り、スバルという少年よりも話が分かるらしい。ジダイは、容貌は端正だが表情に締まりのないスバルから目を離し、ネイロを会話の相手に選んだ。
「君たちはこの辺の子か? 多少は戦えると言っても、子どもだけでいるのは危険だって分かる年齢だろ?」
「えっとー、ネイロたちは旅をしているんです」
「旅? 君たち二人でか!?」
ジダイは両目を見開いてネイロとスバルの顔に視線を往復させる。
不器用に笑顔を浮かべるネイロと、両手を後頭部に当てて気の抜けた表情を向けているスバルを目にし、ジダイは思考を巡らせる。
スバルは剣の心得があるようだが、それだけで魔族を退けられることなどできない。特にネイロは戦闘手段など皆無のようだし、二人が無事に街まで辿り着けることは難しいだろう。
仕方が無いが、ジダイが街まで連れていく方が賢明だ。
「よし。俺が君たちを近くの街まで連れていこう」
「え? そこまでしてもらわなくても、いいんですけど」
「だが、子どもだけで次の街に辿り着けるとは限らないだろ」
ジダイは腰を曲げてネイロを見下ろした。
そのとき、横で話を聞いていたスバルが指先を上げ、思わずジダイが仰け反る。少年のくせに有無を言わせぬ迫力でスバルがジダイを見上げた。
「チッチッチ。俺たちを舐めてもらっちゃあ困るなあ。俺たちはこう見えても、『勇者一行』なんだよ」
「勇者!?」
「そう見えないかもしれないですけど、一応そうなんです」
横手からネイロが補足するのを聞きながら、ジダイは疑い深くスバルを眺める。
腑抜けた笑みでジダイを見返すスバルが勇者などとは、にわかには信じがたい。
『勇者』は、魔界と
まさか、それが目の前のクソガキであるとは思えなかった。
「スバルか。お前、年齢は?」
「俺? 十三歳だけど」
「まあ、年齢はおかしくないか」
ジダイは自分だけに聞こえるように呟くと、頷いてスバルとネイロを見やる。
「とにかく、次の街までは送らせてもらう。仮にお前たちが勇者一行だとしても、さっきみたいに魔族に襲われたら人手は多い方がいいだろ」
ジダイの提案を聞き、ネイロとスバルが顔を見合わせる。
その視線のなかで様々な思惑が交錯しているようだった。
「どうする? このおっちゃん、悪い奴じゃなさそうだし、利用するのも手だな」
「うん。見た目ほど悪い人じゃなさそう。きっとお人好しよ」
「声に出てるぞ」
二人は揃って一歩下がると愛想笑いを浮かべる。息の合った奴らだ。
仕切り直すようにスバルが咳払いする。
「ごほん。カッコいいお兄様、ぜひとも……」
「白々しい。ジダイと呼べ」
「ジダイ。そこまで言うなら一緒に行こうかー」
ジダイは奥歯を噛み締める。『さん』くらいつけやがれ。
「ジダイさん、よろしくお願いしますー」
ネイロも笑みとともに頭を下げる。
ジダイは苛立ちを体外に押しやるように息を吐く。
こうしてジダイは、ネイロとスバルと行動を共にすることになったわけだった。
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