第29話 彼の新たな運命の出会い

故郷を出てからジョナスは取りあえず、以前父親と訪れた、自分に土地勘がある栄えた交易都市へと足を向ける


「まぁなんとかなるさ」


特に大した計画がある訳では無いが、少なくとも生まれ育った猫の額ほどの領地よりもずっと賑わいがあると考えた


そこで手切れ金で貰った金子で小さな商売でも始めれば、おそらく当座はしのげるだろうと極めて楽観的だった



街道沿い宿場町

とある小さな居酒屋で節約で安い簡素な食事をとっていると、急にテーブルに影が差す


「こんにちは」


その挨拶に、食事中のジョナスがゆっくり顔を上げチラッと見やると、中々な上等な身なりをした背の高い男が数人の供を連れて立っていた


フードには立派な狐の毛皮付き、キラッと地模様のある絹の織物を裏に用いた旅用マントに、タップリと温かい毛織物の生地を使った胴着、おまけに最新流行のぶ厚いフェルトのタイツを履いている


男の誇り、履き物のブーツも良い革で拵えられ細工も極めて見事


鞘の彼方此方に宝石の嵌まっている剣は、擦り切れたグリップの革の状態をみる限り随分使いこまれているように思えた



「だれ?僕アンタなんか知らない」


「しかし私は貴方のことをよく存じ上げていますよ、若君

ええ、ほんとうにね」


「……」


「裁判は実に見物でしたよ、実に惜しい

ぁあ、あと少しでしたねぇ」


「……それはどうも」


「で、若の度胸と才能をかい、是非我々にお力添えを〜と」


「……なに言ってくれちゃってるの」


「貴方様は、しけたあんな場所、一生飼い殺しで燻ってるような御方じゃ無い


もっともっと大きな世界を見、パァッと派手に大金を稼ぎ、大いに一旗揚げたいとは思いませんか?


〜そうです、偉大な御父上以上のね」


「ーーーー」


「私たちと一緒に働きませんか?、うんと成功報酬は弾みますよ」



「……話を聞こう」


「ではこちらの席、若の対面に座っても?」

「どうぞ」




満足そうに肌艶の良い顔で微笑み、酒場の椅子に悠然と座る主人らしき男の背後、チラチラと油断無く周囲を観察する目つきの鋭い男達がいる


〜多分全員、素性は碌な者では無いだろう


『依頼してきた仕事だって相当いかがわしいに決まっている』


ジョナスは絶対に後ろ暗い役どころだと素速くあたりをつけた



調子の良い言葉と共に近寄り、失敗したら容赦なく後腐れ無く殺す、おそらく切り捨て御免、どうとでもなる駒として接近してきたのだろう


しかし自ら名を変えた少年「ジョナス」は、不思議な事にちっともなんにも怖くはなかった



その時だった

「ご注文は〜〜♡」


側に居酒屋従業員が柔やかに明るく注文聞きにやって来た



「この若と自分になにかお薦めの高い飲み物と、美味い上等の肉をひと皿


〜そうですな、確かココは猪肉ローストが有名だった」


ミステリアスな客人は、気前よくジョナスと自分の分の飲み物と看板メニューを豪勢に持ってくる様に注文したのだ


「かしこまりました〜〜♪」


注文をとった賑やかな店の従業員が去り、再びテーブルは静かになった



「私からの奢りですよ、是非お近づきのしるしとして


若者は腹一杯肉を食って、ドンドン精をつけねばな」


ジョナスはこの胡散臭い人物について頭の中で様々な可能性を巡らせ考えをまとめた


『例えそうでも自分は必ずのし上がり生き残ってやる』


寧ろ相手を組織事、いつか丸ごと飲み込むのだ


そしてーーー自分がトップに立つっ!!




『今後の全ては僕の自由』


そう、もはや堅苦しく鬱陶しい血の絆で縛る者は誰一人居ない、命だってなんだって自分だけのものだ


〜そう思うと逆に胸がドキドキと大いに高鳴る



『究極の実力が試される時……!』

彼には大冒険の幕開けに思えた



謎めく身なりの良い男は、名前をオーソンと名乗り、自らの職業を「商人」であると語った



但し、取り扱う荷はそんじょそこいらでは見かけない、非常に厳選された品であること


納入先は自らが召し抱えられている富貴な貴族や大商人


「それはなにか?」


「えぇ『特別な品々』

彼等に捧げる、美貌の生きた子どもですよ」



購入者は自分でお楽しみのペットとして末永くジックリ愛でるも良し、或いは厳しく飴と鞭で再教育、自分の手駒として王宮に出仕させるも良し


または養子として自らの籍に入れ、政敵と婚姻というかたちをとり、和睦の絆にしても良しーーー


『使い方』は毎度色々だと男は誇らしげに語った



「では何故僕は『荷』にならないで、仲間になろうと誘われたのか?」


「ハハハ流石鋭い目の付け所です

〜まぁわかりやすく有り体に言えば『囮』です」


「ふぅん?」


「ええ

美味しい撒き餌や擬似餌があってこそ、素晴らしい良質な獲物がどしどし罠にかかるというもの


〜若は我々にとって願ってもない、又となき得がたきパートナーですよ、貴方は非常に賢い上に、魂と性分はこちら側だ」


「成る程」


ジョナスは頷いた


「ところで国王様にはお納めはしないの?」


「王家には専属の優秀なスカウトが幾人も召し抱えられていますのでね


牙城は厚くなかなかとてもとても


……

〜いつかは彼方さんにも我々の実力が認められたいものですよ」



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