第9話 片思いの恋

レダはマリウスと揃って深々と腰と頭を下げ、感謝の意を役人達に伝えると、レダ亭新装オープンの際は手厚くオモテナシをする事を約束した


彼女のポケットには、先程迄革袋財布に入っていた銀貨銅貨が総て目出度く入れられている


「是非皆様全員でいらして下さいな♡

ふふっっ美味しいワインを仕入れてお待ちしていますわ!」


「それは実に楽しみな事です」


革袋の財布は一応証拠物件として、屯所に遺しておくことになった


レダとマリウスは全員に手をブンブン振られて明るく見送られながら建物を後にした



「ところでこれからあなた、用事とかあるの?」

「ううん、だって市場の果物売りの仕事はもう済んだし」


「じゃぁ、一度レダ亭に来ない?

あなたひとりくらいの食事、用意出来るから」


「やったぁ!!」


マリウスの瞳が再びキラキラ夜空を彩る星の様に光り輝く


「あのぅ……レダお姉様、僕お願いがあるの」

「ーーー??何かしら?」


「手を…繋いでも……いい……でしょうか?

汚い手ですけれど」


「いいわ?

何言ってるの、全然汚くないわよ」


ウフフ♪

微笑んだ後、レダの方からキュッと美少年の小さな手を積極的に握った


ブンブンとあっかるく元気よくそのまま腕を振った



ーーー幼い子どもなのに手荒れが酷い

ガリガリの痩せた手指


レダは心の奥がキュッと傷む

明るく朗らかな様子をしているが、彼もそれ相当の苦労をしている事がそれだけで察せられる

レダはギュッと強く掌に力を入れる


『栄養タップリの肉団子と根野菜のクリームスープとかいいかしら?』

『蜂蜜入りの卵のプティングも』


「ねぇ何が好き?

嫌いな物とかあるかしら」


レダは屈託無く話しかける

今やマリウス少年は、俯く色白のホッペだけで無く、耳までカァッと純情そのものに色づいていた


「うーん私とこうするのって嫌?」


『やり過ぎ』〜

いくら何でも、請われたといえ距離の詰め方が急激で早かったかなぁと聞いてみる


これくらいの男の子の心は脆くて壊れやすくて繊細なのだ


「ううん、ぜんぜん いやじゃないです、うれしいです……」


しぅうううううううぅぅぅぅぅ……〜


真っ赤赤な、熟れた林檎そのもののマリウス少年の声は、最後の方は小さすぎてレダの耳には聞こえなかった


「ならよかった♪♪♪」


破壊の修繕費用に対する融資のメドも無事立ち〜

今にも鼻歌をフンフン歌い出しそうなごっきげんなレダの様子をチラとさり気なく横目で観察したマリウスも、おそるおそるキュッと自分自身も弱く握り返した


するとレダの方からも、しっかり力が加わる


間違いない


『今日が人生でもっとも幸せな日だよ』


既に心臓がドキドキのマリウスはもっと胸がいっぱい、思わずポロリ涙が出る


まだ生を受けて短き年月とは云え彼の人生初めて、感涙の雫だった



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