第6話

「もうあれから3年か…酷いじゃないかサクラさん。自分のお墓の場所教えてくれないなんて。おかげでこんなに時間がかかっちゃったよ。」


そう、サクラさんが空へ旅立ってから3年がすぎた。

その間何をしていたかというと、サクラさんの転落事故(本人曰く自殺)について調べていたのだ。

別に死の真相を解き明かしたいわけでも、実は他殺だった、なんていう事もない。

僕はただ、サクラさんのお墓を探していただけだ。

サクラさんに会うにはどこに行けばいいのかわからなかったので、自分で調べたのだ。

全く…本当にあの人は…。


「ほら、お墓に備えるには変かもしれないけど、綺麗に咲いていたよ。あなたの名前の花。」


お墓を綺麗に掃除しながら桜の花や菊の花をお供えしていく。

ちゃんとお水を供える事も忘れない。

お酒を供えるべきなんだろうけど、サクラさんはお酒の匂いが好きではないし飲んだこともないと言っていた。

ジュースをお供えというのもおかしいしお水で我慢してもらおう。


お墓の前に跪いて手を合わせる。

この時は何も考えない。

お墓の場所を知って、来たとはいえども、ここにサクラさんがいるとは思えないから。

だからこれはきっと、独り言。


「ここに来れて嬉しいよ、サクラさん。あれから、病院の屋上に何回か行ってみたけど、あなたの姿は見えなかったし気配もしなかった。そりゃそうだよね。あなたはもう空にいるんだから。」


ずっと跪くのは疲れてしまうから、お墓の前に座る。

屋上でサクラさんと話していた頃のように。


「いつだったか、あなたは何の桜だろうと考えた事もあったんだよ。出会った当初はソメイヨシノ。パッと開く様子がサクラさんの明るさにピッタリだなって思ってた。でもね、今は違うよ。僕の答えはシダレザクラ。柔らかい枝で、僕を包み込んでくれた。」


僕がお供えした桜もシダレザクラにした。

風に吹かれ優しく揺れている。


「花言葉も、あなたにぴったりなんだよ。『優美』と『ごまかし』だってさ。」


不満とでも言うように、ざぁっと強い風が吹く。


「あはは、怒らないでよサクラさん。優美はそのままでしょう?ごまかしは優しいごまかしだもの。だって結局は僕のためだったから。サクラさん自身のためでもあったのかもしれないけど、結果的に僕のためにもなっていたんだよ。本当にぴったりだと思わない?」


優しく、風が頬を撫ぜる。


「ねぇ、サクラさん。僕、あなたのご両親にお許し得たんだ。あとは、あなたに許可を得るだけ。僕は、あなたと人生を歩みたい…僕のお嫁さんになってくれませんか?」


少し経ってから、優しくでも力強く風が吹く。


「…ありがとう。指輪、どうしようか。オーダーメイドで作ってもらっているんだけどね、ここに置いていったら錆びちゃうしもしかしたら盗られちゃうかも。今更一緒に焼く事もできないしな…。サクラさん、僕が預かっていてもいい?」


さぁっと風が吹いた。

しょうがないわねとでも言いたげだ。


「うん、そっちで待っていてね。その時にこの指輪つけているところを見せてね。…またね、サクラさん。」


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「目代さん、指輪なんて珍しいですね。しかもその位置…。」

「あぁ、結婚したんだ。」

「おめでとうございます!あれ?でも指輪が2つ…?」

「奥さんがね、無くしてしまうから預かっててって言われちゃって。」

「なるほど。式はいつになさるんですか?」

「あぁ、小さいものだったから身内だけでやったんだ。」

「そうでしたか。何はともあれ、ご結婚おめでとうございます。」

「ありがとう。それじゃあ、僕今日外回りだから。」

「はい、お疲れ様です。」

「お疲れ様。」


僕の左手の薬指には今日も、紫苑と枝垂桜をモチーフにした指輪が2つ、キラキラと輝いていた。


「僕が逝くまで待っててね、サクラさん。」

『いつまでも待ってるからゆっくり来なさい、シオン。』

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