舞台は、空気中に漂う毒を吸って罹患すれば、一か月前後で百パーセント死に至る、『氷の病』が蔓延する世界。生き延びるには唯一無二の治療薬を飲むしかないが、それは非常に希少な為おそろしく高価で、しかも、対価を用意できたとしても、その時在庫があるかどうかもわからない。病に怯える人々に正しい情報は行きわたらず、或いは、行きわたっても意味がなく、罹患した人々やその家族は差別や迫害にさらされる――。
現実に世界的パンデミックを経験した今、やたらと身につまされるこの設定に、まず興味を引かれました。そして、実際に拝読してみれば、想像以上に深遠な世界観と痛いほど切ない人間模様に圧倒されました。
差別、偏見、迫害、去る者の想いと残される者の苦しみ、綺麗事の通用しない現実、その下で蠢いている陰謀――物語は、これらの要素を複雑に絡み合わせながら進行しますが、それらの情報の出し方が非常に精緻でいらっしゃるので、話数を重ねるごとに、パイの皮を剥いていくようなワクワク感がありました。この皮(話)の下にはどんな事実が――真実が隠されているのだろう。その次の皮には? といった具合で、気が付けば数時間経っていたことも。
この物語には、いわゆるヒーローは居ません。居るのは、どうしようもない弱さと愚かさを抱えて、それでも藻掻くように生きている『人間』たちです。
愛と希望が全てを解決する訳ではないし、逆にそれこそが地獄の入り口になることもある。努力は報われるとは限らないし、報われなかった努力は破滅的な絶望に相転移することもある。そういう意味で、決して明るい話という訳ではありませんが、『人間とは、弱さと愚かさと僅かな強さで出来ている』と教えてくれるヘビー級の小説がお好きな方は、是非。
凍てつく大気に蔓延する病により、誰もが口もとを隠して暮らす――という私たちも翻弄された状況に近似する世界が舞台。
だけどこの世界の病気はもっとファンタジーで恐ろしい。人が氷となって消えるのだから。
そんな〈氷の女神症候群〉と戦い、あるいは共存していく人々の群像劇です。
メインは特効薬の原料を調達するキャラバン隊員。彼らがそれぞれに過去を抱えていて、その鬱屈がイイ。
少年とオッサンとおじさんとお兄さんたちが殴り合ったり寄り添ったりします。
冒頭ではなんてことない隊員の一人にすぎなかった人に、きちんと背負うものがあり人生がにじむ。まあ大体は悔いが残る何かなのですが。
舞台設定も緻密ですが、人間模様を深く描いた物語です。
発病すると最終的に氷になってしまい溶けて消え、死体さえ残らない謎の奇病が蔓延る雪に閉ざされた世界の話です。
主要人物たちは、その病の治療薬を求めてキャラバンを組み、危険を冒しながらも旅をしています。
という設定は置いておいて(置いとくのかよ)。
このお話で特筆すべき魅力は、キャラクターだと思います。最初のうちは影の薄かったり、その存在がよくわからないキャラバンのメンバーも、話が進むごとにそれぞれの抱えるドラマが見えてくる。
また、キャラクターの年齢や性格による考え方の違いとかもリアルです。
ご都合主義の軽いファンタジー小説とは違う、どっしり重い物語をお求めの方はぜひ。
キャラクターも様々なので、きっと好きなキャラが見つかると思います。
わたしはトーズが好きだな⭐︎
氷の女神症候群《スカジシンドローム》
その病の原因はわからず、患った者はやがて氷像となって息絶える。
その氷像も溶けて消え、後には何も残らない。
なんとも恐ろしく、どこか美しい奇病。
人々が奇病に怯える世界で、治療薬の材料を命がけで採取し運ぶ隊商。
主人公はその隊商に所属する一人の少年、イヒカ。
少年らしい真っすぐさを持つイヒカ。
そんなイヒカを見守る隊商の面々。
そして、訪れた町で出会う奇病に翻弄される人々。
白銀の世界で紡がれる物語は人の強さと弱さの両方。
イヒカはもちろん、彼を取り巻く人たちも魅力的なキャラクターばかりです。
ぜひ冬の夜にお勧めしたい読み応えたっぷりの物語です!
「人間は神様を怒らせちゃったのかしら」→有毒な空気による「氷の病」があり、発症すると体温を失っていって氷になります。ナウシカを連想しました。美しくも残酷な世界。
「みんな正しい情報なんて興味なくて、自分を救ってくれる嘘の方が好き」→コロナ禍の時代を思わせる人間社会です。
「そんな世界で主人公のイヒカは氷の女神症候群の治療薬と、その材料を扱う数少ない隊商に所属している」「隊商は頻繁に襲われるけど止まらない。自分達がやめれば同じ病で助かる者がいなくなるから」→これ、最高ですよね。アツイ。
「心が揺さぶられるけど、どちらかというと静かな感じで、しんみり」→とても気持ちいいです。
という、ウィンターシーズンにぴったりのエモい作品だと思います。