第十九話 ギルドの命運を握るには私達ですわ!

お待たせして申し訳ございません


「失礼、少し取り乱しました」


「(少し……?)」


「いいえ、よくある事ですわ。どうかお気になさらず」


「(よくあるの……!?)」


 ヒョウは少しだったかなって顔をしていたが、メリッサ達にとっては少しだった。

 むしろ超絶イケメンのヒョウに抱っこされても幼児退行程度に留まるのだから、このギルドマスターは信頼できると言える。かもしれない。


「では改めまして……男性専用ギルドのギルドマスター、ミザリと申します。先程は職員ともども、大変ご迷惑をお掛けしました」


「ああいえ……で、早速なんですが俺、冒険者資格を取りに来たんです。なので――」


「冒険者! ですか! 貴方が!」


 ギルドマスターは食い気味に身を乗り出し目を輝かせた。


「合格! 合格でっす! はいどうぞ!」


 すっ……。


『Aランク冒険者認定証ライセンスタグ


「いや早すぎませんこと!? そんなスタンプラリー感覚で渡されても!」


「ハっ、申し訳ありません、つい!」


 と彼女は頭を下げたが、差し出された黄金色のタグは引っ込めようとしない。


「ですが私には分かります! この御方は、我がギルドを背負ってなお天に羽ばたける大傑物! なればFとかEとかはもはや役不足でしょう! さぁさぁ!」


「あたたたたた! なんでライセンスを俺の腹に押し付けてくる!? 腹筋タグすな! 腹筋タグすな!」


「えーい! どさくさに紛れて何をしておりますの!」


 気持ちは分からないでも無いが、試験も面談もなしに冒険者認定は拙速も極まれりである。

 それもいきなりAランクとは。

 メリッサの持っている知識では、冒険者はFランクから始まるのが一般的だ。よほど素質があるのなら、EやDも一切ではないらしいが……。


「ぎ、ギルドマスター、有り難い話だがこれは引っ込めてくれ。特別扱いは不要だ」


「え……?」


 が、ヒョウはタグを受け取らず、首を横に振る。


「ラノベ……あー、俺の国の冒険譚も、チートな主人公たちは最低限実力とか結果を見せてからランクを上げていた。俺だって何もしない内からにしきを飾るつもりはない。どうかせめて、俺が何を為すかで評価してくれ」


「うぅっ……カッコいいだけじゃなくて、なんて気高い……ぐすん、ぐすん、承知しましたぁ……」


 すっ……。


『Sランク冒険者認定証』


「いやあの、俺の話ちゃんと聞いてました……?」


 人数分の飲み物が出され、傷一つ無いテーブルと椅子に着いたのは、それから数分後の事だった。


「重ね重ね申し訳ありません……男性の来訪で、つい変なテンションになってしまって……」


「理解しておりますわ。殿方の冒険者なんて、そうそう現れないでしょうし」


「もちろん、それもありますが……」


 ギルドマスターは言い淀み、一度ヒョウをチラ見した。


「……過去、冒険者を志した殿方らは一様に高いランクを求まられました。『女なんかと同じランクから始めてられるか!』とか『僕は◯◯家の生まれだぞ! 底辺スタートとかありえない!』とかなんとか仰って……」


「あー……なるほどですわね……」


 あり得る話だ。

 極めて数の少ない男性は、生まれながらに特別扱いを受ける。守られ、敬われ、甘やかされ続けた彼らは、別格な立場こそが普通――というより常識だ。人によっては傲慢にもなろうというもの。

 ヒョウのように堂々とし、それでいて礼儀や謙遜も弁えているスケベ男子など、創作物の中にしか居るまい。彼の方が異端なのだ。


「高ランクですと受けられる依頼の種類がぐっと増えまして、危険や報酬が跳ね上がる依頼だって初めから受けられるんです」


「……実績も無く実力も不確かな者に、それは――……」


 ミザリは力無く頷く。


「お察しの通り、依頼は失敗続きでした。いえ、それだけならまだしも、その男性が怪我などした時は本人のみならず、ご家族、ご親戚、ギルド本部、果てには国政を司る文官達にまで責められ……」


 思い出したのか、ギルドマスターは顔を青くして俯いてしまった。よほどの心労を味わって来たのだろう。


「なるほどな。己に不相応な金看板を掲げると痛い目を見るというのは、何処の世も変わらんらしい」


「そんな前例があるのなら、いきなりAランクとか執事長に上げては駄目でしょうに……」


 ヒョウと侍女長の正論に、ミザリは肩を更に小さくする。


「出来た当初は良かった……殿方達の社会進出をサポートするため、最高のスタッフと万全のバックアップを用意した当男性専用ギルド支部。落成式など、それはもう盛り上がったものです」


 ですが、とミザリは続ける。


「何処の世界に希少な息子や兄、弟などを冒険者にしたがる女がおりましょうや? 中々集まらないのは当然で、サポート担当の女性冒険者ばかりが増えていきました」


 言うまでもないが、男性のみでパーティを組むのは難しい……というより、ほとんど禁忌だ。

 そもそも絶対数が極めて少ない上に女性より脆弱。高難易度のダンジョンなどに潜ろうものなら、悲惨な未来は明らかである。

 故に、男性警護を担当する女性冒険者がいる。

 高い倍率や厳しい審査を経て、確かな実力と人格を持つ者達のみが選ばれる彼女達は、パーティメンバーとして男性冒険者を守る役目を負う。


 しかし当然ながら女性の方が数は多く、パーティにあぶれる者が続出した。彼女達も己の食い扶持を得なければならないのだから、男性守護対象が居なければ話にならない。

 稀に男性一人に対し20名以上の介添が付く事もあったが、明らかにパーティ運営費用の方が高くつく。それでは稼業として成り立たない。


「やがて実績のない、予算ばかり喰い潰す支部が出来てしまったのです……今このギルドに在籍しているのは、残った女性冒険者数名と閑古鳥くらいなものです……」


「それはそれは……針の筵だったでしょう」


「もう本部へ言い訳も思いつかないし、最近は『やはり男性は働かせるべきではない』という世間からの声にも晒されて、ギルドそのものの存続すら……私、もうどうしたらいいか……ぅぅ……」


 遂にミザリは、嗚咽を漏らし始めた。

 男性が来ない。来たとしても充分な実力が伴わない。負傷した場合の治療費、慰謝料はギルド持ち。ギルドや通常の女冒険者の負担ばかり増える。やがてギルドの評判も落ちる。更に男性が集まらない。

 悪循環の見本だ。


「お気の毒に……居留守を使いたくもなりますわね」


「……大変だったんだな。が、もう案じるな」


「ぐすん、ぐすん……えっ……?」


「ココに来たのも何かの縁。俺が名を上げて今までの汚名を晴らしてやる。本部の連中が腰を抜かすくらいのな」


「…………!」


 さ、さすがですわヒョウ様は……! 隙あらば『やっぱ冒険者なんて止めて帰りましょ♡』と言おうと思っていた自分が恥ずかしいですわぁ……!

 彼のあまりの勇ましさにミザリもミャニも「はわわ……」と顔を蕩かしている。本部より先に彼女たちが腰を抜かしてしまいましたわね。


「――ハッ! これを! これを受け取って下さい!」


「いやだからギルドマスター、それはもう良いっですって……――ん?」


『婚姻届』


「だからどさくさに紛れてんじゃねえーですわー!」


 ビリィ!


「あぁっ! そんな、なんてことを! ミャニちゃんだって、カッコイイお父さん欲しいでしょ!?」


「ううん! アタシ、かっこいいカレシの方が良い!」


「ま、マセガキぃ!」


 自分の娘をマセガキ呼ばわりするのはお止めなさいな。


 ・


 それからトントン拍子に話は進み、ヒョウの冒険者登録は完了した。胸元には冒険者のランクを示す、石製のタグがぶら下がっている。

 ちなみにFからEは石製、Dは鉄、Cは銅、Bは銀、Aは金、Sランクは白金、メリッサもいまだ見たことは無いが、SSランクは天石水晶メテオクリスタル製となっていた。

 いずれヒョウの胸元にも輝かしいタグがぶら下がるのかと思うと、楽しみなような不安なような気持ちになる。


「メリッサ様、胸元にタグがあると雄っぱいをジロジロ見ても怪しまれないのが良いですね」


 言わんちゃいいんですわそういう事は。


「さて、これでヒョウ様は冒険者になったワケですが……見たところ、依頼そのものが少ないみたいですわね」


 壁側の掲示板には現在受領できる依頼がところと貼ってある。しかも依頼書の多くは色褪せており、いつから掲示されているのかもわからない。

 ミャニとミザリはしょんぼりと肩を落とした。


「ごめんねメリッサお姉ちゃん……前は良い依頼を優先して回して貰ってたんだけど……今では新しいのも中々来なくなっちゃって……」


「情けない話ですが、我がギルドの依頼達成率から見れば当然と言えます……もっと前から残ってる依頼ならありますけど……」


「へえ、それってどのような――」


『太ももマッサージ 報酬10000ダン』

『おしりマッサージ 報酬30000ダン』

『バストマッサージ 報酬50000ダン』

『ヌードモデル 報酬80000ダン ※着衣枚数により価格変動あり。場合によっては絵師も脱ぎます』


 碌な依頼がねえですわ……ギルドを男娼か何かと勘違いしてるのではなくって?


「ま、焦ったって仕方ない。まずは薬草採取とか下水処理とか、小さい事から始めて行こう。俺だって最初から大きな依頼を受けられるとは思――」


「た、大変だーーーーーーーーーーーーー!」


 その時、いきなり入口のドアが勢いよく開かれた。

 メリッサ達がぎょっとして振り返ると、一人の若い女が転がり込んで来たところだった。

 かなりの距離を走ってきたらしいその女は、自分の息を整えもせずに急を告げる。


「ご、ゴブリ、だ……! ゴブリンが出たぞーーーーーーッ!!」


「「!」」


「なに……!? ゴブリンだと!?」


 メリッサ達もサッと顔色を変えたが、より顕著な反応を示したのはヒョウだ。

 異邦人の彼もゴブリンくらいは知っているのか、深刻な顔をして来訪者に走り寄った。


「ゴブリンが出たって、ゴブリンか!?」


「ふぇ……? おぎゃあああああああああああ!? お、おとこのこおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!?」


 ビターン!


「ええい! それはさっきやりましたから、早く詳細を申しなさいな!」


「は! はひぃ! ごめんなさい! おっほ……すっげ、夢みたい……あ、夢なら無罪……? ねぇねぇキミ、バストサイズは何カップまで我慢できる? オ◯ン◯ンはどっち曲がり?」


「早 く 申 し な さ い な!」


 メリッサビンタは徐々に練度を増すのですわ。


「こ、ここふぁらそう遠くない山間部で、ゴブリンの巣が見つふぁったんです! おそらくは20匹、30匹はいるものと……!」


 決して少なくない数だ。

 気候が穏やかになってきた為、ゴブリンが餌や新しい拠点を求め山奥から出てきたいうことだろう。

 そして何よりこの時期は、彼らの繁殖の最盛期でもある。


「それで被害は!?」


「はい! 既に十数名の冒険者が巣の中に……!」


「……!」


 言うまでもないことだが、通常冒険者と呼称する場合は全て女性になる。男の場合にのみ冒険者と形容する。

 つまり、巣にいる冒険者は全て女ということ。


「メリッサ!」


「ええ、これは捨て置けませんわ……!」


 メリッサはもちろん、ヒョウも事態の深刻さを察したらしく、二人はアイコンタクトで頷きあう。

 ミザリもミャニも、そして侍女長も表情を引き締める。


「場所を教えてくれ! すぐに出る!」


「お願いします……! どうか、どうか……!」


「わかっている! ゴブリンは俺が一匹残らず――」


「どうか、ゴブリンを助けてあげて下さい!」


「…………おや?」


 ヒョウ様はなぜか、首を傾げていましたわ。

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