2-14 持ち帰った物(臭い棒)

 ゴブリンの匂いに耐えながら、それぞれゴブリンの胸の中央を切り裂き魔石を回収する。一応ゴブリンの持っていた木の棒も回収する。飛び散った血が臭い。

 ゴブリンの死体は通路の脇に避けておく、2時間もすれば消えてしまうそうだ。

 今回は試験だから、貸し出しの収納袋マジックバック収納腕輪マジックバングルを持ってきていない。

 通常の探索なら管理棟の受付に申請すれば、どちらか借りることが出来る。

 そもそもゴブリンの死体を持ち帰る意味もないけど。


 エモリさんは過去の探索時に自らが発見した、10トンまで入る自前の納腕輪マジックバングルを持っている。探索時には、そこに【そう騎士】を収納しているそうだ。

 ただ手に入れるには、25階層より下の階層でランダムで湧く宝箱トレジャーボックスの中から出ることを祈るしかない。40階層まで行けば確実に収納袋マジックバック収納腕輪マジックバングル入っている宝箱トレジャーボックスを手に入れる方法はあるらしいけど、今の僕では間違いなく力不足だ。


 収納袋マジックバック収納腕輪マジックバングルの基礎となる魔方陣はかなり古くから解明されいて、一部では作製・販売も行われているが、その容量と比較して使う材料が非常に高価なので需要はほぼない。

 価格的にも軍や大店の商会ぐらいしか買う事が出来ない上に、・購入に関しては公的な手続きを経て許可が必須になっている。たとえ学術院の生徒が自分で赤の門レッドゲートの探査で発見しても、外部に売ることは許可されていない。


 学術院の備品として使われているのは、過去の先輩たちが発見し自分で使う以外の物を学術院に売った物だという。容量にもよるが、収納袋マジックバック一つで4年分の学費・生活費をまかなってもお釣りがくる値段で買い取られているそうだ。


 まだ探索する時間は充分ある。僕たちは奥へと進み探索を続けた。


 その後の探索では、ゴブリンが2匹・3匹・1匹と遭遇。1階層に引き返す時にも2匹のゴブリンに遭遇したが、カエデと僕で難なく討伐し入り口まで戻った。

 試験は時間を10分残して終了した。


 同行した教官からは


「最初からあれだけの動ければ上出来だ。武器の選択も連携も問題ない。

 事前に打ち合わせた合図も見事だ。」


 というお褒めの言葉に続いて


「ただし、帰着時間がギリギリだ。今後は余裕を持った行動計画に留意しろ。

 解体の時には、最低一人は周囲の警戒をしておけ。あまりのは感心しない。」


 という苦言を頂いた。


 確かにゴブリンの魔石を取る時に無警戒だった。それに戻る時にもう少し多くのゴブリンが出てきたら、探索時間が超過して減点されてたかもしれない。

 ともあれ、僕たち3人は無事に『迷宮ダンジョン基礎講座』の単位を貰い、学生証に入場許可登録をしてもらう事が出来た。



 寮に帰ってきて、無事に迷宮ダンジョン基礎講座』の単位の取得を報告すると寮のみんなは喜んでくれた。

 【そう騎士】の整備を終えて寮に戻ってきていたエモリさんが、急に思い付いたかのように言い出した。


「よし! 今夜はお祝いだ! ハルエ! あれの用意できてるよな!」


「もちろんですわ。とっておきの樹林山岳きりんやまだけ九歩田きゅうぼた千喜せんきよ。

 ツバキさん、この二つに合う御食事の準備お願いしますね。私はお刺身が食べたいわ。」


「はい。かしこまりました。」


 うわぁ…… またガータの銘酒が出てきたぞ。まさか…また樽なのか?

 そんなことを考えていたら、サキが帰ってきて開口一番こう言い放った。


「なんか臭いわね……」


「確かに、そう言われてみれば…」


 マチカさんも匂いに気が付いて僕たちを見た。

 僕とアヤは思わず自分の服の匂いを…


 くっさ!! …この匂いってゴブリンの匂いだよな。


「ゴブリンの返り血の匂いかな? とりあえず荷物置いて着替えてこようか。」


「そうですね。この匂いはさすがに…シャワーでさっぱりしてきたいです。」


「私は後でシャワーをあびる。それよりモフモフ成分の補給を…

 キナコちゃ~ん!ダイフクちゃ~ん!」


 カエデが近寄ると慌てて2匹が逃げ出した。

 キナコは台所のツバキの足元に逃げ込み、ダイフクは部屋の隅っこでカエデを威嚇して唸っている。


「カエデさん、ダイフクがゴブリン臭いと唸ってますわ。

 さっさと着替えてシャワーを浴びて、その臭い匂いを洗い落してきてください!」


 その言葉にカエデはしょんぼりと項垂れる。


「…はぁ~…ぃ……」


 僕は自室に戻り、荷物を整理している途中で気が付いた。回収したゴブリンの木の棒… 全部僕が持って帰ってきてた…

 木の棒に鼻を近づける …… うわっ! くっさ!!!


「このゴブリンの棒臭い棒は寮の外に置いてくるべきだよな。」


 荷物に括り付けてあったゴブリン棒臭い棒を、穴が開いて雑巾にしようと思っていたシャツに包み寮の外に持って出てた。


「置き場所は… とりあえず、玄関脇でいいか。」


 寮の中に戻り着替えに向かおうとした時に…

 外の小屋にいた小太郎と小次郎が、尋常じゃない勢いで吠え始めた。


「ガウッ! ガウガウッ!」

「バウバウバウッ! バウバウッ!」


 その声に気が付いたサキが慌てて寮の外に飛び出す。そしてすぐに戻ってくるとものすごい形相でハルトを怒鳴りつけた。


「馬ー鹿ーハールートー!!

 なんてものをあの子たちの小屋の前に置いたんですか!!!

 あんなものは寮の裏に置いてきなさい!!!」


 たとえ布に包んでもゴブリン棒臭い棒は、犬たちにとってはかなりの危険物だったらしい。まぁ、あれだけの本数あったし… そりゃ匂いも強烈になるか。


「ごめんなさい! すぐに片付けます!!」


 外に飛び出して、ゴブリン棒臭い棒を寮の裏に持っていった。


「なんで、あんなもの持って帰って… お説教は後ですわ!

 臭いから、さっさとシャワーを浴びて来なさい!!」



 僕がシャワーを浴び、着替えて居間に行くと、既に主役3人をそっちのけで酒盛りが始まっていた。案の定、樽酒だよ… どれだけ飲むつもりなんだ?


 席に着くと、すっかり僕の膝の上が定位置になったキナコがすかさず飛び乗ってくる。

 しっかりと僕の席にもお酒の入った升が二つ置いてある。

 おっと、酔っぱらって話が通じなくなる前に確認しておかないと。


「あの…エモリさん、休み中に赤の門レッドゲートへ行く件なんですけど。」


「おう。そうだ! いつでもいいぞ。

 整備も終わったから準備はばっちりだ!」


 エモリさんは升酒をくいっと煽ってからニヤリとする。


「もちろん私も加わってもいいんですよね。」


 シャワーを浴びて着替えてきたアヤがそう話しながら席に着いた。


「え? アヤ様も探索に加わるのですか?

 どこまで潜るつもりですか? 危険ではありませんの?」


 ハルエがお酒を飲む手を止めた。


「当然、アヤ様もだよ。

 この休暇中にある程度は、迷宮ダンジョン内で自らの身を守る術を覚えて頂かないとね。何しろ実習で迷宮ダンジョン探索を行う時は、僕たちが同行するわけにいかないからね。

 無理しないで日帰りが可能な5階層、余裕があるなら迷宮ダンジョン内の野営も経験したほうがいいと思う。」


 マヨーリがそう話すとエモリもマチカも頷く。


「いつですの? 私も当然参加してよろしいのですよね。

 お兄さまと一緒に…えへへ…」


「休み中はずっとモフモフ天国の予定だったのに…」


「ご自分のお仕事を、忘れないでいただきたいですわ。

 あなたはご自分のお仕事を忘れないでください。

 アヤ様の護衛が最優先ですからね。」


 カエデにサキが絡み始めた。


「計画を立てるのは後にしようか。今日はアヤ様とカエデ、ハルトのお祝いだから。

 それにもし探索するなら、イエーカー様にも報告しないといけないからね。」


 ひとまずエモリさんは探索に同行する約束を覚えていてくれた。

 いよいよ本格的に赤の門レッドゲートへ探索に入る… しっかりと計画を立てないといけないな。


 エモリさんも約束を覚えていてくれたし、僕も飲もう。

 やっぱりツバキさんの料理は絶品だな。このお刺身も美味しいな、鯉のあらいとは全然違うよ。


 ……それはそうとして、エモリさんもハルエさんも…マチカさんまで… それ何杯目?

 え? 僕ももっと飲めって?


 断る事が上手くなっていた僕は、キナコが膝の上から降りたタイミングで何とか飲み過ぎないうちに自室に避難することが出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る