2-5 サプライズ
「ちょっと待ってよ!! なんでアヤがここに居るんだ!!」
もう頭の中は「なんで?」「なんで?」だけで埋め尽くされている。
絶品のはずの料理の味も、初めて飲んだお酒の味も全く分からない。
食事会がひと段落着いたところで、改めて自己紹介が始まった。
1号室
エモリ・マーカス(19)
4年 エスギー家の従家の三男
大型ゴーレムを使う。体術・剣術ともに不得手、だが学部の4年として方々に顔が効く。対外交渉(主に学術院の各所と)の担当者。
2号室
マチカ・ナエツー(18)
3年 エスギー家の従家 ナエツー家の次男
政経学部から一時的に魔導学部へ転籍、他家や商家などに独自の情報網を持ち、それを駆使していち早くアヤ様の周囲の危険を察知・排除する。学術院内や228寮内での警備計画の司令塔という立ち位置。
4号室
マヨーリ・タカーナ(17)
2年 エスギー家の従家 タカーナ家の次男
怪我というのは表向きの理由で、マチカさん同様に軍学部から一時的に魔導学部へ転籍。剣術が得意で身体強化が出来るので普段の護衛に抜擢された。
直接襲撃された場合は真っ先に戦う事になる。
本家はシノ県のラーカミ家の従家だそうで、僕の剣術に似た剣術を見たことがあるらしい。
6号室
ハルエ・キザキ(18)
3年 エスギー家の従家 父はイエーカーさん。やっぱりどこかで見た顔だと思ってたんだ。
医薬学部に在籍、医薬学部なので卒業はアヤと同じ年になる。寮のみ移動してアヤを含めた寮に住む人たちの健康管理や怪我に備える。
8号室
サキ・マーカス(17)
2年 エスギー家の従家の長女、兄上(エナリさん)が大好きでアヤとは幼少の頃からの付き合い。アヤを妹扱いしている。アヤの精神的部分のケアをする。
犬使いの技で敵意を持って接近してくる者をいち早く察知。犬による襲撃者の排除にも対応する。
9号室
カエデ (??)
1年 ニワバン衆という皇王直轄組織の一員。変装の達人なので本当にその年齢なのかもわからない。一応、今回の事態を重く見た皇王が送り込んだアヤの護衛らしいけど、正直よくわからない。
使用人
ツバキ(??) エスギー家のくノ一の一人、実は依然ハルトと顔を合わせている。(ハルトが目覚めた時に最初に声をかけた侍女らしい。)
イエーカーによって228寮の使用人として学術院に送り込まれた。
アヤの身の回りの世話などをしつつ、寮内の生活に不便が無いように環境を整える。いざとなれば敵方の間者とも対峙する。
うん… 僕以外は全員エスギー家ゆかりの人たち。意図的に228寮に集めたんだろうな。
そして襲撃や反乱について知っている僕は… たぶん監視対象なんだろうな、もしかすると敵扱いなのかもしれない。
話を聞くと、アヤが学術院に来たのは単純に警備がしやすいから。
学術院の入場者は限定されるし、学術院内も頻繁に警備員が巡回している。しかしそれでも不安があるので、この228寮にエスギー家ゆかりの者を集めて鉄壁の防御態勢をとっているようだ。(僕は監視対象?)
今回はアヤの希望で僕にどっきりを仕掛けたらしい。本当に心臓に悪いよ。
館を出る時に、アヤが妙にそっけなかったのは、学術院内に身を隠す事が決まってたかららしい。
目の前にアヤがいるだけでもドキドキしているのに、これから同じ屋根の下で暮らすなんて…
地方出身で平民の僕が下手なことをしたら、この寮の全員で僕を始末しようと襲い掛かってくるんじゃないの?
アヤも含めて皆さんは、お酒をまるで水のように飲んでいる。
呆然とその様子を眺めていたら、足下にサキさんの連れてきた猫がすり寄ってきて、いきなり膝の上に飛び乗ってきた。
うにゃ!
「珍しいわ、知らない男の人には近づかないキナコが膝の上に飛び乗るなんて。」
サキさんがそう言った。
薄い茶トラの雌猫、名前は「キナコ」。毛色の感じからつけられたらしい。
「ずるい! キナコちゃ~んこっちにおいでぇ。」
カエデさんが呼びかけたけど、キナコは僕の膝の上で完全にくつろぎモード。
「でも、キナコちゃんが懐いたからと言って、アヤ様に変なことをしたら…私たちが許しません。徹底的に追い詰めてあげますから。」
その言葉に、アヤとカエデさん以外の全員がうんうんと頷く。
孤立無援状態、冗談抜きに命の危機を感じる。心を落ち着ける為にキナコをなでる。柔らかい毛の手触りが落ち着きを与えてくれた。
「顔合わせも終わったから、ここらへんでお開きにしましょう。
明日から講義も始まりますから、エスギー家の名に恥じないようにしっかりと勉学に励みますわよ!」
ハルエさんの言葉でみんなそれぞれの部屋に戻っていく。僕もキナコを膝から降ろし立ち上がろうとしたら、キナコがズボンに爪を立てて抵抗する。痛いよ、もうそろそろ降りてくれないかい?
「フフフ… キナコちゃんはあなたのことが気に入っちゃったみたいですね。
アヤ様もあなたのことを気にされていらっしゃいますけど。
だけど、良くお聞きなさい!」
その声色と雰囲気で僕の緊張感が一気に高まる。
「…万が一、アヤ様に不埒なことをしたら、小太郎と小次郎の餌にしてしまいますわよ。肝に銘じておきなさい! 小太郎!小次郎!行きますわよ。」
そう言って2頭の大型犬を外の犬小屋に連れて行きすぐに戻ってくる。
先ほどまでの雰囲気から豹変し、まさに猫なで声と言った感じで
「キナコちゃんもお部屋に戻りましょうね~。ダイフクちゃんも戻りますわよ。」
漬物石のように僕の膝の上から動くことを拒否していたキナコをサッと抱え部屋に向かう、真っ白な小型犬のダイフクがその後ろをテトテトとついていく。
バタンとドアが閉まる音が聞こえ、僕の緊張感もようやくそこで途切れた。
食卓を片付けていたツバキさんと目が合う。
「ハルト様。先ほどのサキさんの言葉、冗談ではありませんよ。
約束してください。アヤ様を泣かせるようなことはしないと。
もし、アヤ様を泣かせるようなことをしたら。
わたくしも、地の果てだろうと地獄だろうと追い詰めて処させて戴きますから御覚悟を。」
その目を見ると、軽口や冗談などというものではないことが解る。居間の空気が冷気を帯びて僕の周囲に一気に押し寄せてくる。
…マジですか?
もう今すぐにでも、この殺意が高い寮から逃げたしたくなってきた。
自分の部屋に戻ろう…。
立ち上がった瞬間、世界がグラグラと揺れる。
「あ…れ…? もしかしてお酒が一気に回ってきたかも…」
朝方になり気が付くと僕は自分の部屋のベットで寝ていた。寮の誰かが運んできてくれたんだろうな。
今日から講義が始まる。シャキッとしなくては。
いつものように訓練服に着替えて、学部の敷地の外周を走り軽く汗を流す。
寮に戻りシャワーを浴び普段着に着替えて再び居間へ戻る。そして昨日は何事もなかったかのように、朝食の準備をしているツバキさんに挨拶をする。
何か聞かれたら、お酒のせいにして記憶が無かった事にしてしまおう。
「おはようございます。ツバキさん。」
「ハルト様、おはようございます。」
そう言って普通に朝の挨拶をしてきた。台所との仕切りにあるカウンターの上には、続々と出来あがった料理が並べられていく。置き場が無くなりそうだよ。
「ツバキさん、出来上がった料理は食卓に運べばいいんですよね。」
手を動かし続けているツバキさんが軽く頷く。
僕は食卓に料理を運び始めた。最後は汁物とご飯のみ、ようやくツバキさんも手を止めた。
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