『氷菓』米澤穂信著 を読んで  笹葉更紗

『氷菓』は、今やミステリ界の先頭を走る米澤穂信のデビュー作である。2001年角川学園小説大賞で受賞し、スニーカー文庫より刊行された。日常の謎を追いかける、他人の死なない学園ミステリだ。


『氷菓』をはじめとする『古典部シリーズ』はスニーカー文庫では二作となる『愚者のエンドロール』で一度打ち切りとなり、2005年より、角川文庫で再版されるようになり、現在ではレジェンド的な作品となった。



ウチはこの小説が好きで、これまで何度も何度も繰り返し読み返している。面白い小説は、何度読み返してもやはり面白い。むしろ、再読をするたびに新しい発見があり、そのたびに面白さを増すものだ。


夏休みに入り、朝早起きする必要もないとなれば、ついつい夜更かしをしながら読書に没頭するのは世の常だ。昨晩もまた、『氷菓』を読み返して夜更かししてしまった。


夜中にエアコンのタイマーが切れて、朝を過ぎるにつれて室温は高くなる。うだるような暑さに苦しみながら目を覚まし、スマホの時計を見て絶叫した。『I scream』だ。


しかしすぐに夏休みであることを思い出し安堵した。


夏休みが好きだ。だって朝ゆっくり寝ていても誰も怒ることはないし、急いで身支度を整える必要もない。ぼさぼさの髪をとかすこともなくリビングに降りる。朝どころかすでに昼手前の時間で、ママはもうどこかに出かけていていた。朝のうちに買い物から帰ってきて、冷凍庫にアイスを締まっているから食べていいとの伝言を残し、仕事に出かけてしまっている。


早速冷凍庫を開け、アイスキャンディーを口にくわえ、素足ではしたなく冷凍庫を閉める。誰も見ていないからだれにも怒られない。だからウチは夏休みが好きだ。


瀬奈からLINEが来た。



『なにしてるの?』


                         『アイスクリーム食べてる』


 手に持ったアイスキャンディーの写真を撮って貼り付ける。


                            『それは氷菓じゃん』

 それに引き続き追い打ちをかけてくる。

         『アイスクリームは乳固形分15%以上で乳脂肪分が8%以上』

         『アイスミルクは乳固形分が10%以上で乳脂肪分が3%以上』

                    『ラクトアイスは乳脂肪分が3%以上』

       『氷菓はそれ以外。だから、アイスクリームとは一番遠い存在だよ』



瀬奈は調理科の最優秀生徒。食べ物に関するときだけやたらと細かい。

いや、そうではないかもしれない。

そういうどうでもいいうんちくを並べて相手を圧迫していくのは竹久の常套手段だ。瀬奈は最近、竹久に似てきたところがある。


はあ、そういえば竹久。今頃何してるんだろう? 


夏休みは嫌いだ。

会いたい人と会うための適当な口実がない。


瀬奈が続けてメッセージを送って来る。



                        『アタシもアイス食べたい!』


『結局それが言いたいだけなのね』


                   『そうだ、今からアイス食べに行こうよ』


『ウチ、今食べてるとこなんだけど?』

        

                             『それは氷菓だから』  


『そういうヘリクツ、竹久っぽい』


           『あ、そうだ。ユウたちも呼んでみんなで食べにいこーよ』



棚からぼたもちが落ちてくるように口実が出来上がった。


『しょうがないなあ』



夏休みだけど、今日はしっかりと梳かさなきゃいけないし、メイクもしなきゃいけなくなった。


夏休みが大好きだ。

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