☆判決の時②

「ゴホッ、んん! この件についてだけど、ガーレリアがギラファスを監督することを条件にすれば、もちろん、この場で執行猶予は与えてはやれる」


 ボクが目をパチクリさせている隙に、レファスは仕切り直しをするかのように軽く咳払いをすると、何事もなかったかのように話を進め始めた。


「だけど、この誘拐事件は、天界では知らぬ者がいないほど有名なんだ。当然、主犯であるギラファスを知らない者はいない。ギラファスが悪名を轟かせている今のままの状態だと、たとえ、執行猶予が付いたとしても、『ガーレリアの信者』としての働きが十分にできない。ここまでは分かるかい?」


 一気に説明されて頭がこんがらがりそうだけど、要するに『執行猶予が付いたとしても、犯罪者として有名なギラファスが、『ボクの信者』として天界で活動するには、大きな支障がある』ってことかな……?


 何となくだけど理解できたので、コクン、と無言でうなずいた。


 ボクの返事を受けて、レファスはニコリと微笑むと、「いい子だ」と言いながら、ボクの頭を撫でた。


 うぅむ、ボクはもう大人なんだけどな……

 でも、レファスパパが嬉しそうだから、まあ、いっか。


「そこでだ! 天界でギラファスの裁判を開くことで、『今回の事件のあらまし』を全国民に周知させる。そうすれば『ギラファスがガーレリアを誘拐するに至った理由』も、現在、ギラファスが『ガーレリアの信者になっている』ということも、スムーズに国中に伝わって、皆の理解が得られやすいんだ」


 レファスの説明を受けて、ギラファスが逮捕された理由がやっと分かった。


 なるほど。同じ執行猶予処分でも、国民に『周知されている』場合と『周知されていない』場合では、世間のギラファスに対する風当たりが、かなり違うってことなんだね。


「わ、分かりました。そんな深い考えがあったとも知らずに、大騒ぎしてゴメンなさい」


 レファスの腕に捕まっている状態だから『完璧な謝罪』が繰り出せないボクは、首の動きだけでなんとか謝罪の意を表した。


 そうだよ、あれほど『逃げる』宣言していたギラファスが、抵抗もせず大人しく捕まった時点で、何か理由があるってことに気が付くべきだったんだ。


 その証拠に、精鋭使徒部隊のみんなに取り囲まれているギラファスは、今も大人しくその場に佇んでいる。


 何だか、一人で取り乱してしまった自分が恥ずかしい……


「いいんだよ。そうなってしまうことは予測していたことだからね。それより、ガーレリア? 君も、これから天界に帰って、色々と準備しなくちゃいけないってことは分かっているかい?」

「準備?」


 急に話の矛先が、ギラファスからボクへと変わった。


 レファスの言う『準備』って……? いったい何のことだろう。思い当たることが無いんだけど?

 強いて言うなら、ギラファスの裁判に証人として出廷すること……かな?


 可能性として、ありそうなことはそれくらいだ。でも、『色々と準備』って言うほどのものではないんじゃないかな?


 ボクが、キョトンとしていると、レファスがいたずらっ子のような表情でニカッと笑った。


 (えっと……? な、何だろ?)


 初めて見るレファスのその表情に、ボクは妙な胸騒ぎを覚えた。


 結論から言うと、その予感は見事に的中した。

 警戒するボクに向かって放たれたレファスの言葉は、ボクが想像すらしていなかったものだった。


「そうだよ? 色々と準備しなくっちゃ! ギラファスの裁判が始まったら、事件のあらましが明らかになる。となれば、君の存在も明らかになるわけだから、当然、国民に対してお披露目の式典を開かないとね!」

「しっ、式典!?」


 レファスが、ボクのことを天界中にお披露目すると言い出した!!


 その瞬間、ボクの脳裏には礼拝堂の……下界に降臨した “あの時” の光景が蘇った。


 ステンドグラスも美しい礼拝堂。その祭壇を背に、ボクはキラッキラの『後光の煌めき』に包まれた、ド派手演出の真っ只中に立たされた上に、『安らぎの音色』というBGMまで流されて、その場の空気を『これでもか!』ってくらいに盛り上げられたんだ!


 大勢の人たちが見つめる前で、ボクがさらし者になったあの演出。あれは、きっとレファスが監修したものだ。


 ま、まさか、あの時みたいに、ボクはまたみんなの前に立たされるの!? かっ、勘弁してぇ! ボクは目立つことは苦手なんだよっ!


「そ、そんな大事おおごとにしなくてもっ!!」


 ボクは必死に言い募った。


 だって、もう二度と、あんな辱めは受けたくないんだよ!


 それに、ボクの体(?)はずっと天界にいたんだから、わざわざお披露目なんてする必要はないと思う。

 ボクは、そう言葉を続けようとした。


「今までは『心臓』の者たちが、ガーレリアとして振る舞っていたから、国民の中には『騙された』って思う者も出てくるかも知れない。そんな国民感情を考慮すれば式典は外せないんだよ」


 『だから仕方ないんだよ』……ってレファスは言っているけど、そんな嬉しそうな顔で言われても信じられないよ……


、ガーレリアが主になったことを周知することは必要だよ?」

「うっ……」


 なんとか逃れようとするボクを、レファスは『ギラファス(信者)』という鎖で縛りつけにきた。


 ゔゔっ、確かに、ボクがさらし者になれば、ギラファスの件は早急に片が付く。

 そうすれば、その分、アルの治療に素早く取り掛かってもらえるわけだから、これで全てが丸く収まるわけで……


 そう言われると嫌だなんて言えない……


「ふふっ、さあ! 天界へ帰ろうか!!」


 反論を諦めたボクを見て、レファスは嬉しそうに笑うと、声も高らかに帰還の号令をかけたのだった。

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