☆誘拐に次ぐ誘拐で大変な目に遭いました①
唐突に変わってしまった景色。
目を見張るボクの視界に、明らかに異質で、見るからに怪しい石造りの館が飛び込んできた。
長年放置されて痛みの激しいその館……
ボクは、その館をよく知っている。
教団員たちによって連れてこられたこの場所は、まさにボクが『
この状況を理解するのとほぼ同時に、館の一角から『
(!? この泣き声って、まさか!?)
「……時間通りだな」
ハッと三階の角にある窓を仰ぎ見たボクの背後で、ギラファスがボソリと呟いた。
慌てて背後のギラファスを振り返ると、彼は、ボクが見つめていた三階の角部屋を、いまいち感情の読めない、水のような表情で見つめていた。
やっぱり! ギラファスはまた、姫さまを誘拐してきたんだ!
強い憤りを感じたが、姫さまが囚われたと分かった今、ここで感情のままに暴れてしまうのは決して良い判断とは言えない。
仕方ない。しばらくの間、大人しくしていよう……
「さあ、王女にかけられているスキルを解除してもらおうか」
「!? (か、体が……)」
館から視線を戻したギラファスが、その視線を鋭いものに変えながら、冷淡な口調で、命じるようにスキル解除を迫ってきた。
射るような視線を向けられた途端、体が勝手に震え始めてしまった。
だが、この震えが過去のトラウマから来ているものだということは、すでに分かっている。
だからこそ、そんなモノに負けたくなくて、ボクは体に力を入れて、その震えを強引に押さえ込んだ。
爪が掌に食い込むのも厭わず拳をギュッと握りしめると、ギラファスをキッと睨み返した。
「っ、こんな危険な状況で、スキル解除なんてできるわけないじゃないか!」
暴走者集団の真っ只中で『スキル解除』するなんて、飢えた狼の群れに子ウサギを放り込むようなものだ。
ギラファスは誘拐犯だけど、行方不明の王女の魂を探し続けるその姿勢から、もしかして王女に対して、少しは情のようなものがあったのかも、と思っていたのに……
「勘違いするな。このまま放置していれば、いずれ飢えて自然に魂が体から離れる。こちらは、その時まで待つこともできるのだぞ?」
「っ!!……なっ!?」
あまりのことに、驚きの声を漏らしてしまった。
確かに
反射による高い防御力に目が行きがちで、そのことに気付く者はほとんどいないのに……
まさか、その『飢えに弱い』ということを、見極められるとは思いもしなかった。
ということは、ギラファスは、スキルに対する見識がずば抜けているのかもしれない。
だとしたら、ボクがギラファスの目の前でスキル解除してしまうと、
そんなことになったら、ますますギラファスの思う壺じゃないか!
ギラファスが真顔のまま言った『飢えさせる』の、その言葉が、本気なのか、脅しなのかを見極めようと、ボクはジッとその表情を伺った。
けれど、ギラファスの表情からは、その真意を読み取ることはできなかった。
一体どうしたら……
ジリジリとした思いで考えを巡らせていた時、レファスに貰ったブレスレットが、シャラリと揺れて……ハッとした。
(そ、そうだ! 今頃、フィオナさんを通して、天界政府にこのことが伝わっているはずだ!)
だからここは、『天界からの応援がやってくるまで、何とかギラファスの気を引いて、なるべく時間を稼ぐ』ことが正解なんだ!
(よし、そうと決まれば会話で時間を稼がないと……)
「仮に……姫さまの魂が天界の王女様の魂だったら、あなたは姫さまをどうするつもり?」
ボクは、チラリと館に目をやりながらギラファスに問いかけた。
若干、激しさを増した姫さまのその泣き声に、どんな扱いを受けているのかと心配になってしまった。
「何も、……命を奪うなどとは言っておらん。我輩が王女を探している理由は昨日も言ったが封印を解くためだ」
ギラファスが、石像のように身じろぎ一つせずに淡々と答えた。
やはり、その表情からは何も読み取ることはできないが、含みを持たせたような妙な間があったことだけが少し気になった。
「それは、『封印解除の鍵』が『王女様の魂』に設定されているから? でも、それなら『解錠の設定』を変更すればいいじゃないか」
実は、『鍵穴の設定』を変えさえすれば『封印解除の鍵(王女様の魂)』を使わなくても、開錠することはできるはずだ。
「ほう、少しは知識があるようだな。ならば、それが容易ではないことも分かるであろう?」
「そうだけど……でも、天界政府の力を借りれば可能なんじゃない? まぁ、あなたは捕まってしまうだろうけど」
ギラファスの言う通り『鍵穴』は、封印の
だけど、天界政府には、優れた技術者がたくさんいる。ボクみたいに器用貧乏じゃない『匠』と呼ばれる人たちになら、それが可能なはずだ。
「我輩はまだ志半ば、成し遂げねばならぬことがある。それまでは、捕まるわけにはいかん」
そう言って、眼光も鋭く、こちらを見つめるギラファスからは、『誰の忠告も受け付けない』という固い決意のようなものが窺えた。
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