66日目「平方根を一から知る」

aの平方根とは自然には、次のように定義される実数の集合のことである。


平方根

b∈Rがa∈Rの平方根の一つであるとは、b^2=aを満たすこと。またaの平方根をR(a)={x∈R|x^2=a}と定義する。


要するにaに対してx^2=aを満たすようなxをとってきて、これをaの平方根の一つと呼ぶのだ。そして、この性質を満たすxに対して、そのようなxを全て集めてきたものをR(a)と置き、これをaの平方根と呼ぶのだ。

例として、R(1)={-1, 1}, R(0)={0}, R(-4)=Øがあげられる。


さて、ここで疑問なのが、十分多くの実数に対して平方根は存在するのか、ということである。R(-4)の例でも分かるとおり、平方根が存在しない例は無数に存在する。それは今から証明するように、a<0を取ればR(a)=Øとなることからもわかる。

しかし、幸いなことに次の定理が成り立つ。


平方根の存在定理

a<0とする。R(a)=Ø

a=0とする。R(a)={0}

0<aとする。R(a)は二元集合である。

[証明]

この定理の証明は実数の連続性、特に中間値の定理に強く依存している。

F(x)=x^2 -aとおくとき、F(x)=0となるようなxの集合はaの平方根に一致することは定義から自明である。よって今後はF(x)=0となるようなxの集合について考察する。

補題1

FはR上連続である。

[証明]

ε-δ論法を用いる。t∈Rに対して連続であることを言う。ε>0に対してあるδ>0で|t-c|<δを取り、|t^2 -c^2|<εを示す。ε>0に対して、δ=ε/(1+2|c|+ε)ととる。0<δ<1であることに留意する。

|t^2 -c^2|=|t-c||t+c|≦δ(|t|+|c|)<δ(2|c|+δ)<δ(2|c|+1)<ε。

よって、Fは連続である◽︎


補題2

Fは非負実数で単調増加、非正実数で単調減少する。

[証明]

y>x≧0の時、y^2 -x^2≧0を示す。y^2 -x^2=(y-x)(y+x)>0。

0≧y>xの時、y^2 -x^2≦0を示す。y^2 -x^2=(y-x)(y+x)<0。

これらをまとめると題意はすでに示されている◽︎


a<0の時、R(a)=Øであることを示す。

実数xに対してx^2≧0である。0>aの時、-a>0であるから、x^2 -a>0であることがわかる。よって、F(x)>0であり、F(x)=0となるような実数xは存在しない。


a=0の時、R(a)={0}であることを示す。R(a)⊃{0}であることは自明である。R(a)⊂{0}をしめそう。F(x)=x^2である。実数の構成の仕方により、a^2=0だが、a≠0であるようなa∈Rは存在しないので、これは良いだろう。


0<aの時、R(a)が二元集合となることを示す。F(0)<0であることは明らかである。また、ある十分に大きな正の実数tに対してF(t)>0であることも明らかである。また、補題2よりF(x)は非負実数で単調増加である。

(y>x≧0→y^2 -x^2=(y-x)(y+x)≧0より)

よって、補題1と中間値の定理故にF(c)=0となる0<c<tが唯一存在する。


この議論を十分小さい負の実数t'に対しても行うと、t'<c'<0でF(c')=0となるようなc'が唯一存在することがわかる。

c'<cよりR(a)は二元集合◽︎


この議論によって分かったことはa>0の時に特に平方根には豊かな世界が広がっているということである。

また、定理の議論を利用すると、a>0, R(a)={c, d}としたとき、c<0<dとなるということである。また、d^2 -a=0を満たすのであれば、-dも満たすので、c=-dであることがわかった。よって、R(a)={-c, c}というように書ける。この時、cを正の平方根と呼び、-cを負の平方根と呼ぶ。この時、c=√a と書く。また、この時、√0=0と定めておく。


√aに関して次の性質が成り立つ。


√aの性質

1.[√a]^2=a

2.√(a)^2 =|a|

3.a, b≧0, √(ab)=√a √b

4.a>0, √(1/a)=1/√a

[証明]

1は定義より自明。2はa=0の時、正しい。a≠0の時、a>0かa<0であり、a>0の時、x^2 -a^2=0を満たす正のxはaであるので、√(a)^2=a

また、a<0の時、x^2 -a^2=0を満たす正のxは-aであるので、√(a)^2=-a。よって、

√(a)^2=|a|が成り立つ◽︎

3はx^2 -a=0, y^2 -b=0, z^2 -ab=0を満たすx, y, z>0をとってきた時にxy=zを示せば良い。x^2=a, y^2=bであるので、x^2 y^2=ab。積の交換法則によって、(xy)^2=ab。

z^2=abであり、z>0, xy>0と正の平方根の一意性によって、z=xy◽︎

4は3と同じような手法で証明できる。x^2=1/a, y^2=aとなるx, y>0を取る。

(1/x)^2=aであり、1/x>0, y>0と正の平方根の一意性によって、1/x=y◽︎


この性質を用いることで有理化などの計算を進めていくことが可能になる。

結局はこんな中間値の定理からの複雑な帰結による定義よりも{x∈R|x^2≦a}のsupを√aと定めてあげたほうが良かったのではないかと後悔中。でも書いてしまったものは仕方ないのでこのままにしておこうと思う。





















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