UMAの本懐14

「コホン。皆さんにお集まり頂いたのは、他ならぬ、ツチノコ目撃、捏造の件でございます」


 何かになりきったように、もったいぶった様子で咳払いをした後、俯き気味で片目を閉じながら推理は言った。


 ここは、綾の祖父の家の居間。


 集められたのは、綾、葵木、俺、燿、全員を集めた張本人である推理の五人


 推理以外の四人は重厚感のある一枚板の木のテーブルに座り、推理だけが立ち上がり見下ろしている格好だ。


 推理がこれからやろうとしていることは、燿、綾、紡の三人が企てを解き明かす行為。

 つまり推理だ。

 推理が推理をするなんて考えただけでニヤけてしまいそうだけれど、現実なのだ。


 推理をするとはいっても、推理本人は推理をしていない。俺の受け売りだ。

 でも、それで良いのだ。

 推理曰く、俺は推理のパートナーであり探偵役。


 俺だってできれば目立ちたくはない。まさにウインウインの関係性だといえる。


 パートナーだと宣言をされたときはアホなことを言い出したなと思ったものだけれど、今となってみればそれで良かった。


「では、状況の整理から始めましょう」


 推理は外が見える位置に移動する。



 納得が行く位置が見つかったのか、立ちどまると続けて言った。  


「この町のあちらこちら、にツチノコの目撃情報がありました。その内の一件でそこに座っている真悟────私のパートナーと一緒に立ち会うことになりました」


 推理は振り返り左手の人差し指を額に当て、続ける。


「それは、三人組の中学生でした。彼らの証言を不審に思った私は、目撃情報を精査するため、三人の距離を離して一人、一人と順番に証言を取りました」


 得意げにそう告げているが、その助言をしたのは俺だ。まあ、いいんだけだ。


「彼らの証言は申し合わせてもいないのに、かなり似通ったものでした。

 詳細は省きますが、ツチノコの体高以外、ほぼ同じ証言をしたのです。

 これは、この三人に限らずです。これは新聞社のインタビューからも明らかだと言えるわね」


 きっとここに来るまで一生懸命考えてきたであろう長台詞。ここまでいい終えて、推理は大きく深呼吸をした。


「これは、同一の物を、複数人の人たちが目撃していたになります。

 つまり、この町のあちらこちらでツチノコが目撃されたのです」



「それが、私たちになんの関係があるというの?

 ただ単にイベントが成功して、この町にツチノコの存在証明になっただけじゃない?」


 燿は余裕しゃくしゃくと言った感じで反論をする。

 横に座る綾は少し俯いていた。


「葵木君!例の物を持ってきて」


「はい。少々お待ちを!」


 葵木は一度襖の向こうに行って、準備していた証拠品を運び込んできた。


 庭に干されていたツチノコの着ぐるみだ。開会式で綾が着て熱中症になった原因の代物。


 葵木はそれを推理に手渡すと、元いた席へと戻る。


 証拠品を突きつけられても燿の顔には焦りは見えない。


「それがどうしたっていうの?」


 まるで推理物の犯人の定番のようなセリフを吐く燿。内心この人ノリノリなんじゃないかな……。


 そんな様子を満足気に見た推理は口元を歪め、一冊のメモ帳を取り出した。


「私が直接聞き取りをした一人はこの様な証言をしました。『緑色の模様のような物があった』と。しかし、伝聞で聞き及ぶツチノコには、そのような模様なんてありません。では、この着ぐるみはどうでしょうか?」


 そう言いながら、俺が先程発見した背中側にある緑色の汚れを指摘する。


 それはまるで、植物をすり潰して、強く擦り付けてしまったような汚れ。水で洗ったくらいでは取れそうもない汚れだ。


「真悟。あそこの青々しい雑草に、この部分と反対側を擦り付けてきなさい!」


「わかりました。サンダル借りますね」


「どうぞ」


 推理の依頼を受けて、俺は立ち上がり、庭へ降りる。近くの雑草を潰すように着ぐるみのお腹側を擦り付けると、背中側に付着している汚れと同じようなシミがついた。


 それを持って推理の元へ戻ると「良くやったわ」と俺の背中を叩いた。


 まるで自分が発見したかのように振る舞っているけど、それ見つけたのも俺だけどね。


 そのシミを燿と綾に見せつけるが、燿は反論をした。


「そんなシミ、どこでついたかなんてわからないじゃない。綾が舞台から降りた時についたかもしれないし、庭で干していた時に落ちて擦れただけなのかもしれない」


 推理はニヤリと笑い、得意げに指パッチンをしながら俺の方を向いた。


「真悟。その着ぐるみ、最初に真悟がこの家にやってきたとき、物干し台に干されていなかったのよね?」


「そうですね。なかったと思います」


「で、次に確認した時にはあったと?」


「はい。先輩が昼ご飯を食べて出ていった後、インタビューを受けて戻って来ましたよね。あの時には一人でに戻っていました」


 これは間違いようのない記憶だ。俺しか目撃者がいないもんだから重要な証拠にはなり得ないが。


「最初、どの時間になくなっていたのかわかりませんが、真悟が戻ってきたと証言する時間以降にツチノコの目撃情報はありません。つまり、これの示す所は────」


「それは暴論ね、推理ちゃん。その時間はたまたま誰かが取り込んでいた、それだけかもしれないじゃない」


「そうですね。それはそうです。その反証に否定のしようがありません。しかし────」


 まるで敗北を認めたようなことを言うが、推理の目は死んでいない。


「最後に目撃情報があった、草むらで、真悟がある物を見つけました。さあ、証拠品を出して」


「はい」


 俺はポケットを弄り、ある物を取り出した。



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