UMAの本懐12
ニコニコを通り越してギラギラとすら感じる笑みを浮かべた推理は、俺と綾にこう言い放った。
「新聞社のインタビューを受けたの!ネット記事に載るらしいわ」
あとから追い付いてきた葵木が襖の陰からひょっこりと顔を出し補足する。
「地元の新聞社……らしい、ですけどね」
息も絶え絶えという感じで、よほどの距離を走ってきたのだろう。……実に推理らしい。
二重の意味で行かなくて良かったなと思いつつ、まだ話し足りなさそうな推理に視線を戻す。
「それでも構わないの。大事なことは、真理部の名がネット上に────日本中に轟くってことよ!」
ツチノコの方じゃねえのかよ!とツッコミを入れそうになったが、自重した。
「それに、なんの意味があるんです?」
真理部は地方都市の中堅公立高校に存在する、部活の中でもかなりマイナーな部類だ。
入部している俺がそう実感しているのだ。生徒によっては存在そのものを知らない可能性すらある。
「意味?意味なんてないわ。私の敬愛する真理の名が世に出ることに意味があるの」
「そうですか」
かなり興奮気味に話す推理を見て、これ以上何を言っても無駄なのだと判断して、話を切り上げることにした。
「……なあ、葵木。インタビューって、推理先輩だけが受けたのか?」
「いいや。違うよ。ツチノコを目撃したって人だいたいがインタビューをされたみたいだね」
「それはあのおにぎり三人組も?」
「おにぎり?」
「いや、ごめん。坊主の中学生三人組のことだ。推理先輩が詳しい話を聞いてメモを取ってただろ?」
「あー。おにぎり。そういうことね」
葵木は呆れたように苦笑いを浮かべた。それ言ったの俺じゃないから。推理だから。
「おそらく阿部君の言っている三人もインタビューを受けていたよ。メモの証言と食い違いがないかも確認しておいた」
こいつ、できる。
まさに俺が今聞こうとしていたことだ。
もし証言に矛盾があるのならば、あのおにぎりたちが疑わしいと言うことになるが……
「おおよそ同じ受け答えをしていたね。口裏を合わせているって様子でもなかったよ」
「そうか」
推理と確認した時のような三重チェックが行われた可能性は低そうだが、メモとほぼ同じ証言をしたということは、賞金目的で嘘を付いていた可能性はかなり低くなる。
人は嘘をついていると、『嘘』に尾ひれ背ヒレがついてあらぬ方向に話が膨らんでいくものだ。
三人もいて、それがないということはあの三人は嘘をついていない。白と断定しても良いのかもしれない。
「他の目撃者のインタビューも同じような受け答えだったよ。坊主三人組の話した内容とほぼ一致したんだ。大きさから、色合い、模様なんかも」
「なるほどな……」
だとすれば、この町の住民には何かしらのバイアスがかかっている可能性もある。
伝承やなんかで皆がそれを見聞きしていたとか。共通の認識があったとか。
「そうだ。もう一つだけ」
葵木はそう前置きをしてから続けて言った。
「興味深いなーと思ったことがあったんだよ。
他県から来たこの町に
この町の住民の人たちと同じような目撃情報を話したんだよ。
これってさ、目撃情報の信頼度が高まったと言えるよね!?つまり、ツチノコはこの町に確かに存在するんだ!」
「その通りよ!」
推理が力強く。葵木の発言を擁護する。
本当にそうなのだろうか?
ツチノコは存在する?
俺が最初から疑っていたせいで、逆に俺にバイアスがかかってしまっているのか……?
グルグルと巡る俺の思考を他所に、推理と葵木はキャッキャッと騒ぎ立てる。
果たして本当にそうか……何か引っかかりのようなものを覚えるのだが、それは何に対してだ……?
はしゃぐ二人とは距離を置いて、縁側の方に歩いていき、腰をおろした。
庭の先に広がる光景は大部分を緑が占めている。見える範囲よりずっと奥にも、森が続いているのだろう。
後方から感じる喧騒が遠いものに感じられた。
なんとなしに物干しに目を向けると、ツチノコの着ぐるみが目に入った。
「……ん?」
ツチノコの着ぐるみか。うん……?
背後を振り返って、もう一つ葵木に質問をした。
「なあ葵木。ツチノコの目撃情報が集中している時間帯とかってなかったか?」
早く探しに戻った方がいいんじゃないかとはしゃぐ二人のうちの一人、葵木がこちらに振り返る。
ポケットにしまわれたメモ帳を取り出してペラペラとめくり、少し思案してから答えた。
「うん。集中している時間帯が存在しているね。坊主頭の三人組が最も早い時間で、他の目撃談もだいたいが昼前までだ。
もしかしたら、ツチノコは涼しい時間帯にしか行動しないのかもしれないね。だとすると、次は夕方辺りに……ってそれじゃあもうイベントが終わってしまっているじゃないか!」
「なるほどね」
葵木は活動をしている時間が涼しい時間帯なのではないかと推測した。
果たしてそうか?
俺は葵木とは違う意見にぶち当たった。
俺たちが昼ごはんを食べに戻って来た時には、ツチノコの着ぐるみは物干し台には干されていなかった。
綾は干したはずだと言っていたはずなのに。
そして、目撃情報がなくなった暑い時間帯。
今は着ぐるみが干されている。
有ったものが無くなって、それがまた戻ってくる。
野生動物に持っていかれたり、風に飛ばされたりしていたのならば、戻ってくるはずがない。
着ぐるみが戻ってきているということは、そこに人為的な何かがある。
関係者各位にツチノコの着ぐるみを触ったかどうかを確認する必要はあるが、状況的な証拠が示す結論────それは、ツチノコの目撃情報は誰かの手によって、作り出されていると推理するのが自然だ。
「真悟。そろそろ体調も良くなってきたでしょう?そろそろパートナーとして、行動を共にしたらどうなのよ」
思案にフケッていた俺の背後に気配もなく推理は近づくと、そんなことを言い出した。
ツチノコが存在しないことを示す証拠は揃いつつある。
事態は動機を調べるフェーズに入った。
「良いですね。そうしましょうか」
推理の提案を受け、立ち上がると「それでこそ真理部員。名探偵である私のパートナーね」と不敵に笑った。
その鼻っ柱を折る羽目になってしまいそうなのが申し訳ない。
「綾はまだ休んでいなさい。葵木君は一緒に行くわよ」
「うん。わかった」
「はい!」
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