第13話 一個令人心碎嘅噩夢 その2

黒いエーテルを天に向って拭き上げるナイトメア。

やがてそのエーテルがナイトメアを包み始めた。


「なんだ!?あれは!?」


「ナイトメア。」


ハオシュエンさんが驚いたようにこちらを向く。


「君!あいつの事を知ってるのか!」


私は頷く。

ナイトメア。

前にお父様が狩ってきた時に教えてくれた。


「凡人の悪夢。エーテル。無い。人間。勝てない。」


ナイトメアは凡人の悪夢と呼ばれている。エーテルを持たない人間ではいくら傷つけてもすぐに怪我を消し、勝てない。


「エーテル。操る。高い。行動。えーと?」


脅威をこの地の言葉でなんて言うんだろう?


「つまり、あいつは人みたいに武器を扱え馬並の走破力がある化け物と。」


良かった。私の言いたい事は少し伝わったようだ。

そう思っていると強烈な圧を含んだ風が吹きすさぶ。

見るとナイトメアが馬体?を装甲で覆い、更にビルを覆うように漆黒の鎧と兜を纏った。


装甲を纏ったか。


「手伝って。」


私はハオシュエンさんに頼む。


「何か策があるのか?」


私は頷く。


「わかった。僕はさきほどと同じく囮になる。」


「お願いします。」


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「お前に一つ枷を設ける。」


それは初めて試合にする時の半月前の事だった。


その力はある日突然目覚めた。

当時組み手を父上と行っていた時、ガッチリと何かが嵌ったようなそんな感触があり、この力があれば父上に勝てるとそう思って使ってみた。

だが、いつもより多く汗をかいた父上にあっさりと組み伏せられ、意識を刈り取られた。


気が付いて目を覚ますと枕元にいた母上に心配され、その後怪我はないかとか気分はどうかとか商売を継がないかとか色々聞かれ、大丈夫と答えた。(商売は断った。)


その後、離れた母上と変わるように父上が現れ、体調はどうかと言われ、僕に枷を設けると言われた。

当然抗議した。

何せ父上に勝てるかもしれないのにそれを使うなと言われたら誰だって抗議する。

それに

だが、父上の言い分は違った。


「あの時のお前は力に振り回され、ただ闇雲に殴っていただけだ。あれは武術家の一撃ではない。お前があの力に頼るだけでは到底私に勝てない。」


僕は肩を落とした。


「何。これからあの力を己の力として自由に扱えるようにすればいい。私も手伝おう。」


その言葉に嬉しくなった。

その後、父上の許可があれば使っていいと約束した。

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僕はナイトメアという化け物へと走っていった。

作戦は至ってシンプル。

僕が囮になって惹きつけ、隙を見てリーティエが有効打を与えるというものだ。


僕は走ってくるナイトメアへ走っていく。

ナイトメアは勢いを活かすように僕へ剣を突き指す。

だがその攻撃は予想済みだ

美人照鏡びじんしょうきょうの応用で手の平を自分の顔に向けながら剣を握る前腕を内腕刀で反らし、今度は引いてナイトメアの懐に入りこみ馬体の方に拳を叩き込む。


「くッ!」


硬い。

馬体の装甲に阻まれ決定的な一撃になり得ない。

気を溜める時間があれば突破口が得られるが。

だが、ここで引くわけにはいかない。

僕は空中で身を翻し、踵をビルの体に叩き込む。


「くッ!」


硬い。

手応えが無い。

鎧に阻まれて打撃が通じない。

僕が考えを巡らせてるとナイトメアが剣を振り上げる。


「はぁ!」


僕が避けようと身構えた時にリーティエが背後から体全体を使って振り上げた腕にしがみつき装甲が無い脇に剣を突き刺す。


「なぁ!」


剣が刺さらず剣先が止まっている。

見ると鎧に覆われていない腕の部分が闇を表すような暗い黒に覆われている。

あれが刃を防いでいるのか。


「kon」


リーティエが意味が分からない言葉を叫び、今度は頭にしがみつき、体重を掛けて首を反らし空いた首に剣を突き立てる。


「n、naha」


首に剣は突き立たず、黒に遮られていた。


「はああああああああああああなあああああああああああせえええええええええええええ!」


ナイトメアはビルを含んだ体全体を使って暴れ、振りほどく。

振りほどかれたリーティエは地面に転がる。

そこをナイトメアは踏み潰そうと勢いよく走りだした。


「リーティエ!」


僕はナイトメアを追いかける。

走って追いつこうとするが馬の脚に叶うはずがなくどんどん離される。

彼女を助けられないのかと諦め掛けた時。


パリーン!


窓一つ無い地下に不釣り合いなガラスが割れる音が響き、ビルの頭が兜ごと大きく揺れる。

なんだ?そう思った時。


「小僧!そこで止まれ!」


その声が響き、目にも捉えられない速さの杖の連続した発砲がナイトメアに浴びせられた。

見ると高い所の客席から黒いスーツを着たこの闘技場のスタッフが横に並んでそれぞれ発砲している。

それにナイトメアはただ鎧と兜で受けている。


「兄貴!あの化け物に弾が効いてないように見えますぜ!」


「なーにー?なら例のとっておきだ!準備は良いか!?」


「えぇ!出来てやすぜ!」


リーダーと思われる男の指示で大きな半円状の筒を持った男が筒の先をこちらに向ける。


なんだ?あれは?


「逃げて!ナイトメア!逃げて!」


突然リーティエ女士が緊迫した表情で逃げてと叫ぶ。

僕はそれに従って飛び退くようにナイトメアから避ける。


するといきなりナイトメアが爆発した。

ナイトメアがいた辺りは煙が立ち込めており、何も見えない。


いったい何が起きたんだ?


「へへへ!見ましたか?兄貴!」


「あー。バッチリとな!俺たちでやってやったぜ!」


客席にいるスタッフ達が盛り上がっている。

やったのか?


そう思っていると斬撃がスタッフ達の方へ飛んで行った。

彼らは自分達に何が起きたのか理解出来ず、上半身と下半身が別れて崩れた。


煙の方を見ると煙が晴れていき、剣を振り抜いた状態のナイトメアが盾を持たない姿でそこにいた。

そんな。あれで倒れないのではどうすれば。


「ハオシュエンさん!」


ナイトメアの強さにタジタジになっているとリーティエが駆け寄って来た。


「まだ戦える?」


そう彼女が手を差し出して尋ねてくる。


「まさか?あれに勝てるというのか?」


僕は弱気になった心で彼女に尋ねる。


「えぇ。勝てる。」


彼女は不遜な笑みを浮かべた。

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