第2話
そもそもことの発端は一週間程前まで遡る。
ブラウニーが聞いた焼き芋屋の宣伝から話は始まった。
彼女が家で質面倒臭い研究レポートを埋める作業に精を出していると、家の前の通りから聞きなれない不思議な宣伝文句が聞こえてきた。
何でもかんでも
大抵の料理は火を通すか茹でるかで、その時の熱や蒸気も余すことなく他の
(もちろん逆に他の用途のための熱や蒸気を料理に使うこともできるが、大抵それらは火力が安定せず余り美味しいとはいえない代物なので
とにかく何をするにも蒸気に依存した
珍しいとはいえ食べることがないわけでもない。
ブラウニーは特に塩とバターを塗った
寡聞にして
学校のカフェで紅茶を嗜みながらブラウニーはアリスに石焼き甘藷について話を振ってみた。尋ねられたアリスの反応はブラウニーの予想と違っていた。
「あら? あなたも聞いたの? 妖精の石焼き芋の噂」
「何よそれ、聞いたことないわ。私がしているのは昨日聞いた不思議な売り文句についてで……」
「待って、アリス! あなた今なんて言った!? 私の聞き違いかしら? 売り文句を聞いたって言わなかった?」
「ええ、アリス。落ち着いて、どうしたって言うの急に。私おかしなこと言ったかしら」
「ああ、アリス何ていうことかしら! それはきっと妖精の石焼き芋だわ!」
「ちょっと待ってよ、さっきから妖精、妖精ってなんなのよ、もしかしてあなた妖精を信じているの?」
もともと迷信や民間伝承が好きな大英帝国の住人も
なっているが……、いつの時代でもそれらの存在を否定することは決してできはしない。非存在の証明はいかに科学が進んでもなしえない悪魔の証明なのだから。
そんな科学が辿りつけない不可思議の境地への反応はやはり人によって大きく違う。
「ブラウニー。あなた、いい加減に妖精の存在を認めたらどうなの? 妖精はいるのよ。いるの!」
「ふざけるのも大概にしてよ、アリス。妖精なんてそんな非科学的な存在を信じるのはやめなさいって何度も言っているじゃない」
「なによ、幽霊なんて子供っぽいもの信じているくせに妖精は信じられないなんてあなたの方こそどうかしてるわ」
「こ、子供っぽいとは何よ。幽霊には魂の重さ実験でも示されたみたいに存在する証拠があるの! 妖精のほうがよっぽど子供じみてるじゃない」
生来の迷信好きな資質と中途半端な科学知識の普及は多くの
「それで、仮に妖精がいるとして話を進めてあげましょう。妖精の石焼き芋ってなんなの?」
ブラウニーは謎の焼き芋屋への興味が抑えきれず渋々譲歩を見せて話を進めた。
「だから、妖精は本当にいるんだって。まあ、いいわ。妖精の石焼き芋屋ってのはね、なんとも珍しい
「知らないから食通のあなたに聞きたかったのよ」
「ふむふむ。いいでしょう、いいでしょう。教えてあげましょう、
アリスが一気に語るのを聞いてブラウニーは唖然としつつも、その幻の芋を思い浮かべようとした。
「ごめん、それってやっぱり馬鈴薯じゃないの?」
「まあ、いきなり言われても分からないでしょうね。いいわ。今日の放課後ウチのメイドに振舞わせましょう」
「あれ?ちょっと待ってよ、アリス。
「私は
そういって食べかけのスコーンへと目を移すとアリスは美味しそうにそれを頬張った。
「あなた、これだけスコーンを食べて放課後の
そうはいうものの食通の彼女はブラウニーに比べ山ほど食べるけれど、スタイルはけして悪くない。どころかとても大きいのだ。どこがとは言わないのが小柄なブラウニーのなけなしの抵抗ではあるのだが。
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