第10話 それから、部活動
ホームルームが終わると、部活に向かう準備をする。
準備をしていると、離れたところから「おーい、畝間~」と、声が聞こえる。
振り向くとこちらの方に、杉並かおりが歩いてくるのが見える。
「今から部活でしょ?一緒に行こう!」
「ああ、行こう」
そういうと、学生鞄を持ち教室を出る。一階の部室までは、俺が先行して歩き、その後ろを杉並がついてくる形で行く。
雨は、小雨になりサラサラと降っている。
一階まで降りると、約五十メートル先に峠崎こみちの姿が見えた。どうやら、部室を開けているようだ。開けると髪を靡かせながら、部室に入って行く。
そうすると、
「あの子も文芸部?新入生代表挨拶をしてた峠崎こみちさんでしょ?」
軽くパーマのあてられたセミロングの彼女が問いかける。
「ああ、そうだ。ついでに言うと、部長でもある」
間髪入れずに答える。
そんなやり取りをしながら、歩いていると、部室の前まで着く。おいーっす、といいながら部室の扉を開ける。すると、本を読んでいた様子の彼女は、顔を上げこちらを向く。
「あら、今日は来るのが早かったのね」
いつも通りの調子で話しかけてくる。
「今日は、HRが早く終わってな。それと今日は、入部希望者を連れてきた」
そういうと、ゆるふわパーマの彼女が前にぴょこんと、出てくる。
「文芸部に入部希望の杉並かおりです。峠崎こみちさんだよね?よろしくね」
彼女の近くまで行き、そう自己紹介する。
「ええ、よろしくお願いするわ」
こちらは、簡素に答える。
「まずは、座ろうぜ」
そういうと、俺はいつもの部室の扉側の席に腰を掛ける。峠崎は、部室の窓側のところに座っており、その近くに杉並かおりは座る。
「それで、文芸部って何をするの?本読むだけ?」
何も知らないという風な彼女。不思議そうに部屋を見渡している。
「前にも、畝間君に言ったけれど、本を読んだり、図書館便りに掲載するコラムなどの原稿の製作や、文化祭での文集の作成など基本的にそれらのことを行っているわ」
「へぇー、なるほど~。意外と活動内容は、あるんだ」
感心感心という様子の彼女。
「今日は、夏休みが近いということもあり、図書館便りのコラムの原稿作成をしなければならないの。杉並さんも、手伝ってくれるかしら?」
少しだけ不安そうに質問する。目が少しだけ揺らぎ、焦点を合わせるか合わせないか迷っている様子だ。
「うん、もちろん手伝うよ!てか、名前の呼び方かおりでいいよ。私もこみちでいいよね?」
さすがのフレンドリーさで、もう出会って数分の彼女を名前呼びする。
少しだけ目をぱちくりさせると、ほんの数秒遅れて、
「ええ、いいわよ。かおりさんでいいのね」
と返答する。
「じゃあ、図書館便りのコラムの原稿作成始めよー!」
すると、手をライザップする。あの結果にコミットするRIZAPではない。
「そうね。畝間君何か、意見やアイデアはないかしら?」
目をこちらに据えて問いかける。
「夏休み前に発行する図書館便りだろ?なら、夏休みにオススメの本の紹介を交えつつの、夏休みの注意書きみたいなのでいいんじゃねぇの?」
パッと思いついたアイデアを述べる。
「じゃあ、それで行きましょう。オススメの本というと、どのような本がいいかしら?」
そう言うと、杉並が
「私、純文学とかラノベ?っての読んだことないから分からないんだけど。いつも、CanCamやSEVENTEENとかのファッション雑誌しか読まないからさ。力になれなくてゴメン」
申し訳ないという風に答える。
「じゃあ、純文学やライトノベルを読んだことない人にも読み易い本のセレクトが必要だな」
「そうね。そうしましょう」
「『火花』とかは、どうだ?賞を受賞して有名だし、そんなに読みにくいということもないんじゃないか?」
「いいわね、それ。それで行きましょう。まずは、あらすじを紹介して、その後に夏休みの注意書きを書くという感じでいいかしら?」
「いいね、それ!」
「うん、それでいいと思う」
二人とも彼女の意見に賛同する。
その後は、三人で話し合いながら、コラムの原稿作成を着実に進める。
峠崎を中心に意見を出しあって、杉並や俺がそれに追随するようにアイデアを出す。
峠崎と杉並が上手くやれるだろうか、という不安もあったが、それを微塵も感じさせないくらい仲良くなっている。女子が仲良くしてるのっていいね。ゆ○ゆりとかさ。
ともあれ、コラムの原稿作成は佳境を過ぎ、終盤へと差しかかっている。峠崎が最後の一言の部分で、悩んでいるようだ。
「『夏休み体の健康にお気をつけてお過ごし下さい』みたいな感じの一言でいいんじゃないか?」
彼女をフォローする形で発言する。
「そうね。あまり悩んでもいい案は出そうになかったし、それが無難かもね」
そういうと、用紙にすらすらと書いていく。硬筆を習っていたという彼女の字は、達筆でとても美しかった。彼女の書いている様子を見つめていると、
「よし。とりあえずは、出来上がったわ。畝間君、かおりさん、協力感謝するわ」
そういうと、ペコリと会釈をする。
「全然いいよ~。私も少しだけしか役に立たなかったし」
「そうだな。ほとんど、俺と峠崎が考えたようなもんだからな」
「そうね。でも、本を読まない人側の意見も少しは役に立ったんじゃないかしら。まぁ、ほとんど私と畝間君のアイデアというのは、否定できないわね」
事実を事実のまま述べる。
「ホンマにアイデア出せなくてすいません」
ぴぇん、と言いそうな勢いで項垂れる。
「いいわよ別に。人には、得手不得手があるもの」
そう彼女を諭すかのように慰めの言葉をかける。
「この場合は、俺と峠崎が得手だったというだけだ。また、今度活躍してくれればいい。それに、図書館便りは、休みの月を除いて毎月発刊されてるからな」
「そうだね。また、今度頑張るよ!」
両腕をガッツポーズにしてそう宣言する。
「そうしてもらえると助かるわ。それと今日は、もうそろそろ全部活動の終わりの時間だから帰りましょうか」
時刻は、十八時半を示している。
白浜総合高校では、基本的に全部活動が十八時半までという規定が設けられている。
ちなみに、県体前や大会前等特別な理由がある場合は、二十時半まで部活動時間延長が認められている。
「そうだな。帰ろうか」
俺がそういうと杉並かおりも続いて、
「よし、帰ろー!」と言う。
学生鞄を持つと、俺は一足先に部室の外にでる。続いて、杉並、峠崎と順に部室を出てくると、峠崎が学生鞄から鍵を取り出し、部屋の鍵を閉める。
「じゃあ、また明日な」
「ええ、また明日」
「バイバイー!」
三者三様に別れの挨拶を述べる。
峠崎は、鍵を戻すのか職員室の方まで歩いていく。「私もついて行くよ~」と杉並が言いながらついていく。
その様子を見ながら玄関の下駄箱まで、歩いていく。
靴を履きながらふと、考える。
彼女達といつまでこんな風に挨拶を交わしたり、部室で同じ時を過ごしたり出来るのだろうか?
ヘラクレイトス曰く、『万物は流転する』。
「いっさいのものは流れ、そしてなにものも留まらない」ということを意味している。
彼女達との時間も、流れていくもので、時間が停止したり、留まったりしない。
永遠など存在はしないが、それでも彼女達と過ごす時間は、大切にしたいとそう思う。きっと、心の宝箱に入れ、時々開き眺め微笑むのだろう。
三者三様で十把一絡げには出来ないが、どこか似通う部分があるのかもしれない。
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